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第一話 11 ざんばら髪の男 

「───お前は余程父上に大事にされているのだな」

肩を落とし去っていくユニの背中を、ほくそ笑みながら見送っていた男に向かい、インスが言った。

「若様、それはどういう意味で?」
「そうでなければ、あのような小娘が父上に物申すような異常事態が、我が家で起こるはずはない」

男は青ざめ、愛想笑いの浮かんでいた頬をひきつらせた。
彼は忘れていたのだ。この家の跡継ぎが、主人である兵曹判書以上に情け容赦のない男であるということを。

インスにとって、権力は絶対だった。力こそが秩序を生み出す基盤であり、彼という存在の根幹だった。
無力な者が、己の分もわきまえず、力ある者と並び立とうとする。どうにかして出し抜いてやろうと、無い知恵を絞り立ち回る。そういう人間を、彼はこの世で最も蔑み、憎んでいたのである。

インスは男を見た。ついさっき、妹ヒョウンに見せた穏やかな表情は、その片鱗さえ残っていなかった。

「私は、父上とは違う。二度目は絶対に許さん」


* * *


ユニは賑わう市場通りを歩いていた。その足取りは重い。
結局、何も出来なかった。返済までの猶予を貰うどころか、却って兵曹判書を挑発し、自分の立場を悪くしてしまった。最悪だ。
諦めるしかないのかもしれない。兵曹判書に嫁げば、母と弟は救われる。それにどうあがいたって、女は誰かに頼らなければ生きていけない生き物だ。

ユニは袂から、兵判に渡せなかった金子の袋を取り出した。

───本当に、そうなのだろうか?

このお金は、誰にも頼らずに自分自身の力で稼いだものではなかったか。
誰かの助けがなければ生きていけないのは、それは女のせいではなく、そういう世の中のせいではないのか。

そんなことを考えながらぼんやり歩いていたユニの手から、いきなり、金子の入った袋が消えた。
たった今、すれ違った見知らぬ男に奪われたのだ。

「待って!返して!」

ユニが、走り去る男の背中を追いかける。男は人混みを抜けて路地裏に入ると、ユニを振り返り、ニヤニヤと薄ら寒い笑みを浮かべ、手にした袋を弄んだ。

「それを返して。返しなさいったら!」

ユニが袋に飛びつこうとすると、男はひょい、とユニの背後に袋を放った。するとそこにいた別の男が袋を掴み、また別の男に投げる。ユニの周りはいつの間にか、5人もの風体の怪しい男たちに囲まれていた。

「お前ら、丁重におもてなししてやれ。大事なお方だからな」

そう言って目の前に現れたのは、兵曹判書の家にいた、あの借金取りだった。
ユニは悟った。貸した金を取り戻す気など、さらさら無いのだ。兵曹判書も、この男も。
女を金で買い、慰み者にする。彼らにとっては、妓生だろうが両班の娘だろうが、関係ない。女の身体でさえあれば、それでいいのだ。
ユニは、震える膝を折り、周囲を取り囲む男たちの前に跪いた。悔しさに涙が滲んだが、歯を食いしばって堪えた。どうせ彼らは、女を自分たちと同じ人間だとは思っていないのだ。今更、両班の誇りなど一体何の役に立つだろう。

「お願いです。それは、私の命にも代えられないお金なんです。ですからそれだけは、返してください。どうか……!」

借金取りの男が、口の端に残忍な笑みを浮かべる。ユニは隙を見て袋を持った男に飛びつくと、その腕に思い切り噛み付いた。

「いでででででッ!この女、何しやがるっ!」

男がユニを引き剥がそうと拳を振り上げた、その瞬間。

ごんッ!

鈍い音がして、男は地面にばったりと倒れた。その傍にころころと転がったのは。

(───林檎?)

それは紛れもなく、赤い林檎だった。どこにでもある、ごく普通の。
どうやらこれが頭に命中して、気を失ったらしい。でも、どこから?
ユニが振り向くと、少し離れたところで筵を被って寝ていたらしい男が、それを足で跳ね除け、むっくりと起き上がった。

「……うるせぇんだよ。ゆっくり眠れやしねぇ」

ざんばらに下ろした髪、だらしなくはだけた服。ユニを取り囲む男たちより数段性質〈たち〉の悪そうな男が、恐ろしく不機嫌な顔でこちらへ歩いて来る。

「貴様ァ!」

仲間をやられ、かっとなった男たちが一斉に跳びかかる。ざんばら髪の男は正面に来た相手に重い足蹴りを食らわせ板塀に叩きつけると、ユニの腕を掴んだ。

「えっ…?あぁっ!」

そのまま、ユニの身体はくるりと男の背後に回された。避けていろということか。ユニは慌てて、少し離れた民家の軒先に逃げ込んだ。

その間も、ざんばらの男と街のゴロツキたちは互いの出方を伺って睨み合っている。
先に動いたのはゴロツキどもだった。彼らがやみくもに振り回す棍棒を、男は敏捷な動きで難なく避け、とんと地面を蹴る。軒先にぶら下がったその足で、敵の首根っこを挟んで捻ると、相手の身体は空中できれいに一回転し、地べたで嫌な音をたてた。

男の足技は、それだけでは終わらなかった。
物干し竿に掴まり、素早く身体を回転させて鋭い蹴りを打ち込む。それは敵の鳩尾にめり込み、その身体を10尺近く吹っ飛ばした。かと思うと軽々と屋根に駆け上り、飛び降りるその足で相手の脳天に強烈な一撃。

5人もの男が、たった一人に次々となぎ倒されていくのを、ユニはただあんぐりと口を開けて見ていた。
まるで軽業師だ。とても人間の動きとは思えない。

しかも、地面に転がるゴロツキたちは血反吐を吐いて呻いているのに、男はあれだけ動いても息一つ乱していないのだ。

「貧乏人同士、仲良くやろうぜ」

勝負は、ほんのわずかな間についてしまった。累々と横たわるゴロツキたちを見渡したざんばら髪の男が、落ちていた林檎を拾う。服の袖で軽く擦って、ガブリと齧り付いた。
口の中をリンゴでいっぱいにしたまま、男はゆらりと歩いてくる。

すれ違いざま、まだ呆然として動けないでいるユニの方にちらとも視線をくれず、彼はぽいと何かを放った。反射的に受け取ったそれは、ゴロツキに奪われた金子の袋だった。

といきなり、倒れていた男の一人がむくりと起き上がり、奇声を発しながらざんばらの男の背後めがけて襲い掛かってきた。

危ない、と思ったその瞬間、ユニの目はざんばらの男の大きな手に覆われ、何も見えなくなった。
棍棒で何かを激しく殴りつける穏やかでない音だけが、耳元近くで聞こえる。

やがて男の手が離れ、ユニは恐る恐る目を開けた。そのときには、全てが終わっていた。
たった今襲いかかってきたはずの男が、顔から血を流して足元に転がっている。
残酷な場面を、こんな間近で女子供には見せられないという配慮だったのだろうか。彼の風体と、それまでの暴れっぷりからは予想もできなかった行動だ。

───いったい何者なんだろう、この人は。

「まだ反省してない奴はいるか?いたらさっさと出てこい!」

男が声を荒げると、倒れて呻いていたゴロツキどもは這々の体で起き上がり、散り散りに逃げていった。
呆れたもので、借金取りの男は早々に姿をくらましたのだろう。どこにもいなかった。

「……酒でもおごってやろうと思ったのに。金が浮いたな」

ふっ、と片頬を上げ、立ち去ろうとする。

「ま…待って!待ってください!」

我に返ったユニは、慌ててざんばら髪の男を追いかけ、頭を下げた。

「ありがとうございます。お陰で助かりました。本当に…本当にありがとうございます」

男は何も答えない。そのまま行こうとするのを引き留めようとして、ユニは彼が右腕から血を流しているのに気づいた。

「あの、これを」

折り畳んだ手巾を差し出す。だが男は受け取らず、またふらりと歩き出した。ユニはなおも食い下がる。

「恩返しさせてください」
「……恩返し?」

男はやっと立ち止まり、小さな花の模様が刺繍された手巾を受け取った。

「恩を返したいってんなら、二度とオレの前に現れるな。見てるとムカつくんだよ、お前みてぇな鈍くせぇヤツ」

ユニは黙り込んだ。なんとなく自覚はあったが、面と向かって言われればやはり傷つく。男は続けた。

「簡単に人に頭を下げるな。土下座もするな。癖になる。一度癖んなっちまうと───なかなか治らねぇぞ」

───え?

少し驚いた。彼は、ユニと借金取りの男たちのやりとりを聞いていたのだ。林檎を投げてきた、あの少し前から。

「あ、あの!」

再び立ち去ろうとする少し猫背気味の背中に向かい、ユニが声を掛ける。

「恩返しだろ」

ぴしゃりと言われて、口をつぐむ。お酒でも入っていたのか、男はひっく、としゃっくりをして、行ってしまった。

ユニは、無事に戻ってきた袋を胸元で握り締め、ほっと息をついた。






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2011/07/28 Thu. 03:20 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あまるさま

アイーンはそれまでどっちかというと可愛らしい後輩、みたいな役しか見たことなかったので
こんなのもできるんだーというか、全然こっちのがハマってるじゃないか!とちょっと
びっくりでした。
アイーン本人はもちろんだけど、キャスティングした人のお手柄としか言いようが無いですね(^^)

そうそう、某国営放送の時代劇といえば、夏からパク・シフ氏の「王女の男」が放送されるって
ホントですかね?!
あれは面白そうなので要チェックや~

あまる #- | URL
2012/05/03 00:19 | edit

あまるさま

初めてこの『コロ先輩 ムン・ジェシン』を見た時にはしびれましたねー(馬鹿)
顔も姿もドストライクでしたわ。

実を言うと、韓ドラは今までほとんど時代劇ばっかり、しかも某国営放送で放映されている出演者平均年齢少々高めドラマが多かったので、こーいう役柄の青年を見たことがなくてものすっごく新鮮でした。
しかも、あの衣装の着崩しのうまいこと!
後で調べてみたら『コロ患い』という症状がまん延してるというではありませんか!
わかるわー 弱いんですよねえ。こーいう男性に女性は!

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/02 20:01 | edit

いやいや、正真正銘の初米ですヨ。

> りゅうれんさま

こんばんは~(^^)また来ていただけて嬉しいです~。
やっとコロ出ました。しかしここに辿りつくまで何日かかってんでしょ自分(^^ゞ

> この時のコロ目線を読んでみたいと思う私です。

誰の目線で書くかは全くのいきあたりばったりなんですが(爆)8話のあの辺りはコロの一人舞台に
なりそうデスね(笑)しかしまだ1話…道のりは長い…
とりあえず気長に見守ってやってください~(^^)

あまる #- | URL
2011/07/29 00:10 | edit

いらっさいませ(^^)

> tomonoさま

はじめましてこんにちわ。コメントありがとうございますっ!
こんなヘタッピいな文章を読んでいただけて嬉しいです。
こちらこそ今後ともよろしくお願いしますね~
 
> 文字にすると深みが出ると思うのは 
> それは想像のなせる業

そですね~(゚д゚)(。_。)(゚д゚)(。_。) ウンウン
ワタシの場合想像が過ぎて妄想甚だしい今日この頃デスが。(^^ゞまたゆちょを始めとして
みんな巧いんですよね、俳優さんたち。ちょっとした表情の変化で、今何考えてるかとか、そーゆーの
ものすごく想像できてしまう。プロだわぁ~。

> あっ 私も チュジフンさん 好きです
> ヨンファさんは CNBLUEの彼ですか? 

全問正解です!(っていつからクイズに)
ジフニは秋には帰ってきますね~。除隊後の彼の活躍が今から楽しみでしょーがないです。(^^)
あちらの俳優さんはどいつもこいつもみんな、かっこいくなって帰ってきますもんね~

のんびりまったりな更新になるかとは思いますが、また遊びにいらしてくださいまし。

あまる #- | URL
2011/07/28 23:58 | edit

こんばんわ

まさか「初米」とは思っていませんでした(^▽^;)
単に表示していないだけだと・・・いやいや、大胆不敵、失礼致しました。
きっと皆さん、カギコメだったんですね。

本日のシーン、ユニが女性であると気づいた時のコロの「脳内回想シーン」ですよね。
ぶっきらぼうでありながら、手ぬぐいを持っていた(たまたま?)心優しきコロ。
この時のコロ目線を読んでみたいと思う私です。

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2011/07/28 20:12 | edit

No title

こんにちは 
ただいま 原作を読んでいますが
ここを見つけて やったぁと思った私です
画像では 一瞬の事も 
文字にすると深みが出ると思うのは 
それは想像のなせる業
映像で 見えない心情が解るような感じが物凄く好きです
これからも読ませていただきます
よろしくお願いします
お話有難うございます

あっ 私も チュジフンさん 好きです
ヨンファさんは CNBLUEの彼ですか? 
人物が違ったらごめんなさいね
では また

tomono #- | URL
2011/07/28 11:37 | edit

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