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第十二話 13 入清斎 

bandicam 2012-12-31 09-16-25-925
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取り落とした湯呑みが、茶托の上で がちゃんと音をたてた。
指先が、溢れた茶で濡れているのにも構わず、ユニの母チョ氏は震える声で言った。

「すぐに、すぐに連れて帰ります!あの子を成均館に入れたのは私です。聖廟に女を入れた罰なら、この私が受けます」
「夫人」

ヤギョンは少々困って、薬房の小さな卓を挟んで座る恩師の妻を見た。
師がまだ存命の頃、自宅を訪ねたことは多かったが、その際もただただ慎ましく、ろくに口を利いたこともない人だった。あの事件の後すぐに、ヤギョンは弘文館から地方の閑職に飛ばされ、師亡き後の一家がどうなったのか、知る術さえなかった。今の領議政チェ・ジェゴンが、当時キム博士の家族にまで危険が及ぶことを危惧し、漢陽の外に逃したと聞いたのはかなり後になってからのことだった。

チョ氏夫人は、節くれだった手を揉み絞るように握り締め、言った。

「どうか、夫を少しでも思ってくださるなら、家族三人が世を捨てて、隠れ住めるようお助けください」
「私を説得できたとしても、ユニの意志はくじけないでしょう。私自身、師匠として、あの娘を手放し難い弟子だと思っています」

ユニが男子であったなら、とこれまで何度思ったか知れない。だが今は、あの娘が女であること、そのことこそが天の意思を示すものではないのかと、ヤギョンには思えてならない。

「天主教では、男女は平等と説いています。もしかしたら、いつの日かこの朝鮮でも……」

ヤギョンを遮り、だが夫人は静かに言った。

「その道を歩むのが、何故あの子でなければならないのです?私は娘が世間に背き、いばらの道を歩むことを望んではおりません。夫を失っただけで、もう充分なんです」

夫人の目は、驚くほど冷静で、頑なだった。
ヤギョンはそれまでの考えを改めなければならなくなった。
ユニの頑固さは父親譲りだとばかり思っていたが、どうもそうではないらしい。
たおやかな外見からは想像もつかないほどのあの意志の強さは、間違いなくこの母親から受け継いだものだろう。
裕福な老論の家に生まれたにも拘わらず、南人の、それも官吏とは無縁の学者と駆け落ち同然に結婚し、夫亡き後も、二人の子を女手一つでここまで育ててきたのだ。生きるための強靭な意志なくしては、決してできることではあるまい。

夫人が、一礼して席を立つ。その背中に向かい、ヤギョンは思わず声を上げていた。

「ユニのためなのです」

ぴたりと、夫人の足が止まった。ヤギョンは卓の上をじっと睨んだまま、胸に溜めていた息を吐き出すように、言った。

「ご主人が金縢之詞を探し求めたのは───才能ある娘に、新たな世を開くためでした」


*   *   *


ユニは、進士食堂の片隅でようやく、母と腰を落ち着けて話をすることができた。入清斎の日は食堂は閉められるので、人気のないところといえばそこしかなかったのである。
母が、新しく縫った下着や保存食を包みから出すのを見つめながら、ユニは言った。

「お母様、話して欲しかったわ。お父様が、成均館の博士だったこと。知ってたら……」
「もう過ぎたことよ。話したところで、何も変わりはしない」
「だけど」

なおも言い募ろうとするユニの手を取り、母は諭すように言った。

「ユニや。今はとにかく、無事に卒業して家に帰ることだけを考えなさい。いつかそのときが来たら、必ず話してあげる。昔話をするみたいに。だから、ね」

ゆっくりと撫でさする母の手に、言葉にならないいくつもの思いを感じた。
ユニは唇を噛み、黙って頷くしかなかった。


*   *   *


丕闡堂前庭の一角に立つその楼閣は、広い成均館をほぼ一望に臨むことのできる唯一の場所だった。
掌議となった日、インスはこの成均館と、果てはその向こうにあるはずの王宮を見据えながら思った。
手に入れられぬものなど、この世には存在しない。自分の手には入らないと嘆く奴は、そうするための努力をしていないのだと。
何も望まず、何も行動を起こそうとしない人間が、いったい何を手にできる?

「ここは成均館で最も眺めのいい場所だ。いつかお前に見せたかった」

欄干の側に立ち、外を眺めやりながらインスは言った。楼閣の中央に設えられた卓に、姿勢を崩すことなく座したチョソンは、冷たく言った。

「今日私がここへ来たのは、景色などを眺めるためではありません。ですから、もう失礼してもよろしいでしょうか」

インスは、振り向いてチョソンを見た。青いチョゴリの胸元で、同じ色の結紐〈オッコルム〉が風に揺れている。
だが彼女の美しい顔には、彫像のような無関心があるばかりだ。以前は確かにあった、インスに対する怒りや皮肉めいた色すら、そこにはもう見ることができなかった。
立ち上がり、静かに退出の礼をするチョソンの腕を、インスは咄嗟に掴んでいた。

いっそ握り潰してやろうか。

半ば本気で、彼は思った。飛び去ろうとする小鳥は、逃すまいと強く握れば死んでしまう。だが他人のものになるのを見るくらいなら、その方がましかもしれない。

「努力しているのだ。この私が、お前ごときの心を得るために。この、ハ・インスが」

チョソンはそこでやっと、インスに視線を向けた。だが彼女の瞳には、何の感情も浮かんではいなかった。

「哀れなかた。この世のすべてを手に入れ、思い通りに動かしたいのですね。私一人くらい、放っておいていただけませんか」

腕を掴むインスの手を払いのけ、静かに一礼すると、チョソンは楼閣を降りていった。
隅に控えていたカン・ムが進み出てきて、言った。

「掌議、どうかお気になさらず。たかが妓生です」

インスはそれには答えず、空〈くう〉を見つめたまま、呟くように言った。

「あの日も……今日と同じ、青いチョゴリを着ていた。屋敷に、チョソンが来た日だ。父の前に立っていた10歳の娘に、青色のチョゴリがよく似合っていた」

チョソンの父親は、王宮付きの医師だったと聞いた。中人ながら生粋の老論で、朝廷の官僚たちとも通じていた彼は、思悼世子の精神の病を危険なものとして当時の王英祖に進言し、その死に深く関わったとされていた。
現王正祖は即位後、自ら思悼世子の息子であると公言し、父の追尊の儀式の際、チョソンの父を含めた多くの老論の関係者を粛清し、その首を父の墓前に捧げたと言われている。
主を失ったチョソンの家は離散し、母親や兄妹の行方もわからないという。

下女に手を引かれ、初めて屋敷に連れられてきたチョソンを、今でもはっきりと覚えている。
感情というものを何処かに置いてきてしまったような、あのときの彼女の顔は忘れることができない。
それでも、その鳶色の瞳は美しかった。彼女によく似合っていた、目の覚めるような青いチョゴリも。

インスは、束の間そうやって、遠い記憶の中の彼女に想いを遊ばせたが、それは彼の舌に苦い味をもたらしただけだった。
強張った声で、インスは言った。


「───ビョンチュンを呼べ」






***************************************************
あまるですどうもこんにちわ。

ま……また終わらんかった……orz
いちおう、一回あたり2500文字程度が長過ぎず短すぎずでいっかなーと勝手に目安にしてるんですが、これっくらいってフツーどうなんでしょ。携帯とかだとずりずりするのがウザッ!とかなるのかな。うーん。

ところで、チョソンの過去は例によってあまるの勝手な妄想です。公式設定ではありませんのでご注意ください。

サテ、今年の更新はこれをもって最後です。ご訪問いただいた皆様には、この一年本当にお世話になりました。
このブログで年末のご挨拶を二度もすることになるとは、開始当初は思いもしませんでした。
昔から飽きっぽくてヘタレな私が、ちょっとずつでも続けていることって、お恥ずかしいですがこんだけ生きてきてまさに人生初。自分でもオドロキです。
それもこれも、いつも温かい励ましやご感想をくださる皆様、そして、拍手ボタンやランキングボタンをポチッとしてくださるモニタの向こうのあなた様のお陰です。

皆様の支えなくしては、ただソンスと書くことが好きなだけでは、ここまで続けることは絶対にできなかったです、ほんとに。
拍手コメントにも、ほんとはひとつひとつお返事するべきなのでしょうし、数的にも対応できないほどではないんですが、基本的に鍵コメであるメッセージに対して公開でお返事をすることに私なりに若干の抵抗もあり(あ、返信するのが良くないとか言ってるんじゃないですよ(^^ゞ他のブログ主さんはいろんな工夫をされて、きちんとお返事されてるわけなので。私がいろんな配慮とか、気遣いができる自信がないだけなんです(-_-;)
どうしてもお返事できる範囲が限られてしまうこと、どうかお許しください。

ではでは、こんなつたないブログを可愛がってくださいまして、本当にありがとうございました。
よいお年をお迎えください~(^^)/




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2012/12/31 Mon. 10:40 [edit]

category: 第十二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

こちらこそ今年もよろしくお願いしますー(^^)

ダラダラと長くなりました12話(笑)15回って、一話以来だわ。よく考えたら。
今思うとちびたさんのおっしゃるとおり、盛りだくさんだったのね。
出来事がというより、各キャラの内面的に。

そうそう、太陽を抱く月、NHKBSで始まるんですね!チョン博士もチョソンもポクスも出てるっスよ!(笑)
ミノ君は超イイよ!!!子役だけど、今までの彼の役の中では一番好きだー(≧▽≦)
イルジメの子役二人がまぁ大きくなって……←すっかり親目線
正直言うと成長後のヒロイン役やってる女優さんがちと個人的に苦手だったんですが(^^ゞ
ドラマは面白いです。オススメ!


あまる #- | URL
2013/01/09 10:55 | edit

本年もよろしくお願いします。

この12話は長くなるのは仕方ないですよねー
だって、ある意味クライマックスだもん!

なんていうか、4人の成長とともに心に秘めていたものや気付かなかった心、押さえていた思いが湧き上がってきて、自分の気持ちや相手の気持ちを思いつつ制約された中で精いっぱいどうする事が最もいいかという事を幼いながら考えるというとっても深い回なんだもんね。

それは悪役(ごめんねファンの皆様)にも言える事なんだよねえ。
チョソンへの思いがわかるからハ・インスを嫌いになれないし
ハ・インスへの必死な思いと母親思いの一面が見えるからビョンチュンを憎みきれないんだよねえ。

ああ、深いわあ

にしてもチョソン姐さんの憂いを帯びた横顔の美しいこと!
あまるさん、写真のチョイスぐっじょぶ!

追伸
日本でもはじまりますねえ
太陽を抱く月
あまりにもおなじみな役者さんが多くって混乱しますわ(笑)
チョンぱくさ~!いつのまに王様にー!

ちびた #- | URL
2013/01/08 22:29 | edit

Re: ちゃむさま

あけましておめでとうございます~(^^)
昨年はお世話になりました。こちらこそ今年もヨロシクしてやってくださいまし。

脇役のひとたちは想像の余地がいっぱいあるので、考えるのはなかなか楽しいですねー。
ツジツマあわせにちと苦労するとこはありますが。
もし“アレ?”ってとこがあったら教えていただけると助かります(^^ゞ

ちゃむさんにとっても今年が良い年になりますように。。。。

あまる #- | URL
2013/01/05 01:18 | edit

Re: snowwhiteさま

あけましておめでとうございます~(^^)
こちらこそ本年もどうぞよろしくお願いいたします!

本日は仕事始めでした。年明けからいきなり風邪っぴきで会社行ったら、
「どーせ呑んだくれておコタで寝てたんでしょ~?」と言われること数回。
みんななんで知ってるんだ……まるで見ていたかのよーに(^^ゞ

snowwhiteさんもお仕事で忙しくされてるんですね。お互い無理しない程度に頑張りましょー。
今年の抱負は「健康管理」と言って社内の失笑を買った人→σ(゚∀゚ )オレ

お忙しい合間のスキマ時間にでも楽しんでいただければ嬉しいです(^^)

あまる #- | URL
2013/01/05 00:56 | edit

Re: みずたまさま

明けましておめでとうございます~(^^)
昨年はお世話になりました。
お忙しい中お越しくださってありがとうです!
「なんやコレいらんしっ!!」連発の福袋にならないことを祈りつつww

今年もよろしくお願いすます。

あまる #- | URL
2013/01/05 00:24 | edit

明けましておめでとうございます

今年もよろしくお願いします。相変わらず脇役のキャラ設定が素晴らしい:*:・( ̄∀ ̄)・:*:どこまでもついていきます(≧▽≦)また今年も少しずつで良いので更新お願いします。今年があまるさんにとって良い年になりますようお祈りしています。

ちゃむ #- | URL
2013/01/04 12:41 | edit

あけましておめでとうございます♪

本年もどうぞ宜しくお願いします☆
少しずつ物語が佳境に入ってきていますね~
最近、わたしも働きだしてなかなかコメントはできずにいますが、楽しく読ませてもらっています。
本年も楽しく読ませていただきます~
お仕事忙しいかと思いますが、マイペースでゆるりと更新あそばせ。
寒い日が続きますが、お体、ご自愛ください。

snowwhite #bSUw9.7Y | URL
2013/01/03 22:18 | edit

え~(*_*;

今確認したら、(みずたま)の(ま)の字がなかった~(@_@)
訂正して、お詫びします✿

みずたま #- | URL
2013/01/02 14:12 | edit

今年もよろしく~✿

明けましておめでとうございます✿
師走でバタバタしてて、やっと正月休みでこちらへバカンス✿にきたら
サクサク進んでたんで 読ませていただきました。
ワタシにとって、お年玉?いやいや福袋だね~(^^♪
サンキューです☆☆☆

みずた #- | URL
2013/01/01 23:00 | edit

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