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第十四話 11 泮宮の門 

bandicam 2013-06-10 18-41-09-824

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講義の後、ユ博士に資料作成の手伝いを頼まれていたユニは、正録庁からの帰り、外出許可を貰う儒生たちの列にソンジュンが並んでいるのを見た。

普段、何か特別な用事でもない限りあまり外出することのなかったソンジュンだったが、ここ最近は頻繁に出掛けているようだ。おそらく、芙蓉花との結婚の準備に忙しいのだろう。書吏のチュンホが、何やらにこやかに話しかけるのに短く言葉を返して、彼は足早に北墻門を出て行った。

同じ部屋にいながら無視されるのは辛いが、彼がいないのはもっと辛い。中二房に戻る気にもなれず、ユニはその足で反対側の門へと向かった。

講義中は儒生たちでひしめき合っている明倫堂も、この時間はむしろ一番人けのない場所になる。がらんとしているせいか、開け放った扉から吹き込む風も、よく通る気がした。

ユニはいつも座る隅の席に腰を下ろし、手にしていた算術書を開いた。
こういう実学の書はいい。読んでいるうちに深い物思いに囚われることもなく、本の世界に没頭することができる。
考えたくないことを考えて、これ以上自分を虐めずに済む───。

ふいに、広げていた本がばたんと強引に閉じられ、ユニの手元から消えた。顔を上げると、無作法にも前の席の文机にどっかりと腰掛け、たった今ユニから取り上げた本を興味無さげにめくるジェシンがいた。

「何を熱心に読んでるのかと思ったら、『九章算術』とはな」

ふん、とジェシンは鼻で笑った。

「こういうことか?“誰とも口をききたくない。だから、誰も話しかけるな。目に留めるな。失せろ”」

ユニは俯いて、答えた。

「……面白いから、読んでただけです」
「そんな大嘘ついてると癖になるぞ」

いつもの科白に、つい笑ってしまう。
ジェシンは算術書を放ると、立ち上がった。

「来いよ。こんなもんより20倍は面白いもんがある」




ジェシンがユニを連れて来たのは、大成殿の前庭にある銀杏の木の下だった。
樹齢400年を超えると言われるその木は、大人三人が両腕を広げても足りない程の太さを誇る、堂々たる巨木だった。
みっしりと茂った葉が黄金色に染まるにはまだ少し時期が早かったが、色づいた頃の見事さは容易に想像できた。

幹の中ほどには、大きく枝分かれしている部分があり、腰を落ち着けるにはいい塩梅になっている。昼間、ジェシンの姿が見えないときは大抵、そこで昼寝をしているので、一部の儒生たちはこの木を“コロの木”と呼んでいる。

ちゃんと見とけよ、と言うと、ジェシンは慣れた様子で幹に足を掛け、あっという間に登って行ってしまった。
ユニの頭の上からひょいと顔を覗かせて、「お前もやれ」と無茶なことを言う。

「ぼくは人間ですから、無理です」
「俺が猿だとでも言いたいのか?」
「今のを見たら、誰だってそう思うでしょ」

言いやがったな、とジェシンは笑って、「ほら」と長い腕を差し出した。

「引っ張りあげてやるから。最初はそこに足を掛けるんだ」

木登りなんて、生まれて初めての経験だ。恐る恐るではあったが、ちょっとわくわくするような気持ちで、ユニはジェシンの手を取り、どうにかよじ登った。

実際に上がってみると、二股に分かれた木の上の空間には、意外に余裕があった。

「立てるか?」

足を滑らさないように、ジェシンがユニの肩を引き寄せて支えてくれた。足元を決めて、慎重に立ち上がる。

「───うわぁ」

顔を上げたユニは、目の前に広がる光景に思わず声を上げた。
さほど高いというわけではないのに、そこからは成均館の塀の向こう、漢陽の街並みが一望できた。
波のように連なる瓦屋根の遥か先に、長く横たわる漢江がうっすらと見える。その更に先には、空に溶け込んでしまいそうに青い山々の尾根が、街を抱くようにどこまでも続いていた。

吹いてくる風が銀杏の葉を揺らし、耳に頬に心地良い。ユニは唇を尖らすと、言った。

「20倍は面白い?先輩の方こそ、大嘘ついてると癖になりますよ」

ちょっと眉を上げたジェシンに向かい、にっこりと笑ってみせる。

「100倍は面白いです」

そう言うと、ジェシンもつられるように笑った。
ふと笑顔を収めたユニは、ジェシンにずっと訊きたかったことを尋ねた。

「どうして、そこまでするんですか。───紅壁書」

ジェシンは黙って、瓦の波に視線を投げた。

「危険だし、捕まれば死ぬかもしれないのに。どうして……何のために先輩はこんなことを続けてるんですか?」

畳み掛けるように尋ねたユニだったが、ジェシンは答えない。長い沈黙の後、彼は呟くように言った。

「何のために……か。考えたことなかったな、そんなこと」

ユニはジェシンを見つめた。そうすれば、あまり多くを語らないこの人の心の奥に隠れているものが、少しでも見えるのではと思ったのだ。
ジェシンは、彼なりにユニへの答えを探しているようだった。やがて微かに頬を歪めて、言った。

「胸が苦しくて、耐えられないんだ。ああでもしないと生きられない……だからだな。生きるためだ、きっと」

理屈ではないのだと、ユニは理解した。
彼の純粋過ぎる心が、我慢することも、妥協することもできずにもがいている。何もせずにいることの方が、彼にはきっと辛いのだ。自ら危険に飛び込むよりも、ずっと。

「お前がここにいるのも、同じ理由だろ。違うか?」

そうかもしれない、とユニは思った。
命懸けというなら、自分も同じだった。家族三人、食べていくだけなら、今までどうにかやってこれたのだ。バレたら死罪という覚悟を決めてまでここにいる理由は、僅かな糧のためではないことは確かだった。

心の奥底で、ふつふつと燃えている抗い難い“何か“。無理に押し込めてしまえば、その熱は行き場を失い、やがて自分自身を内側から蝕み始めるだろう。
ただそれが怖ろしく、じっとしていられないのだ。ジェシンも、ユニも。

「ここに登ると、泮宮の息吹が聞こえる───そう言った奴がいた。そいつが教えてくれた。成均館の門は、王のいる宮殿じゃなく、朝鮮で最も卑しい泮村に向かって開いてると」

ユニは伝香門の方に目を遣った。普段ぴったりと閉ざされている他の門とは違い、成均館の裏門であり、通用門として使われるそこは常に開け放たれている。その向こうに、泮人や儒生たちの行き交う泮水橋が見えた。

「本当だ。ほんとにそうですね、先輩」

新しい発見にユニが明るい声を上げると、ジェシンが言った。

「たぶん、そいつのためかな。そいつがこの世に存在してたことを覚えておくために、紅壁書なんてやってんのかもしれない」
「……誰なんですか?そいつって」

訊いてもいいのだろうかと思いながらも、ユニは尋ねた。

「俺の、兄貴だ」

ジェシンの言葉に、ユニは王宮の崇文堂〈スンムンダン〉で、王から旬頭殿講の際の褒美を下賜されたときのことを思い出した。
かつて、成均館の掌議だったというジェシンの兄。その人の筆跡を、涙を堪えてじっと見つめていたジェシンの横顔が、今すぐ近くにいる彼のそれに重なった。

「キム・ユンシク」

ジェシンの横顔が、唐突にそう言った。「はい?」と返事をしたユニに、ジェシンはもう一度、「キム……ユンシク」と、噛み締めるように繰り返した。

「その名を、汚さずに済む方法があるはずだ。それから───すまない」

そう言ったジェシンの顔は、酷く苦しげだった。

「今日のうちに、お前に謝っておきたかった」

吹いてきた風が、銀杏の葉をさわさわと揺らした。その静かな音を聞きながら、ユニは指先が急速に冷たくなるのを感じて、暫くの間動けなかった。


斎会は、目の前に迫っていた。






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こんにちわ。あまる@脱皮中です。

巷で話題のベビーフット、やってみました。
こっこれわっ……。角質ケアとか、そんな目的でやるものではないワ!
と、ベローンと見事に剥がれゆく足の皮に恍惚としているワタクシです(爆)
この、でっかい皮を剥がすときの言いようもない快感はナニ?
思わず剥いだ皮を広げて床に並べてしまい、息子に「汚ねぇー!!」と言われている自分って一体。

なんだかクセになりそうで怖い。


関係ないですがさっしー1位おめでとう。
地元福岡のニュース番組で物凄くまじめに、エンタメ系とかじゃなくてフツーに報道されててちょっと笑ったww





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2013/06/10 Mon. 18:45 [edit]

category: 第十四話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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