スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十二話 7 帰京 

bandicam 2012-11-29 01-33-55-836

ヨンハの仕草って「欧米かっ!」とツッコミ入れたくなる。時々。


*************************************************


北村にある兵曹判書の屋敷といえば、その広さはあの左議政宅をも凌ぐと巷では評判だった。
敷地を囲む土塀の瓦が、波のようにどこまでも続くので、門に辿り着く前に諦めてしまう御用聞きもいるらしい、というまことしやかな噂があるほどである。
だが今のヒョウンには、この屋敷が、かつてないほど小さく思えた。
パム島から漢陽に戻ってきて、自宅まで送ってくれるというソンジュンとやっと二人になれたと思ったのに、いったいなんだってこの家の門は、こんなにすぐ現れるのだろう。
若様〈トリョンニム〉と二人、並んで歩くこの道が永遠に続くといいのに、と彼女は心の中で小さく溜め息をついた。

「では、私はこれで……。次にお会いできるのは入清斎〈イプチョンジェ〉の時ですね」

言ってしまってから失言に気付いた、という風を装って、彼女は口元を押さえた。

「すみません。成均館には、伺ってはいけませんでしたね。ソンジュン様の嫌がることはしたくないので、私はご遠慮します」
「……いえ」

それまで、ヒョウンの話に僅かな相槌を返すだけだったソンジュンが、初めて口を開いた。

「入清斎は、すべての人に成均館を開放する日です」

ぱっ、とヒョウンが顔を上げた。ダメでもともと、と思っていたのに、まさか彼からこんな返事が返ってくるとは。

「では、行ってもよろしいのですか?」
「道理に反することではありません」

では、と踵を返したソンジュンの後ろ姿を、ヒョウンが夢見心地に見送る。丁度ヒョウンを迎えに出てきていたポドゥルが、低い鼻に皺を寄せ、ソンジュンの声音を真似して、言った。

「道理に反することではありません……って、結局何が言いたいわけ?」

振り向いたヒョウンが、ポドゥルを睨みつけた。

「わからないの?必ず来いってことよ。待ってるからって」
「そんなこと、仰ってましたっけ?」

訝るポドゥルに向かい、べぇ、と舌を出してヒョウンは断言した。

「目がそう言ってた!絶対!」



都は、相も変わらず人々で賑わっていた。大きな行李を背負い、足早に行き交う行商人も、慣れた口上で茶を売る清国人も、道端に座り込み、客引きに忙しい怪しげな占い師も。
店先に吊るされた提灯の房にさえ、何も変わるところはない。
変わってしまったのは自分なのだ、とソンジュンは思った。

島へ行く前の自分が、どんな心境でこの道を歩いていたのか、彼にはもう思い出せない。
たった一日しか経っていないというのに、こんな苦悩を知らずにいた時の自分には、二度と戻れはしないのだ。

ふいに、ソンジュンは立ち止まった。
突然、彼の脳裏に、今朝の島での光景が閃いたのだ。

立てた膝に頭をもたげ、寝入ってしまったユンシク。
触れそうなほど間近にあった、彼の長い睫毛と、桃色の唇。

あまりに鮮やかすぎる記憶を振り払うように、彼は頭を振った。そしてまた早足に歩き出した。
すれ違う人々と何度も肩をぶつけ、その度に訝かしげな視線を向けられたが、彼は構わず歩き続けた。

「坊ちゃん!」

そんな声とともに、いきなり、背後からがっちりとソンジュンを抱きすくめる腕があった。
時の権力者イ・ジョンムの息子にそんな恐れ知らずなことができるのは一人しかいない。
スンドルは、ソンジュンの顔を覗き込むと、小さな目をしきりと瞬いて、言った。

「ゆうべは、坊ちゃんを助けに漢江に飛び込むところでしたよ。大丈夫ですか?真っ青な顔して。島で、幽霊でも見たんですか?」
「スンドル」

はい?と首を傾げる。

「僕は……」

ソンジュンの只ならぬ様子に、一体何を言い出すのかと不安になったのだろう。スンドルはごくりと唾を飲み込み、主の言葉を待った。

「……いや、いいんだ」

兄弟同然のスンドルにさえ、結局何も言えず、ソンジュンは先に立って歩き出した。
心配顔のスンドルが、慌ててその後を追った。


*   *   *


「杖打〈チャンチギ〉ってのはどうも好きになれないんだよね」

館内のあちこちで練習に励む儒生たちを横目に見ながら、ヨンハが言った。
「杖打?」とユニが尋ねる。

島から帰ってきたら、儒生たちが一斉に妙な棒を持ってそこらじゅうで球を追いかけ回していたのだ。ユニにとってはいきなりのことで、すっかり面食らってしまっていた。

「殺伐としてるだろ?東斎と西斎、いや、老論とその他に分かれて戦う、武器を持たない戦だ。毎年一人は必ず怪我人が出る」

随分と物騒なことを言う。

「入清斎も、怖い行事なんですか?」

ユニが恐る恐る尋ねると、ヨンハは何を言う、と目を見開いた。

「とんでもない。入清斎ほどすばらしいものはないぞ。このク・ヨンハが成均館に残ってる理由と言ってもいい。杖打大会の前夜祭、女人禁制の成均館に、女が自由に出入りできる日なんだ」
「そんな日があるんですか」

成均館は女人禁制とはいえ、全く出入りできないわけでもないのだ。そういえば芙蓉花も、大射礼の前に下女を従えて来ていたし、そもそも普段から食堂には数名の茶母もいる。神聖な場所であるとはいえ、そのあたりはわりと柔軟なのかもしれない。

「イ・ソンジュンは当然、兵曹判書の娘を呼ぶだろうな。お前は誰を呼ぶつもりだ?」

例によって何事か探るようなヨンハの目が、ユニの顔を覗き込む。彼女は思わずその視線を避けた。
ヨンハは意味ありげに微笑むと、言った。

「ま、それはいいとして。早く行ってやれよ。昨夜からずっと待たせてる奴がいるだろ?」

え?とヨンハを見返すと、彼は口元の傷が急に疼いたのか、ちょっと顔をしかめて、そこに手をやった。





↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2012/11/29 Thu. 02:00 [edit]

category: 第十二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 2  tb 0 

コメント

Re: ちびたさま

お久しぶりー(笑)
お忙しい中コメありがとうです。
しかしそんなに本格的にお勉強してらしたとわ。すご……。
学生時代にちょっと囓った論語は、確かに面白いと思いました。私も。
ただ、儒教に関しては歯がたちませんわ。難しくて。(^^ゞ

ウチのブログが役に立つかは甚だギモンですが(笑)モチベ上げに貢献できるなら何よりですわー。
頑張ってくださいね!
そしてあまるにもチョン博士のよーな易しいレクチャーを……Σ(゚∀´(\(・∀・ )ビシッ

あまる #- | URL
2012/12/04 03:37 | edit

をを!パソコンから少し離れている間に季節もお話も進んでいた―!
そして、イ・ソンジュンの気持ちもすっかり むふふな方向に(爆!)
思えば、ソンギュンガンを知ったのは桜咲く季節だったというのに今はもう冬、そして新しい年を迎えようという時。
彼らの季節も、ゆっくり確実に移り変わり成長してるんですよねえ。

ところで、わたくし、このお話にはまってから、儒教・東洋史・論語を勉強するに至りました。
今は新たにレポートを書くために日々図書館と先生の教室に通いまくり。
いや、面白いですわー。
そして、彼らはこんな事を勉強していたんだーと思えば、難しき資料もまた楽し。

あまるさんの更新も私のモチベーションと勉強の大切な一部です。
いつもありがとうございます。
年末年始は忙しくなりますが、無理しないでくださいませね
(でも更新を楽しみにしている私、むじゅんだあー!9

ちびた #- | URL
2012/12/02 21:31 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/148-47d81eca
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。