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第十三話 7 求婚 

bandicam 2013-03-08 02-39-14-688
***********************************


丕闡堂前広場の隅には、腰の高さ程の植え込みが設えられていた。そこには、密生した姫紫蘇が花穂を出し、薄紫の花をまばらに咲かせていた。
ユニは石積みの上に腰を下ろし、遠目には緑の葉に紛れてほとんど目立たないその花を、見るともなしに眺めた。

試合前のソンジュンは、声も、視線も、その仕草も、全てが冷ややかだった。まるで、初めて出会った頃に戻ってしまったかのように。
けれど、ユニを抱きかかえるようにして庇ってくれたあの手は、以前と少しも変わるところはなかった。
弓の握り方を教えてくれた。体調を気遣い、頬に触れた。コオロギを摘まんで見せ、からかった───ソンジュンの、あの手は。

すっと、目の前に竹筒が差し出された。顔を上げると、ジェシンが気遣わしげな表情でそこに立っていた。

「飲んどけ。まだ後半戦が残ってる」

先輩、とユニはまるで懺悔でもするかのように、頭を垂れた。

「彼が怪我したのは……ぼくのせいです。ぼくのために、ソンジュンは……」

風が、ユニの頬を撫でた。姫紫蘇の花も、小さく揺れている。気づかないのは、まわりの緑にばかり気を取られて、見ようとしないからだ。こんなにも可愛らしく、懸命に咲いているのに。

「やっぱり、放っておけません。行ってきます」

立ち上がるなり、ユニは駆け出した。


(───放っとけない、か。)

小柄な背中が門の向こうに消えるのを見届けてから、ジェシンは手にした竹筒に目を落とした。
そして小さく、溜め息をついた。


*   *   *


夢を見ていた。
いやそれは、夢というよりも、以前の記憶と言った方がいいかもしれない。

小科の試験会場で、ユンシクと出会った。
雨の中、官軍に追われて、岩陰で身を寄せ合った。
忍び込んだ商人の蔵で、眩しい程に綺麗だった、娘姿の彼。胸に飛び込んできた身体は、たまらなく柔らかく、いい匂いがした。
そしてあの、無人島で。突き上げる想いに耐え切れず、口づけしそうになった、唇。

自分の気持ちを自覚してからというもの、彼のことを思うのは、ソンジュンにとって辛いこと以外の何物でもなかった。
だが夢の中で、彼は幸せだった。
ユンシクはいつもそうやって、彼の傍にいた。それが、ただ幸せで───。

───ワン殿……。

ユンシクの声が、聞こえた気がした。横たわるソンジュンの枕元で、優しく微笑んでいる。彼はソンジュンの手を取り、両手でそっと包んだ。伝わってくるぬくもりを逃したくなくて、ソンジュンはその手を強く握り締めた。

「ソンジュン様……!」

目を開けたソンジュンが見たのは、うっすらと涙を浮かべて自分を見つめるヒョウンの顔だった。
握り締めていた手は、ユンシクのものではなかったのだ。そう理解した途端、ソンジュンは反射的に手を離した。
寝台の上に起き上がり、思わずあたりを見回す。

そうだ、キム・ユンシクが来るはずはない。あんな態度と言葉で、彼を拒絶した僕を、コロ先輩に手を上げようとさえした僕を、彼が許すはずはない───。

落胆などできる立場ではないというのに、ソンジュンは重く沈み込む心をどうすることもできなかった。

「意識がお戻りになって、安心しました。私はこれで……失礼いたします」

ヒョウンが、静かに膝を折り、言った。その声が微かに震えていることに気づき、ソンジュンはやっと彼女の気持ちに思い至った。
だが彼女は、痛々しくさえ見える笑みを浮かべ、言葉を継いだ。

「縁談のことですが、今後、ソンジュン様に我が家からご迷惑をお掛けすることはありません。どうか、お身体にお気をつけて……」

何も言えなかった。ソンジュンが今ここにいる原因が彼女の兄であることを考えれば、確かに破談もやむを得ないだろう。

(もともと親同士の決めた縁談だ。どうなろうと、僕の意志とは関係が───)

そのとき、薬房の扉がいきなり開いた。そこに現れたのは、たった今まで彼が夢に思い描いていたユンシクの姿だった。
彼はただ黙って、ソンジュンを見つめた。黒い瞳が、今にもこぼれそうな涙で潤んでいた。
ソンジュンは、自分の中が一瞬で彼への抑えきれない想いに溢れ返るのを感じた。

───そんな目で、見ないでくれ。

いっそ酷く嫌われる方がましだった。これ以上彼の傍にいたら、自分が何をしでかすかわからなかった。
始末してしまわなければ。育ち過ぎて手に負えなくなった獣が、一番大切なものを傷つけてしまう前に。
ユンシクへの想いを、きっぱりと断ち切るのだ。ここで、今すぐに。

ヒョウンが、ユンシクに一礼して出て行こうとした。ソンジュンは寝台から降りると、彼女の手を掴んだ。
はっとして、ヒョウンが振り向く。そのチョゴリの、白い半襟を見据えながら、ソンジュンは言った。

「僕と───結婚してくれますか」

ユンシクが、驚きに立ちすくむ。ソンジュンはもう一度、言った。

「僕と、結婚してください」

ヒョウンの目が、信じられないと言いたげに大きく見開かれた。

「これまで僕は一度も、志を貫かなかったことはありません。一度決めたことをやり遂げなかったことも、約束を破ったことも……ありません。今後も、そのつもりです」
「ソンジュン様……」

涙が、ヒョウンの頬を伝った。ソンジュンはユンシクの方を見なかった。と言って、ヒョウンの目を見ることもできなかった。ただ懸命に、彼女の半襟を見ていた。

「良い夫となるよう、努力します。こんな男でよければ……支えてくれますか」

キイッと、扉の開く音がした。肩を落とし、薬房から出て行くユンシクの背中が見えた。
ソンジュンに残されたのはただ、身を切られるような痛みだけだった。





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2013/03/08 Fri. 03:04 [edit]

category: 第十三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

> ユンシクやコロは横になってもあんまり変わらないですが、ソンジュン、というよりユチョンはどうしてこんなに人相変わる?といつも思ってました。

そうなんですよね。ネットで画像漁っててもいつも見るたんびに顔が違う。体重の増減とか、髪型がコロコロ変わるからとか、そういうのとは別に、表情にどれ一つとして同じものがない。でもどれもユチョンで。
不思議な人です、ほんとに。

息子さんとそういう議論をしてる図、ってのにまずほっこりさせていただきましたが(笑)
「イケメン」って言葉にはなんか軽さを感じてしまいますな~。自分の世代のせいでしょうけど(^^ゞ
ユチョンにはちょっと似合わない気がする。
だって顔だけじゃないんだよ~ユチョの魅力は!って語り出したらたぶんドン引きされるので自粛。

あまる #- | URL
2013/03/14 09:12 | edit

ブサ可愛くて・・

ユンシクやコロは横になってもあんまり変わらないですが、ソンジュン、というよりユチョンはどうしてこんなに人相変わる?といつも思ってました。
すごく不安定で不思議な魅力。島での一夜もそうでした。
次男と「イケメンとハンサム」の違いについて議論しましたが、ユチョンはハンサムの方。ユチョン演じるソンジュンには、なんか説明のつかない人を引きつけるものがある(色気?)。ちなみにイケメンは見た目の濃い男に過ぎないというのが私達の結論です。

あらちゃん #- | URL
2013/03/11 02:03 | edit

Re: あらちゃんさま

したり顔で話すじじぃ(笑)
考えたら大射礼んとき、ユニにあんだけエラソーな説教かましてた人ですから、あのままヒョウンと結婚するのはやっぱ彼らしくない生き方なんですよね。
この後のヨンハの「自分を偽るのはお前らしいことか?」ってセリフがすべてを語ってるなと。

それはともかくソンジュンが薬房のベッドでぼーっとユニのこと思い出してる顔は異様にブサ可愛くてたまらんことに気づきました。この回の貴重な見どころです(笑)

あまる #- | URL
2013/03/10 07:10 | edit

Re: ともさま

あらためて見ると、ユチョの表情もですが、声が(^^ゞ
痛すぎる~(T_T)

辛いとこが続きますが、よろしくおつきあいくださいまし。

あまる #- | URL
2013/03/10 06:58 | edit

あまる様の体力に驚きつつ。。

更新ありがとうございます。
意外にも冷静に見ることができました。
ドラマはいつも引きながら見てしまっていたので、ソンジュンの視線がどこにあったか何にも憶えていません。こんな風だったのですね・・・(T_T)
実はこの場面もつらいのですが私はこの後の展開がもっとかわいそうで見るのがつらかった。したり顔で話すじじぃとか・・・このまま進んでいたらソンジュンにとってこの先の人生ってつらかったでしょうね、と思って。

本日、意外にも冷静に見ることができた原因は、もしかしたら「草が燃えるようだ」を思い出したせいかも・・・私は水のような大海人皇子の方が好きでした。
あ~読み返したいのに、長男の部屋にある本棚にあって取りに行かれない~~

あらちゃん #- | URL
2013/03/08 23:47 | edit

続けての更新お疲れ様です!

ドラマではサラッと見ていましたが(今思うと、じっくり見ていられなかったのかな)こうして読むと特に痛々しいですね。。。
この先まだ辛いところが当分続きますね。



とも #- | URL
2013/03/08 07:46 | edit

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