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第十二話 10 嫉妬 

bandicam 2012-12-12 11-08-16-285
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「それは、本気で言っているのかね?」

目玉をギョロリとひん剥いて、大司成が尋ねた。傍らのユ博士も、「昔からの伝統を?」と驚きを隠せない。
そんな博士らの反応を楽しむかのように、インスはうっすらと笑った。

「今回の杖打大会を通じ、儒生たちに結束を学ばせたいのです」

いかにも掌議らしい台詞だ。チョン博士は皮肉めいた笑みを口の端に浮かべた。

「なるほど。それは結構なことだ」

一呼吸置いて、インスはチョン博士を見返し、言った。

「掌議として、当然のことです」

束の間、博士とインスの間にぴしりと音をたてそうなほどの緊張感が漂った。だがそれは、本人たち以外には知り得ないことだった。
日頃から杖打大会にかこつけた東西の主権争いに辟易していた大司成にとっては、インスの提案は願ってもない話だった。彼は机に両手をつき、インスの方にぐっと身を乗り出した。

「しかし、一体どうやって?」


その方法は翌日、儒生達が一同に会した明倫堂において発表された。各自くじを引き、党派に拘らず東軍と西軍に組み分けをするというものだ。
成均館に分裂をもたらした清斎対抗戦を廃し、杖打大会を通じて蕩平を図り、結束を深める、というもっともらしい目的が他ならぬ掌議ハ・インスの意図として伝えられると、皆不承不承ながらも従わざるを得なかった。
東軍、西軍を示す青と赤の鉢巻きが糸の先に結び付けられ、箱に入れられた。儒生たちがそれを一人ずつ、神妙な顔つきで引いていく。
そうして全員がくじを引き終わったとき、既に確定と見られていた杖打大会の勝利の行方は、完全にわからなくなった。
ユンシクとジェシン、ソンジュンとヨンハ。常に一緒だった花の四人衆が、見事に真っ二つに別れてしまったからである。



「分かってはいたが、つくづく、お前は頭がいいな」

その日、しばらくぶりにインスの部屋を訪れたヨンハは、自分の引いた青い鉢巻を指先で弄びながら、言った。

「さっきの組み分けに仕組まれてた細工……まさか自分は無関係だなんて、嘘はつかないよな?」

ヨンハは掬いあげるようにインスを見た。だが彼の表情はぴくりとも動かない。手にした杖打の打棒の感触を確かめるように、ゆっくりと撫でている。

「花の四人衆が杖打大会でも注目を集めるのは、我慢ならない。だから、老論であり、未来の義弟であるソンジュンは東軍、目障りな少論のコロは西軍か。男ってのは、球を追っかけると見境が無くなる。試合中、あの二人が互いにぶつかり合うことだって当然あり得るわけで───つまり結局は老論と少論とで争わせる算段だ。だろ?」

ふん、と鼻先で笑って、インスは言った。

「お前の頭も悪くはないようだな」

やっぱりな。まるで茶番だ。
ヨンハは青い鉢巻きを目の前でひらひらさせて、尋ねた。

「一つ疑問がある。なんで私はお前の側なんだ?」
「お前は私の配下だ。当然だろう」

その瞬間ヨンハは、まるで火がついたように かっと自分の身体が熱くなるのを感じた。ここ暫く忘れかけていた、怒りという感情だった。

「いつ、誰が、そんなことを言った?」

一語ずつ間を置いてインスに問う彼の声は、身体の熱さとは裏腹に冷え冷えとしていた。

これという人物に出会い、生涯を賭けることができたなら、それは男子にとっての本懐だ。
そんな男のために、汚れ仕事を引き受けるのが自分という人間の役割だとさえヨンハは思っている。
だが彼の目にはあの王ですら、まだその器ではなかったのだ。彼が己を捧げたい人物が、インスごときであるはずもなかった。
ヨンハは、凄むようにインスに顔を近づけると、その目を間近で見据え、囁くように言った。

「俺はク・ヨンハだ。誰の配下でもない。決めるのは、この俺だ」

インスの眉が逆立った。だがすっと身を離したヨンハはいつもの、口笛でも吹きそうな素知らぬ顔で言った。

「私を傍に置きたいんだったら、方法はたった一つ。もっと、楽しませてくれなくちゃ。今のお前は、退屈極まりないぞ」


*   *   *


丕闡堂前広場に設えられた杖打の練習場で、ジェシンは眉間に深い皺を寄せていた。
予想はしていたが、弓技同様、杖打に関してもユンシクは全くの ど素人だった。
「これ、面白そうですね」と言って、嬉々として打棒を構えたまでは良かったが、ユンシクの振った棒は地面に置いた球をかすりもせず、空を切った。
人に教えるなんて柄じゃなかったが、流石にこれではまずい。
杖打は個人技の弓とは違い、競技中はまさに戦場となる。自分のところに転がってきた球を打ち返すこともできなかったら、この細い身体だ。襲い掛かってくる男たちにたちまち押し潰されるか、良くて弾き飛ばされてしまうだろう。
ジェシンはユンシクの正面に立ち、手にした打棒で位置を指し示しながら、言った。

「もっと上を握るんだ。違う、左右逆だ」
「……こうですか」
「そうじゃなくて、ここを握るんだ」
「こう?」

ユンシクの飲み込みの悪さに、ジェシンは短気を起こして頭を掻き毟った。

「だーっ!鈍クセェやつだな!なんでこんなこともできねぇんだよ!」

誰かに何かを教えるときに最も必要なのは、忍耐だ。だがジェシンの性格に決定的に欠落しているのも、まさにそれだった。

「すみません……」

ユンシクが しゅんと肩を落とす。それを見たジェシンは しまったと思い、声を落とした。

「いやその、ちが……だから」

別に怒っているわけではないことを伝えたかったのだが、上手く言葉にすることができない。つくづく、自分は教育者には向いていないのだと彼は悟った。
口で説明することを早々に諦めたジェシンは、打棒を放ると、ユンシクに身を寄せ、彼女の手を取って柄を握らせた。

「ほら。ここを、こう握るんだ」

ユンシクはようやく得心したというように頷いて、ジェシンを見上げた。

「これでいいですか?」

いきなり至近距離で見つめ合うことになってしまい、ジェシンの心臓が跳ね上がる。
ごくりと息を呑んで、彼はさり気なくユンシクから身を離した。

「……ああ。まぁ、いいんじゃないか?」

小気味良い音をたてて、ユンシクの打った球が飛んだ。球は綺麗な放物線を描いて、球門に吸い込まれていった。ぱっとユンシクの顔に笑みが広がる。ジェシンも破顔した。
やった、とばかりに二人で互いの手をぱちんと叩いた。

そんな彼らの姿を、少し離れたところからじっと見ていた者がいた。
遅れて丕闡堂に来ていたソンジュンである。

不慣れでも一生懸命なユンシクと、彼に不器用ながらも杖打を教えるジェシンの様子は、傍目には微笑ましい光景だ。だがそれを見つめるソンジュンの胸には、黒々としたものが渦巻いていた。

本当なら、今ジェシンのいる場所には自分がいるはずだった。大射礼のときのように、一から打ち方を教えて、上手くできたら、共に喜び合って。
なのに、彼は今一人だった。
いつも隣にいるはずのユンシクは、他の男にぴったり寄り添って、あんな無邪気な笑顔を見せている。

一緒にいるときはわからなかった。まるで、ユンシクのあの笑顔が、自分だけのものであるかのように錯覚していた。
だが実際は違うのだ。いやそれどころか、今の彼はずっと楽しげに見える。

僕と、いるときよりも。

丕闡堂の練習場の入り口に立ち尽くすソンジュンを見つけ、色掌が声を掛けたが、ソンジュンの耳には入らない。険しい表情のまま、彼はすたすたと東軍の球門の方へと歩いて行く。
訳のわからない苛立ちをぶつけるかのように、続けざまに球を打ち込んだ。球は一つも狙いを外すこと無く、球門の網を激しく揺らした。
ソンジュンは反対側の球門近くにいるユンシクとジェシンを見ないようにしていたが、彼らの明るい声だけが、どういうわけかやけにはっきりと聞こえてくるのだ。

「先輩〈サヨン〉、先輩」と、まるで子猫が主人にじゃれつく時のようなユンシクの甘い声。
彼の発する言葉の一つ一つが、いとも簡単にソンジュンの心をずたずたにする。
自分に向けられたものではない、たったそれだけの理由で。

耐えられなかった。
ソンジュンは球を打つのをやめ、代わりに握りしめていた打棒を地面に叩きつけた。
胸を覆い尽くす怒りは、それでも治まらない。ソンジュンは練習場を足早に後にした。

『ほら、あるだろ?その人のことを想うと、胸がドキドキするとか、気がつくと、その人のことばかり考えてたりとか』

ふいに、無人島でのユンシクの言葉が頭を過ぎり、ソンジュンは立ち止まった。
事も無げなヨンハの声が、それに続く。

『男が女を好きにならなきゃいけないなんて道理はないさ』

来た道を振り返る。丁度、丕闡堂の門を出てくるユンシクの姿が目に入った。恐らくはソンジュンのただならぬ様子に気付いたのだろう。ここまで彼を追いかけてきたのだ。
咄嗟に、近くの日月門の陰に身を隠した。こんなみっともない姿を彼に見られたくなかった。

ソンジュンは観念した。もう疑いようがない。これは醜い嫉妬だ。

ユンシクがジェシンやヨンハと親しげに言葉を交わしたり、彼らに笑いかけたりするのが嫌で仕方がない。ユンシクの目に、彼らの姿が映ることさえ我慢できない。彼らがユンシクの肩や腰に手を触れようものなら、荒れ狂う怒りで体中の血が沸騰しそうになる。
ユンシクの笑顔が、声が、視線が、触れる手が、自分だけのものではない。そのことが、ただどうしようもなく、辛い。

あのとき島で、ユンシクに対して抱いた欲情は捨ててきたつもりだった。
あれは、島の朝靄が見せた幻想だったのだと。戻ったらまた、ただの友人になるのだと。
だが、心は少しもソンジュンの言うことを聞かず、勝手に膨れ上がるばかりだ。

このままずっとユンシクといたら、いったい自分はどうなってしまうのだろう。

こんな風に暴れまわる気持ちを隠して、今までどおり普通に話したり、笑い合ったりできるのか?
彼の姿を目にするだけで、すぐ傍に彼がいるだけで、こんなに、息もできないほど心臓が激しく胸を叩くのに。

───僕には無理だ。

絶望的な気持ちで、ソンジュンは赤い柱に背中を預けた。足元が崩れ落ちていくかのようだった。






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2012/12/12 Wed. 11:09 [edit]

category: 第十二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

今年はお世話になりました(^^)
このブログも、年越しを迎えること二回目となりました。
ちびたさん始め読者様の存在なくしては、とてもこんなブログ、続けることはできませんでしたわー。
今後ともよろしくお願いします。

>あまるさま、どーぞお願いです!思いっきり心の声を聞かせてくださいませー

えーいいのー?(笑)そんなこと言うとほんとねちっこく書くですよワタクシ。特にソンジュンは(^^ゞ
コロたんとかヨンハはもちっとハードボイルドに書きたいんですけどねぃ。←ソンスでハードボイルドって(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/12/20 09:49 | edit

あまるさま

ほんとに、今年ももうすぐ終わりですねー
今年は、あまるさんとソンスとイ・ソンジュンとユチョン君、ユンシクとパク・ミニョンちゃん、その他大勢(をい!ちゃんと書かんかい!)にお会いできた年でもありました。

まさか、ここに来て韓流ドラマにはまるとは思いもよりませんでした。
いよいよお話も佳境に入ってきてますが、どうぞあまるさま体に気を付けてくださいませ。

でもって、もだえるユチョン君じゃなくてイ・ソンジュン、好物だわーをっほっほ。
この、ぼくだけじゃなかったのか!ユンシク!どうしてだあああ!と悶えるイ・ソンジュンたまりまへん!
いやーー眼福眼福
あまるさま、どーぞお願いです!思いっきり心の声を聞かせてくださいませー
あー、悶えるイ・ソンジュンでごはん3杯食べられます!(変態)

ちびた #- | URL
2012/12/20 00:13 | edit

Re: ちゃむさま

今年も終わりですね~。お互い風邪引かないように気をつけましょう。
サテ、悩みもだえるソンジュンはあまるも大好物ですわ~(^^)
なのでいつも以上に変態的にしつこく書いちゃうと思いますが、ドゾお見逃しを~。

あまる #- | URL
2012/12/14 07:40 | edit

切ないね~

こんばんは(^-^)/風邪などひいたりしてませんか?年末は何かと気ぜわしいのでお互い気をつけましょうね~さて、だんだん自覚してきたソンジュン。悩めば悩むほどその切なそうな表情さえも傍からみてる私ったらニヤニヤが止まらない。いやなんか結末を知らなかった時も同じように思ったからちょっとSっぽいんでしょうね、私。それとも脚本?演技?あまるさん?にまんまとのせられてるのかも…ますます続きが楽しみです。

ちゃむ #- | URL
2012/12/13 01:15 | edit

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