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第十三話 8 終焉 

bandicam 2013-03-14 08-52-09-811
*********************************


ふいに扉の開く音がして、ジェシンは壁にあずけていた身体を起こした。
その目の前を、まるで風が吹き過ぎるように、紫の戦服がさっと横切っていった。
見たのは一瞬だったが、彼の目には、まるでそこだけ静止していたかと思うほど、ユンシクの横顔がはっきりと焼き付いていた。

彼女は泣いていた。
拭い切れない涙に濡れた頬。唇は、嗚咽を堪え歪んでいた。
戦服の裾を翻して、彼女の背中は瞬く間に廊の角に消えた。目を移すと、薬房の扉が僅かに開いていた。
中を伺ったジェシンはそこに、兵曹判書の娘と向かい合って立つソンジュンの姿を見た。

彼はそのとき、すべてを悟った。薄々感じてはいたが、認めたくなかった事実が、はっきりとした形をとって彼の胸を突いた瞬間だった。

「あいつのことか……クソ野郎ってのは」

自嘲するように頬を歪め、呟いた。


散々歩きまわったジェシンがユンシクをようやく見つけたのは、人けのない六一閣の裏手だった。
ろくに手入れもされておらず、雑草が伸び放題の庭の石積みに腰掛け、彼女は声もたてずにしきりに頬を拭っていた。

───また、あんな泣き方しやがって。

ソンジュンへの憤りよりも胸の痛みが先立って、ジェシンは知らず、溜め息をついた。
十年前に兄が死んだとき、歯を食いしばっても堪えきれずに、布団を被って泣いた。
わんわん泣き喚く声を、誰にも聞かれないように。

彼女はどこで、声を上げて泣くのだろう。

一人で泣くな。
そう言って、抱き締めてやりたかった。
俺が、お前の布団になってやったっていい。だからそんな風に、我慢するな。

だが彼女の傍らに立ち、実際に口に出せた言葉は、およそ彼の心とはかけ離れたものだった。

「後半戦だ。行くぞ」

ぱっと顔を上げたユンシクは、慌てて立ち上がり、くるりと後ろを向いた。自分には涙を見せたがらない彼女に、ジェシンは少しばかり傷ついた。
ユンシクの腕を掴み、強引に振り向かせる。

「主力選手だろ。そんなんでどうする」

濡れた瞳が、ジェシンを見上げた。すぐに後悔して、彼は声を和らげた。

「誰に何を言われても、慰めにもならない───そういうときも、あるさ。だがな、傷は癒えなくても、痛みを忘れることはできる。とことん身体を苛めるんだ。結構効くぞ」
「先輩……」

疑わしげに眉を潜め、ユンシクがジェシンを見た。軽く伸びをして身体をほぐしながら、彼はちょっと笑って、言った。

「俺も久々に暴れてみるかな。お前も付き合えよ」


*   *   *

後半戦が始まった。試合中のユンシクの動きの違いは明らかだった。少々及び腰だった前半戦に比べ、今は果敢に敵陣を攻め、猛突進してくる選手たちをものともせずに球を走らせる。
激しいぶつかり合いの末地面に転がされても、すぐに立ち上がり、無我夢中で球を追いかけ、敵に食らいつく。

職員席のヨンハが、ほとほと感心したように息を吐いて、チョン博士に言った。

「もう一人いましたね。情熱的な奴が」

チョン博士は眩しそうに目を細め、競技場を縦横無尽に駆け抜けるユンシクを見つめた。
ユンシクの送球が、ジェシンに渡った。ジェシンは敵陣の隙間を突く鮮やかな打球を球門に叩き込んで見せ、応援席を沸かせた。
同点に活気づく西軍とは逆に、東軍はソンジュンと、退場処分を受けたインスを欠き、全くといっていいほど精彩がなかった。烏合の衆とはまさにこのことだ。強固な布陣に守られ、全力で切り込んでくるユンシクに、なすすべもなく右往左往するばかりである。

ユンシクが、打棒を大きく振り被った。ぱあん、という空に抜けるような高い音と共に、球は球門に飛び込んでいった。
振り返ると、駆け寄ってきたジェシンが、天に向かって突き上げた拳で、そのままユンシクの首根っこをがっちりと抱え込んだ。彼等はそうやって、喜びを分かち合った。
試合終了の旗が挙げられたのは、そのすぐ後だった。

「坊ちゃん、何をそんなに切なそうに見てるんです?」

丕闡堂の入り口近くに佇むソンジュンを、スンドルが覗き込む。
ソンジュンの視線の先には、歓喜に沸き返る西軍の選手たちと、大射礼のとき同様、その中心でもみくちゃにされているユンシクがいた。

「あのきれいな学士様を、身体を張って助けるなんて。坊ちゃん、本当にご立派でしたよ」

スンドルは、心から誇らしげにそう言った。だがソンジュンは彫像のように動かぬまま、ただじっとユンシクを見つめている。

「それにしても、成均館に入学してからの坊ちゃんは随分変わりましたね。酒を呑んで酔い潰れるわ、天気も気にせず舟遊びには出掛けるわ……。前はあんなに潔癖だったのに、何だか妙に人間臭くなったっていうか。この次は、どんな坊ちゃんが見られるかなって、おれも楽しみなんですよ」

ソンジュン自身にも、スンドルの言うように、今までの自分らしくないことをしているという自覚はあった。
ユンシクに関わると、いつだってそうだった。
だがそれは、ユンシクのせいではなかった。彼を想う、自分自身の罪深い心故だ。
あれだけ大勢の儒生たちがいるのに、この目が迷わずユンシクを見つけるのも、こうして彼だけを追い続けるのも、道ならぬ恋心が自身の中に根深く巣食っているせいなのだ。
心臓が引きちぎれるような切ない想いに苛まれながら、ソンジュンは今だけは、自分にそれを許した。
儒生たちに囲まれ、弾けるように笑うユンシクの表情を、その仕草を、己の目に焼き付けようとするかのように、ソンジュンは見つめ続けた。
そして悟った。競技場にいるユンシクと、今ここにいる自分が、実際の距離よりも遥かに隔たってしまったことを。

届かない。どんなに手を伸ばしても、触れることはできない。
うつろな声で、彼は呟いた。

「もう……終わったんだ。何もかも」





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2013/03/14 Thu. 08:55 [edit]

category: 第十三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

コメディ劇場(笑)いいじゃないスか~。ソンスはそもそもラブコメなんだし(^^)
ワタシもほんとは読むのも書くのもコメディのが好きです。
ぜしぜし読ませてください(*´Д`)ハァハァ

お馬鹿すぎるソンジュンもまた愛しいので(笑)せいぜいのたうち回ってもらいましょう。
どーせコロと違って(T_T)報われるんだからいいじゃんね~。

あまる #- | URL
2013/03/16 07:22 | edit

Re: ともさま

> やっぱり、気付いてたけど認めたくなかったんですね。

コロにとっても辛いとこですよねぇ~(T_T)
でも自分の気持ちよりやっぱり好きな子の気持ちを優先してしまう。それが二番手組合員の性(笑)

ヨンハがコロにかまいたくなる心理がよくわかります。
実際にギュッてやっちゃって張り倒されてるのがヨンハなんだろうな~(^^ゞ

あまる #- | URL
2013/03/16 07:08 | edit

コロサヨン、いい人!

更新ありがとうございます!
コロサヨンはいい人だな~(しみじみ)。いろんな感情を経験したからこそ、自分ではどうしようもない悲しみにくれるユニをわかってあげられるんですかね。ユニの悲しみにつけ込んでこの隙に、なんてこともしないし。経験の少ないコミュしょうのソンジュンにはわからないでしょうね~。

あまる様にシリアスに書いていただくとなんだかすごくうれしいです(ため息)悲しい場面ですが。
私はシリアス路線が苦手で、自分ではうまく書けないから。基本いつもコメディ劇場のような設定になってしまって・・・
こんなに可愛いのに、こんなにそばにいてユニを未だに同性だと思いこんでるお馬鹿ちゃんには罰としてもうしばらく苦しんでいただくこととし、コロサヨンにならいユニの悲しみを静かに見守ります。(-_-)

あらちゃん #- | URL
2013/03/16 03:04 | edit

うっかり

⇩のコメ、名前の欄にお疲れ様しちゃいました(笑)

更新嬉しくて、浮かれすぎました^^;

とも #- | URL
2013/03/15 04:56 | edit

コロサヨ〜ン♡

まだまだ辛いくだりですが、コロの優しさと片思いの切なさでキュンキュンです♡

やっぱり、気付いてたけど認めたくなかったんですね。
ドラマみながら、え?知ってたしょ?分かってた上での発言なの?ってところがたくさんあったけど
攻めるか引くかの葛藤とかもあるのかな。

ああ、切なくてかわいいコロの表情がたまりません!
ギュッてしてあげたいですね。張り倒されそうだけど(笑)

更新お疲れ様です♪ #- | URL
2013/03/15 04:53 | edit

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