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第十六話 3 氷解 

bandicam 2013-07-24 05-13-26-531
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一組しかない布団をユンシクに明け渡すと、ソンジュンは文机を持ち出して本を広げた。
どうせこんな精神状態では眠れるはずもない。しかも隣には彼───いや、彼女がいる。本をめくったところで気になって読めはしないだろうが、一晩あれば今の、このこんがらがった頭の中の整理くらいはつくだろう。

静かな晩だった。山奥の書院は騒がしいことの方が珍しいが、その晩は無音と言ってもいいくらいの静けさだった。
草むらの虫たちも、息を潜めて事の成り行きを見守っているのかもしれない。
一つだけ灯した蝋燭の灯りが、窓から滑りこんできた風に揺れた。

「灯りがついてると眠れない」

布団の上で半身を起こしたユンシクが、不満気にそう言った。中二房で、何度か聞いた科白だ。少し、懐かしい気がした。

「今日は予定どおりに読書できなかったから。僕に構わず寝てくれ」

文字を追うふりをしてそう言うと、ユンシクは唇を尖らせながらもごそごそと布団に潜り込んだ。
ソンジュンは本から顔を上げ、そっとユンシクを伺う。と、いきなり彼女ががばっと起き上がったので、慌ててまた手元に目を戻した。

「だったらぼくも、いっそのこと何か読むよ。その方が落ち着くし」

そう言うと、さっさと立ち上がって、書棚を物色し始める。
それならとソンジュンは意を決して、ずっと気にかかっていたことを彼女に尋ねた。

「昼間、渓谷で……きみが川に落ちる前だが、僕に話があると言わなかったか?」

ソンジュンの推測が当たっていれば、彼女はおそらくあのとき、真実を伝えようとしたのだ。自分が女性であること、そして。
もしかしたら、いや、たぶんきっと、言おうとしていたはずだ。ソンジュンの一番聞きたかった言葉を。

「その……大事な話なのかと思って。忘れないうちに聞いておこうかと」
「イ・ソンジュン庠儒」

(……え?)

一瞬、聞き間違いかと思った。その他人行儀な呼び方は大抵、キム・ユンシクが怒っているか、彼に意見するときに口にするものだったからだ。
顔を上げると、書棚から一冊の本を抜き取って、ユンシクがこちらを見ていた。

「いつも、こういう本を読んでるわけ?」

その赤い表紙を見て、ぎょっとする。

「そ、それは、ヨリム先輩がくれた……どうしてそこに!」

慌てて立ち上がり、奪い取ろうとするが、ユンシクは器用にソンジュンの手をすり抜けて、言った。

「立派な書物かと思ったのに!毎日欠かさず読んでたよね?」

からかうような言葉に、カチンときた。いったい誰のせいでこんな本に頼ることになったと思ってるんだ。
こうなると男色じゃないことを確かめるのに必死だった自分が、まるで馬鹿みたいだ。

ソンジュンは逃げ回るユンシクの手首を掴んだ。はずみで、布団の上にばたんと倒れる。

「きみのせいで僕は……!」

はっとして彼は言葉を飲み込んだ。ユンシクの、驚いたような黒い瞳が間近にあった。
そこで初めて、お互いの体勢に気付いた。これではまるで、欲望に駆られた男が無理矢理女を押し倒している図だ。

一組しかない布団、ヨリム先輩謹呈の春本、そして、目の前にいるキム・ユンシク。
ぱっと、ソンジュンは覆い被さっていた彼女から飛び退いた。

───駄目だ。危険な要素が多すぎる。

気まずい空気が流れた。
身体を起こしたユンシクが、衿元を気にしながら、言った。

「……だから、もう寝ようって言ったのに」

今度ばかりは、ソンジュンも素直に従うしかなかった。



硬い床に直接横たわっていると、夜の冷たさが骨身に染みる。
だがこれも試練だ。
ソンジュンは何か修行僧にでもなったような気分で、暗い部屋の中、瞼を固く閉じていた。

背後で、がさごそと彼女の動く気配がする。と、ふわりと肩が温かくなった。
振り向くと、ユンシクが座っていた。自分の布団を、掛けてくれたらしい。

「……僕は平気だ」

ソンジュンは起き上がると、そっぽを向いているユンシクに、言った。

「僕は男だからいいが、きみは女の身だ。しかも川に落ちて……」
「島に行ったとき」

途中で遮って、ユンシクが言った。

「ちょっと水に浸かっただけで、夜通し熱で苦しんでたのは誰だったっけ?」

返す言葉もなかった。灯りは無かったが、障子窓を通して差し込む月明かりが、彼女の悪戯っぽい微笑みを照らし出していた。

「ぼくなら大丈夫」

そう言うと、ユンシクはひらりと長衣の裾を翻して、敷き布団の端に横たわった。そのまま、ころころと転がって布団を自分の身体に巻きつける。

「ほら。こうすればいいよ」

布団から顔を出したユンシクが、ソンジュンを見て笑った。
ソンジュンの胸が、きゅっと小さく音をたてる。
海苔巻きみたいに布団にくるまって、そうやって笑う彼女がたまらなく可愛い。
彼女の笑顔につられるように、自然と笑みがこぼれる。
それまで二人の間にあったわだかまりが、きれいに解け、消え去った瞬間だった。

「いつからだ?そんな……綺麗な顔を、男の姿で隠し始めたのは」

ソンジュンが尋ねると、視線を落としたユンシクの表情に、僅かに影が差した。

「話したくないなら、無理に話さなくても……」

彼女は微かに首を振り、口を開いた。

「病気の弟がいるって言ったろ?薬代の代わりに、診療簿の筆写をしたら、医者が貰冊房から仕事を貰ってくれたんだ。それが……父が亡くなって2年ほど後だから、12くらいのときかな」

彼女が12の年。その頃、自分は何をしていただろうか。本を読み、武芸の稽古をしていたくらいで、これといって思い出せないくらいだから、きっと平穏な毎日だったのだろう。その同じ時に、幼い彼女がそんな苦労をしていたのかと思うと、ソンジュンの胸は酷く痛んだ。

できることなら今すぐその頃に戻って、小さな彼女の肩を抱き締めてやりたい。
何も心配いらない、僕がついてるから。
そう言ってやれたら、どんなにいいだろう。

「キム・ユンシクというのは……弟の名か?」

頷いた彼女に、尋ねた。

「じゃあ……本当の名は?」

少しの間のあと、彼女は言った。キム・ユニ、と。

「キム……ユニ……」

ソンジュンはその名を、噛み締めるように呟いた。
何度も声に出し、その響きを確かめたくなるのを堪え、胸の内に刻みつける。

キム・ユニ。
きみの、本当の名前。

このときから、ソンジュンの中でその名は、過去どんな偉人が残したものよりも、特別な言葉になった。





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2013/07/24 Wed. 05:28 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

ワタシも今日ばかりは、仕事の合間にあいぽんでトップ絵のソンジュン眺めては
もへもへするというキモい人になってました(笑)
ああ~。ソンジュンの笑顔~ほんと久しぶり~(T_T)
長いトンネルだったね……お互いにww

あまる #- | URL
2013/07/25 01:16 | edit

Re: ちびけんさま

ご無沙汰です(笑)コメありがとうございます~。

この場面はとにかく早く書きたくて、寝不足でフラフラしつつも頑張ってアップしました(笑)
そのせいか後からあちこちアラが見えてきて、こそこそ修正入れる羽目に(^^ゞ
やっぱイキオイだけで書いちゃイカンな~と反省してます。

ユニにほんとの名前教えてもらってじんわり嬉しいソンジュンはワタシも激しくツボでしたっっ。

あまる #- | URL
2013/07/25 01:05 | edit

「キム……ユニ……」

ダメだ~萌え過ぎてここから離れられない~(´Д` )
最後まで読むとトップに帰って、ユチョンを拝んでまた読む。
(4回繰り返し)ブツブツの映像よりよっぽど萌えます!
好きだ~どうしようもなく好きだ、ここのシーン。全カット萌えだも~ん。
この暑苦しい季節、肉体疲労時の栄養補給に、私には一番効く栄養ドリンクです。へたな指定医薬部外品よりよっぽど効き目たしか。 
あまる様、萌えを今夜もありがとう!!

あらちゃん #- | URL
2013/07/25 00:02 | edit

うふふ

あまるさま こんにちは。

コメントをするのは久しぶりですがずっと読んでましたv-10
好いですね~二人の心の距離がやっと縮まって
読んでいてニヤニヤ&ほんわかしてますv-238

>このときから、ソンジュンの中でその名は、過去どんな偉人が残したものよりも、特別な言葉になった。
どんなお勉強より心に刻み込まれた瞬間ですね。
こんなあまるさまの表現が私の心をぐっと掴むんです!!

ちびけん #- | URL
2013/07/24 11:36 | edit

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