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第十三話 9 偽りと沈黙と 

bandicam 2013-03-20 15-51-14-017
***********************************


正録庁の前庭に佇んでいた左議政夫人は、扉を開けて出てきた夫の姿を認め、穏やかに笑いかけた。

「軽い脳震盪で、怪我は大したことはないようでしたわ。あとは、兵曹判書様のお嬢様とスンドルに任せました」

ジョンムは、妻の言葉に そうか、と頷くと、歩き出した。長衣を手に掛け、その半歩後ろを歩きながら、夫人は言った。

「学問一辺倒かと思い、案じておりましたが、あの子の今日の姿を見て、安心しました。身を呈して友人を庇うなど、なかなかできることではありませんもの」

かぶりを振ったジョンムは、険しい顔つきで言った。

「私は逆に心配になった。あまりにも衝動的で、感情的過ぎる。あの子らしくない」

確かに、普段のあの子からすると珍しいことかもしれない、と夫人は思った。だが、その息子をして衝動的に身を投げ出させるほど大事な存在がこの成均館で出来たことは、喜ばしいことではないのだろうか。

「キム・ユンシクか……」

ジョンムは眉間に深い皺を寄せ、そう呟いたまま黙り込んだ。夫の不機嫌を汲み取った夫人は、自分たちの息子が、思いがけない時に衝動的になるところはむしろ若い頃の夫に似ていると思ったのだが、それは黙っていることにした。


*   *   *


杖打大会が終わり、興奮冷めやらぬ儒生たちは、口々に今日の試合を批評し合いながら、散り散りに清斎へと戻り始めた。
日月門を入ったところで、ユニは別の方角から清斎に戻ってきたソンジュンと出くわした。
彼の表情は変わらず固かったが、ユニは構わず、微笑みかけた。

「具合はどう?」

尋ねると、注意深く見なければわからないほど微かに、彼は頷いた。

「さっきは、時間がなくて焦ってて。ほら、ぼくは主力選手だろ?ぼくがいないと、試合が始まらないから」

殊更に明るく、ユニは言った。だがソンジュンの視線は、彼女を避けたままだ。

「ありがとう……ぼくのために」
「誤解するな」

言い終わらぬうちに、ソンジュンが口を開いた。

「君だからじゃない。誰であっても助けた。だから、君が僕に感謝する必要も、謝る必要もない」

声も言葉も冷たいものだったが、それが彼の本心だとは思えなかった。彼はきっとそう言うだろうと、どこかでわかっていたからかもしれない。
新傍礼の時も、そうだった。ただ、あの時の彼は、こんな顔はしていなかった。
こんな、青ざめた顔は。
苦しいのはユニも同じだったが、彼にそんな顔をさせているのが自分なら、言わなければいけないと思った。
誤解を解いて欲しかった。キム・ユンシクは、友人の婚約者に横恋慕するような人間ではないと、わかって欲しかった。

立ち去ろうとするソンジュンが、こちらに背中を向ける。ユニは自分を奮い立たせた。

「あの人と───」

ぴたりと、ソンジュンが立ち止まった。彼が振り返らないのに、ユニはむしろほっとした。
薬房でのソンジュンと芙蓉花の姿が目に浮かび、鉛のような、重く冷たい塊が胸にせり上がってきて、喉をぎゅっと締め上げていた。堪えるのに必死で、笑顔までは作れそうになかったからだ。

「すごく、お似合いだった。おめでとうって、言いたかったんだ」

返事はなかった。ほんの一呼吸ほど置いて、彼はまた歩き出した。その背中を見ていることもできなくて、ユニは俯いた。堪えても滲み出ていたらしい涙が、ぽたりとひとつ、足元に落ちた。


*   *   *


清斎の裏庭は、半裸の男たちで溢れかえっていた。冷たい水を被るたびに上げる悲鳴のような声が、あちこちから聞こえてくる。

とぼとぼと隅を歩き、部屋へ戻ろうとしていたユニの耳に、「おおい、テムル」と彼女を呼び止める声が飛び込んできた。

「さあさあ、こっちだ。背中を流す約束だったろ?今日こそ果たせるな」

戦服の前をはだけさせたヨンハが、両腕を広げて近づいてくる。
天主教の悪魔とかいうものが本当にいたら、きっとあんな顔をしているに違いないとユニは思った。

だいたい、試合中全く動いていないはずのヨリム先輩が、なんでそんな格好でここにいる?

「たーっぷり水をかけてやるから。お前、頑張ってたもんな。早く汗流したいだろ?」

逃がすまいとするかのようにがっちりとユニの肩を掴み、ヨンハは言った。
どうやって胡麻化すべきかぐるぐる考えたが、たった今までソンジュンのことで頭がいっぱいだったせいか、何も思い浮かばない。焦って言葉に詰まっていると、目の前のヨンハの頭に白い手拭いがひらりと落ちて、彼の顔を覆った。
ヨンハが、むっとした顔で手拭いを引っぺがすと、その横に並んだジェシンが、ユニに言った。

「丕闡堂に道具を忘れてきた。取ってこい」
「……え?」

咄嗟には意味がわからず訊き返すと、ジェシンの表情が尖った。

「ボサッとしてねぇでさっさと行け!」

びっくりしたユニは慌てて「はい、じゃあ」と頭を下げ、もと来た道を引き返した。



───そう簡単に、立ち直れるわきゃないよな。

木立の中に消えていく背中を、ジェシンはじっと見つめた。

彼女の秘めた想いは、どうやら実を結びそうにない。だがそれを喜ぶ気には全くなれなかった。 
彼女が辛い心を抱えている。思いきり泣くこともできずにいる。ただそのことが、どうしようもなくジェシンの胸を重くさせた。

なんであいつなんだ、といっそ訊いてやりたかったが、かといって、俺にしろとはジェシンには言えない。
紅壁書というもう一つの顔を持ち、危ない橋を渡る自分には、そんな資格はないのだ。

ヨンハが、からかうように目をぱちぱちさせてジェシンを覗き込んだ。その顔を手で押しやりながら、彼は不機嫌に言った。

「今はお前の相手する気分じゃねぇんだよ」






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2013/03/20 Wed. 15:45 [edit]

category: 第十三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ともさま

年度末は何かと忙しいですよね~(^^ゞもう落ち着きました?

> 俺にしろって言いたいですよね。そして、俺ににしろって言われたい♡(爆)

言いたいけど言えない。そして気づいても貰えない。コロは優しすぎて悲しすぎる男です(T_T)

あまる #- | URL
2013/03/28 01:11 | edit

更新お疲れ様です!

最近、忙し過ぎて更新に気がついてもなかなか読めなくて。。。
やっと落ち着いて読む事ができました!

ああ、、切ない。。。
三人とも切なすぎる(T ^ T)
それぞれの気持ちが、思いが。。痛いです。

でも、コロペンの私は最後のコロの葛藤にキュンキュンしてしたいました。
俺にしろって言いたいですよね。そして、俺ににしろって言われたい♡(爆)

とも #- | URL
2013/03/26 07:28 | edit

Re: あらちゃんさま

わは。なんか申し訳ない(^^ゞ
お口直しに番外編でも、ってこっちもなんか雲行き怪しいので逆効果?(笑)
ワタシも6時間後には仕事なのでもう寝ます~。

あまる #- | URL
2013/03/21 03:03 | edit

ユニは強いな~

だから一層かわいそうですね・・・私はこみ上げてきたものが胸につかえて苦しいです、読んでるだけで。
どうしよう、明日忙しいから早く寝なきゃいけないのに。(T_T)
解消するまでなんか読むか、飲むかしないと・・・

あらちゃん #- | URL
2013/03/21 01:23 | edit

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