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第十四話 5 失意 

bandicam 2013-05-21 16-22-18-125

小指……ww

*****************************


盃を一気に煽ると、焼けつくような感覚が喉元を下っていった。味など判るはずもない。もとより、ソンジュンは今まで酒というものを旨いと思ったことはただの一度もなかった。
ましてや、うっかり飲み過ぎてしまった後のことを考えると、なるべく距離を置いておきたいのが正直なところだ。
だが今夜は、飲まずにはいられなかった。

享官庁で見たユンシクとジェシンの姿が、考えまいとしてもどうしても脳裏に浮かんできてしまう。
受けた衝撃があまりにも強すぎてとても眠れそうになかったし、かといって一晩中その光景に責め苛まれて、まともな神経を保っていられる自信もなかった。
酒の力を借りて自分を酔い潰すくらいしか、己を守る方法を思いつかなかった。

だが皮肉なことに、こんな晩に限っていくら飲んでも酔いが回ってこない。
ソンジュンは酒瓶を掴むと、盃から溢れるほどに注ぎ入れ、また煽った。
皮肉といえばこちらも皮肉だ。ユンシクに本心を打ち明けようとした矢先に、二人のあんな関係を知ってしまうとは。
男色と怖れられ、蔑まれて拒絶されるならまだいい。だが当のユンシクに、それさえも受け入れさせるほど想い合う相手がいたとあっては、ソンジュンには絶望しか残らない。
ほんの一縷の望みすら、最早跡形もなく打ち砕かれてしまったのだ。

─── 一縷の望み?

ソンジュンは自嘲した。いったいどんな望みがあったというのだろう。
彼に好きだと告白して、仮に万が一にも受け入れて貰えたとして、それからどうするというのか。
家族にも、世間にも背を向け、どこかでひっそりと二人、世捨て人のようにして生きるのか───?

一瞬、それはとても甘美な想像に思えた。だがすぐに、重苦しい罪の意識がソンジュンの心を覆った。
自分はともかく、ユンシクの将来を壊すことは絶対にできなかった。彼には、あれほど大切にしている家族もいる。彼に全てを捨てさせることになったら、そのとき感じるであろう痛みと後悔は今の比ではないだろう。

そう頭ではわかっているのに、心は情欲を捨てきれない。
どうして、自分ではないのだろう。
あのとき享官庁で、ユンシクを抱き締める腕が、飽くことなく見つめることのできる目が、自分のものであったなら。

他人を羨み、成り代わりたいなどと、かつて一片たりとも思ったことはなかったのに、キム・ユンシクが絡むといつもこうだ。愚かな感情に支配され、自分らしくない行動をとってしまう。

自分を偽るのはお前らしいことかと、ヨンハは言った。だが偽っているのではない。今の自分が、本来のイ・ソンジュンではないのだ。ユンシクの存在が、彼に向かう感情の全てが、その元凶だった。

遅い酔いがようやく回ってきたのかもしれない。思考はだんだんと支離滅裂になり、気怠さを纏った意識の中で、ソンジュンを嘲笑うかのようにいくつもの光景が断片的に浮かんでは消えた。
妓生の格好をしたユンシク、濡れて光る紅い唇、享官庁で抱き合う二人、白い頬に零れ落ちる涙───。

ソンジュンはまた酒を喉に流し込んだ。胃の腑に落ちていくのは苦々しさばかりで、それだけは何度杯を空けても変わることはなかった。


*   *   *


納屋に入ると、湿った藁と濃い血の臭いが鼻をついた。兵曹判書という仕事柄、ハ・ウギュにとっては慣れた臭いではあったが、やはり気分のいいものでない。
それが、目を掛けた人間のものであれば尚更だ。
これだけの代償を払いながら、あそこで紅壁書を取り逃がしてしまうとは。

苛立たしい思いを飲み下しながら、暗がりに向かって声を掛けた。

「ご苦労だったな。───チョソン」

闇に紛れるようにして蹲っていた黒衣が、僅かに身じろぎした。雲が晴れ、小窓から差し込んだ月明かりに端正な横顔が浮かび上がる。肩に巻かれた白い包帯と、滲んだ血の色が痛々しい。
非情な殺戮と強奪を繰り返してきた偽の紅壁書には、牡丹閣での、艶やかに着飾った彼女の姿は見るべくもない。だが、闇に縁取られたその横顔の稜線は変わらず美しかった。

「傷が癒えるまでは、座敷には出ない方がいいだろう」
「大監」

傷が痛むのか、震える声でチョソンは言った。

「約束は、必ずお守りください。手遅れになる前に、一度くらいは……人としてまともに生きてみたいのです」

チョソンの目に、僅かに光るものが浮かんだ。
それは十年間、刺客として密かに育ててきた彼女が、初めてウギュに見せた涙だった。


*   *   *

卓の上を、指先でコツコツと叩く音が室内に響いている。兵曹の報告を受けた左議政イ・ジョンムはじっと目を閉じたまま、先程からそうやって無言の圧力を発していた。
その緊張感といったら、只事ではない。向い合って座るウギュは、額に浮かぶ冷や汗を拭うことすらできずに、心臓を縮み上がらせていた。
やがて、ずっと一定の拍子を刻んでいた音が、ぴたりと止んだ。ジョンムは目を開けると、その手のひらを勢い良く卓上に叩きつけた。
思わず椅子から尻を浮かせたウギュは、どもりながら訴えた。

「テ、大監……それが、その、我々は確かに紅壁書を捕まえたと思ったのですが、その時、風のように現れた正体不明の剣士たちが、あっという間に」
「それは王が送り込んだ護衛だ」

え?と目を見開いたウギュに、ジョンムは続けた。

「王は、紅壁書を保護したのですよ。いいですか、兵判。王は、金縢之詞を捜しています。金縢之詞とは、息子を自ら死に追いやった先王が、悔恨の念を綴ったもの。もしも金縢之詞が見つかったとしたら、我々老論は逆賊となる」
「しかしながら、金縢之詞はもうこの世には存在しておりません。それは大監も、よくご存知のはずです」

まだそんなことを、とジョンムは憤りも露わにウギュを凝視した。

「金縢之詞を語る紅壁書は、成均館の学生です。王が足繁く通い、チョン・ヤギョンを送り込んだ、あの成均館。これで、おわかりか」

ウギュは、大監、と言ったまま一言も発せずに唾を飲み込んだ。
金縢之詞がまだどこかに存在しているというのか?あのとき確かに目の前で灰になったはずの金縢之詞が。
そんな恐ろしいことが、本当に?

未だ状況を把握できずにいるウギュに構わず、ジョンムは低く押し殺した声で、独り言のように呟いた。

「私が真に恐れているのはその後です。我々を逆賊とし、朝廷から追いやった後に、王は一体、何を成そうとしているのか……」

こうしている間にもおそらく、事は刻々と動いている。宮殿の奥深くで、そして成均館で。
ジョンムは眦を険しくしたまま、深く息を吐き出した。






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2013/05/21 Tue. 16:34 [edit]

category: 第十四話

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