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第十一話 5 変革 

bandicam 2012-10-01 01-10-03-312
**********************************************



「紅壁書が、成均館の儒生だって噂は聞いた?」

布団の上にぺたりと座り、頬杖をついたユンシクが、壁書を眺めつつソンジュンに尋ねた。
二人とも白い単衣〈チョクサム〉姿である。
紅壁書が現れたという知らせが成均館に飛び込んできたのは、夜も更けて二人が寝支度を始めた矢先だった。お陰で、清斎はついさっきまでちょっとした騒ぎになっていたのだ。
寝そびれた二人は、紅壁書の撒いた壁書の文面を、頭をくっつけ合うようにして覗き込んでいた。
確かに、生半可な文才ではない。成均館の学生だという噂は、あながち外れてはいないような気がした。

「禁乱廛権と漢城府の不正を、こんな風に語れるってことは……」

ユンシクは、壁書に書かれた文字を人指し指で追いながら、言った。
後を引きとって、ソンジュンが答える。

「僕達のすぐ近くにいる学生かもしれない」

壁書の上を滑ってきたユンシクの細い指先が、そこにあったソンジュンの指に触れた。
ほんの僅かな接触だったにもかかわらず、甘い痺れが肘のあたりまで上ってきて、ソンジュンはそっと指を離した。
白く、ほっそりした指と、形の良い爪。うっすらと脈の透けて見える、なめらかな手の甲。
自分の、大きく武骨な手を並べておくのが恥ずかしくなるくらい、綺麗で繊細な手だ。

「誰だかわかる?」

ふいに、ユンシクが顔をこちらに向けてソンジュンを見た。
心臓が跳ね上がった。長い睫毛に縁取られた瞳が、桃色の唇が、触れそうなくらい間近にあった。
高鳴る胸の音を聞かれてしまうのではと、ソンジュンはぎこちなく身体を起こした。

「コロ先輩───」

え?とユンシクが目を見開く。

「いや、そうじゃなくて……随分、遅いな」

今更のように、二人きりだという事実に気づいた。それまで特に意識したことはなかったのに、ほの暗い行灯の灯りの中で見るユンシクの横顔は、どこか艶めいていて、ソンジュンを落ち着かなくさせた。

「戻ったぞ」

ぞんざいに扉を開けて、ジェシンが入ってきた。ユンシクとソンジュンの間に割って入ると、二人が見ていた壁書を蹴飛ばし、敷き詰めた布団の真ん中を陣取って、ごろりと寝転ぶ。
途端に、ユンシクが顔を顰めた。

「うわ。お酒臭い。先輩、また飲んできたんですか?」
「そうだ。だからお前はあっち行け。端っこで寝ろ」

と、足でユンシクを部屋の隅に転がす。
ソンジュンは上掛けをめくり、一旦は横になろうとしたが、ふとその手を止めて座り直した。

「先輩、前から訊こうと思ってたんですが、何故勝手に寝場所を変えたのか、理由を教えてください」

ジェシンは目を閉じたまま、面倒臭そうに言った。

「その何でもいちいち問い正す癖、どうにかしろよ」
「こういう勝手な行動は非効率かつ非合理的です。壁際がお好きなら、僕はユンシクの隣で寝ます」

枕を持って移動しようとしたソンジュンだったが、ぬっと伸びてきたジェシンの足に阻まれてしまう。
前髪の隙間から、鋭い目がじろりとソンジュンを睨みつけた。

「動くな。埃が立つ。とっとと寝ろ」
「いえ。今日こそはっきりさせてもらいます」
「どこだっていいだろ。寝た者勝ちなんだよ!」

ジェシンがついに声を荒げたが、ソンジュンは引き下がらない。

「ではキム・ユンシクにも訊きましょう。どう決めるべきか」

と、ソンジュンがユンシクを見る。ジェシンも、寝転がったまま首を巡らせた。
いきなり采配を委ねられたユンシクは、二人の視線に戸惑ったように目をぱちぱちさせると、小さく唸って考え始めた。白い指先が、ぷっくりとした紅い唇を何気なく弄ぶ。
彼としては全くの無意識なのだろうが、その妙に艶っぽい仕草は男二人の意識を否が応にもそこに集中させた。

薄く開いた唇から、小さな歯がちらりと覗く。


ごくっ。


ソンジュンの喉が鳴った。


ひくっ。


ジェシンのしゃっくりが始まった。

揉めていたはずの二人は、暗黙のまま意見の一致を見た。

「も、もういい。考えなくていいから。今日はもう遅いし、このまま寝よう」

ソンジュンは狼狽えつつ、そそくさと布団の中に潜り込んだ。ジェシンも、布団を頭まで引き被り、ユンシクに背中を向けた。

結局。
ソンジュンとジェシンはその晩も、狭苦しい壁際で仲良く寄り添い合い、眠ることになったのだった。


*   *   *


玉卓の上の帳簿と、紅壁書の壁書に交互に目をやり、王は便殿に居並ぶ臣下たちに告げた。

「余は禁乱廛権を廃止し、全ての民に商取引を許す」

さっ、と顔色を変え、真っ先に異議を唱えたのは戸曹判書ユン・テハクだった。

「お考え直しください、陛下。廃止など、とんでもありません」

正三品堂下官以下、まるで練習でもしていたかのように、一同声を揃えて低頭する。

「どうかお考え直しください、陛下」

王は、こちらも想定内だとばかり、表情をちらとも変えず帳簿に手を伸ばす。ハ・ウギュが口を開いた。

「陛下、兵曹判書が申し上げ───」
「良きお考えと存じます、陛下」

ウギュは、言いかけた形のまま、ぽかんと口を開けて隣を見た。
彼の言葉を遮ったのは、あろうことか老論の長、左議政イ・ジョンムだった。
その場の誰もが我が耳を疑う中、ジョンムは淡々と続けた。

「直ちに特定商人と裏取引をした漢城府の役人を捕らえ、捜査をお願い申し上げます。自由な商取引と物価の安定を図り、民の心をお慰めください」

向かいに立つ領議政チェ・ジェゴンと大司憲ムン・グンスも、驚きの表情を隠せない。
王の改革の前に立ちはだかることを予想していた、現体制右派の最たる男が、禁乱廛権撤廃にあっさり賛同したのだ。
裏帳簿と紅壁書の壁書を掲げ、老論と商人の癒着の実態を暴き、糾弾することで一気呵成に法撤廃へと動くつもりだったジェゴンやグンスらは、ジョンムの思わぬ反応に却って警戒心を強くした。
だが王は、意を得たように「余と思いを同じくして民を労る、誠実な臣下がいたのだな」と微笑った。

「余はここに宣言する。禁乱廛権を廃止し、自由な商取引を許可する通共〈トンゴン〉を、辛亥年より実施する」

王正祖の声が、便殿に高らかに響き渡る。
辛亥通共〈シネトンゴン〉の発布であった。

隣国に比べ、発達に遅れをとっていた朝鮮の商業が、この改革をきっかけに、以後大きく発展していくこととなるのだが、それはまた後の話である。






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2012/10/01 Mon. 01:26 [edit]

category: 第十一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちゃむさま

コメありがとうございますー(^^)

中二房のお布団シーンは名場面が多いんですよねぇ~。主にお笑い方面ですが(笑)
しかし老論の隣で寝るのをあんなに嫌ってたコロが、ソンジュンにぴたっと寄り添って寝てるのを見るとしみじみと笑えますなー。

それにしてもお仕事中にこんなとこ来て大丈夫ですか?(笑)

あまる #- | URL
2012/10/03 08:18 | edit

お疲れ様です

ユニが唇を触ってるのを見てドギマギする二人の場面、サイコーです。ちょっと仕事中読んで吹き出しそうになってしまった。
また、次のお話楽しみにしてます。

ちゃむ #- | URL
2012/10/03 01:01 | edit

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