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第十五話 1 評決 

bandicam 2013-06-22 17-37-48-939

***********************************


イ・ソンジュンの発したその一言が、儒生たちに与えた衝撃は大きかった。
稀代の清廉潔白居士。礼と法と原則の権化。
多少の嫉妬と揶揄をもって儒生たちにそう呼ばれるほどの優等生が、自らを男色と公言したのである。

いつもと全く変わらぬ表情で端座するソンジュンを、ユンシクやジェシン、ヨンハが唖然として見詰める。その周囲で、ざわめきは大きくなるばかりだった。

そんな中、インスの声が、ひときわ高く明倫堂に響いた。

「何を言っているか自覚はあるのか?お前は、自ら男色だと告白したのだ。青衿録永削にもなり得るのだぞ」
「それが法であれば、仕方ありません。ただし、ムン・ジェシンとキム・ユンシクが不道徳な行いをしていればの話ですが」

その言葉に、インスは表情を険しくした。事が自分の思惑とは違う方向に動くことを彼は憎悪する。そしてソンジュンは常に、インスの思い通りには動かない男だった。
ソンジュンは儒生たちを見渡し、言った。

「そもそも、この斎会はなぜ招集されたか。ムン・ジェシンとキム・ユンシクが、深夜に享官庁にいた。その事実があったからでは?」

儒生たちがそれぞれに頷くのを確かめてから、ソンジュンはインスを見た。

「あの晩、享官庁には、ムン・ジェシンとキム・ユンシクだけでなく、僕も一緒にいました」
「何?」
「ですから、あの時刻に享官庁にいれば男色だというのがこの場の論理なら、僕も男色というべきでしょう」

インスの眉が逆立った。

「嘘の証言で、罪人たちを弁護する気か」
「嘘ではありません。あの晩、僕が享官庁から出てくるのを見た者がいます。アン・ドヒョン、キム・ウタク、ペ・ヘウォンです」

いきなり自分の名前を呼ばれた三人は、座ったまま小さく飛び上がった。
「事実か?」とインスに鋭く問われ、言葉もなく何度も頷く。

「なのに、何故僕の名が出ないのか。それはつまりこの醜聞が、事実ではないからです。───ソ・ジヒョク庠儒」

ソンジュンは儒生の一人に向かい、尋ねた。

「二人の不適切な行為を、実際に見たんですか」

ジヒョクはおどおどと目を泳がせ、別の儒生を指差した。

「いや、俺はあいつが言ってたのを聞いただけで……」

ソンジュンの視線を受けた儒生は慌てて、「俺もあいつに聞いて」とまた別の儒生を指差す。最終的にドヒョンら三人組が噂の出所であることが判明し、彼等は生きた心地もしない様子で縮こまっていた。
ソンジュンは再度繰り返した。

「三人は、見たんですか?ムン・ジェシンとキム・ユンシクが、享官庁で実際に不適切な行為に及んでいるところを」

ソンジュンの鋭い視線に怖れをなしたように、三人はぶるぶると激しく首を横に振った。
今度は、正面に座るナム・ミョンシクに向かい、問う。

「斎任に伺います。男色は、醜聞ですか?」
「当然だ。儒学を尊ぶ者には……」
「儒学において最も重要な徳である“仁”とは、友を愛する心です。違いますか?」

畳み掛けるように尋ねるソンジュンに、ミョンシクは思わずといった様子で頷く。
ソンジュンは再び儒生たちに向き直ると、言った。

「“仁“、“義“、“礼“、“智“、“信“。儒学の教えに従う者が守るべき五徳です。しかし、偏見に惑わされ、捻じ曲げられた事実を鵜呑みにする者は、“智”が無く、興味本位で他人を誹謗中傷し、窮地に追い込みながら、罪の意識を持たぬ者は、“義“と“礼“が無い。更に“信“無くば───」

ソンジュンはふとそこで言葉を切った。ほんの一呼吸ほどの間を置いて、彼は言った。

「友を信じることのできぬ者は、ここにいる資格はない」

明倫堂は、水を打ったように静まり返った。ソンジュンの低く、よく通る声だけがそこに響いた。

「人が人を想う気持ちを、規律や歪んだ基準をもとに指弾する権利は、誰にもありません。志を同じくする友を男色と非難し、儒学の教えに背くことがこの斎会の目的であるなら、いっそ僕は男色であることを選びます」

───なるほどね。流石だよ、イ・ソンジュン。

斎任の席に座るヨンハは、舌を巻いて心中密かに呟いた。ユンシクとジェシンを裁くつもりで集まった儒生たちは今や、己の儒生としての資格を真っ向から問われていた。しかも相手は完全無欠なる模範生、イ・ソンジュンである。
反論できる強者などいるはずもなかった。
ただ一人、インスを除いては。

「それで終わったと思っているのか?」

孔子の教えなど詭弁だとでも言いたげに、彼は薄笑いさえ浮かべている。そしてジェシンに視線を戻し、言った。

「もう一度訊こう。男色でないなら、あの晩、享官庁で何をしていた」

ユンシクとジェシンの表情が、再び強張った。

「あの晩、負傷した紅壁書が成均館に逃げ込んでいた。奴は止血に使う煙草の灰を求め、享官庁に行ったはずだ。同じ頃に、享官庁でムン・ジェシンとキム・ユンシクの姿が目撃された。何をしていたか話せないのは、紅壁書と関係があるからではないのか?」

儒生たちがざわつき始めた。

(紅壁書───?)

ソンジュンの脳裏を、昨日のユンシクの言葉がよぎった。

『コロ先輩のためなんだ。だから、ぼくを信じて助けて欲しい』

夜中に、竹箒で庭を掃いていたユンシク。享官庁で抱き合っていた二人。
自分が除名処分になるのも顧みず、ユンシクがジェシンを庇おうとしていた理由。

───そういう、ことだったのか。

すべてを理解したソンジュンの耳に、儒生たちのひそひそと言い交わす声が聞こえてきた。

「紅壁書だって?」
「キム・ユンシクが?」
「いや、コロの方だろ」
「二人でやってたのかも」

中央に座るユンシクは、紙のように血の気の失せた顔をして、身を固くしている。握り締めた両の手が、小さく震えていた。

「ムン・ジェシンとキム・ユンシクには、潔白を証明する時間を充分に与えた。私は掌議の権限で、二人に上衣を脱ぐことを命じる」

さっ、とジェシンが顔色を変えた。それまで一言も発しなかった彼が、そのとき初めて口を開いた。

「俺だけ、脱げばいいか。それがお前の望みなんだろ?インス」

ユンシクが、先輩、とジェシンを引き留めるように彼の腕に手を掛ける。
二人の窮地を察したソンジュンはすかさず言った。

「その前にお答えください、掌議」

儒生たちの視線が、一斉にソンジュンに集まる。

「つまり掌議は、紅壁書を捕らえるための罠として、斎会を利用したというのですか。であれば、男色の噂は、初めから信じていなかったということになります。斎会は、大司成様や教官、陛下ですら介入できない、我々儒生たちのものであったはず。成均館の斎会は決して、政治に利用されることがあってはならないからです。なのに、議長である掌議が、その原則を破った」

インスの表情から笑みが消えた。ソンジュンの鋭い視線が、インスを捕らえた。

「───もしムン・ジェシンに傷跡がなければ、掌議は責任を問われることになりますよ」

ソンジュンの言葉にたちまち、少論、南人の儒生たちから「そうだ、その通りだ!」と、インスを非難する声が上がる。彼等にとっては党派の名誉を汚された上、斎会の名を借りた茶番でバカにされたも同然である。インスの回答を求め飛び交う怒号で、明倫堂は騒然となった。

唇を噛み、激しい憎悪の眼でソンジュンを睨みつけるインスに向かい、彼は静かに言った。

「しかし掌議がこの議案を取り下げるなら、我々もまた、掌議の過ちを責めはしません。……どうしますか、掌議」

それは、賭けとも言える問いだった。インスがジェシンを紅壁書と確信しているなら、迷わず彼を脱がせるだろう。だがまだ確たる証拠を掴んでいない状態なら、保身に走るはず……。
息詰まるような間があった。
そこに思わぬ援護射撃をしたのは、ヨンハだった。

「どうして?せっかく始めたんだ。最後までやろう。脱がせちまえ」

飄々としたヨンハの声は、その場の緊張感を破った。途端、儒生たちが口々に叫び始めた。

「冗談じゃないぞ!少論をコケにしようってのか!」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」

ヨンハの軽薄を装った言葉は、少論の儒生たちの怒りに油を注ぐ形となり、彼等は一斉にぎらついた眼をインスに向けた。これでは、たとえインスがジェシンに脱げと命じても彼等が絶対に許しはしないだろう。
それにつられ、老論の儒生たちの中にも、掌議に真実を求めて声を上げる者が出始めた。
流れはこちらにあると見て取ったソンジュンは、おもむろに言った。

「掌議が、今の命令を撤回すると信じます」

インスは無言のまま動かない。代わりに、ヨンハが立ち上がった。

「さてと。そろそろ頃合いだ。斎会は掌議のものではなく、我ら成均館儒生のもの。諸君の義務を果たしてくれ。
評決する。ムン・ジェシンとキム・ユンシクを儒罰〈ユボル〉に処すか?」

儒生たちが、次々と評決の札を上げる。明倫堂を埋め尽くしたのは、ユンシクとジェシンの無罪を示す白札だった。
書吏が数を数えるまでもなかった。満場一致で、二人は放免と判断されたのである。
ヨンハは満足気に微笑むと、インスを見下ろし、言った。

「掌議、評決の結果を」

インスは暫く、奥歯を噛み締める音が聞こえてきそうな顔をしていたが、やがてその重い口を開いた。

「───ムン・ジェシンとキム・ユンシクの男色事件は、事実無根であるとし……儒罰には処さない」

ユンシクの表情に、安堵とも驚きともつかぬものが浮かぶ。
斎会は終わった。二人の疑いは晴れたのだ。

だがソンジュンの心は重いままだった。彼は立ち上がり、足早に明倫堂を出た。

(情けない……。なんて誤解をしてたんだ、僕は。)

孔子の教えなど語る資格はない。今日この場で最も罪深い人間は、僕自身だ───。

笑顔で互いの顔を見交わすユンシクとジェシン、そして二人の肩を抱くヨンハから目をそむけ、ソンジュンは一人、激しい自己嫌悪に息が詰まるほどの苦しさを感じていた。







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2013/06/22 Sat. 17:39 [edit]

category: 第十五話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

ワタシもどっちかというと考えナシな方なので(^^ゞ
ソンジュンに代わりに頭使ってもらいたい……。

ブログ、いよいよですねー(^^)
とりあえずお好みのテンプレ探しから始めてみらてはどーでしょ?
意外といじくってるうちにどーにかそれらしくなるもんですよ。
あらちゃんさんの妄想(笑)が読めるの、楽しみにしてます~(^^)

あまる #- | URL
2013/06/25 00:26 | edit

かっけ~!

>とにかく考える。考えて考えて、頭おかしくなるくらい考えた末の行動・・・
かっけ~O(≧▽≦)O
私はユニ以上に感情にまかせあまり深く考えずに行動しちゃうから、正反対のソンジュンにこんなに惹かれるんだぁ!ユニにソンジュンが必要なように私の人生にもやっぱりソンジュンが必要だ~(ToT)

その必要不可欠なソンジュンをおちょくって遊んでいる申し訳ない私の世界をほかの方にも公開したいなと思いつつ、奴隷のように、もとい、手足のように使っていた次男が忙しくなり何にもしてくれなくなっちゃったので、ブログは当分立ち上がらないでしょう。何しろものぐさなので。
どっかにサルでもできる簡単なブログのフォーマット(もしくは奴隷)は落ちてないかしら?
あまる様や阿波の局様をひたすら尊敬します。

あらちゃん #- | URL
2013/06/24 18:00 | edit

RE:あらちゃんさま

>これは虐げられてきた庶民のサガなの?しょう~がないっていう。

ユニはずっと家族のために犠牲を払ってきた人だから、大切な人のために
自分が身を投げ出すのはごく当たり前のことなのかもしれんですな。
でも多分、根が単純なので(笑)感情が先走って、あまり深く考えずに行動してしまうというか。

で、やっぱりソンジュンはその逆で(笑)
とにかく考える。考えて考えて、頭おかしくなるくらい考えた末の行動なので、
結果初めとは違う言動になったりする……ってことなんではと。
頭良すぎるのも苦労が多そうでちょっと気の毒だわ(^^ゞ

あまる #- | URL
2013/06/24 01:17 | edit

Re: 阿波の局さま

この場面はワタシも大好きです。ソンジュン男前~(T_T)
彼はもし現代に生まれていたら弁護士とか、そーゆう道に行く人カシラ~とか
思いながら見てました(笑)
副大統領の息子で弁護士の卵……いい設定だ……じゅる。

あまる #- | URL
2013/06/24 01:00 | edit

ユニや・・・

ソンジュンがかっこいいのは当然として、私がここでいつも思うのはユニのことです。
泥棒騒ぎの時も、今回も、徹底的に「あか~ん」となるとどうしてユニって自分を捨てる方向に走るんだろう?
これは虐げられてきた庶民のサガなの?しょう~がないっていう。
泣き寝入りに慣れるな、ユニ!自分の可能性を軽んじてはならないっ。 byジョン・キム

そしてソンジュンはその逆。
自分の運命にそんなもんなのかと流されているようでいて、最後の最後で納得いかないことをバーンとひっくり返す。早くひっくり返すとこ見たいです!あまる様よろしく(≧▽≦)

あらちゃん #- | URL
2013/06/23 22:37 | edit

鮮やかなこの場面を思い出します

>今日この場で最も罪深い人間は、僕自身だ

この堅物の固まり発言。大好物です。ソンジュンはこうでないと・・・

この斎会の緊迫した場面。思い出しますね。
ソンジュンは、ユンシクに助け舟を出すつもりはないって言っているし、どーするのどーするのってハラハラしながら見ていた記憶があります。

「男色は僕です。」といった後の張り詰めた空気と、その後の論理の鮮やかさ。
くーもうたまりません。ソンジュン、最高!←スミマセン。一人で興奮している。

阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/06/22 19:44 | edit

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