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第十話 8 泮村 

bandicam 2012-08-23 17-30-19-538
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成均館からとんぼ返りしてきたヨンハによると、果たして、いた。
斎直のポクトンの母親が、最近病気で亡くなったことを、彼は書吏のジャンボクから聞き出していた。

ユニは、昨夜中二房の縁側から逃げていった子供の背格好を思い出した。
あまりに小さい後ろ姿だったので、てっきり、今年新しく入った年少の子だとばかり思っていたのだ。
だが、数えで十になるとはとても思えないポクトンの身体の小ささを考えると、そう勘違いしたとしてもおかしくはない。

そして再び、泮村。
ヨンハからの情報を元に、四人はついに、泮村の北の外れにあるポクトンの家を捜し出した。
忌中を示す小さな灯籠に確信を得て、近づこうとしたそのとき。

「逃げて!兄ちゃん!」

そう叫びながら、通りの反対側から庭先に飛び込んだ子供がいた。

「兄ちゃんを捕まえに来る!早く逃げて!」
「……ポクトン?」

ユニが声を掛けると、ポクトンはまさに飛び上がらんばかりに驚いて、振り向いた。その拍子に重心を失って、地面にぺたんと尻もちをつく。その両脇を後ろから抱え、起こしてやる浅黒い腕があった。

「……兄ちゃん」

ポクトンが、力なく呟いて兄を見上げる。少年は顔を上げ、ユニを見た。その眼差しに宿る強い光に、ユニは一瞬、たじろいだ。
そして理解した。
被害者であるはずの自分たちよりも遥かに激しい怒りを、彼がその胸の内に抱えていることを。


*   *   *

少年はポクスと名乗った。
年は、弟ユンシクよりも2つ3つ下だろうか。いや、もしかすると同じくらいかもしれない。
日に焼けているせいでユンシクよりは健康そうに見えるが、痩せた身体が、彼を年齢よりも幼く見せているような気もした。
ユニら四人がここに来た理由〈わけ〉を話したとき、ポクスが一瞬見せた鼻白んだような表情は、最早子供のそれとは言い難かった。

「何で俺が、わざわざ王様の前で自白しなきゃいけないんだ。俺がやったって証拠でもあるのか?」

ユニは、古びた帳簿をポクスの胸の前に突き出して、言った。

「闇市の帳簿だ。それと、弟のポクトン。証拠なら、これで充分だと思うけど」

ポクスが、弟を睨んだ。縁側で、ヨンハの膝の上に抱えられていたポクトンは、びくりと肩を震わせ、俯いた。
フン、と馬鹿にしたように鼻で笑って、ポクスはユニを見返した。

「嫌だと言ったら?義禁府に引き渡すのか?たかが、成均館の学生の分際で」
「こいつ、黙って聞いてりゃ……!」

ヨンハが思わず腰を浮かしかけたが、ポクスの鋭い一瞥をまともにくらい、そのまま何事もなかったように座り直した。ちらりとジェシンの方を見たが、彼は縁台に寝転がったまま押し黙っている。

「誰も俺には手は出せない。なんたってここは泮村だからな。知ってるよな?官軍だって泮村の住民を捕えることはできないんだ」

ユニは呆れた。成均館とそれに付随する泮村が、王ですら迂闊に踏み荒らせない場所となっているのは、そこが孔子と、その教えを学ぶ聖なる場所であるからだ。それを悪事に利用するばかりか、全く悪びれていないこの態度はどうだろう。

「お前らだってどうせ、俺たちを食い物にするお偉いさんになるんだろ?いや、今だって成均館の奴らは民の納める税でたらふく食って、呑気に孔子先生の教えとやらをブツブツ唱えてる。俺はな、自分の分を取り返しただけだ。それのどこが悪い」
「だからといって」

ソンジュンが静かに、だがきっぱりと言った。

「人の物を盗んだお前の罪が、軽くなるわけではない」

ポクスの表情が、にわかに崩れた。彼は叫んだ。

「じゃあどうしろってんだよ!」

それまで必死に押し殺していたものを吐き出すように、彼は言った。

「母さんの葬式を出したいんだ。死ぬまでずっと、医者に診せてやれずに、薬もあげられなかった。生きてる間中、ずっと苦労ばっかりで、新しい服なんて、ただの一度も……。最後に麻の服くらい、着せてやったっていいだろ」

ふいにこみ上げてくるものを感じて、ユニは下を向いた。
彼の気持ちがわかるとか、そんな生やさしいものではなかった。

苦しい生活の中で、支えとなるものは家族の温かさだけだ。ユンシクの病は、ユニにとってその支えの一つを失うかもしれないという恐怖そのものだった。
そんな恐怖を目の前にしても、何もできない苛立ちと悔しさは、どれほどのものだっただろう。
そして失ってしまったときの、後悔と絶望感は。
想像するだけで、足が震えた。彼の叫びは、ユニの想いにほかならなかった。

「暮らしていけないんだよ。どんなに頑張っても、市場のものは高すぎて、俺達には買えやしないんだ。金や力がないと人間らしく生きられないなんて、こんな世の中───クソだ」

涙に濡れた目をぐいと手の甲で擦って、ポクスはソンジュンに言った。

「とっとと失せな、両班のお坊ちゃん。お前らも少しは苦労すりゃいいんだ」
「───だがこれは」

言いかけたソンジュンを、もういい、とユニは止めた。

やめよう。もう充分だ。

そのまま踵を返し、小さな庭先を出る。後を追ってきたソンジュンが、ユニの肩を掴んで、言った。

「このまま帰るのか?」
「……彼の言ってることは間違ってない」

ユニはソンジュンを見上げた。この人が、自分の手で奇跡を起こしたのはほんの数日前だ。
けれど本当の奇跡は、今ソンジュンがこうして自分の目の前にいることだと、ユニは思う。
彼との出会いが、ユニにとってはまさしく奇跡だった。

「彼は、似てるんだ。以前のぼくと。ぼくは運良くイ・ソンジュンって人に会えて、こうして成均館の学生になれただけ。そうじゃなかったら今頃、彼と同じことをしてたかもしれない」

ポクスは、運命の別れたもう片方の自分だ。糾弾することなどできないし、そんな資格が自分にあるとも思えなかった。
ソンジュンは言葉を失ったように口をつぐんだまま、ただユニを見ている。
帰ろう、と促して、ユニは歩き出した。

泮宮と呼ばれる成均館。そして、そこに集う儒生たちのために作られた奴婢の村、泮村。
互いに深く結びついていながら、遠く隔たるふたつの場所を、ユニは痛みと共に思った。







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2012/08/23 Thu. 17:34 [edit]

category: 第十話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

No title

この写真、なんとかレンジャー(古い・・)見たいだ(笑)

ちびた #- | URL
2012/08/28 23:35 | edit

Re: ちゃむさま

泮村のシーンは、ミノ君の名演技のせいか、見ても書いても辛いですね~。
それはそうと、よっく見ると、ソンジュンも目真っ赤になってんですよね。
あれはきっと、ユチョが素で涙目になってたんじゃーないかと……
ソンジュンはもらい泣きするタイプじゃないけど、ユチョは絶対泣いちゃう人だから~(笑)

いつも応援ありがとうございます!
ちゃむさんもお忙しいようですが、残暑まだまだ厳しいですので、お身体ご自愛くださいませ~(^^)

あまる #- | URL
2012/08/25 01:19 | edit

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# | 
2012/08/24 00:50 | edit

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