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水月 16 

番外編の更新です。
中途半端に長くなっちゃったので、本日は2回に分けていっぺんにアップします。
多分18話で完結すると思います。長らくのお付き合い、ありがとうございました~。
********************************


香蘭閣の門を一歩出た通りは、夜歩いたときとは違い、行き交う人々で溢れていた。裏通りと言っても、雲従街であることには変わりないのだ。

ここ数日の陽気のせいで、路面は乾ききり、土埃が風に舞っていた。店の軒先に吊るされた貝殻の風鈴も、大きく煽られてうるさく音をたてている。
春は凍てついたものがほころび、花や木々が芽吹くいい季節だが、この、たまに吹く突風だけはいただけない。
どこかで塀の瓦が落ちて割れる音や、店先の天幕がたてるバタバタという音は、ユニを不安にさせた。
安穏とした日々に油断していると痛い目にあうぞ、と警告されているような気分になる。
それを裏付けるように、強い風が吹いた翌日は大抵、冬に逆戻りしたかのような寒さがやってくるのだ。

ユニと並んで歩きながら、スウォルはぽつりぽつりと今に至るまでのことを話した。
画員だった父を亡くし、同じく画員をしていた父の友人に引き取られ、育てられたこと。その家の長男が亡くなり、跡継ぎとして絵を叩きこまれ、図画署に入ったこと。
そこで師匠、壇園と出会い、御真画師の助手を務めるまでになったものの、女であることが王やその側近たちに知られることとなり、師匠や王に迷惑がかかる前にと、一人図画署を出たこと───。

「師匠の描かれた先王の御真影は、それは素晴らしいものでした。ただ彩色を手伝ったに過ぎないわたくしのせいで、あの絵が葬り去られるのは何としても避けたかったのです」

そう話すスウォルの表情には、後悔らしきものは見当たらなかった。おそらくは数百年先まで残り続けるであろう、師匠の作品を守った誇らしさがあるだけだった。

「じゃあ、親臨試のとき、貴女はあの場にいたんだね。図画署の画員として」

科挙の様子を事細かに記録する画員たちが、試験場の隅にいたことをユニはおぼろげながら思い出した。
考えると不思議な感慨を覚える。
あの日同じあの場所に、男装した娘が二人、人知れず紛れ込んでいたわけだ。

スウォルは頷くと、どこか遠いところを見つめる眼差しで、言った。

「おそらくはあのとき、若様が女だと気付いたのはわたくしだけだったでしょう。わたくしだから判った。わたくしだけが、あなた様を見つけられた。そう思ったときにはもう、その綺麗な学士様から目を離すことができませんでした。その後、あなた様は成均館に入られ、わたくしは図画署を出て、二度とお会いすることはないだろうと思っておりましたが……ある日偶然、筆洞であなた様をお見かけして、居ても立ってもいられず、あのような手紙を」

そうだったの、とユニは静かに言った。
かつてあの手紙が原因でソンジュンと一悶着あったわけだが、であれば、手紙を貰ったユニ本人よりも、一目見るなり恋文だと断じて不機嫌になったソンジュンの方が余程、あの文〈ふみ〉に込められた想いを理解していたことになる。
やっぱり自分は情緒に欠けた人間なのかもしれない、とユニは少しばかり落ち込んだ。

「わたくし、近く清へ行くことになりました」

唐突に、スウォルがそう言った。
「えっ?」と驚いて訊き返したユニに、彼女は明るく微笑んでみせた。

「知り合いの商人があちらで商売をするというので、しばらくは仕事を手伝いながら、絵を学ぼうかと」
「どうしてそんな、急に」

咳き込むようにして尋ねると、スウォルは吹く風に目を細めた。
女笠〈チョンモ〉から垂らした白い薄絹がはためき、彼女の頬と首筋を露わにした。陽の下で見る彼女の肌は自ら光を放っているようで、眩しかった。

「以前から、考えていたことではあったのです。でもなかなか、踏ん切りがつかなくて。決心できたのは、あなた様のお陰です」
「そんな、ぼくは何も」

ユニが戸惑った声を出すと、スウォルはかぶりを振った。

「いいえ。わたくし一人ではきっと、絵師にはなれず、かといって女にもなれず、中途半端なまま、諦めてしまっていたでしょう。いつかわたくしが、シン・ユンボクではなく、ソ・ユンとして絵筆を握ることができたなら、そのときはこの朝鮮の女たちの生き方も、少しは変わっているかもしれない……。そう思えたのは、あなた様がいらしたからですわ」

ユニは立ち止まり、スウォルの方を向いた。スウォルも足を止め、ユニと向かい合った。

「ソ・ユン……それが、貴女の本当の名前なんだね」

はい、とスウォルは頷いた。

「ぼくは……いえ、私は、キム・ユニ」

キム・ユニ、ソ・ユン、と飴玉を口中で転がすように呟いて、スウォルは微笑んだ。

「まるで、姉妹みたいな名前ですね、わたくしたち」
「そうだね」

互いに、ふふっと笑い合った。
風になびく、スウォルの白い薄絹と、丁度今の時分の空にも似た、浅縹〈あさはなだ〉のチマの裾。
その色を、これから沈丁花の香る季節が来る度に、きっと思い出すのだろう。
素直さは強さだと言った、彼女の言葉とともに。

頬に吹きつける風にむしろ心地良ささえ感じながら、ユニは、大きく息を吸い込んだ。








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2013/04/18 Thu. 06:37 [edit]

category: 水月

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