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第十六話 6 残り香  

bandicam 2013-08-01 22-13-06-645
**************************************



息をするのも忘れて、ユニはチョソンを見ていた。
彼女は言った。

「わたくしはこのような卑しい身。若様の妻になることなど望んではおりません。幼い頃に妓生となり今まで、華やかな生活を送って参りました。けれど、この卑しいわたくしを、男たちの慰み物ではなく、恥じらいを知る一人の女と思ってくださったのは、若様が初めてでした」
「チョソン……」
「若様のお側にいられるなら、恋人でも、側女でもいい。女として、幸せになれると思うのです」

ユニは哀しかった。自分が本当に男であったなら、これほどまでに想われて、心が動かないはずはない。
この美しい人を、何とかしてここから連れ出して、幸せにしてやりたいと思うだろう。
けれども、ユニは女だった。それは、動かし難い事実だった。

「わたくしは待ちます。若様が御心を寄せて下さるまで……。お許しくださいますか」

ユニは膝に置いた両手をぎゅっと握り締めた。これ以上、彼女に望みを持たせてはいけない。後になればなるほど、きっと傷は深くなる。

長い沈黙のあと、ユニは口を開いた。

「……だめだよ、チョソン。それは、許すことはできない」

チョソンの瞳が、絶望に打ちひしがれる様を目の当たりにしながら、それでも言わなければいけないとユニは思った。
これは、嘘をついた自分への罰だ。彼女の悲しみを、胸の痛みを、逃げずに受け止めて、背負わなくてはいけない。

「貴女のような、美しく強いひとを前にしては、ぼくは恥ずかしくなるほど至らぬ人間だ。だから……待たないでくれ。ぼくには、そんな資格はないんだ」

ユニが席を立つと、その前を塞ぐように、チョソンも立ち上がった。そして静かに微笑んだ。

「そんな美しい言葉で拒まれて……どうやって諦めろと仰るの?」

彼女は微笑っていたが、その語尾は微かに震えていた。ユニは己の罪深さを思った。
女同士として出会っていたとしても、きっと自分は彼女に心惹かれただろう。
この美しく聡明で───どこか、悲しいひとに。

「すまない。本当に申し訳ないと思ってる。チョソン」


*   *   *


ジェシンは土塀に背中を預け、心を落ち着かせるようにゆっくりと呼吸を繰り返した。
視線を少し動かせばそこには、長提灯の下がった牡丹閣の門が見える。

忘れるはずがない。あの独特の、蘭麝の香り。偽の紅壁書と刀を交えたあの時、ほんの僅かだが相手から香った。
身を隠すための黒装束にわざわざ香を焚きしめる馬鹿はいない。いつもその身に纏い、染み付いた香りは、衣を替えたくらいでは消えるものではないらしい。

(あのチョソンとかいう女……一体何者だ?)

腕を組み、苛々とつま先で地面を叩いていると、待っていた相手がやっと長提灯の陰から現れた。

「真昼間から妓楼通いとは、先が思い遣られるな」

行く手を塞ぎ、むっつりとしてそう言った。先輩、とユンシクの丸い目が驚いて更に大きくなった。

「なんでここに?」
「チョソンとは───距離を置け。親しくするな」

ユンシクは少し目を伏せて、呟くように言った。

「いい人です。ぼくには、もったいないくらい」

その言い方が、ジェシンの癇に障った。チョソンに対する、ユンシクの真摯な気持ちが滲んでいたせいかもしれない。
こいつは誰に対しても、あまりに無防備過ぎる。

「いいから黙って言うこと聞け!」

思わず、怒鳴っていた。

「ケツの青いガキが、妓楼なんかで時間を無駄にするなっつってんだ。みっともねぇ」

ユンシクは虚を突かれたように二、三度瞬きしたが、すぐに悪戯っぽく笑った。

「先輩、まだ怒ってるんですか?何も心配いりませんてば。ぼくは大物〈テムル〉ですよ、大物」

畜生、とジェシンは心の中で悪態をつく。
出会ったばかりの頃は、俺がちょっと睨んだだけでもビビリあがってたくせに、近頃のこいつときたら。
少しばかり怒鳴ったくらいじゃ、屁とも思わない。

「だから!そんなだから……お前が心配なんだよ!」

ジェシンはユンシクの下げていた荷物をむしり取るようにして奪うと、先に立ってすたすたと歩き出した。
小走りについてくる彼女が、ふふっと小さく笑うのに、彼はまた少し、苛立つのだった。


*   *   *

昼間吹く風にも少し冷たさが増すようになると、成均館では毎年、“黄柑製〈ファンガムジェ〉”という試験が行われる。
済州島〈チェジュド〉からその年一番に収穫され、王室に献上される蜜柑を、副賞として成績優秀者に与えるという文字通り儒生たち垂涎の試験である。
寒さの厳しい朝鮮で栽培できるのは唯一済州島だけとあって、蜜柑は民にとっては幻とさえ言われている果物であった。

王から下賜された籠いっぱいの蜜柑を捧げ持ち、宮殿の回廊をしずしずと歩く大司成は満面の笑みである。
甘酸っぱい香りを嗅ぎながら、口中に湧いてくる唾を彼は何度も飲み込んでいた。

「ああ、学生時代に戻るのは死んでも嫌ですが、黄柑製のためなら、一度は戻ってもいいかと思います。この国で、蜜柑を心ゆくまで味わえるのは、成均館の学生だけですから」

大司成の言葉に、少し前を歩く王も笑みを漏らす。

「今年は豊作であった故、学生たちには存分に与えることとしよう。───おお、左議政」

回廊の角を曲がって来たイ・ジョンムとハ・ウギュが、王に向かい深々と頭を下げる。

「今年も、黄柑製の季節が参りましたか」

ジョンムがにこやかに言うと、王は頷いた。

「そなたは今年の黄柑製には期待して良さそうだぞ、左議政」
「は……?」

王の意を測りかねたジョンムが見返すと、「仰るとおりです、陛下」と大司成が言った。

「イ・ソンジュン君はどの科目も完璧ですから。首席を逃すはずはありません」
「……左議政様のご子息は書院にいるはずでは?」

ウギュが怪訝な顔で尋ねる。ジョンムが表情を強張らせて沈黙しているので、ほんの一瞬、王も交えた彼等の間に妙な空気が流れた。すると大司成が取り成すように、にこにこと笑って言った。

「ご存知ありませんでしたか?彼は本日、成均館に復学しました」

えっ、と明らかに戸惑いの表情を浮かべて、ウギュがジョンムを見た。王の、自分に注がれる視線を感じたジョンムは、小さく咳払いすると低頭した。

「私が、呼び戻しました。息子は生真面目で、書物にばかり没頭するため、政治を学ぶには都にある成均館で学ぶ方が良いかと存じまして」

頷いた王は、そうか、と言って、微笑んだだけだった。








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2013/08/01 Thu. 22:18 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

ユチョンやっぱりいいよ~

8/3に飲み会で新大久保に行きました。
韓タレのいろんなもの扱ってる店がひしめいていました。
私はあくまでソンジュンのマニアであってJYJや素のユチョンのマニアではない、と公言している割には、遠くから見てもすぐユチョンとほかの人の区別がつく!人に驚かれ、自分に驚きました。いや、ファンなら当然のことなのでしょうが・・・よだれのでそうなグッズが何点かあって、やっぱりかっこいいな~と改めて思った次第です。(かっこいいというか、表情が群を抜いて妙に色っぽいと思った)( ´ ▽ ` )

あらちゃん #- | URL
2013/08/05 00:16 | edit

Re: あらちゃんさま

太陽を抱く月の彼女は、ちょっと可哀想な役でしたからね~(^^ゞ
でもあの演技はなかなかでしたヨ。

メイキングはワタクシも実は見れません。あらちゃんさんとはちょっと違う理由で。
えーと、白状すると、ユチョがヨジャに素で優しくしてるとこ見るのがスンゴイしんどいんですっ。
萌えられるのはあくまでドラマだから、という……ちょっとどころか、あらちゃんさんとは真逆の理由ですな。
そうワタクシはただのイタイ人(爆)

あまる #- | URL
2013/08/04 12:31 | edit

チョソン

>女同士として出会っていたとしても、きっと自分は彼女に心惹かれただろう。この美しく聡明で───どこか、悲しいひとに。

チョソンを演じている女優さんって、本当に太陽を抱く月の王妃?
チョソンはあまる様が表現してくださる通りの感じで、西施の香も似合いそうだし、いつもすてきだな~と思うのですが、王妃はいまいちだったな。
ソンスはいろんな俳優さんがはまってますよね。
演出家の力かな?メイキングを見るとユチョンにもかなり細かく、具体的な指示を出していましたし。演出力+俳優の力?脚本も。全部か。
・・・と言いつつ、実はメイキングは半分も見ていません。録画してあるけど。自分の中では本当の世界のように思っているのに、作り物だと突きつけられるようで悲しくなっちゃって。我ながらバカだな~と思うんですけどね。怖いものを正視できない弱っちい自分が恥ずかしい。(^_^;)
ガチのオタクって弱い生き物なのです。目を覚ますのがこわい~

あらちゃん #- | URL
2013/08/02 01:08 | edit

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