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第一話 10 虎の穴 

「わあ、ずいぶんきれいな若様ですね。男のおれでも惚れちゃいそうだ」

ふいに、手元が暗くなった。下男のスンドルが、大きな身体を屈めて少年の人相書きを覗き込んでいる。
おそらくはソンジュンがあまりに長い間、その人相書きに見入って物思いに耽っていたものだから、いったいうちの坊ちゃんが魂を持って行かれたお相手はどんな美女かと気になったのだろう。それが、全くの見当違いだったとわかり、ほっとしたようながっかりしたような、複雑な表情がスンドルのぽっちゃりした顔に浮かんでいた。

 散々な一日だった。小科初試を受けて帰ってくるだけのはずが、そこで己の未熟さを指摘され、儒生たちの前で恥をかかされ、街なかで追いかけっこをした挙句魚まみれになって。(そういえば成均館の儒生たちとも一悶着あったが、あんなのはいつものことだ。たいしたことじゃない。)仕上げは、両班の娘からの平手打ちだ。
 自宅に戻ってからも、絵師に描かせた人相書きにこうして見入ってしまって、まだ書物の一冊も読んでいない。
 まったくもって自分らしくないことばかりさせられた一日だった。それもこれも───
 ソンジュンはまた、文机に広げた少年の人相書きに目を落とした。
 すべて、彼にかかわったせいだ。あの、大きな黒い瞳の、芸達者なクマ…。

 何故こんなに彼が気になるのか、彼を捕まえて、それからどうしたいのか自分でもよくわからない。ただ、このまま放っておくのは、正しくないことのような気がする。
 そうだ、正しくないのだ。あんな才気を持ちながら、家族のために巨擘に手を染めるなど、あってはならない。優れた才能は、それに相応しい場所と方法でもって、使われるべきなのだ。 
 ソンジュンはスンドルに言った。
 
 「都中の貰冊房を全部回ってでも、必ず捜し出す。この者に、返すべき借りがあるんだ」



* * *



 兵曹判書宅の門が、重々しい音をたてて開いた。ユニを待ち構えていたかのように、そこに仁王立ちになっている男の丸顔には見覚えがあった。今思い出しても、掴まれた顎がざわざわと泡立つ。
 だがここで弱気を相手に気取られてはいけない。ユニは鳩尾にぐっと力を入れ、男を睨みつけた。
 
「借りを返しに来たわ」
「本当か?」

男はいったい何の企みかと、探るようにユニの顔を凝視している。

「何をしているの?早く大監のところへ案内なさい」

 ユニの毅然とした態度に、男は気圧され、二の句が継げない。ユニは案内を待たずに、さっさと邸宅の中へと入っていった。その後を、結納品を担いだ男たちがぞろぞろと続く。
 その様子を、険しい表情でじっと見つめている男がいた。成均館掌議、ハ・インスである。

「お兄様!」

そこへ、鮮やかな水色のチマを揺らして掛けてきたのは、彼の妹、ヒョウンだ。

「大変よ。ねぇここ、赤くなってない?」

自分の目元のあたりを指さして、兄に尋ねる。眉間に寄っていた皺をふっと緩めて、インスは言った。

「痛むんなら、俺じゃなくて医者に見せろよ」
「お兄様に会いたくて、病気になったのよ、きっと」

甘えたような表情で、ふふっと笑う。いつもの彼女の手だ。ヒョウンはよくこうして、父である兵曹判書やたまに帰ってくる兄インスを捕まえては、頼みごとをする。ある意味この家では最強だ。なんだかんだ言いつつ、父もインスも、結局は彼女の思い通りに働かされるのだから。

「まったくお前は。今度は何だ?」

ヒョウンは含み笑いをすると、蝶が舞うようにひらりと身を翻した。


 邸宅の中庭へやってきたユニは、部屋の中、御簾の向こうにいる兵曹判書に向かい、跪いた。

「いただいた恩をお返しに参りました」
「恩を返す、だと?」

兵曹判書の低い声が、やかましく鳴く蝉の声にも掻き消されることなくユニの耳に響く。砂利に押し付けている膝が、痛い。背中に、じっとりと汗が浮いてきた。

「兵曹判書様は弟の命の恩人です。しかし今後は民に、大監様が高利貸しと何ら変わらず、若い娘を金で買い、慰み者にしたと後ろ指をさされることになりましょう。私のせいで、そのような良からぬ噂が立つことは望みません」

ユニは袂から金子の入った袋を取り出した。

「これは返済金の一部です。猶予をくだされば、残りは必ずお返しします」
「───私が、お前ごときの脅迫を恐れるとでも思うか?」

兵曹判書の声は静かだ。だがそれが却って、恐ろしかった。

(大丈夫よ、キム・ユニ。虎を起こすの。私の中の虎を。)

幼い頃、近所の男の子に苛められて泣いていたとき。雷が怖くて、眠れなかった夜。今は亡き父がユニに教えてくれた言葉だ。

『いいかい、ユニ。人は誰でも、心の中に虎を飼ってる。それに気づかないのは、今はまだ、その虎が眠っているからなんだ。恐れることは、恥ではない。怖いことがあったら、お前の中の虎を起こしなさい。そうすれば、どんな恐ろしいことも、きっとその虎が退治してくれる』

ごくり、と唾を飲み込んでから、ユニは切り出した。

「───六韜(中国の兵法書)には、『戦を避けることこそが上策。名将は強敵とは戦わぬ』とあります。大監様に恐れるものがおありだとすれば、それは民心のはず。この国の兵曹判書様として上策を選ばれるはずと、信じているだけにございます」

 はっ、と、兵曹判書が息を吐いた。一瞬、馬鹿にされたかと思ったが、それはすぐに高らかな笑い声に変わった。
兵曹判書は尚も笑いながら、御簾の内側からユニに手招きする。戸惑いつつもユニがいざり寄ると、彼は言った。

「女が兵法を語るとは大したものだ。いや、面白い。確かにお前の言うとおり、私の考えが浅はかだったようだ。───故に」

にやりと笑って、兵判は告げた。

「借金は今すぐ返してもらうとしよう。民がこの事実を知る前に、今すぐだ」

ぐらりと、視界が揺れた。愚かだった。この、百戦錬磨の兵判に、自分のような歳若い娘が太刀打ちできるわけなどなかったのだ。
兵曹判書が、不意を衝くようにさっ、と御簾を上げる。思わず横を向いたユニだったが、兵判が自分のその横顔を舐めるように見ているのがわかった。

「それに、私はお前のその度胸が気に入った。気に入った女を娶るのであれば、何も問題はなかろう。───よいか、私は必ずお前を手に入れる」

御簾が下ろされた。その内側から、兵判が放り投げるように言った。

「3日後に輿を送ろう。準備しておけ」




うーん。しかしいつまでやっとんねん第一話。早くコロが書きたいぞ…。

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2011/07/26 Tue. 18:29 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: 阿波の局さま

まさしくですー(^^)
ここは自分で書いときながら、ソンジュンてカワエエやつだなぁとか思ってしまった、密かにお気に入りの部分です(笑)
しかしなかなか細かい部分まで読み取っていただいて嬉しいやら照れ臭いやら。
ありがとうございます~。

あまる #- | URL
2013/01/29 01:48 | edit

Re: 阿波の局さま

ですね~(^^)ワタシもです。
にしても兵判、ユニパパを手にかけただけぢゃーあきたらず、キム家に借金させて恩を売るとわ。
どこまで用意周到な男なのだー!

あまる #- | URL
2013/01/29 01:33 | edit

>そうだ、正しくないのだ

ユニに惹かれているくせにこんな言い訳で自分を納得させてしまうソンジュン。
微笑ましい。
思わず、読みながらニヤリとしてしまいました。

阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/28 20:29 | edit

ここの、兵曹判書と対峙したときのユニは本当に凛々しくて、私も惚れてしまいましたv-238

阿波の局 #bo5zNM.6 | URL
2013/01/28 20:26 | edit

Re: ちびたさま

スンドルはワタシも好きなキャラです(^^)
彼の存在そのものが、ソンジュンの人柄を物語ってるので~。

兵曹判書は左議政に出世したのか!(笑)
あの俳優さんは時代劇以外のカッコしてるとこ想像できないわ~

あまる #- | URL
2012/05/03 00:11 | edit

あまるさま

スンドルーー
この配役の方もなんていうか、坊ちゃん命!が体中からあふれてますね。
こういう細かい所まで行き届いている感じが韓ドラの面白いところ。

掌議パパ、こちらもイ・サンについこの間出てましたね(笑)
しかも!イ・ソンジュンパパの地位についてたじゃん!
あっちでも、こっちでもイ・サン王にしてやられちゃって(爆)報われないのね。
イ・サンの方は結構シリアスな場面だったのに思わず笑っちゃいました。

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/02 19:24 | edit

Re: はじめまして

>にゃん太さま

はじめまして(^^)こんにちわ。つたないブツを読んでいただけて嬉しいです。
恐ろしくちんたらした更新で、コロファンの皆様には申し訳ない限り…(^^ゞ
実際コロの登場シーンアップした日はアクセス数が普段と全然違っててびびりました(笑)
今後ともよろしくお願いしますね~

あまる #- | URL
2011/08/13 00:03 | edit

はじめまして

二次小説を漂っているうちにこちらを発見致しました。
わたし好みのようなので、最初から読ませて頂いています。

コロの登場ももう少しのようで、楽しみです。

とりあえず、ご挨拶まで。

にゃん太 #- | URL
2011/08/12 14:54 | edit

初米デスよ!

>りゅうれんさま

はじめまして。あまるです。
こんな地味っちいブログにお越しくださいまして、ありがとうございますっ!
しかも初コメですよ初コメ。勇気ある(爆)一番乗り!うひょ~う!(すいませんウザイですかワタシ)

ソンジュンの学堂シーンに関しては、ワタシも過去ログに書いてますが全く同感です(^^)事情により今手元に完全版がないので、もちょっと先になるとは思いますが、あのシーンは必ず!アップするつもりですので、よろしければまた覗いていただけると嬉しいです。

コロのハンカチぽろり、いいですよね~(笑)ワタシもツボです。ていうかコロのシーンはどれもこれもツボなんですが(^^ゞ←そんなワタシはカラン病

コメントはどうかお気になさらず~。読んでいただけるだけで充分ですワ。
フルタイムで働いてますんで、こちらこそキマグレンな更新になるかとは思いますが、また遊びにいらしてくださいねっ。




あまる #- | URL
2011/07/27 03:16 | edit

楽しみにしています

はじめまして。
私も数週間前にこのドラマにハマってしまい、DVDを一気読みし原作も読み、それでも足りずに二次小説を探し回る日々を送っていました。

原作も「続編がある」と言う事で面白かったのですが、やはり、ストーリー的にはドラマのほうが劇的で面白いと思っています。そんなドラマを「読める」と言うのは嬉しい限り。

この第一話では、ソンジュンの学問所シーンが無かったのが少し残念ではあります。「私を嫌う事は構わないが、私を否定する事は許さない」と言う台詞。これ、最終回でもう一度逆の意味で使われるので、何処かで登場すると嬉しいと思っています。

これからも日々の更新を楽しみにしています。個人的に一番ツボにはまったシーンは「コロがユニの秘密を知った後の初めての夜」でしょうか?ハンカチを口からポロリと落とす時のコロの表情が色んな事を語っているようでタマリマセン(笑)

これからも度々お邪魔させていただきたいと思っています。恐らく、コメントを残す事は少ないと思いますが、よろしくお願いいたします。

りゅうれん #/ZrAXPAI | URL
2011/07/27 01:31 | edit

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