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第一話 8 泮村の追跡劇 

泮村の中心にある繁華街を、儒生の集団が練り歩いている。
その先頭で、後ろ手を組み、周囲の喧騒や視線に何の関心も示さず無表情に歩を進めているのは、成均館の掌議、ハ・インス。その半歩後ろに、往来の女たちにちょっかいを掛けつつそぞろ歩く、イム・ビョンチュンがいる。インス以上に表情を崩さず、黙々と歩くカン・ムと、終始へらへらと独り笑いを浮かべているソル・コボンが続き、しんがりを務めるのはひときわ派手な衣装に身を包み、顔馴染みらしき妓生を見つけては愛想を振り撒いているク・ヨンハである。
 
 学生といえど、彼ら成均館の儒生たちは、将来の国政に携わることが既に約束されている。儒学に基づく政治理念を学び、日々論じる彼らの意見は立派な世論として認められ、しばしば現在の国政にも影響を及ぼした。
成均館には一種の“治外法権”が認められ、官軍ですら迂闊に手を出せないことも相まって、彼らの代表で構成される学生会、斎会(チャフェ)はまさしく天下無敵の集団といえた。 
 その斎会の頂点に立つのが、掌議ハ・インスと、ビョンチュンをはじめとする取り巻きたちだ。インスの家柄と頭脳、カン・ムの武芸、ヨンハの金───そういった、人心を掌握するのに必要なものも手伝って、泣く子も黙る成均館の掌議とその取り巻きたちは、学舎の内外を問わず、絶対とも言える権力を誇示していたのである。


 一行が、笑いさざめく妓生たちを引き連れて成均館の伝香門へと続く泮水橋に差し掛かったとき。
橋の反対側から飛び出すように走り込んできた少年が、彼らとあやうくぶつかりそうになった。一行を避けようとして重心を失った少年が橋から落ちるすんでの所で、ヨンハがその身体をがっちりと抱き留める。

(───……?)

一瞬、訝るように眉根を寄せたヨンハが、腕の中の少年の顔をまじまじと覗き込んだ。少年は突然のことにおろおろしていたが、すぐに跳ねるように身体を起こし、再び脱兎の如く駈け出していった。
 その背中を見送りつつ、腕に残る感触を確かめる。彼の口角が、興味深げに上がった。

「おい、成均館の学生に会ったら挨拶をするべきだろ?」

傍らで、長身の貴公子然とした男がビョンチュンに絡まれている。先程の少年を追っていたものか、視線は街の方へと注がれたままで、ビョンチュンには目もくれない。その顎をくい、と自分に向かせ、ビョンチュンはしつこく絡む。

「ははぁ、さては、試験場で大活躍して得意になってるな』
「それで、君子の体面も振り捨てて走ってたのかぁ?『父上~!僕のお尻をぶってください~』」

コボンが尻を振り振り、青年をからかう。

「───失礼しました」

青年は静かに言った。

「試験場の有様を君子として恥ずかしく思い、顔を上げていられませんでした」

お、とヨンハが青年を見る。なかなかの切り返しだ。

「私のような一介の儒生でさえそう思うのに、成均館の儒生であるあなた方は、恥をご存知ないようだ。このように成均館の儒生であることをひけらかし、我が物顔に道を闊歩なさるとは」

青年の言葉に、ヨンハは思わず吹き出してしまった。

「確かに、そのとおりだ」

それまで黙っていたインスが、そこで初めて青年の方に向き直り、視線を据えた。

「では、君子としての正しい道を、成均館に入ったら是非とも教えてくれ。楽しみに待っている。───だが」

インスの鋭い眼光が、青年を射る。

「その思い上がった言動に目をつぶるのは、今日が最後だ」

あーあ、怒らせちゃったよ。ヨンハは他人事ながら、この青年が気の毒になった。まだ成均館に入学もしていないのに、儒生たちが鬼と恐れるハ・インスに目をつけられるとは。
だが青年は、インスの背後から青く立ちのぼる憤怒の気配にも、少しも動じなかった。それどころか彼は、堂々と言ってのけたのである。

「あなた方の、先輩とはとても思えぬ言動に目をつぶるのも、これが最後です」

ビョンチュンが目を剥いた。立ち去ろうとする青年の襟首に掴みかかる。

「何だと?貴様、もう一度言ってみろ!先輩に対する正しい道理が何なのか教えてやる!」
「路上では他人の行く手を塞がないことが唯一の道理でしょう」

ヨンハは感嘆の息を漏らした。度胸も大したものだが、おそらくこいつは、相当な切れ者だ。ビョンチュンのような小物には、到底手に負える男ではない。
と、案の定、青年が僅かな動作でビョンチュンの手を振り払っただけで、彼の身体は勢いよく飛び、橋の下へとものの見事に落ちてしまった。

泳ぎは得意でないのか、さほど深くはない川の水にのまれながら、ビョンチュンが叫ぶ。

「コ、コ、コボン!奴を、奴を追え!」

指示も虚しく、青年の背中はあっという間に街の雑踏へと消えてしまった。

「いったい誰なんだ?」

ヨンハの問いに、コボンが陽気に答えた。

「左議政様んちの息子、イ・ソンジュンだよ。頭脳明晰、容姿端麗。しかも老論党首の跡継ぎ!スッゴイよなぁ」

インスがコボンを一瞥する。彼はたちまち、大きな身体を縮こませ、気まずそうに口をつぐんだ。
ふうん、と鼻を鳴らし、ヨンハはまた自分の手をじっと見つめる。

「それにしてもあいつ…妙に気になるな」

背後から感じるインスの視線に答えるともなしに、彼はつぶやいた。

「今のやつじゃなくて、その前の……」

ふっ、と面白そうに笑う。



「……“男”───?」




* * *


 人々でごった返す市場通り。浅葱の道袍の少年を追って走り込んできたソンジュンは、人の波に行く手を阻まれた。先を焦るあまり、魚売りの荷車にぶつかる。すっ転んだ拍子に、桶の中の魚を派手にひっくり返してしまった。

「あああ、売り物の魚が!」

魚売りが悲愴な声を上げた。蛸や穴子を頭から被る羽目になったソンジュンが、生臭さに顔を顰める。たちまち周囲に人だかりができ、そこはちょっとした騒ぎになった。
そのとき、人垣の隙間から、少年がこちらを振り返ってちらりと笑うのが見えた。かっとなったソンジュンが立ち上がって後を追おうとするのだが、またしても魚売りに阻まれる。

「待ってくださいよお兄さん!これじゃ飯の食い上げだ!」

仕方なく魚の代金を払っていると、今度はソンジュンの背中に向かい、「衣に何か書いてあるぞ」と人々が口々に指摘する。
まったくなんて面倒なんだ。
ソンジュンは舌打ちし、快子を脱いで白い道袍だけになると、丸めた快子を脇に抱え、群がる人々を掻き分けた。




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2011/07/25 Mon. 10:22 [edit]

category: 第一話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

インスがなんでまたあの二人を、ってギモンに思ってるかた、結構多いみたいですね(^^ゞ
自分に絶対服従する人間なら誰でもいいとか、そういうことなのかなー。
コボンは、なんか喉乾いたからジュース買ってこいとか、そーゆーことくらいにしか
使えなさそうだけど(笑)

でも結局、最後までインスから離れないのはビョンチュンなんですよね~。
彼等にも隠れたドラマがあるんでしょうけど……ブサ男にはどーしても食指が動かないわ(笑)

あまる #- | URL
2012/05/02 23:51 | edit

あまるさま

掌議ハ・インス様 ご登場ーですね。

私はこの掌議ハ・インス様の2人の御取巻き・コボンとビョンチュン、結構好きかも(爆)
何故この二人を側近にしているのか。
百歩譲ってビョンチュンはなんとなーくわかるけど、なぜコボン・・・。

カン・ムさんはあまりにも掌議ハ・インス様にぴったり合いすぎてて面白みが・・・
いや、素敵なんですよ。素敵なんですけど。

ク・ヨンハはともかくとしても、もうちょっと選びようがなかったのでしょうかね??

ちびた #D4zl0nFc | URL
2012/05/02 16:46 | edit

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