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水月 14 

番外編の続きです。

ここんとこ本編でも番外編でもヨリム先輩大活躍(笑)
**********************************

柔らかな風が、ソンジュンの鼻先に甘い香気を運んできた。
ふと見ると、塀の傍の植込みで、腰の高さほどの沈丁花の木が、薄桃色の手毬のような花を幾つも咲かせていた。

───桜もとうに終わったというのに、随分としぶといんだな。

可憐に咲く花には罪はないが、この香りから連想するものにあまりいい感情を持っていない、いや、はっきり言うとかなりの嫌悪感を抱いているソンジュンである。
以前、ユニが妓生から貰ったという恋文に焚きしめられていた香り。そしてスウォルからも、同じ香りがしていた。
妙な符合だと思った。まさか同じ人間だということはないだろうが───。

(いや、有り得ないことではない……のか?)

女人の香のことなどよく知らない。あれが妓生たちの間ではありふれた香であるかどうかもソンジュンにはわからない。ただ胸騒ぎというか、勘みたいなものが、ソンジュンの意識を捕まえて離さないのだった。

「カラン?」

気付くと、いつの間にか近くに来ていたヨンハが、興味深いものでも見るかのように目をぱちぱちとさせて、彼の顔を覗き込んでいた。
どうやら考えているうちに、眉間に皺が寄っていたらしい。
庭の片隅にじっと立ち止まり、険しい顔で沈丁花を睨みつけている様は、確かに端から見れば正気を疑われても仕方が無いといえた。

「何か?」と訊くと、ヨンハはそらっとぼけたような表情で「いや、何も。テムルは?」と言った。

「筆洞に用があるとかで、出掛けました」
「仕事か?」
「たぶん……」

講義中、どこか上の空だった彼女がずっと気になってはいた。だが講義が終わるなり、鉄砲玉のように慌ただしく出て行ったので、詳しく訊く暇もなかった。

「何だ?珍しくはっきりしないな。確かめなかったのか?」
「あまり詮索しすぎるのも、どうかと思ったので」

無理しちゃって、とヨンハは意地悪く笑った。

「稀代の堅物、イ・ソンジュンも婚約者に煙たがられるのは怖いと見える。だが、そんな無理は長くは続かないぞ。仕事を持つ女を妻にする気ならな」
「……どうしてそれを」
「王がお前たちに会いに来たって聞いたからさ。これで大科の準備も身が入るってもんだ」

ぴたりと立ち止まったソンジュンは思わず、ヨンハの背中をまじまじと見つめた。

「まさかとは思いますが……先輩、陛下に何か上奏を?」

ヨンハは振り返ると、白い歯を見せて にっ、と笑った。

「いやあ、今更だが成均館掌議ってのはすごい立場だね。この私に、王がすんなり会ってくださるんだから」

やっぱり、とソンジュンは思わずヨンハの腕を掴んだ。

「陛下に、何を言ったんです」
「別に。蕙園の絵と、スウォルの書を見せて、壇園先生の証言を取る準備はしてある、って言っただけさ。半分ハッタリだったけど」
「どういうことですか」

詰め寄るソンジュンに多少戸惑いつつも、ヨンハは説明した。

「蕙園が図画署を出たのは、壇園が手掛けた先代王の御真影を守るためだったんだよ。当時、彼女は御真画師である壇園の助手を努めてた。御真影の製作を命じた王がその時は知らなかったとはいえ、亡き先代王の尊い御真影を女に手伝わせたとあっては、今上を引きずり降ろそうと常に機会を窺ってる老論僻派の格好の餌食になる。つまり、王の立場を危険に晒さないために、蕙園は朝鮮の芸術界から姿を消したんだ。永遠に」

「そんなことが……」ソンジュンは目を見開いたまま、半ば呆然と呟いた。

「壇園は王の忠実なる臣下だ。口を割ることは絶対にない。だが彼は、愛弟子の将来を潰してしまったことに死ぬまで苦しまなきゃならない。それはそれで、重い罰だ」

こんな妓楼で絵を描き、客の全てを暴き出すことが真実かと問うたとき、僅かに動揺を見せたスウォル。
あのときの彼女の顔を、ソンジュンはよく思い出せない。だがおそらくはその心中に、かつて御真画師の助手を務めるほど輝かしい地位にあった自分が去来したであろうことは想像に難くない。
ユニとのことがあったからとはいえ、思えば酷なことを言ってしまった、とソンジュンは複雑な気持ちになった。
絵師としてあれほどの腕を持ちながら、座敷で客を相手に描くしかない彼女が哀れだった。

しかし、とソンジュンはヨンハに幾分厳しい目を向けて、言った。

「それでは、先輩のしたことは、陛下にとっては脅しも同然では」

するとヨンハは、立てた人差し指を左右に小さく振って異を唱えた。

「いいか、カラン。この国の歴史上、成均館の儒生たちが自分たちの意見を通すためにやってきた儒疏〈ユソ〉ってのは、王にとっちゃ立派な脅しだ。それに比べれば、可愛いもんさ」

何気なく、庭の隅に視線を投げる。そこには、先程ソンジュンが睨みつけていた沈丁花があった。

「沈丁花の実には毒がある。だからといって怖れているままだったら、その花の煎じ汁が薬になることは永遠に判らなかった。蕙園やテムルの存在は、王にとっては毒かもしれない。だが、薬になる可能性もある。昔の薬師にできたことが、王にできないはずはないだろ?」
「それを……陛下に言ったんですか」
「まあね。ああ、あと、庶子の登用を断行して、能力ある人材を護ろうとなさった方が、女人の才能は見捨てるのかとも言ってやった。蕙園の一件は、陛下にとってもきっと苦い後悔があったんだと思うよ。同じ間違いは繰り返さないはずだ」
「───先輩」

ふいに胸が熱くなるのを感じて、ソンジュンはヨンハをがっしりと抱き締めた。驚いたのはヨンハだ。
自分はやっても、まさかソンジュンにそんなことをされるとは思ってもみなかったのだろう。「なんだ、どうしたカラン。具合でも悪いのか?」と珍しく狼狽えた声を出した。
ソンジュンはヨンハを抱き締めたまま、言った。

「斎任の先輩たちがヨリム先輩の掌議解任を訴えたら、僕はどんな手を使ってでも阻止します」

一瞬、きょとんとしたヨンハだったが、やがて彼はその頬に苦笑いを浮かべて、言った。

「それは困ったな。そろそろ掌議って呼ばれるのにも飽きてきたとこだったのに」




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2013/04/13 Sat. 01:19 [edit]

category: 水月

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