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第十四話 3 潜伏 

bandicam 2013-05-15 03-50-48-706
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子の刻が過ぎた。インスは、彼の配下が構内を奔走しているにも拘わらず、紅壁書発見に至っていないことに業を煮やしていた。

おそらくは何処かの建物に入り込み、身を潜めているに違いないと踏んだ彼は、ビョンチュンらを引き連れて北の外れ、享官庁へと足早に向かっていた。

紅壁書は絶対にそこにいますよ、とビョンチュンは自信満々に請け負った。怪我を負っているなら、止血に使える煙草の葉や灰を求めて享官庁に行くはずだというのがその理由だった。

享官庁に着いた一行は早速、くだんの建物から出てくる人影を見た。落ち着きなく辺りを伺いながら足音を忍ばせて歩いて行く様子は明らかに怪しい。

インスがそちらに向かい顎をしゃくると、影のように付き従っていたカン・ムが素早く動いて、男を捕らえた。
男は、驚いて小さく声を上げ、胸に抱えていた風呂敷包みをぎゅっと抱き締めた。
自分たちと同じ儒生服を着てはいるが、見たことのない顔だった。年齢はおそらくアン・ドヒョンとそう変わらないだろうと思われた。

「何者だ」

インスが問うと、男は怯えた顔で答えた。

「わ、私は医者です!いきなりわけも分からず連れて来られて、目隠しされたと思ったら、怪我人の手当をしろと……」

最後まで聞かず、インスは享官庁の扉を開け、中へと足を踏み入れた。
ビョンチュンとコボンも、あたふたとそれに続く。だが静まり返った享官庁に、人の気配はなかった。

「掌議!」

床に何かを見つけたらしいコボンが、それを拾い上げ、差し出した。
見覚えなど無くてもわかった。こんな、妓生が好むような派手な図柄の扇子を持ち歩く男など、この成均館には一人しかいない。
インスは口の端を微かに上げ、呟いた。

「……ヨリムの扇子か」
「まさかヨリムが紅壁書じゃありませんよね?」

興奮気味にそう言ったコボンの頭を、ビョンチュンが小突く。

「そんなわけないだろ。奴は武闘派じゃない。話になるか」
「高度な偽装戦術かもしれないじゃないか。三国志にだって……」

何が三国志だ、とビョンチュンは鼻で笑ったが、急にはっとしてインスを振り返った。
偽装戦術。そうだ。ヨンハなら有り得ないことではない。そんなはかりごとは、あの男の最も得意とするところではないか。

怪我人は黒い覆面をしており、医者はその顔を見ていないという。左上腹部にあった刀傷は、さほど深くはなかったとはいえ、出血が酷く、あのまま放っておけば危なかったかもしれない、とも言った。

広げていた扇子を閉じ、インスは言った。

「東斎へ行くぞ」


*   *   *


いきなり、何の前触れも無しに扉が開いた。無遠慮にどかどかと室内に入ってきたのはインスと、その手下たちである。
大義と名分の前には礼などあったもんじゃないか、と思いながら、ヨンハはわざと大きな欠伸をした。

「こんな夜更けに何の用だ?」

インスはしばらく部屋の中をゆっくりと歩きながらあたりを睥睨していたが、やがて文机の前に座るヨンハを見下ろし、言った。

「お前の好きそうな面白い話を持ってきてやった」

「そう?」とヨンハは眉を上げた。

「それは楽しみだな。是非聞かせて貰いたいもんだ」

そう言うと、インスは薄く笑みを浮かべた。

「実はついさっき、紅壁書が官軍に斬られ、この成均館に逃げ込んだのだ。私たちは丁度、逃げるように享官庁から出てきた医者を見つけてね。聞けば、誰かに頼まれて斬られた男の治療をしたと」

目を丸くしたヨンハが、インスを見上げる。

「紅壁書に仲間がいたのか。そいつは意外だ」
「私も大いに驚いたよ。医者は、自分たちが出て行った後に頃合いを見計らって帰れと言われたから、奴らがどんな連中で、何処へ行ったかまではわからないそうだ」
「なるほど」

感心したように頷いていると、インスが文机の上に何かを放った。ヨンハは頬杖をついたまま、それをつまみ上げた。さっきまで彼が襟元に挿していたはずの扇子だった。

「それは、お前のだろう?ヨリム」
「何処でこれを?」
「享官庁に落ちていた」

ヨンハは密かに息を呑んだ。インスが腰を落とし、ヨンハと目線を合わせて問う。

「───あそこで何をしていた?」

ヨンハが黙っていると、ならいい、とばかりインスは腰を上げた。ヨンハが背にしている屏風にちらと目を遣り、手を伸ばす。と、弾かれたように立ち上がったヨンハがインスの前を塞いだ。
インスの血走った目が、ヨンハを刺すようにねめつける。
ヨンハは咄嗟に、「いてて」と呻いて腹を押さえた。
目を剥いたインスは、素早くヨンハの上衣をめくり上げた。
だが当然、手当てしたばかりの刀傷など現れるはずもない。そこには、色白のつるりとしたヨンハの腹があるばかりだった。
ぷっ、と吹き出したヨンハは、声を上げて笑い出した。

「まさかこのヨリム、ク・ヨンハが紅壁書だとでも思ったのか?掌議。認めてやるよ。面白い話だった。引き続き頑張ってくれ」

ぽんぽん、と手にした扇子でインスの肩を軽く叩きながら、ヨンハは言った。

「この扇子は、焚き付けに使えと斎直に渡したんだが。きっと享官庁で落としたんだな」

インスがきりりと唇を噛んだ。踵を返したその背中に向かい、「おい」と声を掛ける。

「今夜はもう隠れんぼはやめて寝たらどうだ?お前の明晰な頭脳が、まともに機能してないだろ。失った掌議の名誉を一刻も早く取り戻そうと、必死で」

ゆっくりと振り向いたインスは、言った。

「……隠れんぼは終わりか。確かにそうだ」

いきなり、インスはヨリムを押しのけたかと思うと、その背後にあった屏風を倒さんばかりの勢いで引き開けた。
そこにあったのは、積み上げられた赤本───つまり、春本の数々だった。
あーあ、見つかっちゃった、とこめかみのあたりを掻きながら、ヨンハは笑った。

「紅壁書とは無関係だって、何度も言っただろ」
「───私も忠告しておこう、ヨリム」

激高する感情をどうにか抑えているのだろう。握り締めた拳を微かに震わせながら、押し殺したような声でインスは言った。

「これまでの付き合いに免じ、今日は勘弁してやる。だが、二度と私を侮辱するな。私は、二度目は絶対に許さん。それはお前とて例外ではない。忘れるな。───ク・ヨンハ」






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2013/05/15 Wed. 03:53 [edit]

category: 第十四話

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