スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十一話 9 処方箋 

bandicam 2012-10-26 01-40-45-724
************************************************


大成殿を出ると、いつから其処にいたのか、ジェシンが柱の一本に寄り掛かるようにして立っていた。
もしかして、また何か心配させているのかもしれない。ユニを見る彼の表情は、何処か気遣わしげだった。
ぼくは大丈夫です、と言う代わりに、微笑んで見せた。

「全然、知らなかったのか?父親のこと」

ユニの歩幅に合わせてゆっくりと歩きながら、ジェシンが尋ねる。
昼頃にざっと降った雨のせいか、前庭の木々や下草は洗われ、緑が目に鮮やかだった。
湿った青臭い匂いをちょっと吸い込んで、ユニは小さく頷いた。

「どうして……母はぼくに何も言わなかったのかな」
「きっと悩んだはずだ。そして決めたんだ。お前のために、その方がいいと思って」

女にとって学問は毒だと常に言っていた母だ。娘の、学問への単なる興味に、この上父親への思慕が加わっては、引き返すことができなくなると思ったのかもしれない。

「さっき、大成殿でずっと考えてたんです。ぼくの父は、いったいどんな人だったんだろうって」

視線を落としたジェシンが、ふと、ユニの足元に目を止め、そこに跪いた。解けかかっていたらしい足袋〈ポソン〉の紐を結び直しながら、彼は言った。

「考えるまでもない。いい人だったに決まってる。子は親に似るからな」

口調は素っ気ないが、言葉は温かだった。その温もりが、ユニの胸にじんわりと広がる。
思えば、ジェシンといるときはいつもそうだった。
彼の言葉は、まるで薬湯だ。舌には苦いが、飲めばぽかぽかと身体を温めてくれる。

「先輩が、どうして“暴れ馬”って呼ばれてるのか不思議です」

え?と顔を上げたジェシンを見下ろし、ユニは柔らかな笑みを浮かべた。

「ぼくには、いつも優しいから。大射礼のときも、旬頭殿講のときも」

紐を結ぶジェシンの手つきが、急に慌ただしくなった。すっくと立ち上がって、居心地悪げに咳払いする。
流石にユニにもわかってきた。こういうときのジェシンは、照れ臭くて反応に困っているのだ。

「ありがとうございます、コロ先輩」

困らせるとはわかっていても、言っておきたかった。
ジェシンは喉に何か詰まらせたような顔で、ぱちぱちと瞬きした。途端。

「───ヒック」

しゃっくりをひとつして、彼はそこから逃げ出すようにさっさと歩き出した。
ユニは笑いを堪えつつ、その後を追った。


*   *   *


成均館に戻ったヨンハは、こちらも丁度外から帰ってきたところなのだろう、青い道袍と笠という外出着姿のソンジュンを中庭に見つけ、早速捕まえた。

「おいカラン、陛下から賜った特別休暇の予定はもう決まったか?」
「僕は……」

おっと、と、言いかけたソンジュンの口元を人指し指で遮り、ヨンハは先回りして言った。

「部屋で読書なんて陰気臭いことは言いっこなしだぞ。いい案がある。美女と舟遊びなんてのはどうだ?」
「興味ありません」

にべもなく答えたソンジュンだが、ヨンハはもちろん諦めない。

「なら山でもいいぞ」
「山にも興味はありません」

予想はしていたが、まるで取り付く島無しだ。
なら、とばかりに、ヨンハは探るような視線をソンジュンに向けた。

「……まさか、女が嫌いなわけじゃないよな。お前ひょっとして、男が好きとか?」

一瞬の間があった。ソンジュンの表情が固く強張る。彼は、いつにも増して冷ややかな一瞥をヨンハに投げた。

「先輩」
「冗談だよ、冗談」

慌ててなだめようとするヨンハだったが。

「そんな冗談は不愉快です」

声に混じる怒気を隠そうともせず、ソンジュンは切り捨てるようにそう言った。
道袍の裾をさっと翻し、すたすたと行ってしまう。
遠ざかるソンジュンの背中を見ながら、ヨンハは笠を傾け、小さく呟いた。

「これぞ不変の真理ってやつだな。図星を指されると、人は怒る」


*   *   *


東斎へと戻る道すがら、ユンシクはふと、掲示板に貼られた紅壁書の人相書きに目を留めた。

「……先輩」
「あ?」

ひくっ、とジェシンは肩を揺らした。さっきから、彼のしゃっくりは一向に止まる気配はない。

「紅壁書が誰だかわかります?成均館の学生らしいって噂ですけど」
「さぁ。興味ねぇな」

ユンシクの視線が、人相書きとジェシンの顔の間を幾度か往復する。だがジェシンはどこ吹く風だ。
成均館の学生の数は、全部で150人は下らない。あんな適当な、しかも覆面付きの人相書きで犯人がわかってたまるか。

やがてユンシクはゆっくりと、ジェシンに歩み寄った。

「ぼくは知ってます」

すくい上げるようなユンシクの視線を避け、ジェシンの目が泳いだ。彼の肩がまたひとつ、ぴくりと跳ねた。

「紅壁書は、近くにいるんです。ぼくたちの、すごーく身近に」

いやな汗が、ジェシンの背中をつたう。木々に集う鳥の囀りが、やけに大きく聞こえた。
ユンシクは射るような目で彼を見据え、言った。

「先輩、紅壁書でしょう」

一瞬、頭が真っ白になった。

「何?な……何だって?」

狼狽えたジェシンが言葉に詰まりながら言うと、ぱっ、と、ユンシクが白い歯を見せて笑った。

「しゃっくり止まった!ほら!」

呆然としているジェシンを指差し、ユンシクは腹を抱えて笑いこけている。
ジェシンは はっ、と息を吐いて表情をゆるめた。

───まったくこいつは。脅かしやがって。

けたけた笑っている小さな肩を、ジェシンは拳で軽く小突いた。






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2012/10/26 Fri. 02:06 [edit]

category: 第十一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 2  tb 0 

コメント

Re: ちゃむさま

そうそう、地上波ではこのシーン、ばっさりカットされてたんですよ~(T_T)
ありえねぇ~とか思いました。←そして踊らされる消費者……

島での一件は確かに分かれ道ですよねー。ジェシンは女の子って知ってるわけだから、案外ソンジュンみたく躊躇しなかったかも~とか考えると……(*ノωノ) イヤン

あまる #- | URL
2012/10/27 01:57 | edit

いいですね~

お疲れ様です。今回のお話、ユニとジェシンのやり取りは微笑ましくそしてどこか切ない(結末を知ってるせいか…)。靴の紐を直してあげるとこなんてキュンとしますね~地上波では確かカットされていたかと思います。ヨンハの悪巧みが着々と進んでいますね~。この後、島に取り残されるのがジェシンだったらひょっとして…なんて。実はここ、大きな分かれ道なんじゃないかと私は思ってるんですが…次回も楽しみにしてます。

ちゃむ #- | URL
2012/10/26 11:19 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/138-8b594d1f
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。