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第十七話 8 秋晴れ 

bandicam 2013-08-30 15-48-50-317
**************************************


障子越しに差し込む柔らかな朝日が、中二房の床を温めている。
ふと目を覚ましたソンジュンは、一瞬感じた眩しさに二、三度目を瞬かせると、文机に突っ伏していた身体を起こした。

どうやら昨晩は調べ物をしながら、そのまま寝入ってしまったらしい。軽く伸びをすると、固まっていた背中がギシギシと悲鳴を上げた。

(───あ。)

そのときになって初めて、ソンジュンは自分の右手にしっかりとつながれた小さな手の存在に気付いた。
結局、お互い離れがたくて、一晩中手を握りあっていたわけだ。
どうしようもないな、と我ながら呆れるが、仕方ない。離れた途端にまた触れたくなるのがわかるから、離れられないのだ。

ずっと触れているのに、何故足りないんだろう。
ソンジュンは彼女の手を握ったまま人差し指でそっと撫でて、その先にある寝顔を眺めた。向かい合わせにくっつけた文机に、さっきまでのソンジュンと全く同じ体勢で寝入っているユニがいる。

穏やかで愛らしいその顔を見ていると、自然と口元が綻んでしまう。
芙蓉花との縁談を断ったとき、自ら父に問うた言葉を、ソンジュンは思い出していた。

『それで、幸せになれますか?』

父には一笑に伏されたが、今のソンジュンにはあのときの判断は間違っていなかったと確信を持って言える。
朝目覚めたとき、この世で最も愛しい人の、穏やかで優しい寝顔がすぐそばにある。
これ以上の幸福が、いったい何処にあるというのだろう。
国のため、王のため、自らの能力を発揮し、尽くすことのできる喜びも、傍らに彼女がいてこそだ。
彼女がそこにいなければ、この世のすべては、何の意味もないのだ。これから先も、ずっと。

陽に当たるユニの頬が、透き通るように白い。
その肌を撫でてみたくなって、ソンジュンは反対側の手を伸ばした。が、彼女を起こしてしまうかもしれないと思い直して、やめた。

このままあと少しだけ、光の中で静かに眠る彼女を見ていたい。
今この瞬間、目の前にいる彼女は確かに、ソンジュンだけのものだったから。

銀色に光る耳の産毛も、襟元からすっと健やかに伸びたうなじも、まるで微笑んでいるかのような、その口元も。
すべてが美しく、愛おしかった。

枕にしたユニの右手が、彼女の額のあたりからのぞいている。
ソンジュンはそのか細い指先を、そっと握りしめた。


*   *   *


広げていた経本の手元に、影が落ちた。そこに立ったのが誰か、ジェシンには見なくてもわかった。彼は顔も上げずに、手にしていた本を書架に放った。
そのまま立ち去ろうとしたが、相手は先輩、と声を掛けてくる。

「『書経』の金縢編のことですが……」

ジェシンはソンジュンに背中を向けたまま、「何だ」と言った。

「尊経閣にある書の中には見つかりませんでした。まるで誰かが、意図的に隠したように。───確か金縢編とは、周公の死後、その忠誠を金縢の中の文書によって知った成王が、己の不明を恥じ、彼の死を悼むという内容だったと思いますが」
「小科の首席だろ?講経〈カンギョン〉はお前の得意分野だろうが。俺に訊くな」

素っ気無く答えたジェシンに構わず、ソンジュンは続ける。

「先王が悼む忠臣の死と、悔恨……もしや、陛下が探している金縢之詞は、思悼世子様の死と何か関係があるのでは……。先輩は、何か知っているんですか」

大したもんだ、とジェシンは内心舌を巻いた。尊経閣にある『書経』には、確かに金縢編の記述はない。自分の記憶だけで、そこまで核心を突いた推測をするとは。小科の首席は、やはり伊達ではないのだ。

「頭を使うのはごめんだと言っただろう。自分の仕事をしようぜ。俺は俺、お前はお前で」

ジェシンは結局一度もソンジュンの顔を見ないまま、尊経閣を出た。
寝不足で頭も瞼も重い。いつの間にか高くなっていた陽の光が目に眩しく、彼は顔を顰めた。

あの調子では、イ・ソンジュンが真実を明らかにするのは時間の問題かもしれない。
そのとき、あのクソ真面目な男はいったいどうするのだろう───。

「先輩!」

明るい声がふいに袂に飛びついてきて、ジェシンは立ち止まった。肩越しに振り返ると、ユンシクのくりくりした瞳がこちらを見上げていた。

「昨夜も外泊だったんですね。調査は順調ですか?」

順調、と言えばこれ以上ないほど順調と言えるのかもしれない。
ずっと知りたいと思っていた。兄を死に追いやった人間が誰なのか。だが今のジェシンの足は、駄々をこねる子供のように、これ以上先に進むことを拒んでいる。

「ぼくたち、今から貰冊房に行くんです。もしかしたら、禁書の中に手掛かりがあるかもって思って。“学問の向かう先”“国の始まる所”……先輩は、何のことだかわかりますか?」

重い密命を負っているとはいえ、ユンシクの表情は晴れやかだ。彼女をこんな風に生き生きと輝かせているのが自分であったなら、とジェシンはせつなく思った。そうすれば、辛い思いなど二度とさせないのに。

すべてを知ったら、お前はまた泣くのか……?

ジェシンは何も言えず、ユンシクの肩に手を置いた。きょとんと首を傾げる彼女は小鳥みたいだとふと思う。ぽんぽん、と軽く叩いて、踵を返した。
そして小さく、彼は溜息をついた。


*   *   *


北墻門の傍らでは、ドヒョン、ヘウォン、ウタクの三人組が何をするでもなく塀に寄りかかってしゃがみ込んでいる。
指先につまんだ落ち葉をくるりと回して、ウタクが言った。

「子曰く。行いて余力あらば、則ち以って文を学ぶ───人としての道理を尽くし、時間が余れば学問に励め」
「何が言いたい」
「今日みたいな天気の良い日は、外へ遊びに出るのが人としての道理だと思わないか?」
「それで?」

もっともらしく人差し指を立て、にかっと笑う。

「孔子の教えに従い、『論語』の講義はさぼるべきだ」

ドヒョンとヘウォンの顔にも、たちまちにんまりと笑みが広がった。

「代返を頼もう。成均館の美しき伝統に従ってな」

立ち上がった途端、三人の頭の上に降ってきた笏が、一発ずつ容赦無い音をたてた。
「いい気なもんだな」と、塀の上から顔を覗かせたのは、大司成だった。でっぷりとした身体を揺らして北墻門をくぐってきた大司成は、三人の前に立つと彼等の鼻先に人差し指を突きつけ、言った。

「落ちこぼれ同士でつるむのは楽しいか?駄目な一族にはそうなる理由があるのだ、理由が。少しは真面目に講義を受け、家門の繁栄に貢献したらどうだ。イ・ソンジュンを見なさい。左議政の息子でも、親の七光りには頼らない。彼が一度でも講義をすっぽかしたことがあるかね?」

大司成の説教もどこ吹く風であらぬ方向を見ていた三人は、揃ってこくこくと頷いた。
「いつだっ!」と大司成の鼻が膨らむ。

「まさに」
「今です」
「あそこに」

三人が一斉に指差した先には、仲良く微笑み交わしながら門を出て行くイ・ソンジュンとキム・ユンシクの姿があった。




「可愛い巾着はいかが?飾り紐〈ノリゲ〉もありますよ」

雲従街にたつ市では、客引きの声があちこちで賑やかに飛び交っていた。空はどこまでも高く澄み渡り、頬にあたる風はからりと乾いて心地良い。
焼き菓子、漬物、魚に油。店の数だけある様々なものの匂いがここでは雑多に混じりあっているが、それが不思議と不快ではない。店先に並んだ色とりどりの小物や髪飾りが目を楽しませるのと同様、そぞろ歩く足取りを軽くしてくれるのだ。

「危ないよ」

ユニにぶつかりそうになった女の腰を、傍らに寄り添っていた男が引き寄せる。すみません、とユニに会釈した女は、はにかんだ笑みを男に向けた。

色鮮やかなチマと、長い髪を結う細布〈テンギ〉が、華やかに揺れながらユニの横を通り過ぎる。
ユニは今の己の格好にふと目を落として、少し淋しい気分になった。

自分も、あんな風に綺麗で女らしい姿で、ソンジュンと街を歩いてみたい。彼だって、連れて歩くのが男のなりをしたこんな変な女じゃ気の毒だ。きっと、つまらないに決まってる。

「いい天気だ」

唐突に、ソンジュンがそう言った。隣を歩く彼を見上げると、彼はにこにこ笑っていた。

「……どうしたの?」

ユニが尋ねると、「何が?」と逆に聞き返された。

「なんだか、ニヤけてる」
「そう?」
「何か、いいことでもあった?」

ソンジュンは人で賑わう通りを見渡しながら、「そうだな。そうかも」とよくわからない返事をして、また笑った。
その笑顔を見ていると、ユニも何だか嬉しくなって、自分の格好なんてどうでも良く思えてきた。
人にどんな風に見られようが関係ない。ただこうやって彼と一緒に街を歩くだけで、気持ちは弾むのだから。

暫く歩くと、道端に飴売りがいた。甘い香りに誘われたユニはソンジュンの袂を引っ張って引き止め、飴を二つ、と指を立てた。
飴売りが、器用な手つきで二本の串にべっ甲色の飴を巻きつけ、ユニに手渡す。その間に、ソンジュンが支払いを済ませてくれた。はい、と飴の一本を差し出すが、ソンジュンはおそらく買い食いなどしたことがないのだろう、戸惑ったような笑みを浮かべて、首を横に振った。

あんまりお行儀がいいのも考えものだ。つまんないの、とユニは唇を尖らせて串を振り振り、歩き出す。
すると、追いかけてきたソンジュンが ぱっとユニの手から飴を奪い取って、ぺろりと舐めた。

「旨い」
「でしょ?」

二人で笑って、子供みたいに飴を舐めながら歩き出す。けれどやっぱり慣れていないソンジュンは、口の中に何度か串を突き刺して痛がっていた。









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2013/08/30 Fri. 15:51 [edit]

category: 第十七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

ユニと歩けてひたすら嬉しいソンジュンと、女の子なユニ(笑)
このシーン、ドラマではホントはおっしゃるとおりセリフがいっこもないんですけど、二人の演技が巧いので、全くセリフは必要なかったですよね。好きな場面です(^^)
とはいえ文章にするのは大変だったので例によって勝手に捏造(笑)

ソンジュンの襟元わ~ついつい目がいきますよねぇじゅる。
きちんと着てるのに、なんであんなエロいんだろう……ううむ。

あまる #- | URL
2013/09/01 01:22 | edit

Re:ク**ムパ**さま

や、やっぱすここもカットですか……(-_-;)
こーゆう、話の本筋にはあんま関係ないとこにこのドラマの萌えが詰まってるのにっっ!

拍手のお礼ぺぇじ、楽しんでいただけましたなら嬉しいデスー。
どっちかというと本編よりあっちの方にワタクシの妄想が炸裂している気もする今日この頃(爆)

あまる #- | URL
2013/09/01 00:48 | edit

なんだか、ニヤけてる

「なんだか、ニヤけてる」
私もそう思いました!このシーン見たとき (*≧∀≦*)
シナリオにないこういう気持ちを文字にしてくれてホントに嬉しいです!
…穴のあくほどタイトルの画面を見ていて、ふと、ソンジュンの襟元に目が行ってる自分に気づく・・・ユニのきっちりした着付けに比べて、なんとなく襟元の着付けが色っぽい。色っぽすぎる~(爆)この肩幅も好きだ~

あらちゃん #- | URL
2013/08/31 22:23 | edit

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# | 
2013/08/30 19:07 | edit

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