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第十六話 2 月出山の夜 

bandicam 2013-07-23 16-05-48-573

********************************


ユニは、ソンジュンが貸してくれた青い長衣〈トゥルマギ〉に腕を通した。
予想はしていたが、やはり彼女には袖も丈も身の幅も余り過ぎた。ただこれが、彼の服だと思うとそれだけで何故かどきどきする。
はしたないとは思うが、彼の大きさの長衣を着ることで、彼に抱かれているような錯覚さえ起こしそうになるのだ。

(いけないいけない。しっかりしなくちゃ)

ユニは頭を振り、両手で頬を叩くと、小さく咳払いした。部屋の扉の向こうで待っているであろうソンジュンに向かい、声を掛ける。

「着替え、終わったよ」

障子に映った影が動き、扉が開いた。今まで同じ部屋で寝起きしていたというのに、お互い着替えるのに、こんな風に気を遣われるのは何だか変な感じだった。

敷居を跨いで入ってきたソンジュンは、淡黄色の長衣を着ていた。当たり前だがこちらはぴったりと彼の寸法に合っている。真実を知られてしまったから余計そう思うのかもしれないが、ユニは改めて、彼は男で、自分は女であるということ、その違いをまざまざと自覚した。

だがその自覚は、今まで彼女が感じてきた悔しさや憤りを伴ったものとは少し違っていた。こんな風に部屋の中に二人だけでいると、何だか背中のあたりがざわざわして、落ち着かない。

ソンジュンは着替えたユニを見るなり、すぐに狼狽えたように目を逸らした。

「何から、どう話せばいいのか……」

そう言って、彼は言葉を濁した。何を言えばいいのかわからないのはユニも同じだった。

「今夜は……疲れただろうから休むといい」

(休む?)

覚悟を決めていたユニは拍子抜けして、ぽかんと口を開けた。ここまで連れて来ておいて?
だったら、別にあのまま帰らせたって同じだったんじゃないだろうか。
彼にはユニを責めようとか、理由を問いただそうとかいう気持ちは全く無いのだろうか。

ユニは少しほっとしたような、何だかよく判らなくて不安なような、複雑な心境になった。
といって、彼が何も訊かないのに、自分の方から言い訳がましく話すのも見苦しいように思える。

「───この部屋で?」

ユニがそう訊くと、ソンジュンは「心配するな。僕は外で寝るから」と言って、くるりと踵を返した。
だが彼が扉に手を掛けるより先に、ぱっとそれが開いた。顔を出したのは、スンドルだった。

「どこに行くつもりですか、坊ちゃん」

スンドルはその大きな身体で出口を塞ぐように立ち、じろりとソンジュンを睨んだ。
驚いた。まさか外で見張っていたのだろうか。
ソンジュンの肩越しに、スンドルがユニを見て言う。

「きれいな学士さま、今夜は坊ちゃんを説得して、成均館に戻してください。一人にしたら危険です。たとえおれが代わりに死んでも、病気の坊ちゃんなんてもう見たくありません」

病気と聞いて、ユニは顔色を変えた。

「どこか悪いの?」
「恋煩いですよ、恋煩い!」

あ、とユニは口をつぐむ。

「ス、スンドル」

慌ててソンジュンが遮ろうとするが、スンドルのお喋りは止まらない。

「もう、目もあてられなかったですよ、このところの坊ちゃんときたら。食べないし、寝ないし、本を開いても心ここにあらずで。一日中、まるで魂が抜けたみたいな顔で、ぼーっと座ってるだけ。恋しい人を想って、何も手につかなかったんでしょうよ。まったく、こっちはどれだけ心配したことか」
「スンドル、いい加減にしないか」

こちらに背中を向けているソンジュンの声はどうにか威厳を保っているが、耳の先は赤く染まっている。ユニは何だかおかしくなって、声をたてずに笑った。
スンドルはソンジュンの目前で容赦なく扉を閉めると、その向こうから言った。

「頼みましたよ、学士様。しっかり坊ちゃんを説得してください」

ソンジュンが外に出ようとするが、ガタガタと音をたてるばかりで扉は開かない。どうやら、スンドルがあちらから鍵を掛けてしまったようだ。
ソンジュンは助けを求めるように障子に顔をくっつけ、彼らしくもない少々上ずった声で言った。

「スンドル、ここには布団が……ひ、一組しかないんだ」
「あーもう、どんだけ潔癖なんだか!夜中に布団を探してこいって言うんですか?男同士でしょ?一緒に寝ればいいでしょうが、まったく!」

一緒に寝る?

スンドルの言葉に、二人揃って石のように固まる。
ユニはそっとソンジュンの方を見た。と、こちらを振り返ったソンジュンと一瞬目が合った。だがお互いいたたまれずに、すぐに視線を逸らした。


*   *   *


その晩、月出山の麓にある宿では、儒生たちが庭先で焚き火を囲み、いつ終わるとも知れぬ宴会で大いに盛り上がっていた。おそらくそれには、あのけちな大司成が珍しく提供した援助金も一役買っていると思われた。
旨い肴と酒、そして日常から離れた開放感に酔いしれるのは成均館儒生と言えどもそこらの男たちと何ら変わらないのである。(ただ焚き火の傍で、ブルブル震えながら冷えきった身体を暖めるのに懸命になっているビョンチュンとコボンの二人に関しては、その限りではなかったが)

儒生たちの飲めや歌えの大騒ぎをなんとなく眺め渡したヨンハは、傍らの縁台に寝転がっているジェシンに目を落とすと、そこに腰を下ろした。

「おい、抜け殻みたいに寝てるなら意地を張るな。さては、中身はテムルの元に行ってるな?」

コンコン、と言いながらジェシンの頭を軽く叩く。

「やっぱりだ。空っぽの音がする」

ジェシンは さっとヨンハの手を掴むと、閉じていた瞼を上げてじろりと睨みつけた。

「当てずっぽうでものを言うのはやめろ。癖になるぞ。ついでに手首も折る羽目になる」

ヨンハは折られてはたまらないとばかり、ジェシンの手を振り払うと、肩をすくめた。

「コロ、お前……テムルが好きなんだろ?」

長い間があった。ヨンハが返事を諦めかけた頃に、ジェシンはぽつりと言った。

「お前は違うのか」

否定はしないんだな、とヨンハは密かに微笑んだ。ならまぁ、少しはマシだ。

「あんな可愛いヤツを嫌う人間はいないよ」
「……もう寝る」

むっくり起き上がり、縁台を降りる。不意に、ヨンハが言った。

「カッコつけようとして、頑張るなよ」

ジェシンが立ち止まると、ヨンハは腰を上げ、興に乗る儒生たちの方にふと目を遣った。
焚き火の薪が爆ぜ、赤い火の粉が夜の闇に舞い上がった。

「欲張らないフリに嫉妬しないフリ。私情になんて惑わされない、強いフリ……。それで、満足か?」

ジェシンの強張った表情に、ヨンハはやれやれと溜息をつく。

ソンジュンという恋敵の存在が、少しはジェシンの欲を目覚めさせてくれるかと思ったが、手強いにも程がある。
こいつは、子供の頃から少しも変わっちゃいない。欲しいものを欲しいと言わず、我慢する方を選ぶ。同じものを誰かが欲しがったら、自分が諦める方を選ぶ。

そんな彼を目の当たりにするたび、ヨンハは不安になるのだ。
人の命を長らえらせるのは、欲だ。金や権力だったり、誰かや、何かへの愛情だったり、人によってその対象は様々だろうが、そんな欲が、もっと生きたいという強靭な意思に繋がる。
死に急ぐ人間は、肝が座ってるとか、達観してると思われがちだが、彼等は大抵の場合、執着が薄いのだ。何事にも。
加えてこのムン・ジェシンという男は、死んだ兄の亡霊にとり憑かれている。彼に執着するものがあるとしたら、それは唯一、兄の死だ。

この先、欲を持たない彼が、我慢しなくていいところで我慢してしまったら?
自分の本当に欲しいものがわからずに、肝心なところで諦めるようなことがあったら?
兄の影に引き摺られて、自ら同じ道を選んでしまったら?

恐らくその時自分は、この十年来の友人を永遠に失うことになるだろう。
ヨンハはそれが、怖いのだった。

「私なら、そんなところに労力は使わずに、相手に全力を尽くすけどね。今のところはイ・ソンジュンよりお前の方が有利だろ?」

ヨンハは片目を瞑ると、ジェシンの耳元に顔を寄せ、囁いた。

「イ・ソンジュンは、テムルの秘密を知らない」

ジェシンは息を吐き出した。笑ったのか、それとも溜息だったのかはわからない。
彼はぽんとヨンハの肩を叩き、そのまま立ち去った。







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2013/07/23 Tue. 16:10 [edit]

category: 第十六話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちゃむさま

そうそう、この回はとにかくスンドルがいい仕事するんですっ!
彼がいないとユニロールもソンジュンの久々の笑顔もなかったかと思うと……(T_T)

あまる #- | URL
2013/07/25 01:09 | edit

Re: あらちゃんさま

我ながらこのムラのありすぎな更新頻度には呆れてしまうま(^^ゞ
13話と14話、どんだけイヤイヤ書いてたかってことですな~。

本のドタバタがカットされてたってことは……やっぱ中二房のソンジュンとコロの夜の寝床攻防戦もカットだったんでしょーか?
確かワタシが初めて地上波でソンス見たときはあそこガッツリカットされてたような気が。

>スンドル、何でスプーン持ってたのでしょう?
カレー食ってたんじゃないスか?←んなわけない

>次男に「見ながらおんなじ表情作るのがキモいんですけど」と言われた。

ぶはっ!(笑)晩御飯時、ソンジュンと同じ顔して食い入るようにテレビを見てる母と、それをキモがりつつ見つめる息子の図を想像して爆笑……。
あーでもウチもひとんちのこと言えないかも。晩飯の韓流ドラマは最早生活習慣(爆)

あまる #- | URL
2013/07/25 00:46 | edit

Re: じ**2さま

あの上ずった科白、ドラマでは囁き声で言ってるんですよね~ユチョンたら~(萌)
焦ったあの横顔といい、声といい、可愛すぎて死ぬ……バッタリ。

あまる #- | URL
2013/07/25 00:31 | edit

スンドル、グッジョブ!

恋煩いを言いつけちゃうは、閉じ込めちゃうは、ナイス!!罰の悪そうなソンジュンの表情たまらないですね〜嬉しくて、でも、戸惑ってる。そんな微妙な心理を上手く演じてるユチョン流石です。

ちゃむ #- | URL
2013/07/24 13:51 | edit

ほえ~~

怒涛の更新ですね!あまる様に感謝!!
ここら辺はもう当然の如く萌えシーンの塊ですね。スンドルに扉しめられちゃうシーンは大のお気に入り。ユチョンの横顔も可愛すぎ!
・・・今日、BSを見て、軽くショックを受けたところです。本を巡るドタバタ丸々カットでした。ほえ~。カットだらけでなので、今日もあんまり感情移入できないまま、全然違うところに注目してしまった。スンドル、何でスプーン持ってたのでしょう?
そう言いつつ、思わず走って行って抱き締める冒頭シーンから、次男に「見ながらおんなじ表情作るのがキモいんですけど」と言われた。だって、どうしたってソンジュンと同化しちゃうじゃないですか!どんだけキモいと言われたって直りません。(晩御飯食べながら強制的に視聴)

そして相変わらずヨンハとジェシンはお似合いのかっこよさ。(*^^*)
欲しいものも欲しいと言えなくなったジェシン、ヨンハと出会った時はすでに事件の後ですかね・・・

あらちゃん #- | URL
2013/07/23 22:26 | edit

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# | 
2013/07/23 19:37 | edit

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