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第二話 1 雨音 

 地面が唸るような官軍の足音が遠くなり、やがて消えた。
 岩肌や木の葉を叩く雨の音が、耳に戻ってくる。
 張り詰めていた緊張からようやく開放され、ソンジュンは小さく息を吐き出した。
 そのときになってやっと彼は、自分が腕の中にしっかりと抱きかかえているものの存在を思い出した。

 知らず、力が入っていたのかもしれない。口を塞いでいた手を下ろした後も、巨擘の少年は大きく目を見開いたまま、彫像のように身体を固くしている。
 何か言おうと口を開きかけたソンジュンもまた、そのまま動けなくなってしまった。

 間近にある彼の肌が。
 そこだけ光を溜めたように、白い。
 こんな暗がりの中では有り得ないことだが、そのつややかな光沢にソンジュンは眩しさを感じてしまったのだ。
 絹織物のような滑らかな頬と、そこに薄く影を落とす長い睫毛。小さな唇。
 ソンジュンの片腕にすっぽりと入ってしまう華奢な肩は、微かに震えている。
 吐息が、ソンジュンの喉のあたりにふわりとかかったとき、全身が総毛立った。瞬間、腕の中の彼が男であることを忘れ、胸がどくんとひとつ、大きな音をたてる。

 少年が、ぎこちなく身体を離して、言った。

「───窒息死するかと、思った」

 一瞬とはいえ、男相手に胸を高鳴らせてしまった自分が恥ずかしく、ソンジュンは彼の肩を抱いていた腕を さっと引っ込めた。

「少しは状況を考えろ。おかげで危なかったじゃないか。だいたい、どうしてまだここにいたんだ」
「金だよ」

愚問だとでも言いたげに、少年はあっさり答えた。

「あんたは本を受け取った。なら、代金をもらわなきゃ」

ぱっ、と広げた手を突き出す。

「50両。今すぐ払ってくれ」

 ソンジュンはげんなりした。ぱっと見には、どこぞの国の太子といっても通りそうなくらい、高貴な顔立ちの美少年なのに、口を開くとこれだ。
 こんな線の細い、見るからに儚げな少年が、僅かな金のために危ない橋を渡っていることがソンジュンには信じられなかった。

 雨は、さっきよりかなり小降りになっている。ソンジュンは岩陰から立ち上がると、ぐっしょりと濡れそぼった道袍の袖を軽く振った。

「悪いが、今は払えない」

は?と慌てた少年が、岩陰から出てきてソンジュンの腕を掴んだ。

「なんでさ?まさかどこかで落としたのか?」
「覆試のときに必ず渡す」

 ソンジュンの腕を掴む少年の手に、ぐっと力がこもった。

「あんたの家まで取りに行く。案内しろよ」

 まったく、どこまで金、金とうるさいんだ。ソンジュンは少年の手を振り払った。

「僕はイ・ソンジュンだ。たかが50両を惜しんで嘘はつかない」
「”たかが50両”……?」

 少年の顔から、一切の表情が消えた。ソンジュンの言葉が余程気に障ったのか、急に黙りこんでしまう。
 勢い込んで、ソンジュンは言った。

「男同士の約束だ。必ず渡す。だから、試験場に来い」
「科挙なんて受けない。試験場にも行かない。明日までに必ず、貰冊房に届けろ」

 ぴしりと音をたてそうなほど冷たく、少年は言った。ソンジュンの顔を見ようともせず、そのまま立ち去ろうとする。

「名は?誰宛に、預ければいいんだ?」

 少年は振り返った。雲間からゆっくりと姿を現した月が、その白い肌を淡く照らした。

「───キム・ユンシク」

 彼が口にしたその名を、ソンジュンは胸に刻みこむ。キム・ユンシク。

「科挙を受けろ、キム・ユンシク。学識で権力を買う者を愚かだと蔑むなら、君が出仕すればいい。民のための政治を望むんだろう?なら、その志を僕の衣じゃなく、試巻に書け」

 ユンシクの黒い大きな瞳が、瞬きするのも忘れたようにソンジュンを見ている。

「巨擘にしておくには、惜しい文才だった」

 そうなのだ。ソンジュンが通っていた学堂にも、あんな詩文を書く者は誰一人としていなかった。己の自尊心を傷つけられたというのに、腹がたったのはほんの一時だけだった。
 この自分が、唸らされたのだ。キム・ユンシクという名の、少年の才能に。

「───ぼくは南人(ナミン)だ」

 表情を強ばらせたまま、ユンシクは口を開いた。

「貴賎や党派に関係なく、実力さえあれば官職に就けるって……そう思ってるのか?科挙に受かれば、誰でも自分の志を全うできるって、本気で?」
「ユンシ…」
「ぼくは!」

 ソンジュンの言葉を遮り、彼は震える声で言った。

「ぼくは、この朝鮮がそんなにご立派な国だとは思わない」

 くるりと背を向け、去ってゆく小さな背中。 
 
 何も言えなかった。ユンシクがぶつけてきた激しい怒りに胸を突かれ、そぼ降る雨の中、ソンジュンは立ち尽くしたまま、動くこともできなかった。






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2011/08/07 Sun. 04:01 [edit]

category: 第二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 阿波の局さま

原作はお互いに一目惚れっぽいカンジですよね(^^)ソンジュンは最初からユニにベタ甘だし。
初めは反発しあってた者同士が次第に~ってとこに韓国ドラマのカタルシスがあるわけで、そこはやっぱし外せなかったんでしょうね~。

ユニはドラマ終盤になるにつれてどんどん漢(おとこ)らしく、ソンジュンはどんどん壊れていくのがこのドラマのステキなとこです(笑)

あまる #- | URL
2013/01/29 02:21 | edit

このあたり、まだまだユニはソンジュンに敵対心いっぱいですよね。
(原作のユニは、初めからソンジュンにぞっこんですが。)

男装のユニはとても凛々しくて、私は大好きです。

阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/28 21:05 | edit

Re: 物価の謎

なんとなく感覚的には1両=10000円くらいかなぁとか思ってたんですが。
50万くらいだったら、ボンボンにははした金だろうけど、貧乏人には大金ですよねぇ。
科挙の首席合格用カンニングペーパーも確か50両だったな……うむむ~

あまる #- | URL
2012/05/04 01:33 | edit

えっと、、たかが50両!なんですか??
ユニちゃんは100両の為に身売りさせられる所なのに??
ってことは、禁書2冊分??
うーむ・・・・ 貨幣価値がさっぱりわからない。

この国の格差を突きつけられたイ・ソンジュン君子。
世の中には知らないことがまだまだ沢山あるんだよ。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/03 11:43 | edit

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