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第十五話 2 別離 

bandicam 2013-06-26 23-40-19-308

*********************************


東三門を出たソンジュンは、ふと足を止め、後ろを振り返った。門に掲げられた"成均館"の文字を、じっと見上げる。
この門をくぐることは、おそらくもう無いのだろう。そう思うと、胸に迫るものがあった。

ここでの出来事は、すべてユンシクとともにあった。ソンジュンにとって、キム・ユンシクという存在は、成均館で過ごした日々そのものだった。
いつか、思い出すときがくるのだろうか。今はこんなに苦しくとも、いつかは、ただ優しい懐かしさだけを胸に抱きながら、成均館を思うときが来るのだろうか───。

「今から帰るのか?」

ふいに声を掛けられて首を巡らすと、そこにいたのはヨンハだった。
偶然なのか、それとも待ち伏せしていたのか。どちらにしてもこの人の神出鬼没さは心臓に悪い、とソンジュンは思った。
ヨンハは苦笑いのようなものを浮かべながら、言った。

「まったく、驚かせてくれるよ。潔癖で真面目なお前が、男色宣言とはね」
「僕はただ……」

言いかけたソンジュンを、「あーはいはい」と手のひらを向けて遮る。

「原則を守ろうとしただけってんだろ?わかってるって。だが、原則を守るなら、嘘はつくべきじゃないな。───享官庁でテムルたちと一緒にいたって話。あれは嘘なんだろう?」

ヨンハは急に顔を近づけ、ソンジュンの目を覗き込むようにして、言った。

「実にお前らしくない、嘘だ」

驚きを通り越し、最早呆れてしまった。この人はいったいどこまで知っているのか。

「先輩も、あの晩のことをご存知なんですか」

それには答えず、ヨンハは東三門の方に視線を投げて言った。

「出世確実の左議政の息子が男色の醜聞に自ら加わり、将来を棒に振る危険を犯す。普通なら、相当な覚悟が必要だ。お前がそこまでするのは、何のためだ?」

答えたくない質問だった。ソンジュンは表情を固くし、歩き出した。
その半歩後ろを歩きながら、「明日、結納だって?」と尚もヨンハは問い続ける。

「お前とは絶対に協力し合えないはずのハ・インスとついに家族になるわけだ。家柄が釣り合うからか?それとも、相手なんて誰でも良かったとか?……まるで逃げ出すみたいだな」

図星を指されて、ソンジュンは思わず立ち止まった。見返したヨンハは、どこか哀れむような眼差しで、言った。

「それでお前は幸せか?カラン」

(幸せ……?)

考えたこともなかった。士大夫として、儒学の教えを学ぶ者としてあるべき規範に従う。ただそれだけを考えて彼は生きてきた。それこそが天命であり、自分の義務であると思ったからだ。結果、幸せになれるかどうかなど───。

視線を落とし、黙り込んだソンジュンにヨンハはますます憐憫の色を濃くして、深いため息をついた。

「おいおい、今だってそんな風に嘘がつけないのに、一生嘘をつき通せるのか?」

そしてヨンハはまた、答えられない質問を彼に投げかけた。

「───そこまでするのは、誰のためだ?」


*   *   *


「イ・ソンジュンが退学した?」

正録庁でその報告を聞いた大司成は、飛び上がらんばかりに驚いて、声を上げた。

「いけません、そんな!辞めるといわれて、あっさり許可するなんて、どうしてそんなバカなこと!無分別な学生は、理由なき反抗をするものです。ユ博士だって、昔はあったでしょ?勉強に嫌気が差して、辞めたいと思ったことが!」
「ありません。ただの一度も」

即座に答えたユ博士は、溜息混じりに言った。

「イ・ソンジュンは分別のある学生です。辞めるからには、何か理由があるのでしょう」

大司成は弱り切ったように頭を抱えた。

「よりによって、こんな大事な時期にどうして。放ってはおけません。私がイ・ソンジュンに直々に……」

すると、隅で片付けをしていた書吏のジャンボクが追い打ちをかけるように言った。

「そうそう、聞いた話では、イ・ソンジュン庠儒は成均館を出て、鳩林村にある竹亭書院〈チュクチョンソウォン〉で学ぶことにされたそうですよ」

ええ?と大司成は目玉をひん剥いた。そこまで決まっているのなら、引き戻すのは難しい。左議政の息子の動向は、彼の昇進を左右する。年に一度の勅命を前に彼に辞められては、相当の痛手だと思ったのだろう。がっくりと肩を落とした。

そして、講義の準備をしながら一部始終を聞いていたヤギョンもまた、突然のソンジュンの退学に驚きを隠せずにいた。
王との約束も未だ果たされていない。何も成均館にいなければならないということはないが、彼が退学した理由如何によっては、それが難しくなる可能性もある。
斎会でソンジュンが披露した見事な弁舌は、彼等教官の間でも話題になっていた。王の期待に違わず、イ・ソンジュンが稀にみる逸材であるという思いを強くしたばかりであったのに。

(いったい、何があった?イ・ソンジュン……)

問いかけるヤギョンの表情は険しかった。


*   *   *


静まり返った尊経閣で、ユニはぼんやりと本の頁をめくった。内容など、少しも頭には入らなかった。
斎会が終わるなり、姿を消してしまったソンジュンを一日中探し回っていたのだ。不思議なことに、誰に訊いても彼を見てないと言う。
ここで待っていれば現れるかと思っていたが、こんな時刻になっても一向に彼は姿を見せなかった。

(どこ行っちゃったんだろ……。ありがとうって、言いたいのに)

彼には結局いつも、助けられてばかりだ。
今ならわかる。冷たく見える態度も、厳しい言葉も、いつだってみんな、ユニのためを思ってのことだった。
友人には戻れないと突き放されたからといって、どうして恨むことなどできるだろう。

「消灯の時間です」

書吏が間延びした声で言いながら、尊経閣に入ってきた。いつの間にか、室内にいる儒生はユニだけになっていた。

「じきに就寝前の点呼ですよ。清斎にお戻りください」

真鍮の蝋燭消しを柱の灯りに被せて、書吏が言った。小さな釣鐘の下から細く煙が立ち昇り、辺りがまた少し暗くなる。
ユニは手にしていた本を置き、書吏に尋ねた。

「イ・ソンジュンを見てない?」

書吏は意外そうに眉を上げ、「お聞きになってないんですか?」と言った。

「……なんのこと?」


イ・ソンジュンが成均館を退学したことを、ユニはそのときようやく、知ったのだった。





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2013/06/26 Wed. 23:46 [edit]

category: 第十五話

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