スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十七話 6 父の心 

bandicam 2013-08-27 14-44-47-560


******************************************


その晩、ヨンハから酒場に呼び出されたジェシンは、よく知るこの男が、かつて見たこともないくらいの速さで杯を重ねていることに気付いた。
相手の飲み過ぎを心配するのはいつもヨンハの役割なのに、今夜はどうも勝手が違う。
しかも、こんな街なかの酒場の、室内ですらない席だ。密命の調査報告に相応しい場所とも思えない。

「王の密命なんて、どう考えても私には似合わない。真面目で堅苦しいのは性に合わん」

ヨンハは自嘲するように言い、また杯を煽った。深く吐き出した彼の息は、少し冷たい夜気に溶けていったが、何故かその響きはジェシンの耳に残った。

店の女将が、かまどで炊いていた鍋の蓋を開けた。もうもうと立ち昇った白い湯気が、風に乗ってジェシンたちの座る席まで流れてきた。

「カムジャタンか。後で頼もう」

そう言って、ヨンハは盃を持つ手でジェシンを指差した。

「いいかコロ。私が信じるのは、お前だけだ。だから、必ず金縢之詞を捜し出せよ。見てみたいんだ。王の言う、新しい世の中ってやつを」
「酔ったのか?それとも……何かあったのか?」

ク・ヨンハという男は、人のことは根掘り葉掘り聞き出そうとするくせに、自分のこととなると殆ど話さない。
無駄なこととは思いつつも尋ねたジェシンに、ヨンハは白い歯を見せて笑った。

「ま、一発やってみるさ」

そのとき、店の低い土塀を隔てた通りを、酔って足元もおぼつかない数人の男たちが騒々しくがなり立てながら歩いてきた。ふとそちらに目を遣ったジェシンは、中の一人をどこかで見たような気がして首を捻った。だが思い出すまでもなく、それはすぐに判明した。

「あいつだ。漢城府参軍、ユン・ヒョング」

暗がりにふらふらと消えて行く後ろ姿を一瞥し、ヨンハが呟くように言った。

「10年前の事件の直後に、賭博で作った借金を精算してる。金の出所を探れば、事件との関連がわかるだろう。司憲府に行けば、当時の監察記録があるはずだ」

ジェシンは椅子から勢い良く立ち上がると、すれ違いざまヨンハの肩を叩いて、言った。

「カムジャタンは、また今度だ」


*   *   *


ヨンハと別れたその足で、ジェシンは司憲府へと向かった。ここへ来るときはいつも父親に呼び出されるか、武官に無理矢理連れてこられるかのどちらかなので、自らすすんで入るのは初めてかもしれない。
あちこちに警備兵はいたが、ここには大司憲の不良息子の顔を知らない者はいない。父の遣いで来た、と適当なことを言って難なく建物に侵入した彼は、迷うことなくまず監察房へ行き、書棚を片っ端から調べた。

弘文館や司諫院とともに政策の論評や査察を担い、官吏の監察を主な業務とする司憲府の監察房には膨大な書類があったが、さすがに厳格に整理されていた。だが肝心の10年前の漢城府官吏の監察記録が見当たらない。まるで誰かがそれだけ持ち出したかのようにすっぽりと抜けているのだ。
ジェシンはその場を諦め、今度は大司憲である父の執務室に足を向けた。
監察房と同じくずらりと並ぶ書棚をひとつひとつ開き、目指す書類を捜す。最後には、父の執務机の抽斗まで漁った。するとそこに、彼はあるものを発見した。
10年前の、キム・スンホン博士と掌議ムン・ヨンシン殺害事件の調査記録である。本来は、ここではなく刑曹にあるべき書類だ。そして、事件記録と共に出てきた監察記録に、彼は更に驚愕した。10年前の事件直後の、監察記録簿。そこには、彼が決して見たくなかった名が記されていた。

「ここで何をしている」

突然、低い声が部屋に響いた。机の陰にしゃがみこんでいたジェシンは咄嗟に立ち上がった。その拍子に、手にしていた記録簿がばさりと音をたてて床に落ちた。

記録簿を拾い、父───大司憲ムン・グンスは、立ったまま動けずにいる息子を見据え、静かに言った。

「公務を行う場だ。いくら息子のお前といえども……」
「何故です」

掠れた声で、ジェシンは言った。

「何故父上の机の抽斗に、10年前の左議政と兵曹判書の監察記録があるんですか。兄上の、事件記録と共に」

父は、記録簿に目を落とした。それを握る手に、力がこもる。

「お前は、この父が、お前の兄を殺した連中を本当に許したとでも思っていたのか?」

ジェシンは暫く言葉を失った。信じたくない事実だった。

「それでは、事件には左議政が関わっていると……?」
「今後は、兄の事件はこの父に任せて、お前は手を引け」

語気を強めて、父は言った。

「ヨンシンが死んだあの日、私も死んだ。ただ連中に復讐する日だけを思い描き、己を殺して生きてきたのだ。父の計画を、これ以上邪魔するな」

唇が震えた。ジェシンはそれ以上、一言も発することができなかった。




司憲府の門を出たジェシンは、未だ茫然としていた。

兄の事件に、イ・ソンジュンの父である左議政が関わっていた。その事実もさることながら、今の今まで、己の保身にしか興味がないと軽蔑さえしていた父が、ジェシン以上の憤懣と憎しみを抱え、それを長年押し隠して生きてきたとは。

これまで、自分が父に投げつけた数々の辛辣な言葉が思い出された。死んだ息子への思いを秘めながら、生き残ったもう一人の息子に非難される父の胸中はどんなものだったか。
父、ムン・グンスは、自分などより遥かに深く激しい情を持った、そして強靭な人間だった。愛する息子のためなら誇りを捨て、憎い仇にさえへつらうことも厭わぬほどの。
それに気づきもせず、反発するばかりだった自分の浅はかさがただ恥ずかしく、情けなかった。

成均館に戻ると、ジェシンの心は更に重さを増した。中二房の障子扉には、明々と灯る明かりを背に、調べ物をしているのだろう、額をくっつけ合うようにして向かい合うユンシクとソンジュンの影が映っている。

ソンジュンが成均館に復学してからの二人の変化を、ジェシンは敏感に感じ取っていた。
一時期は頑なにユンシクを拒絶し、遠ざけようとしていたソンジュンが、今はしょっちゅう彼女にひっついて、というか、片時も離れまいと追いかけ回しているような様子さえある。

おそらくソンジュンはユンシクが女だと知ったのだろう。もしかすると彼女が、本当のことを話したのかもしれない。
だとすると、尊経閣で彼女がジェシンに漏らした不安は、全くの杞憂だったわけだ。

だが、10年前のあの事件に、左議政が関わっている。
互いの父親が、事件の加害者と被害者かもしれない───それを、あの二人が知ることになったら。

ジェシンは縁側の床下から酒瓶を引っ張り出すと、そのまま大成殿の方向へと踵を返した。
今は二人の顔をまともに見ることができそうになかった。
いつもの銀杏の木に登り、背中を預けて酒を煽った。
10年前、きっと兄も見たに違いないそこからの風景を、ジェシンは目に焼き付ける。

あの晩、山へ行くんだと兄は言った。戻ってきたら、きっとこの世は変わるんだと。
弟の頭に手を乗せてそう語った兄の、瞳の中に踊る光を今でも覚えている。
それが、彼を見た最後だった。

成均館から、泮村へと開かれた門。兄は、その先に何を見ていたのだろう。
口元にこぼれた酒を拭い、ジェシンは今は夜の闇に沈む漢陽の都に目を凝らした。






********************************************
あまるですどうもこんにちわ。

本日、ソン・ジュンギ君入隊ですね(T_T)
ホント突然でびっくりしました。ここ最近の活躍がめざましかっただけに、2年も彼の姿が見られないのかと思うと寂しくて仕方ありません。
ゆちょのスクリーンデビュー作も、実は最初はジュンギ君がキャスティングされてたとか聞くと、何だか複雑ですが、ちょっと二人の縁を感じたりもします。
ゆちょもいずれ……とか考えるともう駄目だぁ~。うぅ。耐えられるかしらワタシ。




↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2013/08/27 Tue. 15:06 [edit]

category: 第十七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 2  tb 0 

コメント

Re: ちゃむさま

ジェシンパパには泣かされましたわ~。やっぱりこの二人って親子なのね。
揃って不器用というか、殊更自分を悪く見せようとしちゃうというか。
兄ちゃんは生きてるとき、多分この似たもの親子の間の潤滑油みたいな存在だったんじゃーないかな~とか勝手に想像。
せめてユニパパくらい、ジェシン兄が動いてるとこも見てみたかったなァ。
たぶん号泣すること必至(笑)


あまる #- | URL
2013/09/01 01:02 | edit

泣ける親子愛

ジェシン親子のそれぞれの想い。泣けるますよね。劇中、四人の親子、兄弟のエピソードが効果的に入ってて、そのことで話に厚みがでてほんといいドラマです。特にこのジェシン親子の不器用さ、たまりません。あまるさんも上手くまとめて、拍手!この後も、不器用に(今度はヨンハまで)ユニ&ソンジュンのことで悩むところ、切ない…ま、ソンジュンが聡いのですぐわかっちゃうけど。いい先輩たちですよね。

ちゃむ #- | URL
2013/08/31 10:43 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/243-ea5f48aa
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。