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第十六話 5 残り香 

bandicam 2013-08-01 14-34-45-087
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麓の宿に着くと、儒生たちはもう帰り支度を始めていた。
なるべく目立たないようにこっそりと部屋に滑り込んだつもりが、ドヒョンに目ざとく見つかり、声を掛けられる。

「おっ!テムル!朝早くからどこ行ってた」

隣のヘウォンが、ドヒョンを肘で小突いた。

「何言ってんだか。昨夜からいなかったろ?」

ウタクが、色眼鏡をずり上げてにんまりと笑う。

「怪しいぞ、テムル。やけにスッキリした顔しちゃって。さては恋人にでも逢ってきたな?」
「こっこっ、恋人?!」

自分でも不自然だったかというくらい、狼狽えてしまった。
「そんな、何バカなこと……」と直ぐに取り繕ったが、ニヤニヤ笑いを浮かべる三人組の前にはむしろ逆効果のようだった。

まったく、男ってのは、どうしてこうなんだか。少しはあのイ・ソンジュンの爪の垢でも飲めばいいのだ───。
彼の、常に士大夫たらんとする清廉高潔さを露ほども疑わずに、ユニは思った。

同時にふと、昨夜のことを思い出して、今更のように落ち着かない気持ちになる。
考えてみれば、中二房で同室生として過ごしていた頃とはわけが違う。れっきとした男と女が、二人きりで一夜を過ごしたのだ。

(なのに爆睡する私って……)

がさつというか、色気もクソもないというか。男の真似も長きにわたるとこうなるのだろうか。
一瞬落ち込みかけたが、同じ胸の隅に、じんわりと滲むような温かさもあった。
イ・ソンジュンがそばにいる。それだけで、ただ安心できた。
嘘をついて、騙していた。道理を重んじる彼がどれだけ苦しんだか、想像するだけで胸が痛む。一生許してくれなくても仕方ないと思っていたのに、彼は笑ってくれた。あの笑顔を見られただけで、もう充分だと思った。

とそのとき、部屋の扉が開いた。入ってきたのは、ジェシンとヨンハだった。
そういえば、昨日はコロ先輩に何も言わずにソンジュンの書院に行ったのだった、と思い出して、ユニはジェシンに言った。

「先輩、昨日はその……成り行きで……」

ふい、とジェシンはユニに背を向け、また部屋を出て行こうとする。先輩、と声をかけるが、彼は振り向きもせずに、言った。

「お前、勝手過ぎるぞ。少しは心配する方の身にもなってみろ」

やっぱり心配かけてたんだ、とユニは途端に申し訳なくなって、肩を落とした。
ジェシンの不機嫌な背中を苦笑いしながら見送ったヨンハが、ユニの耳元に囁いた。

「イ・ソンジュンには会えた?」

ぎょっとして、「どうしてそれを?」と訊き返す。ヨンハは何を今更、とでも言いたげに、「私はク・ヨンハだよ」と眉を上げた。


*   *   *


“危険過ぎる行為だ。きみの、命に関わる可能性だってある───”

成均館への帰り道を辿りながら、ユニは深い溜息をついた。何故か時間が経つほどに、別れ際のソンジュンの言葉が、彼女の胸に重く響いてきて離れないのだ。

ユニはかぶりを振った。そんなことは、初めからわかっていた。覚悟して、自分で選んだ道だ。
成均館を辞めたところで過酷な日々が待っていることに変わりはない。
危険を恐れて、やりたい事を我慢して、後悔するだけ?そんな人生を長く生きる事に、いったいどんな意味があるというのか……。

「チョソンだ!チョソンが来たぞ!」

儒生たちの騒ぐ声に、顔を上げる。するとそこには、両脇にエンエンとソムソムを従え、ユニに向かい慎ましく膝を折るチョソンの姿があった。

「チョソン……?」

女笠の影から、同性のユニでも思わず見惚れるほどの美しい微笑みが覗いた。

「お話があって、失礼を承知で参りました。野遊会があると聞き……若様が牡丹閣にお見えにならないので、帰り道ならお会いできるかと」

天下の名妓チョソンが、自らキム・ユンシクに会うために、わざわざ往来で待ち伏せしていたのである。
儒生たちの興奮は只事ではなかった。
だがそうやって男たちが羨ましがって騒げば騒ぐほど、ユニの心は沈む。
ソンジュンばかりではない。自分の嘘に傷つく人がここにもいることを突きつけられる気がした。

「来てくれて、良かった。ぼくも、行かなきゃと思ってたんだ」

そう言うと、チョソンは頬を染め、伏し目がちに微笑んだ。知らなかった。女が、想いを寄せる男に見せる表情は、かくも愛らしく美しいのだ。ユニの心はまたちくちくと痛んだ。

「さあさあ、我々は外してやろう」

散々大声で冷やかして、ドヒョンたちは退散していった。チョソンに促され、ユニは傍にいたジェシンやヨンハに一礼すると、牡丹閣の方へと足を向けた。



「またえらく惚れられたもんだ。驚きだな。チョソンがあそこまで一途になるとは」

妓生たちを引き連れ、歩いて行くユニの背中を見送りながら、感心したような口ぶりでヨンハが言う。
それまで、彫像のように表情を固くしていたジェシンが、唐突に訊いた。

「この香は……どの妓生も使うものなのか?」

うん?とヨンハは鼻をひくつかせ、漂う残り香を嗅いだ。

「ああ、これか。まさか。こんな強い香を使えるのはチョソンだけだ。かの有名な傾国の美女、西施の身体が自ら発していたといわれる伝説の芳香だぞ。並の妓生じゃ香りに負けちまう。……どうした?」

ジェシンは、それには答えなかった。ただ青褪めた顔で、去って行くチョソンの後ろ姿をじっと見据えているばかりだった。


*   *   *


一人で妓楼に来たのは初めてではないが、かといって慣れるものではない。尻のあたりをもぞもぞさせながら座っていると、ソムソムが恨めしげな眼差しを投げて、言った。

「テムル様はひどいわ。ちっとも、女心ってものをお判りでないのね」

言われてしまった。私だって女なのに、と少なからずへこんでしまうユニである。
唇を尖らせたエンエンが、更になじった。

「ほんと、あんまりよ。こんな冷たい方のために、チョソン姐さんが妓生を辞めようとするなんて……」
「妓生をやめる?何の話?」

驚いて尋ねたユニに、エンエンがこちらも意外そうに「ご存じないんですか?」と目を見開いた。

「無駄口はおやめなさい」

ぴしゃりと制する声に、妓生たちは揃って口をつぐんだ。入り口に垂らした薄布を透かして、膳を手にしたチョソンのけぶるような姿が見える。
二人の妹分は、チョソンと入れ替わるように席を立つと、ユニに一礼し、そのまま部屋を出て行った。
ユニの前に膳を置いた彼女が、鴬色のチマ越しに片膝をそっと抱えるのを待って、尋ねた。

「───本当なの?」

チョソンの、くっきりとした艶っぽい目がユニを捉えた。
飾り髪に差した蝶の簪が、微かに揺れている。
綺麗に紅を引いた唇を震わせるようにしながら、彼女は言った。

「わたくしを……貰ってくださいませんか」






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2013/08/01 Thu. 14:39 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: じ****んさま

チョソンはやっぱ綺麗でないと!キャプ、いつも選びに選んでますわ~(笑)

あまる #- | URL
2013/08/04 12:17 | edit

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# | 
2013/08/01 21:31 | edit

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