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第二話 3 親臨試 

翌朝。景福宮の勤政門前広場では、着々と覆試の準備が進められていた。
「庚戍年 小科覆試」と空を突くほど大きく墨書された垂幕や、受験生たちの座席に敷き詰められた茣蓙は初試の時とかわりないが、正面の殿内に設えられた玉座や、そこから張り出している双竜の絵が描かれた日除けの天幕が、これが間違いなく王の目前で行われる親臨試であることを物語っている。

 一方、ユニの家では。

「お迎えに上がりました」

 兵曹判書宅の下男、あの丸顔の借金取りが輿とともに到着し、ユニの母に慇懃に挨拶をしていた。
 庭先に出てきたユニを上目遣いに見上げた男の目が、彼女に告げている。
『お前はもう逃れられない。いいかげん降参して、おとなしく輿に乗れ』と。
 
 ユニはその目を真っ直ぐに見返した。その瞬間に、彼女の心は決まった。


 赤い絹の長衣(チャンオ)を頭からすっぽりと被り、輿に乗り込む娘を、母は胸が締め付けられる思いで見送った。両班の娘というのは名前だけ。あんな豪奢な絹の衣装を着せたことも、立派な輿に乗って外出させたことも、一度としてなかった。

 これでいいのだ。食べるものにも事欠くような暮らしでは、心までもが荒んでしまう。たとえ愛妾でも、あんな身分の高い男の家に嫁げるだけ、娘は幸せなのだ。世の中には、もっともっと、悲惨な暮らしにじっと歯を食いしばって耐えている女たちが掃いて捨てるほどいる───というより、女とは、そういう生き方しかできない者がほとんどじゃないか……。

 母は必死に、自分にそう言い聞かせた。
 ただ、これでもう暫くは逢えなくなるというのに、家を出るとき、娘が一度も自分に顔を見せてくれなかったのが、気になった。



  兵曹判書宅の中庭に、主人の新しい妾を乗せた輿が今、ゆっくりと下ろされた。そこに、丸顔の男が近づく。

 さて、あの生意気な小娘の観念した顔でも、拝ませてもらうか。

 にんまりと口元に笑みを浮かべつつ、輿の扉を開けた男はその途端、幽霊でも見たかのように飛び退き、腰を抜かした。
 赤い長衣の下から覗いたのは、確かにあの娘には似ているものの、痩せて青白い顔をした、全く違う”男”、だったからである。
 地べたにへたりこんだまま、男は叫んだ。

「む、娘は?!娘は、どこに行ったあぁ?!」


 ユニは、景福宮の試験会場にいた。
 宮殿の通用門が閉まる寸前にどうにか滑り込んだ彼女は、他の受験生たちに混じり、畏まって座っていた。
 ユニに巨擘を依頼した男がすぐに話しかけてくるのかと思ったが、周りを見渡しても、それらしき人物は一向に現れなかった。試験開始の時刻は迫る。ただぼーっとしているのも怪しまれるかと思い、試巻を広げ、墨を摺り、筆を含ませて、と受験生らしいことをしているうちに、準備万端整ってしまった。
 
 やがて、王のお出ましを告げる官吏の声が響き、座していた者たち全員が一斉に立ち上がる。勤政門から役人や内侍たちを従えた王の一団が入ってくると、皆一様に面を伏せた。
 試験会場は広い。門のある入り口から、正面の玉座まではかなりの距離がある。竜顔を赦しもなく直接見るのは不敬にあたるため、その間はじっとこの姿勢のまま耐えなければならない。
 ユニは腰が痛くなるのを覚悟したが、意外にも王の足運びは若者のそれのように颯爽としていた。すぐ後ろから巨大な日除けの傘を掲げている内侍など、ついていくのがやっとといった感じで、むしろこちらの足元の方がおぼつかない。

 ユニはつい興味をひかれて、目の前を通り過ぎた竜袍の背中を、笠のつば越しにちらりと見た。
 思っていたよりも背が高く、肩幅もがっちりとしている。姿勢の良さはその高貴な生まれからくるというよりも、王その人の押し出しの強さの表れに見えた。
 
 ユニの腰が痛くなる間もなく、王はさっさと玉座に就いた。官吏が、居並ぶ儒生たちに着席を命じる。
 試験開始の太鼓が鳴り、問題が貼り出された。

 ───どうしよう……。

 試験が始まってしまったというのに、依頼人は現れない。見晴らしの良いこの会場では、ちょっと上体を起こしてキョロキョロするだけでも目立ってしまう。
 筆を持ったまま逡巡していると。

「誰かを待ってるのか?」

 低い、静かな声がユニのすぐ後ろから聞こえてきた。

「───はい」

 前を向いたまま、恐る恐る答える。

「君を……巨擘に雇った人?」

 はっとした。まさか、この声の主は。

「ワ…ワン殿?」

 ユニが振り返るとそこには、初試のときと全く変わらず、端然と座すイ・ソンジュンがいた。

「陛下の御前で巨擘とは、大した度胸だな」

 ユニは驚いて言葉も出ない。口をぱくぱくさせていると、彼はさらりと言った。

「君を雇ったのは、僕だ」
「はい?」

すっ、とソンジュンが右手を挙げた。まさかまさか、この展開は。
以前見た光景がユニの脳裏に蘇る間もなく。

「試験官に申し上げます!」

ええぇぇぇぇ?!

 ユニの声にならない叫びが、聞こえたのだろうか。
宮中の木々で羽を休めていた鳥が、パタパタパタ、と一斉に飛び立っていった。






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2011/08/08 Mon. 18:19 [edit]

category: 第二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ほんものの

ドラマでは流石に弟くんのその後までは教えてくれなかったので、どーなったのだか
よくわかんないんですが(^^ゞユニはあくまで「キム・ユンシク博士」として成均館で
先生やってたみたいなので、まだ名前貸してる状態なのかなぁと思ったり……
できれば彼の元気な姿もラストで見たかったなぁ~。

あまる #- | URL
2012/05/05 00:09 | edit

ほんものの

キム・ユンシクの気持ちを思うと・・・
姉さんにここまでさせている自分を情けなく思ったと同時に、この賢い姉はきっと学問がやりたいんだろうと感じ取ったんでしょうねえ。

ユニちゃんの弟のユンシクくんだって本当なら科挙に合格できるほどの結構な秀才だと思うぞ。
姉の仕事っぷりや漢詩を見て勉強すれば学堂で勉強するのと同じ位学問した事になってたと想像できます。

だからこそ、自分が身代りになっても科挙を受けに行かせたかったんだろうね。

ユンシク君、体は弱いけど、強い男だね。君も。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/03 13:26 | edit

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