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第十五話 3 男の幸福 

bandicam 2013-07-04 18-23-30-667
******************************


東斎のヨンハの部屋には、まだ明かりが灯っていた。
盃になみなみと注いだ酒を煽って、部屋の主は機嫌良く言った。

「斎会は嫌いだが、1つだけいいことがある。斎会の後の野遊会だ。斎会でのわだかまりを水に流し、皆がひとつとなって心ゆくまで楽しく遊ぶ。広がる絶景と旨い酒に、ひたすら酔いしれる」

差し向かいで座るジェシンは、どうでもいいというように盃を持ち上げた。それをヨンハがひょいと奪い取り、喉に流し込む。

「何だよ」

ジェシンはヨンハとは逆に、不機嫌に眉を寄せた。飲もうとするそばから盃を横取りするヨンハのお陰で、ここに来てから一滴も酒にありついていないのだ。豪勢に並んだ肴を目の前に、これでは何をしにきたんだかわかりゃしない。

仏頂面のジェシンをちらりと見たヨンハは素知らぬ風で、言った。

「傷が癒えるまで酒はダメだ」

じゃあお前もこれみよがしに飲むな、と言いたかったが、なんとなくそれは憚られた。今回の件に関して、散々ヨンハに心配をかけたのは事実だし、彼が斎会の前に儒生たちをどうにか懐柔しようと根回しに奔走していたのも知っている。
今夜は好きに飲ませてやるくらいしか、礼の代わりになるものを思いつかなかった。

とそのとき、いきなりぱっと扉を開けて、ユンシクが入ってきた。
青褪めたその顔に、何があったと尋ねる間もなく、彼女は言った。

「もしかして知ってました?イ・ソンジュンが退学したこと」

退学?

ジェシンはヨンハを見た。初耳なのは向こうも同じだったと見え、戸惑った目をしてユンシクを見上げた。

「明日が結納だってのは知ってたけど。それで、家に帰っただけじゃなかったのか?」

そう言って、何だよあいつ、と独り言のように呟いた。

「まさか俺の話がこたえたとかいうんじゃないだろうな……」

ユンシクは、更に打ちのめされた様子で、「結納は……明日なんですね」と言った。
そして、泣いているとも笑っているともつかぬ表情で、はっと息を吐いた。

「先輩方に挨拶もなく出てくなんて。礼も法もあったもんじゃないな。───なんて奴。酷いよ」

踵を返し、部屋を出て行くユンシクの背中は、肩を落としているせいかやけに小さく見えた。

「ったく……。イ・ソンジュンの奴、何考えてんだ」

ヨンハにしては珍しく腹立たしさを露わにして、彼はまた酒を煽った。
ジェシンは黙って立ち上がると、ユンシクを追って部屋を出た。



慰めてやろうとか、あんな野郎は忘れろと叱ってやろうとか、そんなことを思ったわけではなかった。
ただ、心細げだったユンシクを一人にしてはおけずに、ジェシンは中二房へと戻った。

部屋の障子戸に、明かりを背にしたユンシクの影が映っている。
ジェシンは思わず足を止め、その線の細い横顔の稜線を見つめた。
彼女はきっとまた泣いているのだろう。声を押し殺して。

ユンシクとソンジュンは、この成均館の中では言わば荷車の両輪のようなものだった。
いつも一緒にいて、常に同じ方向に向かって走っている。
だがどちらかが軸を外れれば、たちまち重心を失い、かたがたと崩れて進めなくなってしまう。
今の彼らのように。

ユンシクへの秘めた想いを胸に抱くジェシンですら、それは認めないわけにはいかなかった。
辛くないと言えば嘘になる。だがあの二人が、いつも揃って前に進んでいることが、一番自然なことのように思えるのもまた、事実だった。

何故なら、ユンシクがいつもソンジュンの傍で、笑っていたから。

旬頭殿講、杖打大会、そして今度の斎会。
一旦はユンシクを突き放しておきながら、土壇場で彼女を危機から救い出すのはいつだってソンジュンだった。
悔しいが、自分一人では彼女を守りきることなどできなかっただろう。

お互いがいないと駄目なくせに、どうして自ら離れようとするのか───。
ジェシンにはなんとなくだが、わかっていた。
彼がユンシクといるときにいつも感じていた、ソンジュンの視線。
いくら親友が他の男と仲良くしてるからといって、あんな人を刺すような目を向けてくる奴はいない。

ジェシンはまだ良かった。ユンシクが、実は女性だということを知っている。
だが彼女を完全に男だと信じているソンジュンには辛いだろう。しかもあの堅物だ。道理とユンシクへの想いとの間で板挟みになったその苦悩は推して余りある。

ジェシンは深く息をつくと、ユンシクの影に背を向けて縁側〈マル〉に腰を下ろした。
ソンジュンのことで傷ついている彼女に掛けてやる言葉など見つからなかったし、たとえあったとしても、そうすることはどこかソンジュンに対して卑怯な気がして、できなかった。

苛々と膝を揺らしながら、片手で顔を覆った。伸びた無精髭のざらざらとした手触りが、いっそうジェシンを憂鬱にさせた。


*   *   *


その晩、屋敷の庭に一人佇んでいたソンジュンは、成均館を出るときのヨンハの言葉を幾度も胸の内に繰り返していた。

───それでお前は幸せか?カラン。
今だってそんな風に嘘がつけないのに、一生嘘をつき通せるのか───?

「坊ちゃん!」

スンドルの声が、彼をいきなり現実に引き戻した。

「今からそんなじゃ、婚礼の日は眠れませんよ」

結納を前に緊張しているとでも思っているのか、スンドルはソンジュンをからかうようにそう言った。
だがソンジュンが全くの無反応なのを見てとって、きまり悪げに咳払いする。

「……旦那様がお呼びです」



父の部屋に入り、文机の前に腰を下ろしてからも、ソンジュンは心ここにあらずだった。
目の前に道は見えている。先の先まで見通せる、平坦な道だ。
だがソンジュンは、そこに足を踏み出すことを躊躇っていた。

苦しみから逃れたくて、成均館を出た。だが心は少しも晴れない。結婚も、まるで他人事どころか、近づくにつれ気持ちは沈むばかりだ。今目の前にあるこの道を選んだところで、苦しみがいや増すだけではないのか───。

「鳩林の竹亭書院が、お前の部屋を用意したそうだ。成均館を出たからには、一日も早く学業に専念した方がよい。明日結納が済んだら……聞いているのか?」

父が言葉を切り、こちらの表情を伺うようにじっと見ているのに気づき、ソンジュンは はっと我に帰った。

「婚礼もなるべく急ぐよう、兵曹判書と話した。妻に支えられての大科の準備も悪くはない。結婚し、家族を得て責任感が生まれれば、それが男を導く力となる。一族が繁栄することで生まれる自負心も、お前の力となろう。男の人生とはそういうものだ」
「───父上」

ソンジュンはついに重い口を開いた。

「それで……幸せになれますか?」

父は一瞬、目を瞠った。我が耳を疑うかのような表情だ。だがソンジュンは構わず尋ねた。

「生意気を言うようですが、僕は、その答えを聞きたいのです」

しばしの間があった。ソンジュンが息を詰めて父の言葉を待っていると、目の前の父は突然、声を上げて笑いだした。
そして笑いながら、「答える価値もない」と、ソンジュンに向かい首を横に振った。

「まるで箱入り娘のくだらぬ愚痴のような恥ずかしい科白を、真城李家の嫡男の口から聞くことになるとは。今までこの父は、そのようないらぬことを考え、時間を浪費したことはない」

ソンジュンは目を伏せた。
どれだけ言葉を尽くしても、父からこの答えは得られない。
そう、彼が悟った瞬間だった。







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2013/07/04 Thu. 18:27 [edit]

category: 第十五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re:あらちゃんさま

人は苦悩を知ってオトナになるんですねぃ。シミジミ……。
ユニが女の子でほんとーに良かったね、ソンジュン(T_T)
というわけで今のうちに思いきり苦悩してくださいww

あまる #- | URL
2013/07/07 20:20 | edit

どうしたら幸せになる?

>彼がユンシクといるときにいつも感じていた、ソンジュンの視線。
いくら親友が他の男と仲良くしてるからといって、あんな人を刺すような目を向けてくる奴はいない。

先週から新たに再放送が始まったので、また毎日ホゲホゲと楽しんでおるところですが、今日あまる様のこの一文に Σ( ゚Д ゚)!と思うところありでした。
1~4話あたりのソンジュンにはまだこの刺すような視線はありません。(なんか、子どもっぽさがあって、異常に可愛く感じる1~4話)
そういう細かい変化には今まで気づかなかったです。
その視線の変化がソンジュンの心の変化や苦悩の深さを表していたわけですね~。ううむ。
あまる様に感謝!再放送を見るときの視点が増えて嬉しい限りです。


>今目の前にあるこの道を選んだところで、苦しみがいや増すだけではないのか───。

でもじゃあ、どうしたらいいのか、わからないから苦しいですね。
苦しめ~もっと苦しんでいいのだよ~その方があとの喜びが大きくなるからね~とソンジュンの苦しみを喜ぶ私はS。

あらちゃん #- | URL
2013/07/07 02:01 | edit

Re: くろたんさま

はじめまして(^^)ご訪問&コメありがとうございます!

このブログに載っけてるヤツも、実は隙間だらけだったりするんですが(笑)自分的に萌えなシーンはどんどん掘り下げるつもりでおりますので、一緒になって楽しんでいただけると嬉しいです。

お時間のあるときにはいつでも遊びにいらしてくださいね~。
今後ともよろしくお願いいたします(^^)

あまる #- | URL
2013/07/06 02:04 | edit

Re:阿波の局さま

いやいや、阿波の局さんのコメントもいつも的確で、あまるの拙い文章でよくこうも
見事に汲み取ってくださるものだと感謝感激です(´;ω;`)

ソンジュンにはユニがいるからいいとして(笑)
ワタシも300年前のチョハ~の傍にいて差し上げたいですワ~←これもいらん

あまる #- | URL
2013/07/06 01:55 | edit

はじめまして

初コメさせて頂きます。
はじめまして。
いつもあまるさんのお話し読ませて頂きながら
ご挨拶さつもせず、申し訳ありませんm(_ _)m
成均館はDVDレンタルで1回しか観れなくて
あまるさんのお話しで隙間を埋ております。
この頃のソンジュンとユニはホントに辛そうでしたね。
これからもお話し楽しみにしています。
またコメさせて頂きますね。
どうぞよろしくお願いします。

くろたん #- | URL
2013/07/04 21:19 | edit

ジェシンの心理が手に取るようで・・・

>お互いがいないと駄目なくせに、どうして自ら離れようとするのか───。
>伸びた無精髭のざらざらとした手触りが、いっそうジェシンを憂鬱にさせた。

う~ん、相変わらず心理描写が的確で巧みですぅ。
ユンシク(ユニ)を想いながらも、本当に必要なのは自分ではなくソンジュンだということがちゃんと分かっているんですね。
ジェシン、男前・・・

そして、ソンジュンの苦悩もちゃんとお見通し。

ソンジュンは、とうとうこの時、尊敬する父と自分の道が違ってきていることに気づいてしまうんですね。
これまた、辛いよね。

ああ、ソンジュン様。私でよければ支えて差し上げたい。←いらんと言われることは必定。爆

阿波の局 #3FtyQ0do | URL
2013/07/04 19:58 | edit

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