スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第九話 9 怒り 

ユニには、目の前で起こっていることがすぐには理解できなかった。
罪人を取り締まるはずの官軍が、市場を無茶苦茶に荒らし、無抵抗な人々を殴打している。
跪き、情けを請う者にも一切耳を貸さず、蛮行の限りを尽くしている。

「全員連行しろ!」

ユン・ヒョングの号令の下、引き摺られるようにして連行されていくのは、いかついヤクザ者ではない。無力な、ごく普通の人々だ。
ユニのすぐ近くで、ちょうど母と同じ年回りの女が官軍兵に突き倒され、地面に転がった。ユニはたまらず両手を広げて兵の前に立ちはだかった。

「これは何の真似ですか!民を守るのが官軍の役目でしょう!」

兵を押しのけ、ユニの問いに答えたのはユン・ヒョングだった。

「法を守らせるのも、官軍の役目なものでね、権知様」
「むやみに民を虐げてもいいという法など、どこにもない!」

終始薄ら笑いを浮かべていたヒョングの顔から、一瞬、笑みが消えた。と思うと、いきなり襟首を掴まれた。
色黒のヒョングの髭面が、ユニの目前にあった。

「禁乱廛権〈クムナンジョングォン〉」

ヒョングはまるでそれが金科玉条であるかのように、顎を反らせて言った。

「都では、特定商人しか商売はできないんだよ」

権知様〈ナウリ〉、と臭う息を吐いてまたヒョングは言った。その、人を馬鹿にした言い方にはいい加減頭にきていたが、今日何度目かのそれが、ユニの怒りをついに爆発させた。
ヒョングの手を振り払い、彼女は叫んだ。

「こんなの間違ってる!」

そのとき、怒りに震えるユニの肩を、ぐっと抑える手があった。ソンジュンだった。
なんで止めるの、とユニはソンジュンを振り返った。彼は黙っていたが、その目は言っていた。

“今の僕らにできることは何もない”

「さっさと連行しろ!こいつらは民ではない。国法を犯した罪人どもだ。全員まとめてぶち込め!」

ユニとソンジュンを嘲るかのように、ヒョングが怒鳴った。
どうかお助けを、と泣き叫び、取りすがる者たちを兵は容赦なく追い立てていく。
後には、まるで嵐が過ぎ去った後のような、ありとあらゆるものが滅茶苦茶になった通りがあるだけだった。

商品に貼られていた値札だろうか。風に、一葉の紙が舞った。目で追った先に、ジェシンとヨンハが立っていた。
彼等は、ユニを見ていた。たった今、ユニが見たソンジュンと同じ目をして。

唇を噛み、俯いた。
踏み潰された桃の、土にまみれた果肉から種が露わになっている。
ユニは目を凝らした。それを己の網膜に焼き付けるくらいしか、今の彼女にできることはなかった。


そんな4人の姿を、少し離れたところでじっと見つめる目があった。

「陛下のお望みどおり───彼等は巨悪の正体に近づきつつあるようです」

王は微かに笑って、半歩後ろに立つヤギョンを振り返った。

「余の考えすぎか?どうもそなたは、気に入らぬようだな」

ヤギョンは深い溜息のようにも聞こえる声で、言った。

「真実を知ったからといって、おそらくあの者たちには、どうすることもできないでしょう。陛下は、彼等に何を学ばせようと?」

王は立ち尽くす若者たちに再び視線を投げた。

「不条理な世の中に対する怒り……そして、この腐った世の中で一人では何もできぬ───無力な自分自身に対する怒りだ」

そのときの王の横顔に、ヤギョンは悟った。
おそらく王の視線の先にあるのは、己が目を掛けた儒生たちではない。王その人の姿なのだ。
王はこの世に産声を上げてから今まで、ずっと闘い続けている。その絶対的な立場すらも凌駕する、巨大な力と。
まだ若く、血気にはやっていた頃の面影はなりをひそめ、一国の主らしく落ち着きと威厳が備わったという声が聞かれるようになって久しい。だが王の胸には、あの頃と変わらぬ感情が今も脈打っているのだ。少しでも刃をあてれば、一瞬にして噴き出すほどに。

ですが王よ、貴方の闘いの中に引き込むには、彼等はまだあまりに若過ぎます───。

心の内でそう呟いて、ヤギョンは自らの教え子たちを見つめるのだった。


*   *   *

時を同じくして、兵曹判書ハ・ウギュはインスを伴い、都でも有数の大商人、ソン・ヨンテの屋敷を訪れていた。

「それにしても陛下も諦めの悪い……。お忍びで都を見回り、物価を安定させるだの、自由に取引できる方法を探すだの、さんざっぱら話していかれたとか」

ソン・ヨンテは、ぼってりと太った身体を小さく丸めるようにして、脇息にもたれ掛かるウギュに落ち着きなくちらちらと目線を送った。
身につけた白橡〈しろつるばみ〉の道袍は正絹の一流品だが、頭に被っている笠はつばが小さく、どれだけの高級品を身にまとってもその身分が常民であることは歴然としていた。

黙って茶をすするウギュの代わりに、ヨンテの向かいに座すインスが「口では、なんとでも言える」と鼻であしらった。
だがヨンテは尚も訴える。

「何かにつけ禁乱廛権の廃止を持ちだして、我ら特定商人ばかりを責め立てるのです。これでは、先行きが不安で商売になりません」

ウギュが茶器を置き、宥めるように言った。

「泣き言を言うな。お前たちの後ろには、我ら老論がいるだろう」
「どうぞ、今のお言葉を商人たちの前でお聞かせください」

ヨンテは、そこでやっとまともにウギュを見て、足元に置いていた金子の箱を、ずいと押しやった。ウギュがそれを横目でちらりと見るのを確かめ、口の端を引き上げて笑う。

「今晩、手前どもがささやかな宴をご用意します」

ウギュは咳払いとともに、ゆっくりと顎髭を撫でた。





↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2012/07/18 Wed. 23:39 [edit]

category: 第九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 4  tb 0 

コメント

Re: みずたまさま

ちっぽけな自分にがっかりし、怒ったり悔しがったりするのは、若者の特権だと思うですヨ(^^)
ある程度トシをとっちゃうと、自分はこんなもんだとわかってきて、ちっぽけはちっぽけなりに
できることを見つけるしかないって方向にシフトしてしまうから。

若いっていいやね~としみじみ思う朝倉南●●歳(笑)

あまる #- | URL
2012/07/19 15:07 | edit

う~む(-"-)

何度も書くけど、考え深いドラマだよ。

この辺りは茶化せないなにかを感じるw
ここらで能天気な?ヒョウンでもでてこないかな~✿と、おもいつつ・・・。

日常の多種多様な場面で憤りと限界を感じることがあるけど、ちっぽけなワタシには何も変えられない・・・・。
悔しさをかみしめて現実を反面教師として自分と向き合っていく。しかできないです。

あなたな~ら、どうする~?
なんて唄が聴こえてくるよ~w

みずたま #- | URL
2012/07/19 11:58 | edit

Re: ちびたさま

このドラマ、ぐっさん、じゃなくて(笑)王様が出てくると、ぐっと締まる感じがして、
4人衆のシーンとは別の意味で書くのが楽しいです。
ワタシが個人的に王様好きってのもあるんですが(笑)

イ・サン、見たい見たいと思いつつなかなか……(^^ゞ
でも相当ソーゼツな人生だったんだろーなーという想像はつきますね、王様。
だから4人衆には卒業後、是非とも王様のブレーンとして活躍していただきたいものです。
王様のその後に関しても、チョソンやヒョウンみたく若干放置プレイ気味な最終回
だったからな~(^^ゞ

あまる #- | URL
2012/07/19 08:41 | edit

このシーン、いっちゃんかっちょええのはやっぱりぐっさん(じゃなくて)王様ですわねー
でもって、父親のように弟子を見守るパクサが二番目にかっちょええです。

ソンジュンもコロたんも、ヨリムも王様の苦悩と我慢強さに比べたらまだまだ青いってもんよ。ほっほっほ。

イ・サンも同時進行で見てると『王様がここまで意見をいえるようになるまでどれほど苦しい道を歩いてきたのだろう』と思えます。
コロたんにしても、イ・ソンジュンにしてもヨリムにしても本当に命の危険があるような目にはまだあってませんもんね。
(コロたんのは、自分から飛び込んで行ってる部分もあるしぃ、王様の状況から比べたらまだ甘いものよねえ。)

ユニっこは別の意味で命がけだったから余計に虐げられた人の気持ちがわかりすぎるんだけどね(泣)

若者よ、未来の国の幸せは君たちにかかってるぞ!

ちびた #- | URL
2012/07/18 22:59 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/107-3e359d72
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-10
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。