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第十三話 1 酩酊 

bandicam 2013-01-15 05-30-40-840
*****************************************


ユニは、その場に凍りついたように動けなくなった。
自分の心の中にいる人を当ててみせるとチョソンは言った。
“キム・ユンシク”が必死に押し隠そうとしている気持ちを、彼女は知っている。
もしかしたら、ユニ自身よりも。

ヒョウンが、弾かれるように椅子から立ち上がった。

「ちょっと、あんた!」

両班の令嬢らしからぬ物言いに、その場の誰もが、聞き間違いかとヒョウンを見た。周囲の視線に一瞬、狼狽えた彼女は咄嗟に、「ああっ」と声を上げてソンジュンの胸に倒れ込んだ。
チョソンはふっと口の端を引き上げると、ヒョウンを見下ろし、言った。

「起きてください、お嬢様。私は、真面目なだけの男性には、心惹かれぬ女です」

チョソンの視線が、静かにユニに向かう。

「お慕い申し上げる若様が、私には見せたことのない眼差しでお嬢様をご覧になるので……。少し困らせたくて、つまらない悪戯をしてしまいました」

───貴方にはおわかりでしょう?

彼女の鳶色の瞳が、そうユニに語りかけていた。
言い逃れなどできないことをユニは悟った。また、そんな必要などないことも。
女として到底敵わない何かを、チョソンに感じた。そんな場合ではないことは承知していたが、彼女のような人が、どうして自分なんかを好きになってくれたのか、ユニには不思議でならなかった。

ソンジュンにもたれかかっていたヒョウンが、こほんと咳払いしながらもそもそと身を起こす。
チョソンは束の間、ソンジュンを冷然と見据えていたが、やがて腰を落とし、言った。

「失礼いたしました、ソンジュン様。牡丹閣にいらした折には、私が一杯ごちそうします。……どうかお許しを」

くるりと踵を返す。薄闇の中に溶け込んでいく青いチョゴリを、ユニはたまらず追った。

「チョソン、待って!」

広場を出たところで、チョソンはようやく足を止め、ユニを振り返った。近くで燃え盛る篝火の火明が、彼女の瞳の中で切なげに揺らめいている。ユニはやっと、自分が彼女を酷く傷つけてしまっていたことに気づいた。

「すまないチョソン。ぼくが悪かった。何もかもぼくのせいだ」

チョソンは微笑んで、言った。

「若様はただ、ご自分の心に正直なだけ……。悪くなどありません。想いが届かぬからと恋しい人を恨むほど、私は愚かではありませんわ。どうか、お気になさらないで」
「チョソン……」

本当に自分が男だったらどんなにか良かっただろう、とユニは思った。
チョソンのような女性に想われることは、男としてきっととても誇らしく、幸せなことだろう。
そしてユニ自身も、ソンジュンへの想いにこんなに胸を掻き乱されることもなかっただろうに。
彼の友人として、彼に相応しい結婚を心から祝福してあげることもできただろうに。
天のほんの気まぐれで存在したかもしれない別の自分を、ユニは憧憬にも似た気持ちで思った。

若様、とチョソンは痛ましげな眼差しでユニを見つめた。

「私は、若様が心配です。決して結ばれぬ相手を求め、傷つき、相手をも傷つけて───それでも想いを断ちきれずに、苦しんでおられるのでしょう?」

生まれも、育ってきた境遇も全く違う彼女。お互い知り合ってからも、そう度々会っていたわけではない。なのにどうして、彼女にはわかるのだろう。
ユニの問いを聴きとったかのように、チョソンはその口元に微笑を浮かべた。

「初恋とは……そういうものですから」

そう言って、優美に膝を折る。静かに去って行く背中に、ユニは、彼女に応えることのできない自分を詫びるしかなかった。



広場に戻ったユニは、さっきまで座っていた席で、ヒョウンがしきりとソンジュンの頬を手巾で拭っているのを見た。実際についた口紅というよりも、チョソンがそこに触れた痕跡を完全に拭い去ろうとでもしているかのように、彼女の表情は真剣で、その手つきは執拗ですらあった。
ソンジュンが、ヒョウンの手をはたと掴んだ。途端に頬を染め、恥じらいに俯くヒョウンは初々しい新妻そのものだ。ユニは、とても見ていられずに目を逸らした。
そのままなるべく二人を見ないようにしながら、卓に近づき、頭を下げた。

「チョソンのことは……失礼しました。ぼくが至らないせいです。どうか、お許しください」

そう言うと、ヒョウンはぷっと頬を膨らませてユニを見た。

「ほんとに、失礼ですわ。でも、男性が女性に目を奪われるのは、罪だとはいえません。───それに」

と、隣のソンジュンにちらりと視線を投げる。

「私はこの方のものです。謝罪されるなら、私ではなく、ソンジュン様にされるべきではありません?」

ユニはソンジュンに向き直った。空腹で死にそうになったときでさえ、思ったことはなかった。こんな風に、自分で自分を哀れむ時が来ようとは。

「……悪かった。でも、ぼくは」
「もういい」

ソンジュンの冷たい声が、ユニを遮った。

「部屋に戻れ」

その短い言葉と、固い表情にあるのは、きっぱりとした拒絶だけだった。
何か言おうとしても、唇が震えるだけで声にならない。
じわりと浮かんできた涙を瞬きで必死に追い散らして、ユニは逃げるように席を離れた。

だが彼女はその晩、中二房に辿り着くことはできなかった。
明倫堂前広場を出る寸前で、ドヒョンら三人組に捕まってしまったのである。

「テムル、もう一杯いくか?」
「よぉし、飲め飲め。ぐーっといけ、ぐーっと」

ヘウォンが溢れる程に注ぐ酒を、ユニは一気に煽った。
どうせこのまま部屋に戻っても、眠ることなどできはしないだろう。ドヒョンたちの誘いはむしろありがたかった。
ソンジュンと、芙蓉花と、チョソンの顔が、ふわりとした酩酊感に乗って幾度もユニの頭の中を巡る。
彼等を綺麗さっぱり追い出してしまいたくて、ユニは次々と盃に酒を満たしては、矢継ぎ早に喉に流し込んだ。


*   *   *


───またあんな飲み方をしている。

ソンジュンは、少し離れた卓でドヒョンたちと酒を飲み始めたユンシクを見ながら、気が気ではなかった。
さほど酒に強いというわけではないくせに(とはいえ自分と比べれば相当なものだが)後先も考えずあんな調子で飲んでいたら、そのうち身体を壊してしまう。

「男は見てくれだけじゃわからないものだわね」

ふいにそんな呟きが聞こえ、ソンジュンは振り返った。ヒョウンが、ユンシクの方を見遣りながら ちちち、と舌を鳴らし、呆れたように首を振っている。
彼女はソンジュンが見ていたことに気付くと、はっとして居住まいを正した。そして中年女のような世間擦れした顔から急に少女のそれへと戻り、慎ましく微笑んだ。

「キム・ユンシク様のことです。あんな綺麗なお顔をしてらして、しかも妓生を隣に侍らせているのに私に色目を使うなんて、人は見かけによらないなって」

ソンジュンは黙って、ユンシクに視線を戻した。
ユンシクは芙蓉花に色目など使っていなかった。むしろ避けていたくらいで、彼女と話をすることさえ辛そうに見えた。
彼はそれほどまでに、愛する人に誠意を尽くす人間なのだ。相手が、妓生だろうと何だろうと。
また、あのどす黒くざらざらとした嫌な感触が、ソンジュンの胸をゆっくりと這っていった。

「でも、ご心配はいりません。私の心はソンジュン様だけのものですから」

沈鬱としたソンジュンの様子に、何か誤解したままのヒョウンが恥じらいつつそう告白したが、彼は全く聞いていなかった。
視線の先にいるユンシクは、もう相当に酔いが回っているらしく、卓の上に突っ伏してしまっている。それでも盃を離さず飲み続けているので はらはらしながら見ていたソンジュンは、彼がむっくりと上体を起こした拍子に椅子ごとひっくり返りそうになると、反射的に飛び上がるようにして席を立っていた。

「ソンジュン様?」

ヒョウンが、突っ立ったままのソンジュンを訝しげに伺う。

「おい、大丈夫か?!」
「しっかりしろよ、テムル」

ウタクたちに抱えられ、やっとのことで椅子に座り直したユンシクをじっと見据えながら、ソンジュンは言った。

「───もう、夜も更けました。お送りします」






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2013/01/15 Tue. 05:40 [edit]

category: 第十三話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 阿波の局さま

チョソンは抱えているものがあまりに重いので、純なユニに惹かれるのはわかる気がしますね。
ドラマ終盤、彼女の描写がすんごくザックリになってたのが返す返すも残念です(^^ゞ
放送回数を考えると仕方がないかなとも思うのですが。

嫉妬でメラメラなソンジュン、大好物です(爆)

あまる #- | URL
2013/01/28 00:50 | edit

>「私は、若様が心配です。決して結ばれぬ相手を求め、傷つき、相手をも傷つけて───それでも想いを断ちきれずに、苦しんでおられるのでしょう?」

ドラマのチョソンは、本当に気品があって聡明で素敵です。
そして、ユンシクにぞっこんなんですね。
ユンシクが叶わぬ恋に苦しんでいることがちゃんと分かる。


>あのどす黒くざらざらとした嫌な感触が、ソンジュンの胸をゆっくりと這っていった。
もう、ソンジュンどろどろv-356
男でも女でも見境なく嫉妬にかられて、いたたまれない。





阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/27 13:47 | edit

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