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第十話 11 岐路 

bandicam 2012-09-05 18-35-18-657
コロ画像とどっちにするか悩んだけどやっぱゆちょww
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篝火のはぜる音が、丕闡堂の弓場に響いている。
夜気はひんやりとしていたが風は無く、少しばかり暗いことを除けば、弓を射るにはいい晩だった。
右肩には、もう痛みはない。矢をつがえ、久しぶりに利き腕で弓を引いた。
矢は、力強い弧を描いて飛んだものの、的の中心を僅かに逸れていた。

始めて弓を手にしたのは、六つかそこらの時だった。それから今まで、ずっとこの右腕で矢を射てきた。それが当たり前だった。
大射礼の前、怪我でやむを得ず左手に持ち替え、苦労はしたが没技をこなせるまでにはなった。
すると不思議なもので、今度は当たり前だったはずの利き腕での弓に、妙な違和感を感じるのだ。

思いもよらぬことだった。
左腕で弓を射たのは、ほんの僅かの間だった。なのにそれが、こんな風にこれまでの感覚をあっさり鈍らせてしまうとは。
自分が、長い時間をかけて培ってきたものは、では何だったのか。

二本目の矢を手にとったソンジュンの耳に、昼間のユンシクの言葉がよぎる。

『───彼は、似てるんだ。以前のぼくと』

どんなに頑張っても、暮らしていけないんだと泣きながら訴えたポクス。
闇市で、無抵抗の民に非道の限りを尽くす漢城府の役人たち。

王に成均館への入学を命じられたとき、ソンジュンはユンシクに言った。
朝鮮は、君が思ってるほどつまらない国じゃない、と。
だが今は、あの時のようにそう言い切れる自信がない。
泮村の裏通りのような世界が、すぐ近くにあったというのに、知りもしなかった。
そして、あの帳簿の存在も。

手にした矢に目を落としたまま、ソンジュンは暫くの間身じろぎもできずにいた。すると、

「やっぱり、いた」

ふいに声がして、ソンジュンは顔を上げた。

「そんな気がしたんだ。ここにいるんじゃないかって」

そう言って、朗らかに笑うユンシクがいた。
ソンジュンは彼の笑顔を見返すことができずに、視線を逸らした。

「……言いたいことがあるなら、言ってくれ」

口から出たのは、自分でもうんざりするほど陰鬱な声だった。だがユンシクはいつもと変わらぬ、歯切れの良い口調で、言った。

「明日の旬頭殿講で、ぼくは、真犯人を明らかにしようと思う」

───そうだな。それが当然だ。王命だから。

ソンジュンはそこでやっとユンシクを見た。
曇りのない彼の黒い瞳は、真っ直ぐにソンジュンを見ていた。そして彼は、例の帳簿を差し出した。

「ぼくが真犯人だと思う人間は、ここにいる。でも、この帳簿を使って何かを始められるのは、ぼくじゃない。イ・ソンジュン、君だよ」

ソンジュンは帳簿を手に取り、そこに目を落とした。踵を返したユンシクの背中に向かい、彼は言った。

「僕の父のためか?」

たった今、ユンシクは犯人を明らかにすると言ったはずだ。なのに、その犯人の長ともいえる男の息子に、帳簿を預けるというのか。
ソンジュンは苦しい胸の内から、声を絞り出した。

「僕は父のために、君とは違う選択をするかもしれない。君を───失望させるかもしれない」

ユンシクが振り向いた。彼の顔は、ここに来たときと同じように、笑っていた。

「それでも、仕方ないよ。ぼくは、イ・ソンジュンを信じてるんだ。自分自身よりも。だって君はいつも、頑張ってるだろ?気難しい顔をして礼や法を守るのは、いい人間になろうと誰よりも努力してるからだ。だから、そんな君の選択は、きっと正しいはずだよ。たとえそれが、ぼくとは違っていたとしてもね」

言葉に詰まった。自分を理解してくれる彼の信頼が胸に熱く、ソンジュンはこみ上げてくるものを抑えるのに苦労しなければならなかった。

必死になって努力している姿など、人に見せるものではないと思っていたし、見せたくもなかった。だがずっとそうしていると、周囲の者たちは皆、イ・ソンジュンはどんなことも苦もなくやってのけると思い込む。
彼が懸命に自分を律していることにも気づかず、面白みのない聖人君子とか、融通の利かない堅物だとかで片付ける。
その孤独と空虚さは、ソンジュン自身が思っていた以上に、彼の身にこたえていた。

あの父でさえ知らずにいることが、どうしてキム・ユンシクにはわかるのだろう。
ソンジュンは改めて目の前に立つ線の細い少年を見つめた。

彼だけがわかっていてくれれば、それでいい。

ソンジュンにとってはそれが、何よりも大事なことだった。


*   *   *

月明かりの下、ジェシンは縁台に腰掛けるポクトンの小さな足を、盥の水に浸した。
ポクトンは、くすぐったそうに笑っている。
砂でざらざらしている指の間を洗ってやっていると、手首につけた腕飾りが金盥の縁にぶつかり、かちりと音をたてた。

そういえば昔、兄貴にこんな風に足を洗ってもらったことがあったな、とふと思い出す。
ふざけて足をバタバタさせて、兄に手を焼かせた。びしょ濡れになりながらも、兄は笑って、弟の足を丁寧に洗いながら言ったのだ。

『お前の足は、いい肉のつき方をしてる。きっと、韋駄天みたいに速く走れるようになるぞ』

成均館の掌議にまでなった男が、異教の神を知っていたとは今更ながら驚きだ。
学則破りは血筋らしい、とジェシンは小さく笑った。

「───あの細っこくてきれいな顔したヤツが、罪を被るんだとさ」

ジェシンはポクトンにそう言ったが、もちろん、庭の隅でポクスが聞いていることは承知の上だ。
さっと身を翻す気配に、ジェシンは続けて、言った。

「いわれのないそしりや蔑み……そういうもんを受ける悔しさは、お前が一番よくわかってるんじゃないのか?」

なおも立ち去ろうとするポクスに向かい、彼は続ける。

「逃げてばかりいると、そのうち癖になっちまう。泣いてばかりいるのも、嘘をつき続けるのも、癖になる。だから、逃げるな。───昔、よく言われた」

誰に?とポクトンが訊いた。兄貴、とジェシンは答えた。

「俺にもいたんだよ。酷い兄貴がな」

つまんねぇ話、とポクスが吐き捨てる。ジェシンは立ち上がると、濡れた手を二、三度振って、言った。

「弟ってのはな、兄貴の背中を見て育つんだ。お前は、自分の弟にどうなって欲しい?コソ泥か?それとも卑怯な逃亡者か」

ポクスはジェシンに近づくと、いきなり襟首を掴んだ。

「とっとと失せろ!あんた一体、何様のつもりなんだ!」
「お前にはまだ機会がある。カッコいい兄貴として生きられる機会がな」

ジェシンはポクスの腕を振り払うと、懐から布袋を取り出し、縁台に放った。その大きさに釣り合わぬ重い音に、ポクトンが驚いて目を見開く。

「貸してやる。これで、盗んだものを弁償しろ」

はっ、とポクスが息を吐いて笑った。

「あんた馬鹿か?俺が、持ち逃げするって考えないのか?」

ジェシンは まさか、と言って、傍らに立つポクトンの頭を撫でた。

「こいつが見てるのに」

ポクスは唇を歪めてジェシンを睨みつけていたが、やがて視線を落とした。
弟と目が合うと、それまで彼が全身に滾らせていたものが、ふっと影を潜めた。
力無く弟を見つめるその顔は、それまで思っていたよりも随分幼く見えた。







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2012/09/05 Wed. 18:41 [edit]

category: 第十話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

うっとおしいとか思わないですよ~(>_<)
皆様のコメントはワタクシの宝物ですから~。いつもありがたく読ませていただいとります。

ソンジュンは、一途で真っ直ぐなだけなんですよね……。
他人に厳しいけど、多分自分にはもっと厳しい。
そーゆうとこが、ユルユルに育ってきたある意味一番ボンボンなヘウォンとかウタクには、理解し難いんだろうな。
ソンジュン、ユニに出逢えてほんとによかったなぁーとかしみじみ思うだけに、今書いてる13話はイライラしっぱなしですわ(笑)早く素直になれやー(T_T)

あまる #- | URL
2013/01/28 00:37 | edit

ソンジュンの孤独と空虚さ

最近の日付のところから見始めたので、1話から見たり好きな話を拾い見したり・・・うっとおしいと思われそうでいちいち余計なコメントは差し控えようと思っていたのですが・・・ここは書かずにいられません。

必死になって~どうしてキム・ユンシクにはわかるのだろう。

心で思いつつ言葉にできないでいた私の心の中をよくぞ言葉にしてくださいました、あまる様すごい(涙)
そ~なんですよね、誰も彼の必死の努力には気づかない。そしてありのままのソンジュンを受け止めてくれる唯一の存在がキム・ユンシクなんですよね~見た目の惚れたはれた以上にだから大事な存在。もし、何もかも諦めてヒョウンと結婚したら、ソンジュンの一生はどんだけ孤独で空虚なものになったか。かわいそ過ぎ。
たった一人でもいい、心を許せる相手がいてくれてよかったね、ソンジュン。
君は孤独なんかじゃない。
・・・って抱きしめたい~~~

あらちゃん #- | URL
2013/01/27 01:51 | edit

Re: タイトルなし

> き*****の*りさま
コメありがとうです(^^)

そうデスね~。自分に100%満足してる人なんていないと思うし、だから人は成長できるんだとも思うし。
その人の人間的な魅力っていうのも、実はそういう本人的にはどーにかしたいって思ってるところにあったりもするので……って、たまにはちょっと真面目に語ってみる(笑)

原作の完璧なソンジュンも確かにステキなんですが、個人的にはドラマの、ちょっとザンネンなところのある(笑)キャラの方がより魅力的で、ワタシは好きですね~(^^)

あまる #- | URL
2012/09/07 22:27 | edit

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# | 
2012/09/06 12:34 | edit

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