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第十二話 5 朝靄 

bandicam 2012-11-18 23-23-01-610

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膝に顎をのせて焚火を見つめるユンシクの口数が、急に少なくなった。目は、焦点が定まらずとろんとしている。
横になったらどうだ、と言うと、彼は身じろぎもせずに、瞬きだけを繰り返して、言った。

「何だかすごく疲れちゃって……今横になったら、起きられない気がする」

無理もない。こんな遠くまで連れて来られた上に、雨に打たれ、一晩中森の中を歩き回る羽目になったのだ。
それも、ソンジュンの勝手に付き合わされたせいで。

どうして、こんなことで何かが確かめられると思ったのだろう。どれほど足掻いたところで、自分で自分の心を誤魔化すことなど、出来はしないのに。

「誘うべきじゃなかった」

ぽつりと、ソンジュンは呟いた。

「自分の気持ちさえ、抑えることができない。こんな同室生で、君も苦労が絶えないな」

申し訳ない思いはあるのに、自己嫌悪が過ぎてそんな自嘲気味の台詞しか出てこない。

「………よかったよ」

ソンジュンに聞かせようという意思があるのかないのか、くぐもった声で、ユンシクが言った。その瞼はもう、眠りに落ちる寸前だ。

「こんなぼくでも………何かできることがあって、よかった。嬉しかったんだ。本当に」

しきりと瞬いていた長い睫毛が、閉じた瞼の先でぴくりともしなくなった。穏やかな寝息が、虫の音に混じって囁きかけるようにソンジュンの耳をくすぐる。

火は、先刻よりかなり小さくなっていた。ソンジュンは傍らに掛けてあった自分の快子を取ると、ユンシクの肩にそっとかけてやった。
小さな身体は、ソンジュンの袖のない快子にさえも、すっぽりと収まってしまう。

泥にまみれ、ところどころ引っ掛けて破れてしまっている下衣。細く白い手は傷だらけだ。
熱を出して倒れてしまった情けない自分のために、彼はどうしてここまでしてくれるのだろう。単に彼が生来持っている性分のせいか、それとも。

僕だから、なのか……?

とくんと、胸が小さく音をたてた。

そうだったらどんなにいいだろう。ソンジュンは切実に思った。
もし今、ユンシクのために川に飛び込めと言われたら、恐らく自分は喜んで飛び込むだろう。何度でも。

それと同じくらいに、彼が僕のことを想ってくれていたら。
手の引っかき傷も、顔についた黒い煤も、全部僕のために彼が必死になってくれた証だったなら───。

軽率なことをするなと、目を覚ますなり彼を叱ってしまった。自分が正体もなく眠りこんでいる間に、彼が危険な目にあっていたかもしれないと思うと、背筋が寒くなったからだ。だがその一方で、彼がそこまでしてくれたことが、嬉しかったのも本当だった。

ソンジュンはユンシクの唇に目を落とした。顔は真っ黒でも、そこだけはつややかな桃色を失わない。
どうしていつも、そこにばかり目がいってしまうのだろうと不思議でならなかったが、今はわかる。
これは欲情だ。本来は、男が女に抱くはずの。
見つめるだけでは、指先で触れるだけでは、きっと足りない。

誘うように薄く開いた唇から、かすかな吐息が漏れる。抗いがたい何かに引き寄せられるように、ソンジュンはユンシクに顔を寄せた。
ふわりと漂ったのは、湿った土草の匂いではない。いつも不思議に思っていた、ユンシクの香りだ。
どうして彼は、彼だけは、こんないい匂いがするのだろう。この香りを嗅ぐと、頭の奥が痺れたようになって、何も考えられなくなる。ただこの香りで胸を一杯に満たしたくて、彼の首筋に顔を埋めたくなる。細い首筋を辿り、顎に触れ、小さな紅い唇を舌でこじ開けて、この香りをどこまでも深く味わって───。

はっ、と、ソンジュンは我に返った。いつの間にか、その温もりを自分の唇に感じるほど近くに、ユンシクの唇があった。

あとほんの少し身じろぎすれば、彼の唇を奪ってしまえる。だがそれは恐ろしい罪の始まりだ。
奈落の底へと転がり落ちていくのが自分だけならまだいい。だがこの罪は、ユンシクをも否応なく道連れにしてしまう。それはソンジュンにとって耐え難い地獄となるだろう。
凍りついたように動けぬまま、ソンジュンは左手を固く握りしめた。

───僕は……僕は今、いったい何をしようとしていたんだ───?

ソンジュンはユンシクから顔をそむけ、天幕を飛び出した。ふらつく足で、川岸まで降りてきてからようやく、あたりが白み始めているのに気付いた。遠く近く聞こえてくる鳥のさえずりや、足元にひたひたと打ち寄せる水の音にも。

まともに息をすることさえ忘れていたのかもしれない。胸が苦しかった。心臓が、その鼓動に合わせ、ソンジュンには決して口にできない言葉を繰り返し叫んでいる。

君が好きだ、君が好きだ、君が好きだ───。

いっそ壊れてしまえ、とソンジュンは自分の胸を拳で強く叩いた。何度も何度も。
だがいくらそうしても、心臓は叫ぶことをやめない。
自分が犯そうとしていた罪の恐ろしさに足が震え、真っ直ぐに立っていることさえできない。わななく膝を両手で抑え、崩れ落ちそうになる身体を支えた。

───どうして。
どうして、君は男に生まれてきたんだ、キム・ユンシク。
そして男である君に、どうして僕はこんなにも囚われてしまったのか。
君への想いを自覚すればするほど、苦しくてたまらない。
報われることなど有り得ないこの気持ちを、いったい何処へ持っていけばいい?
教えてくれ、どうか───

ソンジュンは朝靄の向こう、静かに流れ行く漢江を見つめた。
だがその深い水は、何も答えてはくれなかった。





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2012/11/18 Sun. 23:35 [edit]

category: 第十二話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

この回のトップ絵はこれしかないでしょう!ってことで(笑)
心の中のセリフってゆーとどれだろ。我ながらしつこく書きすぎてどれがそーなのやら(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/12/04 03:55 | edit

んま!あまるさん!このトップ画像ってば(じゅるり)
たまらんのぅ (おっさんかい!)

この心のなかのセリフって初めてドラマ見た時に思い描いたセリフそのまんまでしたよ!
をを!そうそう!そうなんだよ!これこれ!これなんだよぅー!
と悶えてしまいました。

韓ドラは数が多いのでなんだか似たような設定やらが多く目につく事もありますが、これは本当にうまい作りだなーと思ったシーンでした。

ソンジュン、それが人になるということなんだよ。と声をかけてしまったよ。うはは

ちびた #- | URL
2012/12/02 21:59 | edit

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