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第十六話 10 前夜のふたり 

bandicam 2013-08-10 18-36-50-665

*****************************************


雲従街の市場通りを、華やかな衣装に身を包んだ三人の妓生たちがそぞろ歩いている。
三人とも、女笠〈チョンモ〉に隠れて顔はよく見えないが、中の一人は、すらりと背が高く、洗練された身ごなしが水際立っている。名妓チョソンの名を知らずとも、彼女とそこらの田舎妓生との格の違いは誰の目にも明らかだ。

小間物屋の前で、装飾品を品定めしている彼女たちの様子を物陰から密かに伺っていたジェシンは、チョソンが他の二人からそっと離れるのに気づき、後を追った。
紫紺のチマを軽くたくし上げ、この雑踏の中を人にぶつかることもなく、まるで風が通り過ぎるようにするすると歩いて行く。

(気づかれたか───?)

ふいに、チマの裾を翻してチョソンが横道へと入った。急いで追いかける。だがその先の路地裏で、彼女の姿は忽然と消えていた。

してやられた。まかれたのだ。この俺が。

舌打ちして引き返す。そのジェシンの目前を、一瞬、何かが過ぎった。すぐ脇の民家の壁に、鋭い音を立てて突き刺さった矢を見、それが偽の紅壁書の放ったものであることを知る。振り仰いだが、立ち並ぶ屋根の上には猫一匹いなかった。

ジェシンは壁に近寄り、矢を引き抜くと真紅の壁書をむしり取った。
それはまたしても、本物の紅壁書を挑発する予告状だった。
次の襲撃場所は───広通橋〈クァントンギョン〉。

壁書を握り締め、踵を返したジェシンの前に、武官が数人の兵を引き連れて駆け寄ってきた。
武官はぴたりと足をとめ、ジェシンに向かい角度を測ったようにきっちりと頭を下げた。

「お迎えに上がりました」

こんなときに大司憲の呼び出しか、とジェシンは目で天を仰いだ。


ジェシンが連れてこられたのは、司憲府ではなく、自宅の屋敷だった。
部屋に入ると、息子そっくりの顔でむっつりと渋面を作っている父ムン・グンスの前には、珍しく酒膳が用意されている。これは長い話になりそうだと腹を括ったジェシンは、おとなしく父の向かいに腰を下ろした。

相手が口を開くのを待つが、父は押し黙ったまま何も言わない。
いきなり酒瓶を手に取り、手酌しようとするので、ジェシンはさっとそれを奪い取り、父の盃に酒を注いでやった。
瓶を置くと、父が渋面をますます険しくして「もうやめておけ」と切り出した。

「───紅壁書の正体を、私が知らぬとでも思っていたのか?」

驚きはしなかった。すべてを知っていて、それでも保身のためにしか動かないのがこの父だ。
ジェシンはたった今置いたばかりの酒瓶を掴むや、直接口をつけて酒を煽った。
自分がいくら飲んでも酔えないのは、きっとこの父のせいだとジェシンは思う。

強い酒は確かに、喉までは焼いてくれる。だが腹の方に落ちていった途端、水でも飲んだかのように何も感じなくなる。それはジェシンのはらわたが、いつもそれ以上に煮え滾っているからに違いなかった。

「先日の辛亥通共〈シネトンゴン〉の際、壁書で民心を得たお前を捕らえようと、左議政も兵曹判書も必死だった。偽の紅壁書が、連中の仕組んだ罠だということはわかっている。だが偽者が捕まらねば、お前がすべての罪を被ることになるのだぞ。頼むから慎重に行動してくれ」

ジェシンは笑おうとしたが、頬が不自然に引き攣っただけだった。

「では、父上が代わって王に訴えてくれますか?金縢之詞を運んでいた息子ヨンシンは、賊ではなく老論に殺されたと。事実を話してくれるなら、すぐにでもやめます」

ジェシン、と父は息子の名を呼んだ。だが彼は黙って、席を立った。
無駄な言い争いを、これ以上するつもりはさらさら無かった。


*   *   *

細長く丸めたジェシンの布団を、ユニと自分との間に置き、仕上げに枕を乗せる。すると、急ごしらえの堰が出来た。
ソンジュンは表情を厳しくすると、堰を挟んで向かい合うユニに言った。

「ここを絶対に越えないように」

越えたら、きみの貞操は保証しないという意味を込めて言ったのだが、当のユニはわかっているのかいないのか、小憎らしくなるほどあっけらかんとした顔で、言った。

「頼まれても越えないから、心配しなくていいよ」
「自分の寝相の悪さを知らないから、そんなことが言えるんだ」

これでもまだ心許ないくらいなのに。
ソンジュンの言葉に、ユニはバツの悪そうな顔で肩を竦めた。まったく、と彼は溜息をつく。

「こんな日に限って、コロ先輩がいない」
「ほんとだよ。コロ先輩がいないと、なんだか部屋がガランとしてる」

ユニが、つまらなさそうな顔で部屋を見渡した。
そんなユニの反応が、ソンジュンは甚だ面白くない。
まるで、ジェシンがいないと寂しいと言わんばかりだ。自分がここにいるというのに。

ボスッ、と、腹立ち紛れにジェシンの布団を殴りつけ、ソンジュンは憮然として言った。

「やはりきみは一刻も早く成均館を出て行くべきだ」

そんなソンジュンの心中も知らぬげに、ユニは ふふっ、と笑って、顎をそびやかした。

「そんな小言を聞くのも、今日で最後だね。明日の黄柑製では、ぼくが大差でイ・ソンジュンを負かして首席になるから、出て行けなんて言えなくなる」

そうはいくか。この勝負に賭ける真剣さでは、きみに決して引けは取らない。この僕が本気を出したらどうなるか、きみに見せてやる───。

「もう寝よう」とソンジュンが言ったのを合図に、二人は互いに背を向け、布団を被って横になった。
部屋の壁を見つめながら、ソンジュンは思った。

そうだ。昨夜、コロ先輩と寝床の奪い合いになったときもそうだった。当然、僕の隣を選ぶと思ったのに、彼女は何故か迷っているような素振りを見せた。あれは一体、どういうことなんだろう。
今だって一晩先輩がいないくらいでつまらなさそうにしていたし。
もしや僕は、彼女の秘密を知ったというだけで、何か大きな勘違いをしているのではないだろうか……。

夜、布団の中で悶々とする思考は、悪い方向にしか働かない。確かめる術は、やはり“あれ”しかないと、ソンジュンは意を決して、口を開いた。

「ところで……この間の、渓谷でのことだが……何か、話があると言わなかったか?」

布団の堰をひとつ隔てているせいか、背を向けていると彼女の気配はよくわからない。

「別に、すごく気になるというわけじゃないが、ただ、学士として真実をきちんと知っておかねばと……」

ソンジュンは指で枕を小さく叩きながら、はやる気持ちを抑えてユニが話し始めるのを待った。
だがいくら待っても、彼女は答えない。

「……聞いてるのか?」

やはり返事はない。ソンジュンは起き上がって、ユニの方を見た。
だが彼女は目を閉じたまま、ぴくりとも動かない。呆れたことに、既に眠ってしまったようだった。
知ってはいたが、相変わらず何という寝付きの良さだろう。

ソンジュンは諦めて、再び布団の中に潜り込んだ。
小さく息をつき、目を閉じる。

丸めた布団の向こうで、目を開けたユニがそっとソンジュンの方を伺っていたことなど、そのときの彼はもちろん、知る由もなかった。





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2013/08/10 Sat. 19:00 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re:shuuyuchunさま

いっこ解決したらまた別の悩みが出てくるというとことん苦労性な彼が好きです(笑)
気持ちが通じ合ったら触りたいけど触れないジレンマに悶えてるし。
ああ……←この人も悶えてます

あまる #- | URL
2013/08/12 06:31 | edit

Re: あらちゃんさま

そう、保証できないんです!←断言
たぶんユニが真ん中で寝てた頃、そーとーひっついてこられて実はソンジュン、結構ヤバかったんじゃないかと想像(笑)
今それやられちゃーたまらんでしょーということで……(笑)
ワタクシとしては全然保証してくれなくて構わないんですが。

あまる #- | URL
2013/08/12 06:27 | edit

Re:ukyaさま

ですね~。16話と17話はもーソンジュン萌え全開です~(^^)
ないも同然な間仕切り……(笑)
ちゃんと役にたったんでしょうかね、アレww


あまる #- | URL
2013/08/12 06:19 | edit

悶々と~

女とわかっても、手を出さずに悶えるソンジュン。

ってか、自分のことを好いてくれているのか、確信持てず、悶えていますね~

ホント、男とは、一線越えてはいけないと、涙を流し、

今は、女とわかり、一線を越えたいのに、布団で垣根をつくり、

青いって、いいなー♪

shuuyuchun #dDm6s.8Q | URL
2013/08/11 21:14 | edit

キャ~~~

>「ここを絶対に越えないように」

  越えたら、きみの貞操は保証しない

キャ~~~(^q^)
あなたが越えなきゃ何にもないでしょうーと思っていましたが、確かに!
せっかく我慢してても寄って来られたら保証はできない!!
ソンジュンは若いんだし、木石じゃないんだし。
ユニってば耳年増な割にソンジュンが我慢してるってこと、想像できてないですよね。
原作でいみじくも言っていたように男装しても真似だけですから、どんだけテストステロン出まくりか、実感ないでしょう(笑)

あらちゃん #- | URL
2013/08/11 00:03 | edit

いじらしい(*≧∀≦*)

やっぱりソンジュンがユニの秘密を知ってから、萌えが何倍にもなりますよね…男色なのかと悶々とするソンジュンも嫌いではなかったですがww
とくにあまる描写の脚本は、キュンキュンきてしまいます(*^_^*)
布団の仕切りなんて…ないのも同然よ、ソンジュン氏。ww

お忙しいとは思いますが、アップ楽しみにしてます!

ukya #CGSys/Bo | URL
2013/08/10 23:19 | edit

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