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第一話 14 禁書 

来た時とは逆に、ユニは晴れやかな表情で貰冊房を後にした。その弾んだ後姿を、扇の陰に顔を隠し、じっと見つめる男がいた。彼は何やら考えを巡らすように視線を泳がせると、小さく口笛を吹いた。



貰冊房の店主、ファンにとって今日はどうやら厄日らしい。

「ひいぃ!」

一仕事終えて振り向いた拍子に、彼は本日二度目の叫び声を上げた。誰もいないと思っていたそこにいきなり、絢爛豪華な身なりをしたク・ヨンハがぬう、と立っていたのだ。

「どっちの味方だ?」

繊細な細工の施された煙管を指先で弄びながら、ヨンハは出し抜けに言った。

「や、藪から棒に何を……」
「左議政の息子が捜してる奴を雇ってるだろう?」

店主は驚愕のあまり喉に何か詰まらせたような息を漏らした。その顔を上目遣いにちらりと見遣って、ヨンハが薄く笑う。

「私はク・ヨンハだよ。これくらいでそんなに感動してもらっちゃ困るな」

ゆっくりとファンに歩み寄りながら、彼は続ける。

「左議政の息子の手前、人目につく仕事はさせられないし、巨擘なんかとんでもない……となると」

ファンは貝にでもなったつもりか、口をつぐみ、さらに手で抑えている。その耳に、ヨンハが囁いた。

「───禁書か?」

ファンの顔から血の気が引いた。驚きに声も出ない様子だ。ヨンハはその反応に満足気に微笑むと、煙管を咥えた。

「い、い、いくらですか?いくら払えば、黙っててくれるんです?」

気の毒な店主はもう息も絶え絶えだ。ヨンハは煙管を店主の口に突っ込むと、その顎をぱくんと閉じて、言った。

「黙ってなきゃいけないのは、そっちだってことさ」



* * *


 そろそろ陽も傾きかけた頃。ソンジュンはまだ筆洞にいた。後ろをついてくるスンドルはもう疲れきっていて、口もきけない有様だ。無理もない。早朝から今まで、ろくに食事も取らずに街を歩き回っていたのだ。
 ソンジュンの表情は険しい。これだけ時間と労力を使ったというのに、思うような成果が上がっていないためだ。

───いったい何処にいるんだ、君は。

 焦りは疲労をいや増し、やがて苛立ちへと向かう。こんなに捜しているのに、一向に姿を現さない少年のあの綺麗な顔を思い出すと、ただ腹立たしさが募った。自分が何のためにここまでしているのかさえ、わからなくなってくる。

 とはいえ、いいかげんスンドルに何か食べさせなければ。ソンジュン自身は少しも空腹を感じていなかったが、何処か適当に休める場所を探し始めたその矢先。

「何か捜してるようだね」

ふいに声を掛けられ、ソンジュンは振り向いた。そこにいたのは、見覚えのある男だった。(といっても、ソンジュンはどちらかというと彼の顔よりも、やたらとキンキラしている派手な衣装の方が印象に残っていたのだが。)

ソンジュンが不信感を隠さずにいると、男は手に持っていた紙を ぱっと広げた。あの巨擘の少年の人相書きだった。

「私なら、たぶん君を助けてあげられると思うよ」

 ソンジュンは男に誘われるまま、一軒の茶屋に入った。
 男はク・ヨンハと名乗り、おそらく君が入るであろう成均館の儒生だと軽く自己紹介した。店の外の席では、スンドルが猛烈な勢いで餅を口の中に押し込みながら、こちらの様子をちらちらと伺っている。
ソンジュンは膳の向い側で旨そうに酒を流し込むヨンハの喉元を見ながら、硬い表情を崩さず訊ねた。

「なぜ僕を手伝う気になったんです」

ソンジュンの杯に酒を注いでやっていたヨンハは、途端に白けた顔をして、言った。

「なんだ、感謝しようって気もないのかい?助けがいらないんなら、私は帰るよ」
「僕を───」

さっさと席を立とうとしたヨンハを、ソンジュンの声が引き止める。

「僕を、手伝う理由があるとは思えません」

 ヨンハは白い歯を見せて笑うと、また腰を下ろした。

「理由か……。そんなに気になる?」

 身を乗り出し、ソンジュンの顔を覗き込む。

「近い将来、生活を共にする学友との友情、たとえ初対面でも通じ合うことのできる、男同士の信義。そして、ある人の希望が叶うことを願う、善良な心───」

くしゃっ、と鼻に皺を寄せて、ヨンハは言った。

「まさか、そんなわけないだろう?」

 ソンジュンは困惑した。こういう、人を食ったような物言いをする人間が、彼は苦手だった。いったいどんな言葉を返せというのだろう。
 ヨンハは不敵に微笑む。

「興味、だよ。君がどこまでやるのか、見届けてやろうって興味。奴を捜し出す方法はひとつ。それはかなり危険で、大きな犠牲を伴う。……それでもやるかい?」

訊かれるまでもない。ソンジュンの答えは決まっている。

「君子は一度決めたら、最後までやりぬく。それだけです」



* * *


 その晩は満月だった。月明かりを頼りに山道を歩いていたユニは、遠くから聞こえてくる雷鳴の音に、知らず、早足になった。
 人目につくとまずいので、夜道を照らす灯篭などもちろん持ちあわせていない。こんな鬱蒼とした森の中であの月まで雲に隠れてしまったら、約束の場所まで辿り着くことはおろか、無事に家に帰れるかどうかさえおぼつかない。
 
 ポツリ、と雨粒がひとつ、禁書の包みを抱えるユニの手に落ちてきた。あっと思う間もなく、降りだした雨がユニの笠と道袍を見る見るうちに濡らしていく。
 ユニは急に心細くなり、禁書の束をぎゅっと抱き締めた。
 
『禁書ですから、官軍に見つからないよう、くれぐれもご注意を。下手をすると本当に地獄行きですからね』

 ここに来る前、貰冊房の主人がユニにひそひそと囁いた言葉が思い出される。引き受けるべきじゃなかったかも、という思いがちらりと胸を掠めたが、ユニはすぐにそれを振り払った。
 どのみち、この仕事をやり遂げられなければ、同じことだ。あの兵曹判書に嫁ぐなんて、それこそ生き地獄以外の何物でもない。他に道はないのだ。
 ユニは気持ちを奮い立たせ、顔を上げる。暗がりの中目を凝らすと、雨に煙る道の向こうに、小さな小屋が見えてきた。



 大金の束が、どさりと重い音をたてて床に放り出された。
 投げたのは、掌議ハ・インスである。正面に控えている官軍の兵士に向かい、彼は重々しい声で命じた。

「イ・ソンジュンが禁書を受け取ったら、直ちに捕らえろ。絶対に逃すな」
「はっ!」

 一礼し、素早く部屋を出ていく官軍の兵士を見送り、ビョンチュンとコボンはいかにも楽しそうに笑い交わした。彼ら同様口元を歪め、ほくそ笑むインスを横目に見ながら、ヨンハは傍らに生けてある花の香りを楽しんでいた。

(───さあどうする?君子イ・ソンジュン。きみはこの危機を無事乗り切れるかな……?)




****************************************


───さあ、あまるは次回あたりで無事第一話を終われるかなぁ~?……はう。

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2011/08/02 Tue. 12:04 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

産婦人科医ヨンハって……まんまやないですか~(爆笑)

スンドルがおデブになったのは、小さい頃少食なソンジュンが自分のおやつとかを
あげてたからじゃーないかとかちょっと想像。
ご飯も残すと怒られるので、こっそりスンドルに食べてもらってたり。
ソンジュンにあんなになついてるのは……もしかして餌付け???

あまる #- | URL
2012/05/04 00:05 | edit

あまるさま

『君子は一度決めたら、最後までやりぬく。それだけです』
だぁかぁら、イ・ソンジュン君子、そのあたりの駆け引きとかはちゃんとヨリム先輩に教えて貰うんだよ。
(ちなみに、ヨリム先輩、別のドラマでは産婦人科になってました。産婦人科ってあんた・・・どこまで探求すれば気がすむっちゅうねん)

でも、スンドルのごはんの心配するイ・ソンジュン君子、好きです。

ところで禁書ってなんだったんだろう??
も・し・や?? むふふ

ちびた #- | URL
2012/05/03 11:17 | edit

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