スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十六話 9 愛される側、愛されない側 

bandicam 2013-08-08 01-04-01-582

********************************************


尊経閣に整然と並ぶ書架の間で、ユニは手に取った本をめくり、中を確かめた。
彼女の背後ではソンジュンが、こちらも同じく背を向けて黄柑製の準備に使えそうな書物を物色中である。
狭い通路では、ほんの少し身じろぎするだけで互いの背中や肘がぶつかり、そのたびにユニはどきどきする心臓をなだめなければならなかった。

「あのさ」と、ずっと気になっていたことを、出来るだけ何気ない口ぶりで訊いてみる。

「成均館に戻ったんなら、大科も受けるんだよね?じき結婚も……するんだろ?芙蓉花と」
「それはない」

ソンジュンの答えは明快だった。あまりにきっぱりし過ぎていて、もしや自分は今何か別のことを訊いたのではと思ったほどだ。

「結納は、しなかった。言っただろう。これ以上、自分を偽ることはできないと」

あの日、市場で彼に好きだと告白された事が思い出された。頬が熱くなり、自然と口元が緩んだ。こんな締まりのない顔を見られたら、とユニは思わず焦ったが、そんな心配は無用だった。
ソンジュンは束にした本を抱えると、ユニの方を振り向きもせずにさっさと通路を出ていってしまったからだ。

もしかしたら彼も、照れているのだろうか。
落ち着き払って見える背中に、何故かそう感じた。





───この賭けは、もしかして僕の方が激しく不利なんではないだろうか。

長机に腰掛け、ユニと向い合って本を広げたはいいが、ソンジュンは早くも、彼女に乗せられてあんな賭けをしてしまったことを後悔していた。

全くといっていいほど、集中できないのだ。彼女がそばにいると。

ほとんど聞き取れないほどの小さな声で、教典を呟く彼女の唇。その動きに、つい目が誘われてしまう。
そうなると、もう駄目だった。

心臓が早鐘を打ち始め、背中に変な汗が滲む。幾度となく彼女の唇を奪おうとしたときの記憶が生々しく蘇り、彼はますます落ち着きを失くした。
これまで、自分の感情をどうやって制御していたのか、少しも思い出せない。そもそも、今まで生きてきた中で僅かながら心に過ぎっていたもの、あれを果たして感情と呼べるのか、それすらもソンジュンにはわからなくなる。

キム・ユンシクが現れてからというもの、笑ったり泣いたり怒ったり苦しんだり、ソンジュンの胸は忙しいばかりで、一時もじっとしていることがない。今の自分に比べたら、彼女に出逢う前はきっと、何も感じてはいなかったのだ。本当のところは。

おそらく真の精神修養はこれからなのだ、とソンジュンは自分を律することに一層の厳しさをもって望まなければならないことを覚悟した。
なにせ今も目の前に、さくらんぼのような魅惑的な唇が、さあ召し上がれ、と瑞々しい光を放ってソンジュンを誘惑しているのだから、たまったものではない。
そして耳元では、彼を人道から墜とそうと企む妖〈あやかし〉がまたぞろ囁くのだ。

“ほら、済州島の蜜柑なんかよりよっぽど美味そうだろう?幸い周囲には誰もいない。彼女を押し倒して、貪り食っちまえ───“

彼は必死にかぶりを振り、椅子の上で姿勢を正した。ところが机の下のつま先が、向かいのユニの足に触れてしまい、思わず弾かれたように引っ込める。

これだけ席はたくさんあるのに、何故わざわざ迂闊にも彼女の真っ正面に座ったりしたのか。
いたたまれなくなったソンジュンは立ち上がると、ユニの斜向かいに席を移動した。尚且つ、目の前に積んであった本の束をずらして、ユニとの間に壁を作る。

これでよし。

ふうっと息を吐き出した。そんな彼の挙動を不審に思ったのだろう。ユニが怪訝な眼差しを向けたが、ソンジュンはお構いなしに更に本を積み上げ、彼女との間の壁をどんどん高くしていった。
参考文献が多かったというわけでは、もちろん、ない。ユニの唇を、自分の視界から隠すためである。

集中しろ、イ・ソンジュン。彼女を守っていくためには、絶対に負けるわけにはいかないんだ。

学問は自分自身との闘いである。
官吏を目指す者にとって、最難関の試験は言わずもがな、成均館の卒業試験でもある大科〈テグァ〉だが、ソンジュンにとってはこの黄柑製が、おそらく生涯で最も過酷な試験になることは、まず間違いなかった。


*   *   *


「ソンジュン様のお心を、取り戻したいんです」

雲従街の酒房で、腫れぼったい目をしばたかせながらヒョウンが言った。
その向かいには、盃を傾けるヨンハがいる。

「あなたなら、その方法をご存知かと思って、失礼を承知でご連絡しました」
「ヤツの心を取り戻す方法ね……」

手にした盃に描かれた模様をしげしげと眺め遣りつつ、彼は言った。
今ヨンハの興味を引いているのは目の前の自分ではなく盃の絵だとでも思ったのかもしれない。ヒョウンは身を乗り出すようにして、言い募った。

「出来る限り努力します。辛くても難しくても、きっとやり遂げてみせます。だからどうか、助けてください」

ヒョウンの表情は真剣そのものだ。ヨンハは口の端を持ち上げると、どこか冷淡に彼女を見返した。

「感動的だね。あいつ好みの女になりたいってわけか」

必死に頷くヒョウンの目が、縋るようにヨンハを見つめる。
「じゃあまずは」と彼は口を開いた。

「こんな風に他の男を呼び出して会うのをやめること。本といえば大衆小説しか読まない低俗な趣味もやめること。自分より身分の低い者をぞんざいに扱うのも、金輪際やめること───できる?」

ズケズケと遠慮のない物言いに、ヒョウンは恐らく彼女にしては相当な忍耐力でもって堪えたのだろう。肩でひとつ大きく息をして、言った。

「努力……します。あとは、何をすれば?」

ヨンハは卓の上に頬杖をつくと、いっそう情け容赦のない言葉を浴びせた。

「努力するのはいいけどね、かといって人の心が得られるとは限らない。受け入れることも時には必要だよ。今回の物語では君の役は、愛されない側だ。認めろよ。そうすれば楽になる。もう泣くことも、私みたいな人間に、こんなみじめな忠告を受けることもなくなる」

ヒョウンの頬が、激しい憎悪に歪んだ。

「……あんたって最低」

まさしく正解とばかり、ヨンハは笑った。

「どうしてそんな酷いことが言えるのよ」
「世間知らずのお姫様にも、一人くらいは必要だろ?本当の事を言ってやる人間がさ」

あの生真面目な男が、結納を放り出したんだ。イ・ソンジュンは恐らく天地がひっくり返っても、あんたを愛する事はない。
早いとこ諦めた方が、あんたはきっと幸せになれる。
あんたが主役の物語の中で、愛される側になる。

───って言っても、聞きゃしないんだよな、大抵の女は。

膳を蹴飛ばす程の勢いで立ち上がり、足音を響かせて立ち去ったヒョウンに視線を投げながら、ヨンハはまた酒をぐいと喉に流し込むのだった。






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2013/08/08 Thu. 01:19 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 2  tb 0 

コメント

Re: じ**2さま

ワタクシもこのソンジュンの顔大好物です…。

あまる #- | URL
2013/08/12 06:11 | edit

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

# | 
2013/08/08 22:37 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/233-00133d80
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。