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第十五話 5 告白 

bandicam 2013-07-09 03-28-13-108
***********************************


屋敷の奥、芙蓉堂の扉の前に立ったソンジュンは、しばしの間そこに手を掛けることを躊躇っていた。

もう、会うのはよそうとユンシクに告げたとき、彼の頬に零れ落ちた、涙。
結局、彼を泣かせてしまった。彼の涙だけは、見たくなかったのに。
あれが、最後なのだ。そう思うと、ソンジュンの胸はきりきりと痛んだ。

この扉をくぐれば、本当に後戻りはできなくなる。芙蓉花を妻とし、兵曹判書の婿として生きていく道だけが、彼の前に残されるのだ。

いい加減に往生際の悪い真似はやめろ、イ・ソンジュン。

自分を叱咤し、彼はついに扉を開けた。

「ソンジュン様……!」

屏風の前のヒョウンが、ソンジュンを見てこぼれるように笑った。

そうだ。何を不満に思うことがある?彼女は美人だ。素直で、従順で、一途に自分を想ってくれる。
彼女のような妻を持つことは、男にとって幸運なことには違いない。

「ずっと、お待ちしていました」

いつの間にか、ヒョウンがすぐ目の前に立っていた。彼女はそっとソンジュンに身を寄せ、彼を抱き締めた。

「これからはあなたの良き妻として、生きていきます」

白粉の匂いが、ソンジュンの鼻先をくすぐった。瞬間、彼が思い出したのはあの、妓生姿のユンシクだった。
腕に抱いた彼の、柔らかな身体。淡い唇と、甘い吐息……。
本当に破裂するかもしれないと不安になるほど、胸が高鳴ったあの夜。
あの日からずっと、彼に触れたくてたまらなかった。だが一度触れてしまったら、離すことができなくなりそうで、恐ろしかった。

なのに、今はどうだろう。これから妻になる女人に抱き締められているというのに、何も感じない。
結婚する覚悟が決まり、お互いの立場が明確になれば少しは変わるかとも思ったが、ユンシクといるとあれほど熱くなり、好き勝手に暴れ回る心臓が、彼女の前では静まり返り、冷たく凝り固まるのは前と同じだった。

ヒョウンは身体を離すと、言った。

「志を貫いてこられたのですよね?私に心を寄せられるよう努力すると……。私は、そのお約束だけを信じます」

そのとき、ソンジュンにははっきりとわかってしまった。
それは、月と太陽が東の空に同時に昇ることなど決して無いように、彼にとって至極当然で、動かし難い事実だった。

一生かかって、どれだけ努力しても、芙蓉花を愛することはない。何故なら。
彼女は、キム・ユンシクではないからだ。
彼以外の人間を愛することのできない自分には、初めから無理なことだったのだ。

ソンジュンは腰に回されていたヒョウンの手を取り、そっと離した。彼女の杏のような大きな瞳が、戸惑ったように彼を見た。

「……その約束は、守れそうにありません。どうか……貴女の方から、破談にしてください」

ヒョウンの唇が震えた。彼女の手が、縋りつくようにソンジュンの袂を握り締めた。

「私に……何か悪いところが?それなら、直しますから」
「悪いのは僕です。僕には、結婚する資格などありません。人並みな夫となって、女性を想うことは……僕には、できないのです」

紙のように白い顔で立ち尽くすヒョウンを残し、ソンジュンは身を翻した。屋敷を出る途中、兵曹判書に出くわしたが、軽い会釈だけして、彼は走った。

まだ、そんなに遠くへは行っていないはずだ。

小豆色の道袍、小さな肩の後ろ姿を、彼は懸命に捜した。


*   *   *


市場通りは、行き交う人々で賑わっていた。
その中を、ユニはまるで魂が抜けたようにふらふらとした足取りで歩いていた。

ソンジュンにどう思われようと、自分自身が彼に会いたいと思った。だから来た。
なら、それで満足すべきなのだ。
最後の最後まで彼に拒絶されたからといって、傷ついたり彼を恨んだりしちゃいけない。
そう自分に言い聞かせながらも、また、涙が頬をつたう。

どうせこんな別れ方をするのだったら、言えば良かった。
貴方が好きだって。大好きだったって。
やっぱり男色だったのかって言われるかもしれないけど、それでも。
少なくとも今ほど惨めにならずに、済んだかもしれない。

ユニは手の甲でごしごしと頬を擦った。
男が、人前で涙なんか流すもんじゃない。しっかりしなきゃ……。

と、そのときだった。
いきなり背後から肩を掴まれ、彼女の身体はくるりと反転した。
そこにいたのは、ソンジュンだった。

驚いて口も利けないでいるユニの両肩を、痛いくらいの力で掴む。
その眼差しは、酷く真剣だった。さっきのように逸らされることなく、真っ直ぐにユニを見ている。

「君が───」

ユニを追って、走ってきたのだろうか。乱れた息を整えるように大きく吐き出してから、彼は言った。

「君が好きだ、キム・ユンシク」

その言葉に、一瞬しびれたようにユニは動けなくなった。
目を瞠ったままの彼女に、ソンジュンは歯をくいしばるようにして苦しげに囁いた。

「正しい道しか歩まなかった僕が、常に原則に従ってきた僕が、礼と法が、すべてだった僕が……同じ男である君を、好きになってしまった。それが君と、友としても、同室生としても、一緒にいることができない本当の理由だ」

ユニは息を呑んだ。喉が詰まって、声を出すこともできない。
目の前で起こっていることが信じられず、彼女はソンジュンの瞳の中にこれが現実であることのよすがを探した。

だがユニを見つめる彼の瞳には、溢れる涙があるばかりだった。
彼は泣いていた。
それは見る者が胸を衝かれるような、狂おしく、悲痛な眼差しだった。

「僕は……これ以上君のそばで、平然としたふりをして、自分を偽る自信がない。───だが心配するな、キム・ユンシク。君を傷つけたりはしない。誰にも、僕のこの想いのせいで、君を非難させたりはしない。君の前に現れることも、もう無い。これが、僕が今君のためにできる……すべてだから」

肩に置かれたソンジュンの手から、ふっと力が抜けた。彼はだらりと腕を落とすと、目を伏せ、ユニに背を向けた。

人混みの中、遠ざかっていく深紫の道袍。
ユニはその痛々しい後ろ姿を追うことも、呼び止めることもできずに、ただいつまでも呆然と見送っていた。






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2013/07/09 Tue. 03:35 [edit]

category: 第十五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ねーさま

もー名場面中の名場面ですよー(T_T)

> 彼の演技って心の動きが感じられるから、ちょっとしたしぐさでも情報量が多いですよね。

そーなんですっ!(>_<)
このブログも、ユチョの演技見てイロイロ想像して書き加えたりしてるとこが多いので、
ほんとに視線ひとつとっても見過ごせないんです。
あれで初めてのドラマ出演だっていうのが信じられない……(^^ゞ

あまる #- | URL
2013/07/10 01:11 | edit

Re:ひろこさま

あの涙は反則だー(´;ω;`)ブワッ
ゆちょは結構いろんなとこで泣きの演技やってますが、ソンジュンはあんま泣かないキャラなので
やっぱグッときます。
「会いたい」のジョンウは泣いてばっかし……(笑)いや、それもやむなしなんだけども。

あまる #- | URL
2013/07/10 01:04 | edit

Re:shuuyuchun さま

コメントありがとうございますー(^^)

ソンジュン、涙の告白シーンはやっぱり印象深いですよね(;_;)ウルウル
それだけにプレッシャーも半端ないですが(笑)
楽しんでいただけましたなら幸いにございます~

あまる #- | URL
2013/07/10 00:38 | edit

キター!!
この告白シーンは名場面の一つですね。大好きです。何度DVDをリピートしたことか・・・。
あまる様の文章で読むと更に感動が蘇りますっ。

たしか、ユチョンがインタビューで、最初は泣きすぎてNGになったと言っていたように記憶してます。頑張って抑えて演技したのがより真実味を与えたのかな。
彼の演技って心の動きが感じられるから、ちょっとしたしぐさでも情報量が多いですよね。

ここからお話はラブラインへと向かっていきますね!楽しみにしています!

ねー #- | URL
2013/07/10 00:15 | edit

ソンジュン様~~

「真実」がわかるまでもうあと少し・・・とわかっていても、ソンジュン様の溢れる涙はとても切ないですね。
あまる様、今回も素敵なノベライズ、ありがとうございます!!

ひろこ #- | URL
2013/07/09 19:27 | edit

ソンジュンー

ついに,ついにこの瞬間♪

すばらしいです~男のユンソクに告白してる彼の表情が浮かんでくる。
あまるさんのストーリー,言葉の表現大
好きです。
これからも、楽しみです。

shuuyuchun #dDm6s.8Q | URL
2013/07/09 12:24 | edit

Re: 阿波の局さま

リンク、ありがとうございますー(^^)
先程局さんとこにも書き散らかしてきましたので、
とりあえずコチラではお礼まで(笑)

ソンジュン、局さんをそのまま持ってってー!!
ガクちんがすぐ取り返しに来るから~(笑)

あまる #- | URL
2013/07/09 10:27 | edit

魂浮遊中

おはようございます。
朝一番、更新されていることを発見し・・・読んで、コメントする時間もなく、血迷って何度も拍手を押してしまいました。すばらしくて・・・

いきなりソンジュンに持っていかれました。
今日はオクセジャ更新できるんかいな・・・遠い目

勝手ながら、リンク貼らせていただきました。
画像もお借りしました。事後報告、申し訳ありません。

阿波の局 #3FtyQ0do | URL
2013/07/09 09:09 | edit

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