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第十四話 6 目覚め 

bandicam 2013-05-25 12-18-29-925



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王は、卓の上に広げた設計図を見るなり、その瞳に光を踊らせた。

「華城〈ファソン〉の築城には、十年はかかると思っていたが……この挙重機〈コジュンギ〉があれば、三年に短縮できるというのか?」
「さようにございます」

低頭するヤギョンに、王は少年のような興奮を隠そうともせずに何度も頷いた。精密に描き込まれた設計図を食い入るように眺める王の旺盛な好奇心は相変わらずだ。手にしていた煙草を口元に持って行こうとして、やっとそれが短くなっているのに気づき、慌てて灰皿で揉み消す。手早く卓上を片付けると、新しい煙草を巻き始めた。

そんな王に、まるで一時も我慢できないかのような性急さを感じたヤギョンは、ふと心配になって、言った。

「煙草はお控えください。お身体に障ります」

王は煙草を巻く手を休めることなく、答えた。

「煙草の方がましだ。余の言う事を聞かぬそなたよりはな」

その口調には、冗談めかした響きがあったが、逆にそれがヤギョンの懸念を募らせた。
王がぱらぱらと紙の上に落とした煙草の葉に、何か別のものが混じっていることに気付いたヤギョンは、思わず煙草入れの中身を確かめ、目を瞠った。

「陛下、これは罌粟穀〈おうぞくこく〉では───?」

罌粟穀は、鎮痛剤に使われる生薬である。阿片と同じく芥子の実から作られるそれは、中毒性があり、医師が患者への常用を控える劇薬だった。

「いつから……?いつからですか!」

思わず、相手が王であることも忘れ、声を上げていた。

「こんな薬を使わねば耐えられないほど、病状が悪化したと?」

内医院〈ネイウォン〉から、王の体調が思わしくないということは聞いていた。身体にできた腫れ物が原因で感染症を起こしているということだったが、ここまで強い薬を処方しなければならないほど重篤だったとは、ヤギョンは知らされていなかったのである。
信じたくない事実だった。自分たちが、いやこの朝鮮という国が、その舵を失おうとしているとは。
それはヤギョン個人にとっても、あまりにも大き過ぎる喪失だった。

「もう気づかれてしまったか」

悪戯が見つかった子供のように、王は小さく肩をすくめた。

「何故ですか。何故私にまでお隠しになったのです」
「───言ったはずだぞ。余に残された時間は、あと僅かだと」

王は顔を上げ、立ち竦むヤギョンを見上げた。

「余はあの者たちを……まだ待たねばならぬのか?」

まるで懇願するかのような王の表情に、ヤギョンは言葉を失った。
病のせいか、壮勇営という大部隊の陣頭指揮を摂っていたあのときの勇ましさはすっかり影を潜めている。
ヤギョンはようやく悟った。
王が密かに推し進めているこの計画が、おそらくは王の最後にして、最も大きな闘いとなる。
だからこそ、この闘いで全てに決着をつけなければならないのだ。
その勝敗の鍵となるのが───“金縢之詞”。

暫くの沈黙のあと、ヤギョンは重い口を開いた。

「陛下、1つだけ、お約束いただきたいのです。いつか、あの者達が過ちを犯すことがあれば……そのときはどうか、師である私だけに、罪を負わせてください」

ヤギョンの言葉に、王は僅かに微笑むと、言った。

「師匠が親代わりを買って出るというのに、王も負けてはおられぬ。約束しよう。あの者達の過ちが何であれ、罪には問うまい」

頭を垂れたヤギョンは、その声に決意を込め、ついに言ったのだった。

「明朝、あの者達と参ります。金縢之詞捜索の王命を───お下しください」


*   *   *


鳥の囀る声に、ジェシンは瞼を開けた。
身体が、鉛のように重い。左半身の傷は息をするたびに疼くように痛んだが、熱が引いたのか、頭は随分とすっきりしていた。
足元に布団が引っ張られるような重みがあった。目を遣ると、転がって眠っているヨンハが見えた。
何やら口元を動かしてぼりぼりと襟元を掻いている。呑気な寝顔だが、手に握っているのはジェシンの血で真っ赤に染まった手拭いだ。そのちぐはぐな感じが、ジェシンの脳裏に昨夜の記憶をはっきりと蘇えらせた。

───テムルはどうしたろう……。

ふと横を見て、どきりとした。
白い頬と、長い睫毛。
ユンシクの寝顔が、すぐ間近にあった。
結局昨夜はあのまま、中二房に戻らずにジェシンの横で眠ってしまったらしい。
一晩中熱にうなされながらも、汗を拭い、冷たい手拭いをあてがってくれる手があったことをジェシンは思い出した。
母の夢を見たような気がしていたが、違ったのだ。

あれは、あの優しい手は、お前だったんだな。

そう思いながら、じっとユンシクに見入っていたジェシンは、いきなりぴくりと何かに驚いたように目を覚ましたユンシクに慌てて、咄嗟に寝たフリをした。

身を起こす気配に、固く目を閉じていると。
ふわ、と額に触れる彼女の手を感じた。

じんわりとした温かさが、触れられた部分から広がっていく。言いようのない心地良さが、ジェシンの胸を満たした。
ほっと息をついた彼女は、起こさないようにという配慮なのだろう。そろそろと立ち上がると、音も立てずに部屋を出て行った。
薄目を開けたジェシンは知らず、その口元を緩めた。

斬り付けられ、泮村に戻ってくるまで、何度も意識が遠のきそうになった。その度に、頭に浮かんだのはユンシクの顔だった。
兄を失って以来、死を怖れたことなどなかった。だが、死んだらもう彼女に会えなくなる。あの声を聞くことも、笑顔を見ることも二度とない。そう思ったとき、死ぬのは嫌だと思った。
死への恐怖ではない。彼を成均館に辿り着かせたのは、ただその思いだった。
だから、塀を越え、焼けつくような痛みに呻いていた自分を助け起こしたのがユンシクだと気付いたとき───
一瞬、幻かと思った。死ぬ間際に天が見せてくれるという幻だと。

だが抱き締めたその幻には、確かな感触があった。彼女の甘い香りも。

───戻ってきた。テムルの元に。

そう思った後のことは、あまりよく覚えていない。ただ、自分の怪我に怯えるユンシクの涙だけは、何故か鮮明に記憶の底に残っていた。

だらしねぇな、とジェシンは苦笑する。こんなヘマをしでかして、あいつを泣かすなんて。

どうやって死ぬか、そのことばかり考えていた。だが誰かのために生きたいと思ったのは、それが初めてだった。





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2013/05/25 Sat. 12:20 [edit]

category: 第十四話

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