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第十七話 5 致命傷 

bandicam 2013-08-26 21-05-56-877

*******************************


その頃、ヨンハは漢城府にいた。役人たちを丸め込んで過去の朝報〈チョボ〉を見せて貰うのは簡単だ。ちょっといい酒と肴を差し入れてやれば、それだけで彼等はたちまち警戒心を解く。勤務時間中であるにもかかわらず、執務机を囲んで立ったまま宴会を始めるのだから呆れたものである。
旬頭殿講で成均館の盗難事件を調査していたとき、ソンジュンとユンシクが酒房で憤慨していたのも無理はない。
こんな、規律も気概もない緩みきった組織に都の治安が任されているのだ。まともな神経を持った人間なら、怒りと不安を覚えて当然だろう。

役人の一人が、盃を手にヨンハに向かってにこにこと声を掛けた。

「おい若いの、そんな隅っこで朝報なんか見てないでお前も飲め。ご馳走になるだけじゃ気が引ける」

机から顔を上げたヨンハは、愛想の良い笑みを浮かべ、どうぞお構いなく、と手を振った。

「皆さんはいつもお国のために苦労されてるんですから。遠慮無くどうぞ」

「そうか、悪いな」と役人は言って、また上機嫌で酒を酌み交わし始めた。

───だがまあ、この緩さのお陰で調査が楽なのは助かる。

ヨンハは戸棚の中から引っ張り出してきた黴臭い朝報を広げ、記事に目を凝らした。

「辛丑年12月1日……」

10年前、ユンシクの父とジェシンの兄が死んだ日だ。翌日の朝報には、清から来た使臣の歓迎行事が宮中で盛大に行われたことが記されていた。おそらく王は、二人の身の安全を考えてわざわざこの日を選んだのだろう。
使臣の来朝の際は、都の警備は厳重になる。歓迎行事ともなれば尚更だ。賊が現れれば朝報には必ず載るはずだが、日付を数日下ってみてもそんな記事は見当たらなかった。

通行禁止令の敷かれる中、月出山の道甲寺から金縢之詞を運んで都に入った博士、キム・スンホンと掌議ムン・ヨンシンを護送できるのは、漢城府の役人だけである。護衛の役人ごと二人を襲って事件を揉み消すのはまず不可能だ。となると、その護衛が犯人を手引きしたか、直接手を下した公算が大きい。

ヨンハはその日の当直記録をめくった。あの事件の夜、当直だった漢城府の役人の中に、勤務地が明記されていない者が5人いた。彼等の誰かが金で雇われたのは明らかだ。

ヨンハは席を立つと、役人の一人から盃を取り上げ、ぐいと飲み干した。そして、手にした役人名簿を彼等の目の前に放った。

「この中の誰です?いるでしょ?急に地方に配属になったとか、いきなり姿をくらましたとか、異様に金回りが良くなった奴」
「出し抜けに何を言い出す?」

そこでやっと、役人たちはこの得体の知れない儒生に不審の目を向けた。

「お前、何者だ?」

ヨンハは袂から、丸く象った馬牌〈マベ〉を取り出し、役人たちの前に掲げた。黄金色に輝くそれは、王命の威光とともに彼等の目を刺した。

「暗行監察〈アメンカムチャル〉だ」

役人たちは一斉に顔色を変えた。今更のように盃を置き、乱れた服装を直し始める。
ヨンハは「お仕事ご苦労様」と皮肉を言うと、「ついでにもうひと働きしてください。誰ですか?」と言って役人の一人に酒を注いだ。役人は慌てて盃をまた手にしたものの、流石に飲むのは憚られると見えて、腰を低くしたままどうしたものやらと目を泳がせている。

ヨンハは返事を促すように役人たちを見渡したが、彼等は皆突然現れた監察官に恐れをなし、その視線を避けるように俯いた。

「どうやら本当に苦労したいようだな」

叩きつけるように置いた酒瓶が机上で鋭い音をたて、役人たちを飛び上がらせた。
役人名簿を指差すヨンハの声が尖る。

「さっさと答えろ。この中で急に羽振りの良くなった奴は誰だ。いるだろ?」


*   *   *


雲従街の賭場。煙草の煙が充満する狭苦しい室内は、卓を囲む男たちと、その横にはべる女たちの嬌声でひしめき合っている。ヨンハは隅の席から、賭博に興じる一人の男にじっと視線を注ぎ、指先で唇を撫でた。

漢城府参軍、ユン・ヒョング。その名には聞き覚えがあった。
旬頭殿講の折、可愛い後輩たちが世話になった下級官吏だ。

「来い来い……」

手札をそろそろと広げて見たヒョングは、たちまち泣き出しそうな顔をした。どうやら、さっきから相当負けがこんでいるようだ。相手の男たちに、もう一勝負してくれ、と卓の上に覆い被さるようにして必死に頼み込んでいる。

「賭博で借金して、家を何度も売り払ってる。今度は妻と娘を売るしかなさそうね」

ヨンハの向かいに座り、気怠い表情でそう言ったのは、この賭場を取り仕切るやり手の女、ギョンジャだ。
男たちが、卓にしがみつくヒョングを引き剥がしにかかるが、ヒョングは呆れるほどのしぶとさで抵抗を続けている。ヨンハは小さく首を振って、ため息混じりに言った。

「賭け事は手首を切り落とすまでやめられないとは、よく言ったもんだ」
「足を洗う方法が他にあるなら、教えてやってくださいな。きれいな坊ちゃん」

ヨンハの笠の結び紐を意味ありげな手つきで弄びながら、ギョンジャが言う。その指に、自分の嵌めていた翡翠の指輪を通してやってから、ヨンハは尋ねた。

「十年前の辛丑年に、奴は命拾いしたんだって?」
「どこから聞いたの、そんな話」

指輪の石を撫でるギョンジャに、ヨンハは にっ、と笑った。

「当時、墓場に行きかけてたあの男を救ったのは誰か、知ってる?」

ギョンジャはちろりと戸口に視線を投げてから、同情するような、それでいてどこか面白がるような微笑みを浮かべた。

「今ここで墓場に一番近いのは、坊ちゃんかもよ?」

え?とヨンハは女の視線の先を追った。途端、彼の顔がさっと青ざめる。

「この、ろくでもない、チンピラの、能無しの、バカ息子が!」

思いつく限りの罵倒の言葉を撒き散らしながら、どかどかと賭場に乗り込んできたのはヨンハの父だった。
ヨンハはめったに見せない機敏さを発揮して、まだ騒いでいるヒョングの脇をすり抜け、賭場から逃げ出した。
すんでのところで息子の襟首を捉え損ねた父は、悔し紛れに卓の上にあった土器〈かわらけ〉を引っ掴み、外に向かって投げつけた。

「ふざけた真似を!成均館の儒生ともあろう者が、賭場なんぞに出入りしおって!」

男たちに羽交い絞めにされ、もがいていたヒョングの眉がぴくりと上がる。

(成均館の儒生だと……?)

賭場から追い立てられたヒョングは、通りの少し先で結局下男たちに捕まったらしい青年が、引き摺られるようにして父親に連行されて行くのを見た。
彼は微かに口の端を上げると、乱れた衿元を直した。


*   *   *


「結婚なんて嫌です。絶対にしません」

父の前で、ヨンハはにべもなく言った。二言目にはバカ息子、がお決まりだったこの父に、最近もう一つ増えた口癖がこれだ。
「結婚しろ」だなんて、他のどんな罵詈雑言より酷い。ヨンハにとっては死刑宣告も同じである。
父は煙草のヤニで黄色っぽくなった歯を剥き出し、傍にあった手拭いを息子に向かって投げつけた。

「バカ言うな!自分の子まで半端な両班にするつもりか?」

ヨンハは更に反抗的な眼差しを父に向けた。
かつて常民だった父は、たった一代で財を成し、その金で両班の身分を買った。ヨンハが科挙を受け、成均館に入れたのも父の金と両班という身分あってのものだが、この「半端な両班」という事実は、ヨンハの胸にいつも黒く沈んでいる汚泥のようなものだった。

元常民だった家に生まれたことが恥だとは思わない。恥ずかしいのは、本当の両班ではないと周囲の人間から蔑まれることを怖れ、真実を隠していることだ。

「吏曹参判〈イジョチャムパン〉を出した名家の娘だ。立派な家だから、お前もいい加減年貢を納めろ」

ヨンハは小馬鹿にして鼻を鳴らすと、低く言った。

「娘を売り渡すような家が立派なら、この国は名家だらけだ」

息子の皮肉は聞こえていたはずだが、父は気にも留めぬ様子で、手元の帳簿を開いた。
この父に尊敬できるところがあるとすれば、この仕事熱心なところだけだ。
カネに対する執着心は並ではない。それがなければ、ここまでの財産を築くことはできなかっただろう。

「コロだか何だか知らんが、何の得にもならない少論の奴とつるんで、随分と気を揉んでいたが……近頃、左議政の息子と付き合いがあるらしいな。それだけは褒めてやる。だがな、少論と離れろと言っているわけではないぞ。今は老論の天下でも、この先はどうなるかわからんからな」

さすが、損得でしか物事を考えない父らしい言葉に、ヨンハはうんざりして立ち上がった。
いくら金で買ったって、父は両班になど一生なれやしない。その心根が、骨の髄まで商人だからだ。
そして悲しいことに、自分はこの父の血をしっかりと受け継いでいる。
こうやって父と向かい合う度にそれを実感し、ヨンハは憂鬱になるのだ。

「南人の世に備えて仲良くしてるヤツもいるけど。その噂は聞いてませんか」

吐き捨てるように言うと、父は帳簿にさらさらと書き込みながら、ふいに声を落として、言った。

「漢城府を探るのはもうやめておけ。目立つ行動は控えろ。他の奴等なら軽傷で済むことでも、お前には致命傷になりかねん」




下男たちにかしずかれ、屋敷の門を出たヨンハの足取りは重かった。
結婚話のためではない。苦い思いを引き摺っているのは、父の言った“致命傷”なんて言葉のせいだ。

身分を金で買う父のような者もいれば、特権階級なんて名ばかりで、物乞い同然の生活をしている者もいる。身分制度なんて、結局誰かが作ったものに過ぎず、人の価値には何ら関係がない。振り回されるのは愚かなことだと思いながら、最もそれに振り回され、こだわっているのは自分なのだと、ヨンハにはもうわかっていた。

この密命を完遂することができても、できなくても。
俺は、大切なものを失うのだろうか?
すべてが片付いたとき、俺の手の中に残っているものはあるのか───?



「……なあ、掌議は、どうして急にヨリムの家を探れと言ったのかな?」

歩いて行くヨンハの背中を、塀の陰からこそこそと伺いつつ、コボンが言った。
ビョンチュンは、どこまでも続く広大な屋敷の塀を苦々しげに見つめながら、「さあな」と言った。

「お前は余計なことを考えるな。俺たちは掌議に言われたことをやればそれでいいんだ」







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2013/08/26 Mon. 21:34 [edit]

category: 第十七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: よこちょんさま

コメントありがとうございます~。
お越しいただけて嬉しいです!(^^)

このへんのドラマの構成、素晴らしいですよねぇ~。
呑気にいちゃこいてるユニソンは置いといて(^^ゞ
ヨリムとコロ、それぞれの父親との葛藤が胸に迫ります。

ジュンギくん、入隊しちゃいましたねぇぇぇぇ~(号泣)
寂しいけど、きっと更に格好良くなって帰ってきてくれると信じて待ちましょ~

あまる #- | URL
2013/08/27 15:22 | edit

ヨリムサヨ~ン!!

♡ あまるさま ♡
さっそくパスワードのお返事を頂き感激です(≧▽≦*)‐☆
ありがとうございました!!
家族が寝静まってからこっそり拝見いたしますぅ~♪(ドキドキ)
いよいよ物語も佳境ですね。あまるさまの文章はもちろんですが、各話のタイトルや写真もとっても素敵♡♡♡淡い水色のトーンにすごく癒されます(*^o^*)
今回のお話の主人公はヨリムサヨン・・・これから最終話に向かって今まで見せなかった表情を見せてくれますよね。
でもでもヨリムサヨン、明日(27日)入隊だとか・・・まだあなたを知ったばかりなのに悲しいです(〒_〒)

よこちょん #- | URL
2013/08/26 23:49 | edit

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