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第二話 7 決断 

「だ、ダメです、陛下。いけません、そんな……」

 ばったりと倒れこむユニ。

「わ、私は身体が弱く……ごほっごほっ!明日をも知れぬ身です。寄宿舎生活なんてとても……。陛下、どうかご理解ください。私には無理なのです」
「医師はおるか?!」

 王が叫ぶと、すかさず、宮廷医師がさっと進み出る。

「はっ、ここにおります、陛下!」
「大事な臣下だ。治療を頼む」
「へっ…?陛下!ちょっと待ってください、あの……」

 脈をとる医師。その顔色がさっと変わる。

「なんと、これは……!」
「どうした?余程の重病か?」

 医師はしげしげとユニのつま先から頭の頂上まで眺めつつ、叫ぶ。

「陛下、この者は男ではありません!女ですぞ!」
「何だと?!男になりすまし科挙を受けるとはけしからん!」
「国法と道理に背きおって!」
「服毒だ!いや、八つ裂きの刑だ!」
「捕らえろ!」



───ダメだ……。

 ユニは絶望的な気分で、天を仰いだ。
寄宿舎生活を逃れるために仮病を使ったって、医師を呼ばれたら女とバレておしまいだ。優秀な医師は、診脈しただけで未婚か既婚かなんてことまでわかるっていうし。

「王命に……」

 干からびた喉から、ようやく声を出した。王正祖の真摯な眼差しが、じっとユニに注がれている。
 もはや、他に選ぶ道はなかった。

「王命に、従います……陛下」

 王の顔に、満足そうな笑みが広がる。

「あのような正直な試巻を見たのは初めてだ。なかなか書けるものではない。キム・ユンシク、そなたの美しい顔、よく覚えておくぞ」


 

 建春門の外は、科挙の合格者たちを祝う人々でごった返していた。大道芸人が打ち鳴らすけたたましい鉦の音の中、あちこちで胴上げが始まっている。喜びに咽び泣き、家族と抱き合う者、両手を上げて踊りだす者。今のユニには、まるで別世界の出来事のような光景だ。これからどうすればいいのかわからぬまま、ふらふらと歩き出したユニに、ソンジュンが声を掛けた。

「言った通りだっただろう?この僕が認めた君の文才なら、きっと受かると……」
「ぼくも言ったはずだ」

 ユニは振り向き、ソンジュンの顔をきっと睨みつけた。

「科挙になんか興味はないって。君子だの忠臣だの、そんなのはあんたたち暇人が目指せばいい。ぼくのことは放っといてくれ」

 言い捨てて、また歩き出す。そのユニの肩を、ソンジュンが掴んだ。

「素直に認めろ。朝鮮は、君が思ってるほどつまらない国じゃない」
「朝鮮がどんな国だろうと、ぼくには関係ない。国が、いったい何をしてくれるっていうんだ?期待したって、いつだって裏切られる。そんなのはもうたくさんだ」

 ソンジュンの表情に、失望の色が浮かんだ。

「───時間の無駄だったな」

 低く呟くと、ソンジュンはあからさまに軽蔑した目で、ユニを見下ろした。

「自分では何もせずに、言い訳する人間だったか。ただ世の中を恨んで文句を言うだけで、せっかくの機会を逃すとは。情けない奴だよ、君は。そうとわかってたら、わざわざあんな面倒は起こさなかったのに」

 身体が震えるほどの悔しさに、ユニは思わず自分の道袍を強く握りしめた。
 何も知らないくせに。何の苦労も知らずに育ったお坊ちゃんのくせに。どうして私が、こんな男にここまで言われなくちゃならない?私だって、好きでここにいるわけじゃない。努力して世の中がどうにかなるなら、とっくにそうしてる。自分の努力が必ず報われるなんて馬鹿げたことを信じられるのは、あんたみたいな一部の、恵まれた人間だけだ───。

 言い返したい気持ちは山ほどあったが、ユニは必死でそれを抑えた。こんな高ぶった感情のままソンジュンと口論をしたら、自分が女だということまでうっかり口にしてしまいかねない。
 それに今は一刻も早く、ユニの身代わりになって兵曹判書宅に行ったユンシクを迎えに行かなければならない。あの兵判の家で、身体の弱い弟がどんな目にあっているか、考えるだけで恐ろしかった。

「偉そうな御託はもういい。約束の金を早く出してくれ。一日分の利子もつけて、全部だ」

 ソンジュンは袂から巾着袋を出すと、ユニの手首をぐいと掴み、掌に押し付けた。

「本代50両と一日分の利子。合わせて52両だ」

 ユニは黙って巾着袋を握り締めると、ソンジュンから顔を背けた。少しでも早くここから立ち去ってしまいたかった。
 
「少しは計算してみたのか?」

歩き出したユニの背中に、ソンジュンが更に言葉を投げつける。

「成均館に入れば、生活費が支給される。薬も無料だ。病気の弟のためには、むしろ好都合じゃないのか?
そんな計算もできないようでは、出仕したとしても民を救うなど無理な話だな」

 思わず振り向いた。ソンジュンは既にこちらに背を向け、下男を従えて反対方向に去っていくところだった。

───いったい、何を考えてる?イ・ソンジュン。どうしてここまで私に構うの?

背の高い彼は周囲から頭一つ分ほど抜き出ているので、人混みの中でもよく目立つ。その後ろ姿を、ユニはただいつまでもじっと見送っていた。


* * *

 じゃら、と重い音をたてて、貰冊房の店主、ファンは貨幣の束をユニの前に置いた。その顔は何故か妙に得意げだ。

「50両?ぼくに貸すっていうのか?」
「貸すだなんて言い方よしましょうよ。奨学金とか支援金とか、もちょっと高尚な表現にしてもらえませんかね?」

 バタンッ!
 金庫の蓋が、いきなり閉まった。ちょうど数え終わった金を金庫にしまおうとしていたファンの手が、がっちりと挟まれる。

「……ックア───ッ!」

 ファンが、絞められる寸前の鶏のような雄叫びを上げた。

「何を企んでる?」

 金庫の蓋を手で押さえたまま、ユニが静かに訊ねた。

「なっなっ、何も企んでなんかいませんよッ! 」

みしっ。

ユニが、蓋を押さえる腕に体重をかける。ファンは「キェ───ッ!」と更に悲痛な叫び声を上げた。

「最近、学習したんだ。他人の金が、どれだけ怖いかってことをね。だから、本当のことを話せ」
「だ、だから若様の才能が惜しくて、あたしは善意のつもりで……」

ズシッ!

「キョオォ───ッッッ!!!」

 もはやどう表記していいのかわからない奇声が、貰冊房に響き渡った。ユニは涼しい顔で、金庫の蓋の上に頬杖をついている。
 可愛い顔をしているくせに、やることは鬼だ。ファンの涙目が、明らかにそう訴えていた。

「実はっ、実は、貸すわけじゃありません!前金です!成均館の学生が筆写すると飛ぶように売れるんで、それで」
「つまり……」

 指先で笠の顎紐をなんとなくいじりながら、ユニが口を開く。

「前金ってことは……これは、借金じゃないってこと?」

ファンは言葉もなく何度も頷く。ユニはやっと金庫から身を起こし、店主の腕を開放してやった。

「じゃあ、利子はつかないってことだね」
「も、もちろんですとも!」

 これで借金を全額返済できる。 
 ユニは逸る気持ちを抑えきれず、貰冊房を飛び出した。


* * *

「貰冊房の主人には、ちゃんと口止めしたか?」

 王宮からの帰り道、ソンジュンは半歩後ろを歩くスンドルに訊ねた。スンドルは久々に滞りなく任務を遂行できたことが嬉しいのだろう。丸々とした身体を弾ませるようにして、ソンジュンに報告した。

「ご安心ください、坊ちゃん。このスンドルが指切りして、しっかり約束させました。でも、あのきれいな学士様に借りを返すって言ってたのに、どうして金を貸すんです?」

 言われてみればそうだなと、ソンジュンは真顔で思った。だが本人にその気がなければ、いくらこちらが躍起になったところで、どうしようもない。
 いったいどれだけの苦労をすれば、あんな風に、将来に何の志も希望も持たず、世の中を、自分自身を諦めてしまえるのだろう。
 運命なんて、自分の心がけ次第でいくらでも変えられるはずなのに。

『なんでも、100両どうしても工面しなくちゃならないとかで……今の若様なら、王様の前だろうが天子様の前だろうが、巨擘くらい引き受けますよ。任せてください』

 覆試の前日、ユンシクを巨擘に雇うために貰冊房に行った。そのとき店主の言っていたことが、ソンジュンは気にかかっていた。
 借金の返済か、それとも弟の容体が悪化したのか。ソンジュンが払う本代は50両だから、半分にしかならない。巨擘を依頼するとはいえ、本当にさせるわけにはいかないから、自分が更にその代金を払うのも変だ。
 考えた末、ソンジュンは残りの50両を貰冊房の主人に預けることにしたのだった。これから依頼する仕事の前金だとか何とか、適当な理由をつけてユンシクに渡し、くれぐれも利子をとるような真似はするなと言い含めて。───だが。

「どうやら、無駄なことをしてしまったらしい」

 別れ際、屈辱に震えるばかりだったユンシクの顔を思い出し、ソンジュンは小さく呟いた。





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2011/08/16 Tue. 17:12 [edit]

category: 第二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

このブログのためにひたすらドラマを追ってると、こういう部分に何のギモンも
持たなくなっちゃうんですよね~(^^ゞ
コメくださる方のお陰で気付かされることが多々あります。
ありがたいことですわ。まぢで。(^^)

ちびたさんも何か「あれ?」っていうとこがあったら教えてくださいね~

あまる #- | URL
2012/05/06 00:04 | edit

あまるさま

あー、皆様のコメント楽しく拝見しました。
私もどしてここで50両??って思ってました。

というか、そもそも、本の代金が50両であって、ユニちゃんの手間賃合わせたら100両??
でも、本台としてしか50両渡してないしぃ・・・・
とか、算数の弱い自分としては??が。

巨擘の手間賃が確か??50両位だったような気がするんですが、これも手数料引かれて手元には半分??
うーん・・・ む、難しい。

あ、ちなみに私もこのシーンのイ・ソンジュン君子はいやな奴だと思いますが、恋ってそういうものなのよねー(笑)
好きな子にはいぢわるしちゃうって。なんせ初恋だもんね!
多めにみてあげよう。うんうん。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/05 13:42 | edit

おお!

加筆分、確かに!!
これでスッキリしました。
あの親父なら、うっかり金額言っていたに違いない(¨ )(.. )(¨ )(.. )ウンウン!!

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2011/08/20 04:06 | edit

Re: No title

にゃん太さま

すべてのギモンは次回解決する…カモ。

あまる #- | URL
2011/08/20 01:29 | edit

No title

弟くん、いつ迎えに行ったのかしら?
夢現でDVDを見ていたせいか、よく覚えていない・・・。
あ、小屋の中に縛られていたような・・・?
怪我していたような・・・?
結局、助け出したとは思うのだけど、
お金はどうしたっけ?

にゃん太 #- | URL
2011/08/18 15:00 | edit

てなわけで。

りゅうれん様のご指摘により、この回のラスト、ちみっと加筆しておりマス。
ありがとう!りゅうれんさん!
どうにかうまいことつながった…かな?

は~なんかトイレでウンウンふんばってスッキリした気分です。ヽ(´ー`)ノ
ではでは、おやすみなさ~い

あまる #- | URL
2011/08/17 01:04 | edit

Re: No title

> りゅうれん様

こんばんわ~(^^)コメありがとうございます。

> 今回のシーン、今思い起こせばソンジュンって、ちょっと嫌なやつですよねー。

確かに…。自分がユニと友達になりたいばかりに、ユニの気持ちにまで考えが及んでないんですねぇ、きっと。
今まで友達らしい友達がいなかったからとはいえ、立派なストーカーになる素質充分です(笑)

> それにしても、何故この時ソンジュンは50両を貸す事を思いついたんでしょうね?

うっ。そういえばそうですね。←何も考えてなかったらしい
たぶん貰冊房のオヤジあたりから聞いたんではないかと…。ユニを巨擘に雇うために会ってるはずだから、ギャラ交渉も当然してるだろうし、巨擘の相場とか考えると…あ~。お陰様で今なんとなく思いつきました。
入れるとしたらこの回のラストか、9~10話あたりか…。うーん。ちょっと考えてみます。
もしかしたら加筆するかもしれないんで、間違い探しみたいになるかもですが(^^ゞビミョーに変わってたら気づいていただけると嬉すぃです。

あまる #- | URL
2011/08/16 23:59 | edit

No title

あまる様
いつも楽しく拝見しています。
今回のシーン、今思い起こせばソンジュンって、ちょっと嫌なやつですよねー。
自分勝手にユニを引っ張りまわして勝手に侮辱して。
もしこの時にユニが女性だったと知ったなら、その後の二人はどうなっていたんだろうと思ったりします。
あっ、でも・・・・よく知る前だから、ドラマのような関係には発展しないか。

それにしても、何故この時ソンジュンは50両を貸す事を思いついたんでしょうね?
何処かで「借金100両」の話しが出たのか、誰かから聞いたのか?
ドラマでは触れられていませんでしたが、お話の途中にでもその謎解きがあると嬉しいです。

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2011/08/16 22:08 | edit

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