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第十七話 4 恋文 

bandicam 2013-08-22 02-25-06-100
**************************************



滑車の把手を握るソンジュンの背に、たらりと汗がつたう。
昇降機の滑車を回すのは、降りるときもそうだが上がるときは更に難儀だ。さっきからどうも上手く回らず、上りきる前に止まってしまうのではと冷や冷やしていたのだが、案の定、ついにびくともしなくなったのである。

まずい、と思った。
すぐ後ろで所在なげに立っているユニに、こんなことも満足にできない非力な男だと思われるのは何としても避けたい。
ソンジュンは体重を把手に乗せて力任せに回そうとした。途端、箱はガタンと大きな音をたてて揺れ、囲いの柵に慌ててつかまる羽目になった。

事態を悟ったらしいユニが、くす、と笑ってソンジュンの傍に来た。
「力仕事はスンドルに任せてるの?」と、ソンジュンの手の上から把手を握り、一緒に回し始める。

男としての面子は遥か彼方に飛び去ってしまったが、何だかどうでもいいような気がしてきた。
握り締めてくる彼女の手の柔らかさと、こうやって互いの身体をくっつけていることの方が、ソンジュンにとってはずっと重要に思えたから。

そんなソンジュンの思いが天に通じたのかどうか。いきなり、滑車ががくんと空回りした。箱が再び大きく揺れ、はずみで、ユニの身体が倒れ込んできた。
彼女に抱きつかれる格好になったソンジュンの全身が、一瞬にして硬直する。

心臓が、痛いくらいに胸を叩いていた。僅かに身体を離すと、こちらを見上げる彼女と目が合った。
ぷっくりとした唇が、触れそうなほど間近にあった。

ソンジュンの手は、ユニの腰に回されたまま、それ以上彼女を離すことを頑なに拒んでいた。
動けなくなったユニの瞳が、戸惑いの色を浮かべて揺れる。
ふいに、尊経閣でのことが思い出された。あのとき触れ合った感触をもう一度確かめたくて、ソンジュンはユニに唇を寄せた。
まるで自分が、甘い香りに引き寄せられる蜜蜂にでもなった気分だ。抗うのは到底無理だった。

あんな、不慮の事故みたいなくちづけじゃなくて、今度は彼女の香りと温もりをちゃんと味わいたい。
もっと深く、思いきり───。

「お二人とも、大丈夫ですか?!」

唇が重なろうとする寸前、頭上からそんな声が降ってきて、二人は弾かれたように ぱっと身体を離した。
見上げると、隠し扉から、ファンが気遣わしげな顔を覗かせていた。

「すみません。ああまったく、だから清国製は使えないんだ」

ブツブツ言いながら、首を傾げる。

「……機械が故障してるからかな?この中は随分と暑いな。やけにカッカしてるぞ」

気まずい空気に、思わず互いにそっぽを向くユニとソンジュンだった。


*   *   *


その後、ファンに梯子を降ろしてもらい、二人はどうにか地上に戻ることができた。
だがユニはさっきから一度もソンジュンの方を見ない。耳まで真っ赤になっている顔を手のひらでぱたぱた扇ぎながら貰冊房を出る彼女の背中を見ていると、ついからかってみたくなる。

「機械の故障で良かった。僕はてっきり、きみが怪力でわざと止めたのかと思った」

振り向いたユニが、「どういうこと?」と、ようやく彼を見た。

「覚えてないのか?昨日、尊経閣で……」

眉を潜め、怪訝な顔をしているユニに向かい、「口で言わなきゃ、わからない?」と彼女の口調を真似て、ソンジュンは笑った。
一瞬、ぽかんとしたユニはたちまち口をへの字に引き結ぶと「呆れた」と本気で怒った顔をしてソンジュンを睨みつけた。

「あ……あんなこと、二度としないから心配しなくていいよ!」

言い捨てて、ぷいと背中を向ける。そのまま、すたすたと足早に歩いていく彼女を、ソンジュンは呆気にとられて見つめた。

(どうしてああもすぐに態度を変えるんだ?)

予測できない彼女の反応に、ソンジュンはあたふたさせられるばかりだ。
追いかけて、なんとか話をしようと試みたが、成均館に帰ってきてからも機嫌を損ねた彼女の態度は相変わらず冷たかった。

「さっきのはそういう意味じゃ……」
「心配するなよ。もう二度としないから」

───いや、それは困る。

ソンジュンは構内を行き交う儒生たちの目を少しばかり気にしながら、言った。

「前から言おうと思ってたんだ。士大夫として大事を成すのに必要なのは、一貫性だ。きみにはそれが欠けてる」
「だから、二度としないって一貫して言ってるだろ。信じられない?」

ソンジュンとしては一貫性を持って欲しいのはそっちじゃないのに、これでは取り付く島もない。
といって、周囲の目のあるここでは、あからさまに許しを請うのもはばかられる。
おそらくは彼女もそれがわかっていて、こんな意地悪をしているのだ。
それは、何の手立てもなく棒立ちになっているソンジュンをからかうように、ぽんぽん、と彼の肩を叩くユニの表情を見ても明らかだった。

「男と男の約束だ。信じろよ」

わざわざそんなことを言って、さっさと行ってしまう。
ソンジュンはついつい調子に乗って無粋な発言をしてしまったことを、激しく後悔したのだった。


*   *   *


(書経の……金縢編、だっけ)

暗号解読のための書物を探して尊経閣に来たユニはふと、手にした本に、折り畳まれた小さな紙が挟んであるのに気付いた。
桜色のその紙を広げてみる。見覚えのある筆跡で書かれていたのは、『一笑一少、一怒一老』の文字。

(ひとつ笑えばひとつ若返り、ひとつ怒ればひとつ年をとる。
さっきのはただの冗談だ。───機嫌を直さないと皺が増えるぞ)

ぷっ、とユニは吹き出した。よくよく見ると、淡い色の紙を栞のようにはみ出させている本は他にも幾つかあった。
別の一冊を手に取った。今度の手紙は水色だ。
ソンジュンの筆跡はすぐわかる。いかにも彼らしい、手本をきっちりとなぞったような、クセのない几帳面な文字だ。

『子曰く、中道にして廃す。今汝は画〈かぎ〉れり』
(途中で放棄するのは、やらないより悪い。そう、論語の教えにだってある。
一度始めたことを投げ出す?はっきり言っておくがそれは間違ってる。……だから、二度としないなんて言わないでくれ)

一見堅苦しい言葉の裏に、仲直りしようと懸命なソンジュンの気持ちが垣間見えて、知らず、笑みがこぼれてしまう。
ユニは辺りを見回した。奥の書架の間から、わざとらしく書を捲りながら ちらちらとこちらを伺うソンジュンの姿が見えた。

何だか、意外だった。まさか彼が、恋人のご機嫌を取るためにこんな手段を使うなんて。
すっかり楽しくなったユニは、また次の本を開いた。

『彼を知り、己を知れば百戦百勝す』
(僕の気持ちがわからない?)

ユニはまた微笑んで、ソンジュンの方を見た。書架の向こうで、口元に浮かぶ笑みを必死で噛み殺しているような顔の彼と目が合った。

(これで最後かな……?)

ユニは隣の棚の『春秋』に手を伸ばした。ところが一瞬早く、それが横から さっと攫われた。本を手にしていたのは、東斎の色掌、ミョンシクだった。すると、ソンジュンがびっくりするほどの素早さですっ飛んできて、ミョンシクから本を奪い取った。

「何だ、イ・ソンジュン。先輩が読もうとしてるものを」

むっとしたミョンシクが本を取り返そうとするが、ソンジュンは当然ながらしっかり握って離さない。
ついにミョンシクの眉が逆立った。

「馬鹿にしてるのか?老論だからって調子に乗るなよ!」

ユニは広げた本の陰でこみ上げる笑いを隠した。そんな彼女を横目で見てから、ソンジュンはミョンシクに向かい、微笑んだ。

「すみません。この本には、目印をつけているので。同じものですから、先輩はどうぞこちらを」

と、書架に積んである中から一冊を取って、手渡す。
ミョンシクは信じられないものを見たとでもいうように、ぱちぱちと瞬きした。

あの尊大極まりないイ・ソンジュンが素直に謝るとは。しかもこんな、とびきりの笑顔で!

ミョンシクの心中が手に取るようにわかるユニは、可笑しくて仕方ない。

「ま……まぁ、今日は許してやるが、次からは気をつけろよ」
「ありがとうございます、先輩」

またしても、ソンジュンの笑顔がこぼれた。すっかり毒気を抜かれたらしいミョンシクは、差し出された本を受け取ると、しきりに首を捻りながら行ってしまった。

どうにか危機を脱し、ソンジュンは ほーっ、と深く息を吐き出した。そして、まだくすくす笑っているユニに ちらりと秘密めいた笑みを送ると、最後の一枚をさり気なく手渡した。
そのまま、何事もなかったように書架をすり抜け、そそくさと出て行ってしまう。

ユニは、ソンジュンが残していった紙をそっと開いた。
ほんのりとした紅色の紙に記されていたのは、たった一言だった。


“愛してる”






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2013/08/22 Thu. 02:49 [edit]

category: 第十七話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちゃむさま

今までのソンジュンからするとそーとー頑張った行動ですヨ!あれは!
しかしユニに見つからないようにこそっと手紙書いて本の間に挟んでる図を想像すると可愛すぎて笑えるww

あまる #- | URL
2013/08/25 01:35 | edit

ギャップ萌え

このソンジュンは反則ですよね。こんな事するの?って思うのはわたし達はもちろんですが、一番はユニ本人ですよね、きっと。イイな、恋文とあの笑顔。

ちゃむ #- | URL
2013/08/24 07:35 | edit

Re: あらちゃんさま

ソンジュン、こんなに笑うヒトだったの~?というか、ユニのお陰で笑うことを知ったのね、きっと(T_T)
ワタクシはキャプ絵んとこのあのオメメぱちぱちに死にました。
なんなのあの可愛さわ~も~(爆)(爆)

あまる #- | URL
2013/08/23 06:59 | edit

Re: ク**ムパ**さま

あーやっぱりここもBSではカットされてたんですね~(^^ゞ
すんごいいい場面なのに。
DVD、お時間あればぜひ見てみてください~。
プレッシャーから逃れようという魂胆ではありませんが(笑)
この回のゆちょんの笑顔の可愛さは、どんだけ言葉を尽くしても表現しきれないです。いやほんとに。

ワタクシのHN、そんな意味があったんですね~。アラビア語とは知りませんでした。ステキ☆
もし名前の由来を訊かれたら今度からそう答えることにします(爆)

あまる #- | URL
2013/08/23 06:45 | edit

困っちゃうほど愛しいソンジュン

>どうにか危機を脱し、ソンジュンは ほーっ、と深く息を吐き出した。そして、まだくすくす笑っているユニに ちらりと秘密めいた笑みを送ると、最後の一枚をさり気なく手渡した。
そのまま、何事もなかったように書架をすり抜け、そそくさと出て行ってしまう。
こ、この場面のソンジュンの笑顔が私を狂わせる(爆)大騒ぎして息子にたしなめられた場面です(笑)。
爆死するほど好きなのですが、どうしても一番いい瞬間を切り取ることがかなわず・・・いまだに挑戦しています。
この回のソンジュンは、私が妄想するソンジュンの基本型なんです!!可愛くて、もう、死んじゃいそう。困っちゃう(*≧∀≦*)
あまる様、ありがとうございます。

あらちゃん #- | URL
2013/08/22 21:44 | edit

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# | 
2013/08/22 09:18 | edit

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