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第十七話 7 きみと繋いだ手  

bandicam 2013-09-04 16-32-27-780
*************************************


ソンジュンは、向い合って座るユニを上目遣いに盗み見た。
試験勉強にしろ、こういう調査にしろ、目的はなんであっても書物を前にすると彼女はいつも夢中だ。
まるで周りが全く見えなくなったかのように、文字を追うことに没頭する。
その集中力は称賛に値するものだが、今のソンジュンにはそれが、少しばかりせつない。
自分の方は、彼女と二人きりでいる、この状況ひとつで、何も手につかなくなってしまうというのに。

キム・ユンシクが女性だとわかったことで、彼の心は自由を得た。あの、正気を失うかというほどの絶望と苦しみの中から、まさに奇跡的に脱したのだ。その開放感といったら、なかった。
これからは誰はばかること無く、思いきり、彼女を愛していいのだ。
都中の人間を片っ端から捕まえて、言って回りたいくらいだった。
キム・ユニは僕の恋人だ、狂おしいほど、彼女が好きだと。

だが実際はなかなかそうもいかない。男として生活する彼女には、ここ成均館ではもちろん、街なかでも人目のあるところでは手を握ることはおろか、うかつに触れることもできない。
ちょっと彼女の肩に手を置いただけでも、今のは変に見えなかっただろうか、といちいち気になってしまうのだ。
そう考えると、男だと思っていた頃の方が、まだ自然に触れあえた気がする。

なんて理不尽なんだ。

ユニの身の安全のため、表面上は平静を装っているが、彼の胸の内は不満でいっぱいだ。
彼女に触れたくてたまらない。
だからせめて二人だけのときは、この鬱憤を晴らしたい。そう思うのに。
当の彼女はさっきから本に夢中ときている。これだけかまってもらえないと、さすがに不安になる。

あのとき、尊経閣で彼女がくれたくちづけは、本当に現実だったのか?

「金縢編は、確かに『書経』に載ってるって話だったのに……尊経閣にある書物には、どうしてどこにも載ってないんだろう」

それまで本の頁をめくっていた手をふと休めて、ユニが首を傾げた。
やっと声が聞けた。前に口を利いてからいったいどれだけ時間が経ったと思ってるんだ。

「もう一度ゆっくり、探してみよう」

本を指し示すのにかこつけて、ソンジュンはさり気なくユニの手に触れた。その感触を楽しむ間もなく、彼女の手はすい、と別の本の山へと移ってしまう。

「こっちにあるかな?」
「あ、ああ……そうだな。そっちにあったような気がする」

身を乗り出し、一緒に探すふりをしながら、またソンジュンの指がユニの手に触れる。
彼女の手が、はたと止まった。

「本当に、ここにあった?」

ソンジュンを覗き込む二つの目が、悪戯っぽく笑っている。
さすがに気付かれたか、とソンジュンは伸ばしていた手を引っ込め、小さく咳払いした。

こうなったら意地だ。
何が何でも触ってやる。

ソンジュンはまた機会を伺う。獲物を狙う虎のごとく。
目の前の小鹿は、素知らぬ顔で、また書物の文字を追い始めた。

「───何かついてる」

白々しいのは百も承知で、ソンジュンはまたユニの手に自分の手を重ねた。少し温度の低い、そのなめらかな肌の感触を確かめて、ふいと離す。

「……違った」

ぷっ、とついにユニが吹き出した。堪え切れないといった様子で、声を殺して笑っている。
勝手に笑ってろ、とソンジュンはそっぽを向いた。

まったく、手ひとつ握るのにどうしてこんなに苦労しなきゃならないんだ。
触れたいところは、他にもたくさんあるのに。
細い足首とか、丸いほっぺたとか、唇、とか……それから……。

瞬間、ヨンハがくれた例の春画が生々しくソンジュンの脳裏にひらめいた。
彼は慌ててそれを頭から振り払った。

畏れ多くも孔子、孟子を祀るこの成均館で、一体何を考えてるんだ、僕は。
しかも今は王の密命を受け、その調査の真っ最中だっていうのに。

ソンジュンは自分の置かれている立場をようやく思い出した。そして少しばかり落ち込んだ。
するとユニが、そんなソンジュンの内なる葛藤を知ってか知らずか、彼の手をきゅっ、と握った。

「これでいい?」

そう訊ねる彼女の目はまだ笑っていたが、その表情は優しい。

「これからは書物に集中してね」

まるで子供に諭すようにそう言って、すっと手を離そうとする。ソンジュンは咄嗟にその指先を掴んだ。勝手に離れていかないように、強く握り直す。

「───書物に集中しろ」

真面目くさった顔でそう言うと、ユニが呆れ返ったように はっと息を吐き出して、また笑った。ソンジュンもつられて笑う。灯火が明々と灯る中二房に、二人のくすくす笑う声が、しばらく響いていた。





金縢編の記述のない『書経』。
消えた金縢之詞。
キム・スンホン博士の暗号。

これらは、一体何を意味するのだろう。
学童の頃から、『書経』は殆ど諳んじることができるくらい読んだ。その記憶が確かなら、ジェシンの言っていたように金縢編がこの中にあったのは間違いない。
それが、成均館にある本のどれを探してもないとなると、意図的に隠された可能性が高くなる。
いったい誰が、何故、そんなことを……?

「───聞いてる?」

気づくと、ユニが繋いだ手を軽く振ってこちらを覗き込んでいた。

「あ……ああ、ごめん。なに?」
「明日、貰冊房に行ってみないかって言ったの。もしかしたら、店に置いてある本になら、金縢編の記述があるかもしれないし。……随分考えこんでたみたいだけど、そこに、何か書いてあった?」

そう言って、ソンジュンがじっと目を落としていた書を覗こうとする。彼は咄嗟に、開いていた頁を閉じ、微笑んだ。

「いや、何も。そうだな。明日貰冊房へ行ってみよう。尊経閣の書の中には、無さそうだ」

ソンジュンが言うと、ユニは笑顔で、頷いた。


*   *   *


その夜、牡丹閣では兵曹判書と左議政の二人が酒膳を挟んで向かい合っていた。
ウギュが、ジョンムに酌をしながら、言った。

「ご子息と、うちの娘の縁談の件ですが……そろそろ親の出番なのではありませんかな?世の中には男も女も星の数ほどいますが、床に入ってしまえば相手が誰でも同じだということを、子供たちはまだ知らんのです」

ウギュはどうやら、ソンジュンが娘との結納を直前で反故にしたことに気付いているようだった。
だがそれも、この男にとっては大した問題ではないらしい。婚姻などというものは、家と家との結びつきでしかない。当事者たちの意志は、二の次、三の次なのである。
ジョンムも当然、そういう考えを持っている両班の親たちの一人だった。
だがウギュの言葉を聞いていると、何故かそのことに畜生の浅ましさにも似たものを感じてしまう。

『結婚はしません』

そう、父親の前で言い切った息子の眼が、何処からか自分を見ているような気がした。

それで幸せになれるのかと、いつだったか息子に問われた。そのときは子供じみた戯言と一蹴したジョンムだったが、息子が己の人生に何を求めようとしているのか、初めて思うに至ったことも事実だった。
同時に、父である自分の人生をも、あの頑固なまでに真っ直ぐな瞳でじっと見られていることも。

とそのとき、正面の障子戸がすらりと開いた。入ってきたのは妓生ではなく、一人の小柄な男だった。
男は無遠慮にジョンムの近くまで進み出ると、笠の陰からなめし革のような顔を覗かせて、笑った。

「一献差し上げたく参上いたしました、大監」

明らかに狼狽した様子で、ウギュが声を上げる。

「お前は……!ここをどこだと思っとる!」
「どなたかな」

ウギュに構わず、ジョンムは男に尋ねた。男は意味ありげな視線をウギュに送ると、ジョンムに向き直り、言った。

「辛丑年12月1日の晩、左議政様にご協力申し上げた、漢城府参軍ユン・ヒョングにございます」
「貴様……!」
「おやめなさい、兵判」

いきり立つウギュを制し、「酌をしに参ったと言ったな」とジョンムが促すと、聞く耳ありと見て取ったヒョングはいきなり平伏した。

「私は、大監のお命をお救いするため、人目を忍んで参りました」
「こやつ、誰に向かってそのようなふざけたことを抜かしておるのだ」

いちいち声を荒げるウギュに苛立ちながら、ジョンムは男が口を開くのを待つ。

「どうやら、十年前の一件を嗅ぎ回る連中が現れたようでしてね。通行禁止令をかいくぐり、私が成均館博士キム・スンホンと掌議ムン・ヨンシンを手引きした例の件ですよ」

途端に、ウギュが身を乗り出す。

「何だと?本当か?」
「いただいた土地の権利書の出所まで探られてます。最早こうなっては、お二方にご迷惑をかけぬよう、人里離れた山奥にこもって暮らそうかと」
「それで?」

ヒョングが、にんまりと笑った。人に不快感しか与えない、あざとい笑みだ。

「ささやかな住まいと、食べていけるだけの畑が必要だとは思いませんか?」

たかだか漢城府参軍如きが、この左相イ・ジョンムを脅し、金を強請り取ろうとするとは。
ジョンムは小馬鹿にするように口の端を上げた。

「獲物を捕らえたのは昔のことだというのに、今更猟犬がうるさく吠えれば、飼い主はどうすると思う?」

ヒョングは鼻を鳴らして考えるような素振りをすると、わざとらしく眉間に皺を寄せた。

「私にわかるのは、煮え滾る釜に放り込まれる前に、飼い主にガブッと噛み付いて、せめても足を食い千切るくらいしか、その猟犬に生き残る道はないということです。私なら猟犬を上手く宥めて、寝かしつける策を選びますよ、大監」

人は山に躓くことはないが、足元の小さな石に躓くという。
ヒョングの顔に広がる笑い皺に、小石の腹立たしいほどの狡猾さを見たジョンムだった。









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2013/08/27 Tue. 18:39 [edit]

category: 第十七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: harurunさま

ソンジュンのあのイヤらしいわざとらしさと上目遣いと、ユニに手握られたときの子供みたいな戸惑い顔がもーたまりません。つべの猫動画といい勝負な萌えに身悶えします(爆)

ソンジュン父の気持ちは完全にあまるの妄想部分ではありますが、かなり願望が入ってるかも(^^ゞ
やっぱ将来ユニの舅になる人だし、何よりソンジュンのパパですから、考え方や価値観の違いはあっても、兵曹判書みたいな悪い人ではないと。原作でも怖い人だけど、男気のある人として描かれてますしね~。

あまる #- | URL
2013/09/05 18:06 | edit

厳格なお父様

こんにちは。
このお手手の場面はこっちが恥ずかしくなっちゃうんですよね~。むふ。
ソンジュンのドキドキと、やっぱいざって言う時は女の子の方が度胸ある!みたいな感じ。
それとお父様の場面。いつもしかめっ面で、ソンジュンが「それで幸せになれるのか。」って聞いた場面でもあのお顔からは、何を考えているのかわからなかったんですが、これを読んで、なるほどそうかー。って思いました。
これから増えるラブラブ場面。とーっても楽しみにしています。

harurun #BJfyOLl6 | URL
2013/09/05 15:22 | edit

Re: イ**さま

いらっしゃいませ~(^^)

わざわざお礼のカキコありがとうございます。
ほんとにアチラはロクに推敲もせずイキオイだけで書いてるので(^^ゞ
お恥ずかしい限りですが楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後ともよろしくお願いしますね!

あまる #- | URL
2013/09/04 11:37 | edit

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
2013/09/01 18:25 | edit

Re: ちゃむさま

苦しみましたからね~。ソンジュン。
DVD見たときもしんどかったけど、書いてるときはワタシもそーとーしんどかったので(笑)
もーどんだけ手つきがいやらしかろうとも許す!( ̄^ ̄)

あまる #- | URL
2013/09/01 01:06 | edit

ソンジュンが

びっくりするほど可愛いですよね、この一連の行動。あの悶え苦しんだ末の今、堪能したまえ。と、この場面では上から目線で思った私です。

ちゃむ #- | URL
2013/08/31 11:05 | edit

Re: あらちゃんさま

ワタクシは自分では生きてるつもりですが、職場の人間に「目が死んでる」と言われております。
だから何さ。仕事終わりのビールで生き返るから放っといてo(`ω´*)oプンスカ

ソンジュンの手、や~らしいですよね~(笑)
他は何でも器用にこなすのに、そっちに関しては異様に不器用なとこに激しく萌えます。
手ーぐらいもちっとスマートに握れんのかって思うけど、あの初々しさがセーシュンなのね。

あまる #- | URL
2013/08/30 16:12 | edit

エッチっぽくて(//∇//)

生きながら死んだような生活から久しぶりに生還したら、こんなにお話進んでいて、とうとうこの場面まで来ていたんですね~
ソンジュンの手がエッチっぽくて、見ているこっちが恥ずかしくなるような、え~シーンです。
ずっと自分の妄想の中では脱線しっぱなしだったので、久々に初々しいソンジュンを思い出しました。こんな時もあったわけですね~
( ´ ▽ ` )

あらちゃん #- | URL
2013/08/30 02:02 | edit

Re: ク***パ*ナさま

ソンジュンは強靭な意志の持ち主ですから、理性の力で必死に我慢するでしょうけども。
この勢いではどう考えても結婚まで持ちそうにありません(笑)
そんな葛藤するアナタが好き(爆)

いえいえとんでもない。いつも温かいコメント、ありがとうございます(T_T)
お陰さまでとっても励まされておりますヨ!
こんなゆちょ腐れなブログにお越しいただくだけでありがたいのに、コメや拍手まで、
ホントに感謝の言葉もありませんです(´;ω;`)ブワッ
ちょっとでもお返しできるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

あまる #- | URL
2013/08/29 01:29 | edit

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# | 
2013/08/28 10:02 | edit

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