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第十六話 4 守りたい未来 

bandicam 2013-07-26 16-24-36-555
**************************************


その晩、ソンジュンは結局一睡もできなかった。
すぐ隣で寝ているユニの気配が気になって、寝返りすら満足に打てない有様だったというのもあるが、昼間受けた衝撃があまりに大きすぎて、とても眠るどころではなかったのである。
だがお陰で、混乱しきっていた頭が幾分落ち着いたのは幸いだった。

キム・ユンシクが女性だったこと。それは、ソンジュンにとっては天の恩恵としか言いようのない幸運な事実だった。
正直、密かに想像したり、夢見たことも、なかったとは言えない。
妓生の格好をしたときの彼女の美しさは、ソンジュンを打ちのめすには充分過ぎるほどで、あの姿を忘れろという方が無理な話だった。

だが全くもって有り得ないことだと思っていたし、そんな想像は彼の募る恋心を虚しくするばかりだったから、むしろ懸命に考えないようにしていたのだ。
そんな、頭の中の想像でしか有り得なかったことが、実際に起きてしまった。

これは、本当に現実なんだろうか。

真夜中、ソンジュンは何度も起き上がって、蓑虫かはたまたキムパブの具かという姿ですやすやと眠るユニを見つめた。
無防備というか、肝が座っているというか。その寝顔は、今までと何ら変わることはない。
ソンジュンにとっては、文字通り驚天動地な出来事だったというのに。

キム・ユニ、と、小さく声に出して呼んでみた。
普通に「なに?」と返してくれるのか、思わず揺り起こして確かめたい衝動に駆られる。

横になり、目を閉じて万が一眠ってしまったらと思うと怖かった。
もし、朝目覚めて、全てが夢だったら……?
そのときはとても、正気ではいられないだろう。

眠る彼女が、ころん、とこちらに転がってきて、微かに鼻を鳴らした。
仔犬みたいだと思った。
なんだってこういちいち、彼女を見るたびにこの胸は、聞いたこともない音をたてるんだろう。

床に手をついて、彼女の顔を覗き込む。そっと唇を寄せてみたのは、ほとんど無意識だった。
彼女に触れることは、もう罪ではない。そんな思いが、彼を突き動かしていた。

「や……だ」

唇に触れる寸前、僅かに開いたそこから か細い声が聞こえ、ソンジュンはびくりと身体を強張らせた。
恐る恐る彼女を見る。眉間に微かに皺を寄せてはいるが、瞼は閉じたままだ。
寝言か、とほっとする。

「捨て……ないで……」

思わずソンジュンは耳をそばだてた。

(夢を、見ているのか?捨てないでって、相手は、まさか……)

心臓が高鳴った。今この瞬間、彼女が自分の名を口にしたらきっともう、己を抑えることは不可能だ。
大いなる期待と、そうなったらどうしようというほんの少しの不安がないまぜになって、ソンジュンの全身を熱くする。
囁くような声が、彼女の唇から零れ落ちた。

「まだ……使えるのに……もったいない……」

一瞬、時が止まる。ソンジュンはぱちぱちと瞬きすると、はっと息を吐き出した。
彼女らしいといえばあまりに彼女らしい寝言と、勘違いも甚だしい自分の行動が途端に可笑しくなる。

ユニの傍らに寄り添うように横たわったソンジュンは、丸まった布団の上から ぽんぽん、と彼女を優しく叩いてやった。

「そうだな。捨てては駄目だ。もっと大事にしないと」

そう囁くと、瞼を閉じたままのユニが、にっこりと笑った。安心しきったようなその表情に、ソンジュンの口元も知らず、微笑みのかたちに上がる。

そうだった。性別なんて関係なかったのだ。彼女に惹かれたのは。
男だと思っていた時も、女だとわかった今も、この想いは変わらない。
なら、戸惑ったり、翻弄されたりしている場合ではなかった。

どうしたら彼女を守れるか。
ソンジュンがこれから考えるべきことは、ただそれだけだった。




翌朝。スンドルが火熨斗をあてて乾かした服と、どこかで調達したらしい靴を持ってきてからようやく、ユニとソンジュンは一晩の軟禁状態から解放されることとなった。
だが昨夜とは打って変わって、向かい合う二人の間には、ぴりぴりとした空気が漂っていた。

「……嫌だ」

頑なな声で、ユニは言った。

「成均館を辞めろだなんて……どうしてそんなこと」
「当然だろう。きみは国法を犯してる」
「男女有別の道理は守るべきだって、そう言いたいの?」

結局イ・ソンジュンは道理しか頭にないのかと言われた気がした。
ソンジュンは歯痒い気持ちを抑えながら、諭すように言った。

「きみだって、有り得ないことだとわかっていたはずだ。なのにどうして……」
「有り得ないことを夢見させて、奇跡を起こしたのはどこの誰?」
「それは……」

言葉に詰まるソンジュンを、ユニの、強い光を宿す瞳が見返す。

「ぼくが、女だから?貧しい者や、虐げられてる南人は奇跡を願うことができるのに、女には許されないってこと?」

唇を噛んだ彼女は、呟くように言った。

「……性別だって、自分で選べたわけじゃないのに」

何も言い返せなかった。立ち尽くすソンジュンの傍らをすり抜け、ユニは部屋を出て行った。

男に生まれたかった。
父親を亡くしたばかりの少女は、病気の弟を抱えて、そう思ったのだろう。
そう思い続けて、これまで歯を食いしばって生きてきたのだ。
自分の思いとは裏腹に、成長するにつれ、女性らしくなってゆく身体を邪険にしながら。

───だが僕は。
僕は、きみが女で良かった。心からそう思ってる。
だから、失うわけにはいかないんだ。

ソンジュンは身を翻し、ユニの後を追った。


書院の門を出たところで、足早に歩いて行く彼女の肩を捕まえた。

「僕が何を心配してるかわからないのか?危険過ぎる行為だ。きみの命に関わる可能性だってある」

わかりきったことを、とでも言いたげにユニは薄く笑った。

「国法も、王命も、怖くなんかない。この先、未来なんかあるかどうかもわからないのに、心配してどうするのさ?成均館を出たとしても、どうせ男装して雲従街で働くんだ。最悪、家計を助けるために、誰彼構わず結婚しなきゃならない。だからぼくには、危険を避けて守りたいような未来なんて、ないんだ」

ユニの言葉が、ソンジュンの身体から一気に体温を奪い、動けなくする。

未来。
ソンジュンには当然のようにあるものが、女である彼女にはないのだと。
家族を助けるために、好きでもない男の元へ嫁がねばならないと。彼女はそう、言ったのか?

「ぼくは、今この瞬間が幸せならそれでいい。思い切り、がむしゃらに……。ぼくには二度と、許されない時間だから」

自分が女であること。その怒りや悲しみが、頬を歪めた彼女の顔に痛いほど滲んでいた。

ずっと、思っていた。
あれは、大射礼のときだ。
いくら貧しい南人の家の出だからといって、キム・ユンシクはなぜこうも自分の将来に希望を持てずにいるのか。
どうしてあんな、博士たちを唸らせる程の才能を持っていながら、何もかもを諦めてしまうのか。

その真の理由を、ソンジュンはそのときようやく、理解したのだった。




**********************************
あまるですどうもこんにちわ。

毎度お馴染み(?)ウソ注意報。
冒頭、書院でおイタするソンジュンはあまるの妄想の産物でございます~。
最近、BSでのカットシーンを探して当ブログに迷い込んで来られる方がチラホラいらっしゃるようなので、念のため(笑)




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2013/07/26 Fri. 16:54 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

ソンジュン、ぐるぐるぐるぐる考えたんだろうなー。
でももーちょっとお預けよー(笑)

靴の件は、ワタクシはちょっとどころか大いに気になってました。
書院から帰るときには履いてたし……。
スンドル、ああ見えてきっと有能なんだわww

あと、何気にソンジュンの翌朝の服。
ユニと色合わせが逆なんですよね~。いっつも青系ばっか着てたくせに。
もしかしてわざと?(*・ω・*)

あまる #- | URL
2013/07/28 23:53 | edit

そりゃ眠れないですよ~

天地がひっくり返ったんだから、そりゃ~ソンジュンは絶対寝られないですよね。考えることありすぎて。そしてある意味胸のつかえが取れたユニはたぶんぐっすり寝たであろうと。
この夜、絶対なんかあったはず、ずっとそう思ってきたので、もううれしくてたまりません!
何にもない方がおかしいですよね。ソンジュンだって木石ではないので。よくここでとどまったね、あんだけ患ってたのに。o(≧▽≦)o 

>国法も、王命も、怖くなんかない。~ぼくは、今この瞬間が幸せならそれでいい。思い切り、がむしゃらに……。ぼくには二度と、許されない時間だから

かくも捨て身で生きるユニが魅力的でないわけがないんですよね。見た目がかわいいとか、そういう問題じゃない。
こういうところが私がソンギュンガンに夢中になる一つの要素です。ただの胸きゅんじゃないっていうか。

そして靴!さりげに解決してくれてありがとうございます!みみっちいことですがちょっと気になってました。川で、ソンジュンに「拾えよ!」と心の中で叫んでいたので。

あらちゃん #- | URL
2013/07/27 16:00 | edit

Re: ねーさま

ソンジュンは繊細だし、ユニはけっこう大らかというか、いい意味で雑なとこがあるイメージなので、なんとなくあーなりました(笑)
楽しんでいただけましたなら嬉しいです(^^)

>ソンジュンに向かって言ってはいますが、脚本家さんの「世の中に物申す」的な思いが込められてる気がします。

ですね~。大射礼のとき、ソンジュンがユニに対して言った自分の言葉に、再度考えさせられるってとこがまた、上手いなーと思います。

あまる #- | URL
2013/07/27 02:20 | edit

Re: 阿波の局さま

男になりたかった、っていうのは、程度の差はあるでしょうけど、女の子は誰しも一度は思ったことあるんじゃーないかなーと思います。特に思春期の頃は。
あまるは体育の時とかに、バスケやってる男子見るとすごく羨ましくて。やっぱバネがあるから、ジャンプしたときの高さとか滞空時間が全然違ってて、いいなー飛んでるーとか思った記憶があります(笑)
出産とか子育てを経験した今では、絶対女の方が面白いと思いますけどね~。

でもこの時代の女たちはもっと切実だったんだろうな。

あまる #- | URL
2013/07/27 02:05 | edit

眠れないソンジュンと、寝息を立てているユニ。想像できます!
ユニは、肝が据わっているのは勿論のこと、胸のつかえが取れてある意味ほっとしたでしょうし、ソンジュンが無体なことをしないと信じてもいるでしょうし。
ユニに(勝手に)翻弄されてるソンジュンを思い浮かべると、ニヤニヤしちゃいます。
楽しいシーン、ありがとうございます!

そして・・・一夜明けての言い争い。
このあたりの、ユニの強い言葉が結構私は好きです。
ソンジュンに向かって言ってはいますが、脚本家さんの「世の中に物申す」的な思いが込められてる気がします。

ミニョンちゃんもすごくいい演技してますよね。文章を読んで、彼女の強い表情を思い出しました。

ねー #- | URL
2013/07/27 01:43 | edit

Re: shuuyuchunさま

ソンジュン、青すぎてこっから先はワタクシも身悶えしっぱなしですww
コロ先輩との寝床真ん中争奪戦もあるし(笑)
この回は見どころいっぱいですね(^^)
幸せでドタバタしてるソンジュンを書くのがとっても楽しみです。

あまる #- | URL
2013/07/27 01:43 | edit

「守りたい未来なんてない。今この瞬間が幸せならば。」

未来を信じて疑わないソンジュンにとっては、痛烈な言葉だったでしょうね。
男性にはなかなか分からないでしょうね。
女に生まれた悔しさ、情けなさってものは。(覚えがあるな、この感覚。私も女でいることがなかなか楽しめない人間な者で。子どもの頃は、ほんと男に生まれたかったって思ったものです。)

それはさておき・・・

>なんだってこういちいち、彼女を見るたびにこの胸は、聞いたこともない音をたてるんだろう。

朴念仁君が恋に自覚的になっていくこういう過程が、堪りません。

阿波の局 #3FtyQ0do | URL
2013/07/26 20:30 | edit

ここからここから

あまるさん~

本筋は、素敵に文章にしていただき、所々の妄想がまた、つぼです!!

さー、ここから、ユニのナイトとなり、
ソンジュンが成均館に戻ってきますね。

ふふふ、微妙な初恋の青い、
ラブラブに、今からトキメキます。

shuuyuchun #dDm6s.8Q | URL
2013/07/26 18:01 | edit

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