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第十三話 11 ヨリムの涙 

bandicam 2013-04-12 14-15-49-093
*************************************


「今、何とおっしゃいました?令監〈ヨンガム〉」

正録庁。目の前に座る大司成を見据え、インスは低く尋ねた。
大司成は躊躇なく繰り返した。

「杖打大会での暴力行為の責任を問い、向こう半月間、ハ・インスの掌議の権限を停止する」
「杖打大会では」

大司成の言葉に被せるように、インスは言った。

「毎年負傷者が出ます。今日の件も、例年と同じです」
「左様。毎年、諍いがあれば罰を受けた。成均館掌議の名においてね」
「───私が、兵曹判書の息子だからですか」

インスの頬に、皮肉めいた笑みが浮かんだ。

「たかが兵曹判書の息子の分際で、左議政の息子に怪我を負わせたので、このような罰を?」

仮にも教育者だ。学生に向かいあからさまに肯定するのは流石に躊躇われるらしく、大司成は肉のだぶついた顎を引いて返事に窮した。
と、代わりに「そうだ」と答える声がインスの背後から聞こえた。ゆっくりとした足取りで室内に入ってきたのは、チョン博士だった。

博士はインスの横に立つと、厳しい声で言った。

「いくら兵曹判書の息子でも、そして掌議でも、成均館の学生なら皆過ちを犯せば罰を受けることを、我々は民に示さねばならない。忘れるな。成均館の学生たちを養っているのは、君たちの親ではない。この国の民だ。その民の前で、成均館の名誉を汚した。それが今日、君の犯した最大の過ちだ」

インスの表情から、笑みが消えた。彼は憎しみの込もった目でチョン博士を睨み返した。その両の拳は、血の気を失うほど固く握り締められていた。


*   *   *


その夜、雲従街は物々しい空気に包まれていた。この日のために増員された官軍兵が街の至る所に配備され、鼠一匹見逃すまいと目を光らせている。

その中には、兵曹判書ハ・ウギュもいた。その顔の深い皺が刻む影と、篝火の火明かりが交錯し、不気味に揺らめく。
ウギュは微動だにせずに、待っていた。獲物が、確実に網の中に入るのを。

一方の成均館は、チョン博士の指示のもと、儒生たち全員に外出禁止令が出された。戌の時を過ぎる頃には、書吏たちによって館内の全ての門が固く閉じられた。

「誰も外に出すな。無断で外出しようとするものがいたら、必ず私のもとに連れてくるのだ」

チョン博士の険しい表情と張り詰めた声に、書吏たちの間にはピリピリとした空気が漂った。どうやら今夜は寝ずの番になりそうだ、と彼等は腹をくくった。

植込みの陰に身を潜めたジェシンは、小さく舌打ちした。
何処もかしこも見回りの書吏がうろうろしていて、清斎から大成殿前の広場へ抜けることすら容易ではなかった。こんなところで手間取っていたら、予告の時刻を逃してしまう。

書吏が背中を向けた隙に、ジェシンは植込みから素早く飛び出して塀を蹴った。あと一つ越えれば外へ出られる、と顔を上げた彼の目に、ひらりと夜風になびく薄紫の道袍の裾が見えた。

「どこへ行くのかな?コロ」

ヨンハが、あのいつもの人を食ったような笑みを浮かべて立っていた。
よりによって面倒な奴に、とジェシンは返事もせずにあらぬ方向へ視線を投げた。

「博打なら相手になるし、酒なら、部屋にたっぷりあるぞ」
「お前は弱すぎんだよ。賭けの相手になるか」

立ち去ろうとしたジェシンの肩を、ヨンハが掴んで引き留める。
さっきまでとは打って変わった、低く押し殺した声で、彼は言った。

「紅壁書の予告状は、本物をおびき寄せるためのエサだ。連中の狙いはお前だぞ」
「お前……」

言いかけた言葉は、掠れて消えた。
知っていた?何故、いつだ?
そんな問いばかりが、ほんの刹那に目まぐるしくジェシンの脳裏を駆け巡った。

「知らないとでも思ってたのか?この俺が、十年来の友人の文体も見抜けない間抜けだと?」

瞠目したまま動けないでいるジェシンに向かい、微かに語尾を震わせて、ヨンハは言った。頬を歪めた彼の顔は笑っているようにも見えたが、そこにはいつもの軽さは微塵もなかった。

言われてみれば確かにそうだ、とジェシンはむしろ自分の間抜けさが可笑しくなった。
この男はク・ヨンハだ。バレてないと思い込む方がどうかしている。

「行くな。お前、今度こそ死ぬぞ」

鼻で笑って、ジェシンは言った。

「死ぬことなんて、別に怖くはないさ。生きててもつまんねぇしな」

いきなり、ヨンハの拳がジェシンの左頬に飛んだ。やさ男の割には、結構効く一発だった。ジェシンは重心を失い、傍らの塀に思わず手をついた。

「死んだほうがマシだってのか?なら、俺の立場はどうなる?」

ヨンハは、泣いていた。両の目からとめどなく涙を流しながら、彼は吐き捨てるように言った。

「行けよ。そうやって思うままに生きて、勝手に───消えちまえ」

ジェシンは奥歯を噛み締めた。殴られた頬よりも、瞼の裏が熱かった。込み上げて来るものを懸命に堪え、彼は言った。

「なら、兄貴が命がけで明かそうとした真実が、偽者のせいで汚され、忘れ去られるのを、黙って見てろってのか?しかも原因は俺だ。奴らを見過ごしたら───生きてても意味はないんだ」

ヨンハはもう何も言わなかった。

止めても無駄なんだな。

そう、彼の目は言っていた。

「心配すんな。無傷で戻ってきてやるよ」

ジェシンは踵を返した。全てのものを振り切るように、彼は走りだした。


*   *   *


「何者だ!」

官軍兵が、語気鋭く誰何する。今にも、庭先の闇に溶け込もうとしていた黒装束が振り返った。
賊は、たった今盗み出したのだろう荷を、どさりと地面に投げ落とした。背中の太刀が、鞘の内側をこする嫌な音をたてて引き抜かれた。

月明かりの下、数本の三叉槍と太刀が互いの切っ先を突きつけ合う。冷たい光が、空気を切り裂いた。硬い金属音が火花とともに散った。太刀を弾き返したのは、暗がりから飛び出してきたもう一人の紅壁書だった。
官軍兵たちは、申し合わせたようにその場から退却した。ぱっ、と飛び退き、対峙する二人の紅壁書。だが彼等の体格の違いは明らかだった。後から来た紅壁書に比べると、もう一人は痩身のせいか幾分小柄に見えた。

覆面の間から覗く四つの目が、じりじりと間合いを図りながら睨み合う。小柄な方のつま先が、地面を蹴った。数度の打ち合いの後、振りかざした太刀が断ち切ったのは、相手の残像だった。振り向きざま、白く閃いた刃が小柄な方の肩を薙ぎ払った。血飛沫が飛び散り、乾いた土の上に雨のように降り注いだ。

短い喘鳴を喉から漏らして、斬られた方は近くにあった篝火を蹴倒した。燃えさかる炎と舞い上がる火の粉を避け、二人目の紅壁書───ジェシンは、走り去る偽の紅壁書を追った。

そして裏門から出たところで、ジェシンは今まさに自分が、兵曹判書の張った網の真ん中に飛び込んだことを悟った。
そこでは、数十名に及ぶ官軍兵が、鑓や太刀を手に幾重にも彼を取り囲んでいた。






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2013/04/12 Fri. 14:22 [edit]

category: 第十三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

>「無傷で戻ってきてやるよ」のところで初めてコロが「ク・ヨンハ」と本名で呼ぶのだとか。

言われてよっく聞いてみれば確かにそれっぽい(笑)
コロは普段ヨンハのこと名前で呼んだりしないんですね。って、ソンジュンやユニにもそうか。

あまる #- | URL
2013/04/17 18:36 | edit

ヨンハの涙

韓国TVドラマガイドの高橋尚子さんの解説によると、
「無傷で戻ってきてやるよ」のところで初めてコロが「ク・ヨンハ」と本名で呼ぶのだとか。
字幕では省かれてるって書いてありましたが、語学が苦手な私には聞き取れないのでした。残念至極(T_T)

あらちゃん #- | URL
2013/04/17 01:29 | edit

Re: ともさま

ご無沙汰ですー(^^)何かとお忙しかったんですね。
お疲れ様でした。もう落ち着きましたか~?

ヨンハの涙のシーンは、初めて見たときはちょっと感動しました。
あの!ヨンハがポロポロ涙こぼして泣いてんだものー(>_<)

>٩(இ ⌓ இ๑)۶
この↑顔文字にもちょっと感動しましたが(笑)こんなのあるんだー。最早アートだわ……。

あまる #- | URL
2013/04/16 00:40 | edit

お久しぶりです٩̋(๑˃́ꇴ˂̀๑)

更新お疲れ様です!
年度末、年度始めは忙しいですね。
やっと平常通りの生活に戻れそうな感じですが、いろいろ疲れました〜

今日は、疲れを癒しにてんちか堂にお邪魔しました♪

ヨンハの涙。。。大好きなシーンです。
ジュンギ君の演技とヨンハのキャラ
ホントに綺麗な涙だったな٩(இ ⌓ இ๑)۶
ジェシンへの愛がビンビン伝わって来ました。

あまるさまの妄想入りのソンス大好きですよ♪
むしろもっと織り込んでもらっても♡

とも #- | URL
2013/04/15 21:42 | edit

Re: じゅさま

初コメありがとうございますー(^^)
ご訪問いただけて嬉しいです。とっ散らかったブログですが楽しんでいただければ幸いデス。

> テレビで随分カットされてるシーンがあるんだなと再確認。

そぉなんですよ。しかも悪徳四人組とかのどーでもいいとこじゃなくて、萌えシーンばっかりバッサバッサカットされてたんですよね(^^ゞ
完全に踊らされてる消費者ですσ(゚∀゚ )オレ

テレビでカットされてたとこはもちろんこちらではバッチリと(笑)書いてますが、ときどきディレクターズカット版にも一切存在しないワタクシの妄想が紛れ込んでたりもしますので、ご注意くださいまし。
今後共よろしくお願いします~

あまる #- | URL
2013/04/14 01:34 | edit

初コメです。

昨日はブロとも承認ありがとうございました!
やっと追いつきました〜\(^o^)/

本編も番外編もすっご〜く楽しませていただいてます。
テレビで随分カットされてるシーンがあるんだなと再確認。
でも、あまるさんのお話で満足しかけちゃってます(笑)

本編も番外編もドキドキしながら続きを楽しみにしてます♡

じゅ #- | URL
2013/04/13 18:04 | edit

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