スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第十話 4 宴の名残り 

bandicam 2012-08-02 17-29-47-960
************************************************

微かに聞こえてきた鼻歌に振り返ると、呑気な風情で歩いてくるヨンハの姿が見えた。ジェシンはその後ろにユンシクの姿を探すが、夜更けの通りに他に人影はなかった。
ジェシンに気付いたヨンハが、あっと声を上げて駆け寄る。彼はジェシンの顎を掴み、腫れて血の滲んだ顔を検分すると、やれやれと痛々しそうに口元を歪めた。

「思ったとおりだな。お前は道を塞ぎ、テムルは身体を張るってわけだ」

ヨンハの言葉に、ジェシンは さっと顔色を変えた。

「身体を張るだと?あいつはどこなんだ。なんで一人で戻ってきた!」

まあ落ち着けよ、とヨンハはジェシンを宥めるように、扇子で彼の肩を叩いた。

「私はク・ヨンハだぞ。あんな危険な場所に、可愛い後輩を置いてくると思うか?」

ヨンハは、ソン・ヨンテ宅からの脱出劇をジェシンに話して聞かせた。日頃から自分の手柄は殊更大袈裟に話すきらいのある彼だ。ジェシンは途中まで耳半分で聞いていたのだが、ユンシクが妓生に扮装し、屋敷に潜り込んでいたと知るや、にわかに平静さを失った。

「テムルが?あいつが女の格好を?」
「ああ。期待以上だったなぁ、テムルのヤツ。綺麗な顔してるとは思ってたけど、あれはちょっと反則だ。久々にときめいたね」

いったい何の期待だか知れたものではないが、その晩のユンシクのことを語るヨンハの口ぶりからは、誇張は感じられない。彼のように女を品定めする趣味を持たずとも、想像はつく。
あんな、男の姿をしていても人目を引くほどの美貌なのだ。本来の女の格好で、しかも妓生のように美しく装ったなら、いったいどういうことになるか。他の誰かに、正体がバレないとも限らない。

「あのバカ……危ねぇ真似しやがって」

つい漏らしてしまったそんな言葉を、ヨンハは聞き逃さなかった。
途端に色めき立つように、ジェシンを覗き込む。

「危ないって、何が?」

しまったと後悔したが、後の祭りだ。ヨンハは執拗に畳み掛けた。

「ソン・ヨンテの屋敷に行かせたのはお前だし、テムルはカランを助けるために、一番安全な方法を選んだんだろ。いったい何が危ないんだ?ん?」
「しかし遅いな。何やってんだ、あいつら」

ヨンハを相手に、下手に取り繕うと逆に墓穴を掘ることになる。ジェシンはひたすら無視を決め込み、通りを透かし見るのだった。


*   *   *


無人の屠殺小屋は、使われる目的からしても、あまり気持ちのいい場所とは言えなかった。
白丁たちが牛の解体に使うその小屋を見つけたとき、染み付いたむせ返るような血の臭いに思わず顔をしかめたソンジュンだったが、ユンシクは全く躊躇せずに、チマの下から、足に結びつけていたらしい笠と服を引っ張りだした。
着替えるから外で見張ってて、とさっさと中へ入っていってしまう。
美しい女人の姿と、その男らしい行動との落差に、ソンジュンは妙な感じを覚えた。
なんだか狐にでも化かされている気分だ。

扉を背に、ふと空を見上げた。月を半分ほど覆い隠した雲が、その輪郭を青白く浮かび上がらせている。
濃紺の夜空に妖しく滲むその光は、ソンジュンを不安にさせた。

この浮き足立つような感覚は一体なんだろう。
まじないなどという愚かな行為は嫌いだと芙蓉花をはねつけた。だがもし今、誰かが自分にまじないをかけたと言ったら、信じてしまいそうだ。
その夜の空気は一向に現実感というものがなく、これまでとは全く違う顔をしてソンジュンの周囲を漂っていた。

「お待たせ」

小屋の扉が開き、ユンシクが顔を出した。浅葱色の道袍に、笠を被っている。いつもの彼だ。
ソンジュンは ほっとした。だが同時にちらりと、残念な気持ちがしたことに慌てる。
やっぱり誰かにまじないをかけられたのかもしれない。

「……帳簿には、泮人としか書いてない」

ソンジュンが手にしていた帳簿を手渡すと、ユンシクは そっか、とそれを握り締めた。

「でも、一歩前進だ。だよね?」
「ああ」

二人、並んで歩き始めた。先程雲に覆われていた月が姿を現し、彼等の足元を煌々と照らし出していた。

「明日は泮村で人捜しか……。あと一日で、捜せるかな」

小さな不安を口にして、ユンシクは眉間に皺を寄せた。だがソンジュンは上の空だった。
隣を歩くキム・ユンシクは、とうに見慣れた姿に戻っている。だがソンジュンの脳裏には、先刻、突如として目の前に現れた、彼の艶やかな姿が焼き付いて離れない。

それは多分、ユンシクの唇に僅かに残っている紅の色のせいだ。
ソンジュンはそう思い込もうとした。さっきから、紅い唇がやたらと目につくのだ。
彼は頭を振った。
この、熱に浮かされたような妙な感じを、すぐにでも拭い去ってしまいたかった。

「口紅が………」
「え?」

丸い瞳が、ソンジュンを見上げる。
そうだ。他の連中に見られる前に教えてやらなければ。
黙っているのも不親切だ。───たぶん。

「まだ残ってる」
「ホント?」

ユンシクは慌てて、手のひらで唇を拭った。柔らかそうな唇が気の毒になるくらい無造作な仕草だ。

「とれた?」
「いや………まだ」

何故だろう。あれだけ乱暴にこすれば、口紅くらい簡単に落ちるだろうに。
彼の唇は、まだ綺麗な桃色のままだ。

「どこ?」

子犬のような目が、ソンジュンを覗き込む。

「………ここ」

ソンジュンが自分の唇を指さすと、ユンシクは唇の隙間から紅い舌先をちらりと覗かせた。

「ここ?」

そのまま、濡れた舌を唇に沿ってゆっくりと這わせてゆく。
そのなまめかしい舌の動きと、濡れて妖しく光る紅い唇。

ぞくりとした。
まるで、自分の唇をユンシクの舌がなぞっているような感覚に襲われたのだ。
いや逆かもしれない。自分が、彼の柔らかく紅いくちびるにねっとりと舌を這わせているような、互いの舌が、深く絡み合っているような。

ごくりと、ソンジュンの喉が鳴った。
息が苦しい。このまま彼の唇に魅入られてしまったら、どうにかなってしまいそうだ。頭がくらくらした。
たまらず、ソンジュンはユンシクの唇から視線を引き剥がした。

「落ちたかな。どう?」

そんなソンジュンの胸の内も知らず、邪気の無い顔で覗き込んでくる。
何故だか、無性に腹が立ってきた。彼はユンシクに背を向け、すたすた歩き出した。

「まったく情けない。一人じゃ塀も降りられないくせに、あんな格好で助けに来るなんて、何を考えてるんだ。信じられない。君子としてあるまじき……」
「ねぇ、ちゃんと見てよ。まだついてる?」

ソンジュンの背中を追いかけ、ユンシクがしつこく尋ねる。
その顔を見ないようにして、ソンジュンは先を急いだ。






↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2012/08/02 Thu. 17:54 [edit]

category: 第十話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 3  tb 0 

コメント

No title

えーっと、あのでかいヅラや衣装はきっとその後どっかに売りに行って生活費になったと思う!

その位たくましくないと、イ・ソンジュン君子と結婚できないとおもうー(爆!)
だって、セクシーダイナマイトだけど、生活力はなさそうだもん。
しっかりものの嫁と世間知らずの夫
結構いい組み合わせだよね。

あまるさん。そのうちお話よろしう(え!そこかい!)

ちびた #- | URL
2012/08/07 00:09 | edit

Re: ちびたさま

セクシーダイナマイツなユチョですから~。
ソンジュンも単なる「真面目なだけの男」(チョソン談)にならずに済んでるんだと
思うです。
韓国ドラマの男装女子はコヒプリのウネちゃんが最高だと思ってたので、どっから
どーみても女の子女の子したミニョンちんには正直最初は「え~」って感じだったんですが。
(ユチョが出てたから見ただけのヒトσ(゚∀゚ )オレ)
こんなブログ立ち上げるほどハマるとはねぇ~。シミジミ。

ユニのお着替えの場面は、おわかりかもですがワタクシのウソ話です(笑)
官軍まいた後、一体何処で着替えたんだろうとか思ってたので~。
あのどデカいヅラとか、やたらかさばる妓生の衣装一式は何処に?????

で、小屋の前にソンジュン立たしたら、そういや似たような場面が
番外編でもあったなぁということでついでにお月様も出してみたり(笑)

あまる #- | URL
2012/08/03 21:52 | edit

エロ君子?

10話にして、エロ君子もといエロ王子降臨ですな。
何と言うか、この回は演技の端々からにじみ出るエロさにやられているような気がします(爆)
いやー、まぢエロいわ。
思いっきり素のユチョさんが炸裂してますなあ。
もう、いちいち指の動きから、走りっぷり、果ては道袍の裾の揺れ具合までエロさ全開!

このドラマ見るまではとーほーしんきもユチョさんも知らなかったので、この俳優さん誰かいな??と思いながら見てましたわ。
何せ私の韓流ドラマの知識は冬ソナで止まってましたから(わはは)

いやー、いいドラマ見せてもらいましたわ。
そして、いつもありがとーです!いいもの読ませてもらってますわ。

特にあまるさんの、月に絡めた文章が一番のお気に入りっす。
いつもありがとーございます。

夏バテにはしろくまと芸達者なクマに限りますな

ちびた #- | URL
2012/08/02 21:47 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/114-dc82ea3c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。