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第一話 13 企み 

成均館の北、明倫堂奥にある書庫、尊経閣。数万巻ともいわれる蔵書数を誇るそこは、日々勉学に追われる儒生たちが足繁く通う、謂わば社交の場でもある。
その尊経閣の最も奥まった場所に、酒を持込み、何やら密談を交わしているのは、例によって掌議、ハ・インスとその一味である。

「イ・ソンジュンか……」

ぐびりと一口酒を含み、インスは言った。

「あのお坊ちゃんを、しっかり教育してやる必要があるな」

途端に色めき立ったのは、インスの傍らで徳利を捧げ持っていたビョンチュンである。

「どうします?ヤクザでも雇いますか?口の減らない奴は殴って黙らせるのが一番でしょ?」
「色仕掛けなんてどうです?」

コボンも負けじと口を挟むが、インスの表情は冷ややかだ。

「お前たちは頭を使うな。永久にな……」
「では体を張ります!掌議、何なりとご命令を!」

張り切るコボンの頭を、少しは空気を読め、とビョンチュンがはたいた。インスがちらりと視線を動かし、「何かいい手はあるか」と声を掛ける。カン・ムが すい、と書物を動かすと、書架一つ隔てた通路で、鼻歌でも歌い出しそうな風情で春画集をめくっているヨンハの姿が覗いた。

「イ・ソンジュンね……。奴に相応しい方法なら、ひとつある」

ぱたりと本を閉じ、彼はにんまりと笑った。


* * *


 翌日。
 泮村の書店街、筆洞に、人相書きを手に奔走するソンジュンの姿があった。儒生たちがよく立ち寄る、学術専門の書店はもちろん、古書店や一般大衆向けの貸本屋まで、とにかく書店とみれば躊躇いなく飛び込み、聞き込みを始める。先日彼が宣言した通り、都中の書店を訪ねて回るかという勢いだ。

 ソンジュンの後ろにくっつき、早朝からずっと歩きどおしのスンドルはもうへとへとである。このままでは都中どころか、国中の書店を回ると言い出しかねない。
 何せ彼の頑固さときたら相当なもので、一度こうと決めたら絶対に引かないし、諦めない。
 物心ついた頃からずっとそれに付き合わされてきた(というよりスンドルが半ば強引に彼にひっついているのだが)スンドルは、彼の本気を悟っているだけに気が気ではない。どうにかして坊ちゃんを宥めようと必死だ。

「この辺りはおれが散々訊いて回ったんですから、これ以上は無駄ですって。もう帰りましょうよ」

ソンジュンはそんなスンドルの存在すらも忘れたかのように、誰彼となく捕まえては、声を掛ける。

「この男に見覚えはないか?」

 店先で平積みの本にハタキをかけていた貰冊房の主人は、目の前に突き出された人相書きに一瞬、目を留めた。が、片方の眉をちょっと上げただけで、黙って首を振る。

「ほらぁ。もう、信じてくださいって。おれほんとに、一生懸命捜したんですから…」

 今は人捜しより主人の説得に一生懸命な従者と、それに一切耳を貸さない主人の断固とした背中を、物陰からじっと見送る者がいた。ユニだ。
 貰冊房の店主、ファンの姿が店内に消えるのを見届けると、ユニは物陰からさっ、と飛び出し、店の中に走り込んだ。そして開口一番。

「助けてくれ」

 ファンはユニの姿を見、ひっ、と小さく叫んだ。慌てて、開けっ放しの扉をばたんと閉める。きょときょとと目を不自然に彷徨わせながら、いつもの台詞を口にした。

「い、いいですとも。どんな本をお探しで…?」
「100両の仕事なら、地獄へでも行ってやる!」

ユニの言葉に、ファンは「哀号!」と天を仰ぐ。

「金が稼げる上に地獄まで見物できるなら、私だって行きたいですよ」

今は店主の軽口に付き合っている余裕はない。ユニは前置きなしに切り出した。

「じき覆試だ。前払いで頼む」
「前払い?!」

ファンは呆れたように はっ、と息を吐き出すと、ユニを見返した。

「あのね、若様。こっちはお陰様で、店を畳むところだったんですよ!ついさっきも、あのときの旦那が若様を捜しにここに来たんですから。もぉ心臓バクバクですよ、バクバク!」

 ユニは心底弱り切った顔で、呟いた。

「あいつっ…!いったいぼくに何の恨みがあるっていうんだ。前世で何か因縁でもあるのか?」

これ以上は関わらないという心づもりなのか、ファンは扉を開け、ユニを促す。

「若様には合わない仕事ですよ、ささ、もうお帰りください」

ユニは肩を落とすと、机の木目を数えるかのように、指でゆっくりとなぞり始めた。

「そうだね…お前の言うとおり、確かにぼくには合わない仕事だ。こんなことは、続けるべきじゃないな。お前だって、もちろん自分の店が大事だろうが、それだけじゃなく、ぼくのために親切で言ってくれてるんだ。そうだろう?」

 雲行きが怪しいと思ったのか、ファンが怪訝な顔で、ユニを覗き込んだ。その様子を目の端で伺いながら、ユニは続ける。

「決めた。ぼくは更生する。この間の初試で巨擘をやったと、役所へ言って正直に話してこよう。この店と主人のことも訊かれるだろうが、仕方ない。ぼくは真っ当に生きると決めたんだ」

ぬおぉ、とファンが頭を抱え、呻いた。ユニは素知らぬ顔だ。

「では、次は役所で会おう。さらばだ」

 店を出ようとするユニを慌てて制し、扉を閉める。振り返ったファンの顔は、さっきまでとは打って変わって、満面の笑み。しかも揉み手までしている。さすがは商売人だ。

「やだなぁ、若様ってばお気の早い…。で、いかほどご入用なんです?」
「100両だ」
「ひゃ…」

ファンの表情が固まる。

「そんなの無茶ですよっ!5両の筆写の仕事ならいくらでもあげますから!」
「───棒叩き200回は、まず確実に死ぬな。だが心配するな。あの世へ行くときはぼくも一緒だ」

再び、出て行こうとするユニを引き止めるファン。観念したのか、ごくりと唾を飲み込んで、言った。

「50両!」

ユニが瞳を見開く。ファンは口元に手をやり、声を落とした。

「禁書を運ぶ仕事です。できますか?」

やった、とユニは心の中で手を打った。この、抜け目ない商売人との交渉に勝ったのだ。
苦労は買ってでもしろとはよく言ったものだ。ユニだって、伊達に幼い頃からこのせち辛い世間に揉まれてきた訳ではない。

「地獄にだって行くって、言っただろ?」

にこっと笑って、ユニはファンの肩をぽんと叩いた。





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2011/08/01 Mon. 16:43 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

ボンボンのソンジュンには、ユニの逞しさは新鮮でしょうな~(^^)
結婚後、ユニの尻に敷かれつつエロですべてを胡麻化そうとするソンジュンが目に浮かびます(笑)

あまる #- | URL
2012/05/03 23:54 | edit

あまるさま

ユニちゃん やりますねえ。
さすが、伊達に苦労と学問と貧乏は身に付けていない。
このあたりの駆け引きはおみごとです。(爆)
そりゃー、お母様もご心配でしょうて。

それにひきかえ、坊ちゃんの世間知らずなこと(爆)
スンドルだって、下男とはいえ良家に仕えられる位の身分なんだから、百戦錬磨のユニちゃんやヨンハ兄にかなうわけないのでは?
そのスンドルよりも一千倍も世間知らずの坊ちゃんには無理無理(笑)とか思いながら見ていたシーンでございました。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/03 10:51 | edit

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