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水月 1 

あまるですどうもこんにちわ。
本編の展開がどーにも辛くてしょーがないので(笑)気分転換に番外編です。
といっても今回は少々長めの連載モノになりそうな予感。
いつ終わるとも知れませんが、気長に見守っていただけると嬉しいです。
***************************************



その日は、二、三日続いていた雨がようやく上がり、春らしい陽気が漢陽の街に戻ってきていた。
外を少し歩くと汗ばむくらいだったので、貰冊房の扉をくぐったユニは、日差しの届かない室内にほっと息をつき、背中の麻袋を下ろした。

「やあやあ若様、やっといらっしゃいましたね」

店の奥から、相好を崩したファンがいそいそと姿を現して、言った。

「試験と重なっちゃって、少し遅くなったけど……まだ大丈夫だよね?」

もちろんですとも、とファンはユニが麻袋から取り出す写本や巻紙の中をざっと改めながら、感心したように首を振る。

「若様みたいにきっちり締め切りを守ってくださる方はそうそういませんよ。しかもこの仕上がり!実はね、若様の名筆が近頃ちょっと評判で。書の代筆や名刺の依頼が、わざわざご指名でいくつか来てるんですよ」
「ほんと?」

目を丸くして訊き返したユニに、ファンは深く頷き、いっぱしの批評家のような口ぶりで、言った。

「あたしも商売柄、たくさんの書を見てきましたがね、若様のは本物だと初めから思ってましたよ。そこそこ綺麗な字を書く者はいくらでもいますが、若様の文字には深みというか、繊細さというか、見る者に何かを感じさせる力がある。ここ最近はますますそれに磨きがかかってますから、学識のある方々の目に留まるのもまぁ、当然といえば当然かと」

商売人の口の巧さに騙されちゃいけないと思いつつも、そう言われるとやはり悪い気はしない。にっこり笑ったユニに、ファンは「というわけで」と、卓の上にどさりと巻紙や写本の束を置いた。

「来月までにこれ、お願いしますね」

笑みを貼りつかせたまま、ユニの顔が芝居の面のように強張った。やっぱり、商売人はただでは褒めたりしないのだ、と彼女は世のせち辛さをあらためて悟ったのだった。


来るときの倍は重くなってしまった麻袋をよいしょと肩に背負い直し、ユニは小さく溜め息をついた。
こんなに仕事を持って帰ったら、ソンジュンがきっといい顔をしないだろう。生活の心配をしなくて済むようにと、また、結婚を早めようと言い出すかもしれない。
結納も終え、互いの家への挨拶も済ませた。後は式さえあげれば晴れて夫婦、という状態だが、卒業まで周囲に女だと気取られぬよう、居館修学を続けよという王命を理由に、ユニは挙式を延ばし延ばしにしていた。
学問を続けながらの仕事は、確かにきつい。だがユニは、今の生活からこの仕事というものがなくなったときの自分を、どうしても想像することができないのだ。
幼い頃から、あまりにも仕事をしていた時間が長かったせいかもしれない。けれど、自分の能力が誰かに必要とされ、報酬という形になり、戻ってくる───単純な図式だが、それはユニを安心させ、自分が生きてここにいること、その確かでささやかな意味を感じさせてくれるものでもあった。

久しぶりに歩く筆洞の通りは、以前よりずっと賑わっているように見えた。王の積極的な経済改革が功を奏し、最近、清や倭国から大きな船が来るようになったとも聞く。港の活気がそのまま、ここまで伝わってきているようだった。
ふと、雑貨屋の店先に下げられた掛け軸が目に入り、ユニは足を止めた。
「携妓踏楓」と題された絵には、遊山の帰りだろうか。煙管を手に、輿に乗った妓生と、一人の両班の男が、すれ違いざま視線を交わすその一瞬が、画紙に鮮やかに留め置かれていた。

紅葉の中で出逢う男女。ほんの刹那でありながら、時が止まったかのような。
ユニは不思議と惹かれるものを感じて、暫くの間絵の前に佇み、じっとそれを見つめていた。

「───蕙園〈ヘウォン〉が、お好きなんですの?」

いきなりそんな声がして、ユニは振り返った。
まず目に入ったのは、艶やかな真紅のチマだった。白いチョゴリには、赤い糸のみで刺繍された花模様が施されている。一瞬チョソンかと思ったが、女笠に垂らした薄布の陰から覗いた顔は、ユニの知るものではなかった。

女の、紅をひいた唇が美しい弓型を形作る。チョソンとはまた違った雰囲気の美女だ。あちらが華やかな牡丹なら、彼女は楚々と咲く白百合といったところか。どこか凛々しささえ感じる涼やかな面差しが、妓生という身分ながら高貴な佇まいを彼女に与えていた。

「若様のようなかたが、こんな風俗画を好まれるとは思いませんでした」

ユニの隣に並んで絵を眺めやりながら、女は言った。

「これは、蕙園が描いたものですか?」

少し驚いて、ユニは尋ねた。蕙園といえば、明らかに春意のある絵ばかり描いて、宮廷の図画署を追放されたという流行絵師、シン・ユンボクの号だ。ヨンハなどは彼の熱烈な崇拝者で、「そのへんの春画なんかよりよっぽど官能的だ。すんごいイヤラシイぞ」とあんまり言うものだから、ユニはむしろ見るのを避けていたようなところがあったのだが、まさか彼の描く絵が、こんなに繊細で印象的なものだったとは。

小首を傾げて、女が問うた。

「意外ですか?」
「いえ、実は初めて見たのです。友人が、蕙園は春画の大家だと言うので、てっきり……」

女が、小さく吹き出した。そのままくすくすと笑っている。何がそこまで可笑しかったのだろうとユニは思ったが、女があまりに楽しそうに笑うので、つい、つられて微笑んでしまった。

「本当に……若様は素敵なかたね」

口元に微笑をたたえたまま、女は言った。

「きっとまたどこかで、お会いすることもあるでしょう。それまでは夢路だけの逢瀬で、耐えることにしますわ」

では、と女は静かに膝を折り、ユニの傍らをすり抜けて行った。
ふわりと、沈丁花の香りが漂う。
ユニは はっとして振り返ったが、女の姿は既に街の雑踏の中に見えなくなっていた。








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2013/02/07 Thu. 20:46 [edit]

category: 水月

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 阿波の局さま

オクセジャもヨイですがソンスもまだまだ熱いデス!(笑)
いつでも戻ってきてくださいな~。お待ちしてます(^^)

あまる #- | URL
2013/06/12 00:45 | edit

オクセジャだけで帰ろうと思ったのですが、ついつい・・・

あまるさんの文章を読むと、一瞬にしてソンスの世界に持っていかれます。
いいですね~

ユニやチョソン、登場する女性達のこの凛とした雰囲気が好きです。
(原作はちょっと違いますけれどね。その辺が、ドラマのほうが好きな部分です。)
ああ~、またソンスの世界に戻りたくなってきた・・・(でも、とりあえず帰ります。笑)

阿波の局 #3FtyQ0do | URL
2013/06/11 05:13 | edit

Re: ともさま

> あまるさんの文章は、読んでいて頭の中で綺麗な映像が流れてきます♪

ホントですか~?でへへ。嬉しいです。
ちゃんとした女の人を書くのは私も楽しいです。
綺麗な色の服とか、アクセとか、いろいろ描けるので。
野郎ばっかりだと、どうにもむさ苦しくなってイカンです(笑)

あまる #- | URL
2013/02/09 02:24 | edit

続きが楽しみです♪

更新ご苦労様です!

あまるさんの文章は、読んでいて頭の中で綺麗な映像が流れてきます♪
色彩も鮮やかで美しいです♪

とも #- | URL
2013/02/08 16:14 | edit

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