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第九話 10 若人たち 

盃が、卓子に叩きつけられるように置かれた。あまりに勢いが良すぎて、中の酒が半分ほど溢れてしまっている。
だが置いた本人は一向に気付いてないようだ。はあっ、と大きく息を吐き出して、小さな唇が歪んだ。

「なんで最近都に泥棒が増えたのか、やっとわかった。特定商人にばかり自由取引を許すから、民は生きるために盗むしかなくなるんだ」

そこはいつもの酒房。まだ日も高いというのに、既に くだを巻いているのはユンシクである。だがソンジュンは今日ばかりは、それも無理はないと思った。
傷めつけられ、引き摺られていく民を目の前にしても、ただ木偶のように突っ立っているだけで、何もできなかった。自分自身を、ここまで役立たずだと感じたのは生まれて初めてだった。
自分でさえそうなのだから、民の痛みや苦しみを肌で知るユンシクにとっては、尚更だろう。深酒をするのを、咎める気にはなれなかった。
むしろ、この胸にうずくまるやりきれなさを少しでも和らげてくれるなら、自分だって酒にでも何でも頼りたい気分だ。

ソンジュンは盃に手を伸ばした。だがそれを飲むことは叶わなかった。向かいに座るユンシクが、盃を持つソンジュンの手をすかさず押さえつけて邪魔をしたからだ。
その間合いが、酔っているにしてはあまりに的確すぎて、ソンジュンは一瞬目を疑った。
ユンシクはソンジュンの驚きなど意にも介さず、隣のジェシンに視線を移し、同意を求めた。

「ねぇ先輩、そうでしょ?役人が取り締まるべきなのは、民ではなく、特定商人なんです!」

ジェシンは肯定も否定もせず、まるで酔っぱらいを目にするのが初めてのような顔をして、ユンシクを見ている。そういえば入学以来コロ先輩と一緒に酒の席にいるなんてことは今までなかったなと、ソンジュンは今更のように気づいた。

「それができない理由がわかる?」

ふいにそんな声が降ってきて、にゅっと伸びてきた手がユンシクの盃を取り上げた。勘定を済ませてきたヨンハが戻ってきたのだ。3人は、今日は奢ってやるというヨンハに引っ張られて、ここへ来ていたのである。

「特定商人ってのはつまり、役人の金づるなのさ。餌をくれる奴に噛み付く犬はいない」

だろ?とジェシンとソンジュンを交互に見て、ヨンハはユンシクの代わりに酒を飲み干した。既にユンシクに勝るとも劣らず飲んでいたはずだが、こちらは流石に顔色一つ変わっていない。

「特定商人を保護する見返りの金が、そっくり老論の政治資金になる───そういうこと」

ソンジュンは深い溜息をついた。とても平常心で聞いていられるものではなかった。腹立たしさが、再びソンジュンの手を酒に向かわせた。
だがまたしてもユンシクにそれを阻まれる。ソンジュンはユンシクを睨んだ。

「何をする」
「わかってるだろ?ぼくがどうして止めるか」

───自分は飲んでるくせに。

いつぞやの失態などすっかり棚に上げ、ソンジュンがその眉間に不満を顕したそのとき。

「女将、酒を持って来い!」

べろべろに寄って足元もおぼつかない官軍兵たちの集団が、雪崩れ込むように店に入ってきた。
席に突っ伏し、わけのわからないことを大声で喚き散らす。周囲の客が、たちまち眉を顰めた。

それを見ていたヨンハが、ユンシクと意味ありげな視線を交わし、にやりと笑った。それと察したらしいジェシンも、しょうがねぇなといった風情で笑う。ソンジュンだけは彼等の意図がわからず、きょとんとしていた。

「やるか?」
「もちろんです!」

嬉々とした顔で、二人同時に席を立つ。こういうときのヨンハとユンシクの呼吸は、見事なものだった。

程なくして。
酒房には、まとめて縄でぐるぐる巻きに縛られた官軍兵たちが、見せしめのように鎮座することとなった。
酔って正体を失くしている彼等は当然、自分たちの有様など知る由もない。おしくら饅頭のように背中をくっつけあって、高いびきをかいている。

「一晩もこうしてりゃあ、頭も冷えるだろう」

一仕事終えたヨンハが、悪戯っぽく笑った。

「これは……君子のすることではありません」

ソンジュンが言うと、三人の白けたような目が一斉に彼を見た。

「縛り上げるなら、それなりの罪状を示すべきです」

どこまでも真面目に彼は言い、筆を取り寄せると、おもむろに官軍兵の顔にすらすらと文字を書き始めた。
ユンシクが身を乗り出す。

「なになに……“盗賊”?」

官軍兵の頬にくっきりと記された文字を読み、ぷっと吹き出した。やるね、という目でソンジュンを見、肘で小突く。
また別の悪戯を思いついたらしいヨンハが、すかさず しぃっ、と人指し指を立てた。
すうっと息を吸い込み、叫ぶ。

「火事だー!!」

びくっと肩を揺らして、官軍兵たちが目を覚ました。縛られているのに気づかず、各々立ち上がろうとするものだから、たちまちひっくり返って、尻もちをついた。

「逃げろ、ほら!」

四人は兵たちの様子に腹を抱えて笑いながら、転がるようにして酒房を飛び出した。
ユンシクとヨンハが、してやったりと互いの手のひらを打ちあう。ジェシンが笑って、ソンジュンを見た。
ソンジュンも笑った。
子供っぽいとは思ったが、さっきまで鉛のように重かった心が、少し晴れた気がした。
くだらない悪戯も、案外役に立つことがあるものだと、ソンジュンは初めて知った。

「見て!花の四人衆よ!」
「ええっ?どこに?」
「ほらあそこ!」

肩を並べ、互いに大きく笑いあい、通りを歩く彼等四人の姿は、そこだけ別の輝きを放っているように、自然に人の目を引いた。

「花の四人衆だわ!」

一人の妓生が発した彼等の呼び名は、たちまちさざなみのように人々に広がり、その日以来、四人の見目麗しい容姿とともに街の話題をさらうこととなった。
後日、この日の彼等を題材にした大衆小説が出版され、巷で飛ぶように売れたことなど、もちろん当の本人たちは知らない事実だった。





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2012/07/19 Thu. 14:25 [edit]

category: 第九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: ちびたさま

このシーンのお陰で、どーにか青春小説~って雰囲気になりました。←目指してたのか?(^^ゞ
4人が居酒屋から逃げるとき、素で笑ってるユチョがちらっと見えて、それがまた可愛いんですよ~。

成均館を語る若人の集い!いいスね~(^^)
いえいえ、ソンス好きは皆年齢に関係なく若人ですワ!(キッパリ)

あまる #- | URL
2012/07/20 10:06 | edit

Re: みずたまさま

> 額に《肉》の文字を期待したわたしって?(笑)

ワタシがソンジュンの立場だったら間違いなく「肉」って書いたと思う(笑)
これは世代の習性としか言いようがありましぇん。

お気遣いありがとうです。幸い、あまるの住んでるところは、ニュースで流れてるほどでは
なかったんだけど、熊本とか宮崎に近い県南の方はほんとに酷くて。
親戚とかけっこういるので、やっぱ人事ではないですね~。
子供が小さいときよくホタル見に行ってた星野村ってとこがあるんですけど、見慣れた景色が
あーいう風に無残になってるとホント悲しい(T_T)
今年はこれ以上台風が来ないことを祈ります。

あまる #- | URL
2012/07/20 09:58 | edit

わかる、わかる、この呑み会(飲み会ではない)の雰囲気(爆)
真面目な奴も、無口な奴も、軽薄な奴も、熱い奴も酒飲んで笑いあったらそれだけで十分。

ユニっこが皆に可愛がられるのはやっぱりこの酒に強いところと男らしいところ、そして面倒見のよいところだろうなあ。
花の4人衆、みんな共通してるんだよね。この性格って。
もちろん、萌えるシーンも好きだけど、成均館が他のドラマと違う所は、こういうなくしてしまった青春の一コマを丁寧に描いているところなんですよね。
そういった中に4人衆にまけてられるかーー(爆!)と思っている王様を筆頭にした大人たちが厳しく温かく若者を育てている所なんですよねー。

そのうち私も、あまるさんやここの皆様とうっとおしく成均館を語る若人(ずうずうしいって)の集いに出席するのが夢っす。

あまるさん、今日のお話もナイス!です!座布団一枚!

ちびた #- | URL
2012/07/19 22:50 | edit

若人よ☆

学生のころの楽しかった飲み会を思い出します~w
若いってイイね~(^^♪

額に《肉》の文字を期待したわたしって?(笑)

✿台風の影響は受けなかった?

梅雨明けしてもそちらのご様子心配です。

みずたま #- | URL
2012/07/19 15:35 | edit

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