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第十八話 1 決別 

bandicam 2013-09-13 18-57-53-382


*************************************



微かな香りと余韻を残して、唇が離れた。二人は互いの手を取り合い、握り締めた。
ユニを見つめるソンジュンの眼差しには、これまで彼女が見た彼の様々な感情───悲しみや、苦しみさえもすべて溶け込ませて、そんな優しい色にしたような愛があるばかりだった。
ユニが微笑むと、ソンジュンの口元にも滲むように笑みが広がった。

そのときだった。
地下の部屋から、「なんだって?」と語気を荒げる声が聞こえ、二人は思わず耳をそばだてた。
それは確かに、ヨンハの声だった。声が大きい、と低く彼を諌めたのはおそらくジェシンだ。

「───つまり、10年前の事件の黒幕は、左相……イ・ソンジュンの父親だってのか?」

ヨンハの言葉に、周囲の空気が一気に凍りついた気がした。ソンジュンを見る。彼も青ざめた顔でユニを見返した。

「……降りよう」

ソンジュンはユニに背中を向け、滑車の握りに手を掛けた。
その指先は、微かに震えていた。

昇降機から降りた二人を迎えたのは、ヨンハとジェシンの驚きに見開かれた目だった。

「先輩……今、何て?事件の黒幕が、誰だって言ったんですか?」

ユニが問うと、ヨンハは彼らしくもなく具合の悪そうな表情で、ユニとソンジュンの視線を避けるかのように横を向いた。ジェシンの方は無言のまま、そこから逃げるように立ち去ってしまったので、ヨンハはますます窮地に立たされることになった。

「教えてください、先輩」とユニが更に詰め寄ると、ヨンハは言いにくそうに頬を歪め、口を開いた。

「すまない、テムル。まだ、確かなことは何もわからないんだ」

固い足音をたてて歩み寄ったソンジュンは、ヨンハが止める間もなく、卓の上に置かれていた土地の権利書をさっと手に取り、広げた。
天を仰いで溜息をついたヨンハに向かい、彼は言った。

「……この元の地主を捜せば、事件の黒幕が確実にわかるんですね?」

ヨンハは否定も肯定もせず、黙りこくっている。

「僕が、捜します」

そこでやっと、ヨンハはソンジュンを見た。

「できるのか?……お前に」
「僕の父が本当に事件の黒幕なら、それを突き止めるのは息子である僕の役目でしょう」

冷淡にも聞こえるほど静かな声で、ソンジュンはそう言った。
今、どれだけの思いを彼がその内側に押し込めているのか、真に知っているのはユニだけだ。
堪えきれなくなって、ユニは下を向いた。ぱたりと落ちた涙が、床板に小さな染みをつくった。
肩に、ソンジュンの手の温もりを感じた。だがどんなに頑張っても、ユニは顔を上げて彼の顔を見ることができなかった。そうしているうちに、彼の手はふっと離れていった。

ユニが振り向いたときには、ソンジュンの姿は昇降機の扉の陰に消えていた。


*   *   *

口をつけようとしていた盃が、目の前でふいに消えた。彼が飲むはずだった酒は、向かいにどっかりと腰掛けたヨンハの喉をごくごくと鳴らしていた。
彼の背後では、いつぞやと同じく、かまどに掛けた鍋が湯気を立ち昇らせており、闇を白くするほどに煙っている。

酒を奪われたからといって箸を握る気にもなれず、不貞腐れたように横を向いたジェシンに、ヨンハが言った。

「テムルのためか?」

ジェシンは尚も黙っている。

「黒幕を暴くのをやめろと言ったのは、イ・ソンジュンを想ってるあいつのためなんだろ?」

ヨンハから盃を取り返し、酒を注ぐ。一気に煽ると、やりきれなさがジェシンの喉を焼きながら胃の腑に落ちていった。

「ご立派だよ、相も変わらず」

ほとほと呆れたように、というよりむしろ腹立たしげに、ヨンハは言った。

「それにしても、あいつらいつの間に……いや、それよりお前、いつから知ってた?」

ジェシンは答えず、また杯を重ねた。ヨンハはもう、飲むなとは言わなかった。代わりに、溜め息混じりに言った。

「イ・ソンジュンは行ったよ。ユン参軍の権利書を持って、左議政のところへね」
「え……?」

驚いて、ジェシンは思わずヨンハを見返した。だがすぐに、イ・ソンジュンなら確かにそうするだろうとも思えた。
決して信念を曲げない、バカがつくほど真っ正直なあの男なら。

だがそれはきっと、あいつを傷つけることになる。

これからソンジュンと貰冊房へ行くと告げたときの、ユンシクのきらきらした瞳が思い浮かぶ。
言いようのない苦さに、ジェシンの胸は重く沈むのだった。


*   *   *


屋敷で対峙した父は、初めからどこか不機嫌だった。
ソンジュンは自覚していた。このところ自分は、父の期待に反することばかりしている。

幼い頃からずっと、父の背を見て生きてきた。父の歩いた後を踏んで行けば、決して道を誤ることはないと信じていた。成均館に入り、ユニやジェシン、ヨンハと出会い、己の心のままに進むことを知った。その先にあったのは、仕えるべき王と、朝鮮の未来だった。
そして気づくと、ソンジュンはいつの間にか父とは別の道を歩いていた。
以前はあれほど近くにあった父の背が、今のソンジュンには見えない。
親子の道程は違っても、せめて同じ場所へ向かうものであってくれと、ソンジュンは僅かな望みにすがらずにはいられなかった。

「これは何だ」

ソンジュンの差し出した権利書に目を落とし、父が表情を険しくして尋ねた。

「その答えを、伺いに参りました」

父から目を逸らさずに、ソンジュンは答えた。

「ここに記されている元の地主、ペク・トンスは当時、我が家の執事でした。土地の実際の権利者が父上であることは明白です。何故その権利書が、十年前漢城府の役人の手に渡ったのか、お聞きしたいのです」
「やめておけ」

切り捨てるように、父は言った。

「お前がやろうとしていることを、すぐに中断しろ」
「知られてはまずいことが……後ろめたいことでもあるのですか?」

父はソンジュンを鋭く見返すと、僅かに声を落とし、「金縢之詞を捜しているのだろう?」と言った。

「思悼世子〈サドセジャ〉を死に追いやったのは、確かに我ら老論だ。だが私はそれを、過ちだと思ったことはない。政〈まつりごと〉に携わる者は、私的な親子の情より、王朝と国を優先すべきだという考えは、今も変わらぬ。方針の違いが親子を分かち、互いに政敵となるのはよくあることだ。そして勝者がいれば、敗者がいるのもまた必定───思悼世子は敗者だった。それ以外の何者でもない」
「過ちではないのなら、何故父上は金縢之詞を怖れるのです」
「怖れているのは金縢之詞ではない。親子の情だ。自ら手にかけた息子を思う先王の愚、そして、幼い頃に亡くした父を思う今上の後悔───そうした私情に歪んだ人間に権力を与えれば、この地に再び争いが起こるのは目に見えていた。この父の忠心は、やがて歴史が証明する。故に、お前も捜すでない。金縢之詞にこれ以上関わってはならぬ。お前の目先の理想のために、我が真城李氏が滅びることになるかもしれんのだぞ」

父の言葉は、ソンジュンを愕然とさせた。必死にすがろうとしていたものが、そのときするりと彼の手を離れていった。

「だからですか。父上は、家門の繁栄のために、成均館博士キム・スンホンと掌議ムン・ヨンシンを死なせ、金縢之詞をこの世から消したのですか!」
「それは違う」
「以前のように、父上の言葉を信じることが僕にはできません。この権利書が───事実を語っています」

ソンジュンは立ち上がった。自分を見据える父に向かい、深く一礼すると、彼は踵を返した。

「待たないか!」

父の、鋭い声が飛んだ。
「お前は、この父に背を向ける気か!」
「……方針の違いが親子を分かつことはよくあることだと仰いましたね」

ソンジュンは父を振り返った。そして悟った。自分の歩む道と、父の歩む道は、これほどまでに大きく隔たってしまっていたのだ。最早引き返すこともかなわない。父が、そして自分がこのまま進み続ける限り、この道は決して交わることはないだろう。

「───僕は今後、父上の政敵となります」

唇を噛み締め、ソンジュンは自分を刺し貫く父の視線を背に部屋を出た。

胸に浮かぶのは、ユニの顔だけだった。
ただ無性に、彼女に会いたかった。





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2013/09/13 Fri. 19:00 [edit]

category: 第十八話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

>ソンジュンって、こういうところを適当に誤魔化せないところが彼らしいのでしょうが

なんですよね~(T_T)バカ正直過ぎて見てらんない。
でもこーゆう男だからこそ、コロも恋敵ながら放っとけないんでしょうね。
辛い18話ですが、ヨンハ含め男三人の友情に泣かされる回でもあります。

ユーリ……(T_T)←また変なスイッチ入ったらしい

あまる #- | URL
2013/09/19 03:29 | edit

天使なソンジュン(意味不明~)

>だがどんなに頑張っても、ユニは顔を上げて彼の顔を見ることができ なかった。

ユニの気持ちが痛いほど伝わってきます。(T_T)どんな顔してソンジュンを見たらいいのかもわかんないし…
ソンジュンって、こういうところを適当に誤魔化せないところが彼らしいのでしょうが、これからしばらくはホントに気の毒で、そこまで真っ正面からかぶらなくていいのにと、見ていて思ったりしていました。
絶対的存在だった父の元から背中の羽を自らむしり取る天使のように苦しんで離れるのですな(T_T)←いきなり中二病
いま、ちょっと、トーマのユーリを思い出しました。

あらちゃん #- | URL
2013/09/19 01:02 | edit

こちらこそごめんなさいm(_ _)m

あまるです。コメ、ありがとうございました。
ああ~。どうかそんなに気にしないでください。気分を害したとか、そんなこと絶対ありませんから。ホントに。
私は、自分がどういう意図で書いたにせよ、読んだ方の感じたことがすべてだと思っています。
私が書いた文章で、パ**さんがそう感じられたのなら、それはそういうことなんですよ。上手く言えませんが。
卑下してるとかじゃなくて、私が読者様に私の意図することを正確に伝えたいと思うなら、そういう文章を書くべきなんです。でも、人の感じ方はそれぞれだから、すべての人に同じように自分の気持ちとか、感覚を共有してもらうのはとても難しい。だから多くの人が共感できる表現力とか、技術が必要なわけで。それがないと、ただのひとりよがりな文章になってしまうでしょ?
そういう難しい作業だから、たまに自分の言いたかったことがちゃんと伝わったり、意図してたこと以上のことを読み取って貰えたときはスゴク嬉しくて、あまるが文章書くのに楽しさを感じるのはまさにそういうときなわけです。
誤解を覚悟で申しますと、そういう意味では、むしろ読者様は上から目線な立場なんです。必然的に。
書く側は、読者様に読解力を要求したり、「ここはこう読んで!」と指図できる立場ではないんです。
そう読んで欲しければ、そう理解してもらえるように書くしかないんですから。
だから、パ**さんのようなご意見は素直にありがたいと思ってますヨ、ホント(^^)
これからもどうか気にされずに、感じたことそのまま教えていただけると嬉しいです。

あまる #- | URL
2013/09/15 21:59 | edit

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# | 
2013/09/15 21:08 | edit

Re: ク**ムパ**さま

ワタシもキム・ガプスさん好きですー(^^)
というかこの方、いろんなドラマにほんとによく出てますよね。
時代劇も現代劇も、いいお父さんから悪役まで。チュノでは王様もやってたな。確か。
やっぱ一番印象的だったのは『シンデレラのお姉さん』。
あのお父さん、いい人過ぎて涙出ました。ヒロインのロマンス的な部分より、あのお父さんとの絡みで相当泣かされましたワ。

口論、ではないけど、ソンジュンがユニのためにお父さんの前でなりふり構わなくなるとこ、ありましたね。
「彼女を助けてください」って泣いちゃうやつ。あれも好きだー。

あ、子供っぽく見えちゃいました?(笑)
ソンジュンとしては、父親より愛する人の側を選んだわけですから、むしろオトナの階段を一歩昇った瞬間だったんですけども。
うーん、あまるの拙い文章力ではこのへんの深さは書き切れないですね。精進が必要だわ~。

あまる #- | URL
2013/09/14 08:26 | edit

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# | 
2013/09/14 02:05 | edit

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