スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

--/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

cm --  tb --  

第九話 6 捜査開始 

室内に灯した蝋燭の明かりが、格子窓から流れこんでくる外気に煽られ、小さく揺れている。
王の、彫りの深い面差しに落ちる影も揺れた。そのせいか、いつにも増して表情が読めない。
茶器を王の前に置きながら、ヤギョンは懸念を隠さずに尋ねた。

「彼等に、解決できるとお思いですか」

王は立ったまま茶器を手に取り、一口含むと、微かに笑った。

「不甲斐ない師匠だな。自分の弟子を信じられぬのか?」

王の声音には、ヤギョンをからかうような響きがあった。かつて弘文館では研究一辺倒、宮中でも一、二を争う変人と評判だったチョン・ヤギョンが、今や人の子の師という立場で教え子の心配をしていることを、王は面白がっているようだ。

「漢城府の権知としてわずか2日も務まらぬようでは、そもそも宮仕えなどする資格はなかろう」
「それはそうですが……陛下の目的は、成均館の泥棒を捉えることではないはずです」

王はふっと笑って、「流石だな。お見通しか」と言った。そして、室内に吊り下げられた様々な薬包を興味深げに眺めた。

「雲従街から、真っ直ぐこちらへいらしたのですか?」
「何故わかる?」
「陛下のお召し物です。それに、お連れの者もご公務にしては少なすぎる」

茶器を卓に置き、ヤギョンに背を向けたまま、王は独り言のように呟く。

「まったく、そなたにはかなわんな」
「このところ、雲従街で盗難が相次いでいると聞きましたので……私も気にかかっておりました」
「小事の影に、大事有りだ」

周囲をはばかり、王は声を落としてはいるが、その語気は鋭い。

「巨悪は、巨悪であるが故にその身の全てを覆い隠すことは不可能だ。必ず何処かに、馬脚を現している部分がある。泥棒を追って行けば必ず、黒幕の存在を暴けるはずだ」

王はヤギョンに向き直ると、長いこと喉の奥につかえていたものを吐き出すように、言った。

「その正体を掴み、向き合う勇気のある者に───余は、金縢之詞を捜す任務を与えようと思う」

ヤギョンはまばたきすらできずに、王の目を見返した。室内に風はない。だがそのとき彼は確かに、王の瞳の奥底に、ゆらりとうごめく火影を見たのだった。


*   *   *


清潔で、機能的であること。ソンジュンが普段着るものに関して重視するのはそれくらいだ。身に付けるものによって、自分が他人にどう見られるかなど、ほとんど気にしたことはなかった。
だがそんな彼も、今日ばかりは、官服の威力というものを認めざるを得なかった。

胸背〈ヒュンベ〉の施された堂下官〈タンハガン〉の青い官服と紗帽〈サモ〉、という役人の姿で通りを歩くだけで、雲従街の人々は老若を問わず、わざわざ足を止め、彼に向かって恭しく会釈する。並んで歩くジェシンは人々の挨拶などどこ吹く風だが、ユンシクはソンジュン以上に戸惑っているようだ。軽い目礼だけで済ませればいいものを、丁寧な礼をいちいち返している。あれでは成均館に戻る頃には腰が痛くなっているだろう。

「おぉい、漢城府の権知ども!」

人ごみの間から、いきなりそんな声がした。見ると、濃い紫色の重ねに身を包んだヨンハが、くるりと華麗に回って彼等の前に現れた。

「先輩、その格好……」

ユンシクが半ば呆れたような声を出すと、ヨンハはどうだと言わんばかりに、派手な地模様の入った道袍の袂を広げた。

「ああこれ?新しく誂えたんだ。いいかテムル、朝鮮がこのザマなのは、国事を担う役人に、揃いも揃って同じ官服を着せるからだ。今のお前たちを見ろ。個性も主張もあったもんじゃない。そんな凝り固まった頭で、いい政策が浮かぶか?」

ま、コロは別だがね、と軽く付け加えて、しかめつらしく鼻に皺を寄せる。ジェシンの場合、原型を留めぬほど官服を着崩しているので、ヨンハがそう言うのも無理はなかった。
が、ジェシンは肩に無造作に引っ掛けた品帯〈プムデ〉──もちろんこれは肩ではなく、本来は腰に巻くものだ──をぶらぶらさせながらうそぶいた。

「アホらしい。貴様のおかしな持論をテムルに吹き込むな」
「でも、先輩らしいです」

と、ユンシクが笑ったのに気をよくしてか、ヨンハはふざけてワンワン、と犬の鳴き真似をしてみせ、言った。

「ウチの近所ではこう言う。“漢城府の役人より、裏の飼い犬を信じろ”ってね」
「ですが先輩、官服を着用していないと、漢城府に入れないのでは」

ソンジュンが口を挟むと、「お前らがいるだろ」と肩を ぽんと叩かれた。怪訝な顔で見返すソンジュンに、
ヨンハはこめかみのあたりを掻く。

「ああ、こう言ったらわかるかな。“代任”ってやつだよ。キミらに私の一切の権限を委任しよう。───というわけで、代わりに行って来てくれる?」

今度こそ本当に呆れた様子で口を半開きにしたユンシクに向かい、ヨンハはぱちんと片目を瞑った。
じゃあね、と身を翻す。ユンシクが慌てて、その背中に向かい声をかけた。

「先輩、漢城府権知の任務は、王命ですよ!」

振り向いたヨンハは何か考えがあるのか、不敵に笑って、言った。

「大丈夫。ちゃんと調査はするよ。お前のためじゃなく、私の紫禁城のためにね」

ひらひらと手を振り、再び雑踏に消えていく、一際華やかな後ろ姿。見送るユンシクがまだ気遣わしげなのを見て取って、ジェシンは言った。

「心配すんな。あいつはク・ヨンハだ。雲従街で生まれ育ってる。ここは、あいつにとっちゃ自分ちの庭みたいなもんだ」

ユンシクはそうですねと頷き、表情を引き締めた。

「漢城府に行ったら、次は例の薬屋を調べてみます。薬包を売った者が、他の物も……」

ふっと、ユンシクが言葉を切った。人々でごった返す通りを、大きく見開いた目で凝視している。間を置かずに、そこから女の悲鳴が上がった。

「泥棒よ!そいつを捕まえて!」

近くに居合わせていたらしい巡邏兵が、声を聞きつけて通りに飛び出してきた。その先で、一人の少年が群がる人々を突き飛ばしながら、ユンシクの方に向かって突進してくるのが見えた。

「あぶな……!」

ソンジュンは咄嗟にユンシクを引き寄せようとしたが、隣にいたジェシンの方が一瞬早く、さっと彼を抱きかかえて脇へと避けた。
少年と、それを追いかける巡邏兵たちが嵐のように走り去った後。
ふと目を移したソンジュンは、道の反対側で、ジェシンとユンシクがぴったりと身を寄せ合っているのに気付いた。

思わず、目を逸らしていた。

単に、ジェシンは少年との衝突からユンシクを守っただけだというのに、何故かソンジュンは、ジェシンの腕の中にいるユンシクを直視することができなかったのだ。

ソンジュンは、自身の中にいきなり巻き起こった理解できない感情に戸惑った。

今は、そうだ。今は少しばかりユンシクとの間がぎくしゃくしているから、何のわだかまりもなく触れ合える彼等を見るのが、面白くないだけだ。

ソンジュンは自分をどうにかそう納得させた。

「ぼく、見ました」

それまで呆然としていたユンシクが、ふいに言った。ジェシンが「え?」と身体を離す。

「さっきの男の首に、あったのを見たんです。ウタクの眼鏡紐でした」
「本当か?」
「間違いありません」

ジェシンは羽織っていた官服を邪魔だとばかりに脱ぎ、紗帽と一緒にソンジュンに押し付けた。

「テムルから目を離すなよ」
「先輩、何処へ?」
「奴を捕まえる!」

言うなり、ジェシンの姿は瞬く間に雑踏の中に消えた。その素早さは、まさに鉄砲玉だった。

手元に残った官服に目を落としていたソンジュンが顔を上げる。と、こっちを見ていたユンシクと目が合った。
二人だけになってしまったことで、それまでは意識していなかった気詰まりな空気が、お互いの間に漂う。
ソンジュンは小さく咳払いすると、先に立って歩き始めた。





↓楽しんでいただけたらポチっとお願いします
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

2012/07/04 Wed. 14:33 [edit]

category: 第九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

cm 5  tb 0 

コメント

Re: ちびたさま

ここまで来るのにちょうど一年かかっちゃいましたわ(^^ゞ
後半は個人的にも書きたい場面がいっぱいあるので、もちっとペースを
上げられると……いいな……←弱気

>ところで、この回で出てきた重要人物って、地下室でも活躍しているあの彼ですよね??

コソ泥役の彼のことデスね!あんな役にしては無駄にイケメン!しかもあの事件の後成均館で
働いてるハズなのに全く出てこず!(笑)
でもオクセジャでは大出世してましたね~。しっかり者のマンネな役がハマってました(^^)


あまる #- | URL
2012/07/11 05:11 | edit

をほほ、そろそろ中盤、折り返し地点ですねー
前半もよかったですが、いよいよ(むふふ)なイ・ソンジュン君子の登場―
楽しみですわ。

ところで、この回で出てきた重要人物って、地下室でも活躍しているあの彼ですよね??

ちょうど同時進行で見てたもので『あらー、成均館で勉強したら二人揃って大出世ねー』って思っちゃいましたよ(爆)
どんだけごっちゃになってんだか。

ちびた #- | URL
2012/07/11 01:08 | edit

Re: タイトルなし

愛は勝つんデス(笑)

ユニはいったいどれだけ試練と立ち向かうのか……まぁこの後にもまだまだ
いろいろ控えてるんですけどね~。ふぁいてぃ~ん(^^ゞ

ソンジュン、このあたりからそろそろヤバイとこにきてますね。(笑)ほほ。
もっとのたうち回るがいい~萌え~←鬼

あまる #- | URL
2012/07/07 02:11 | edit

お題目が・・・・

先ほどのお題目が消えてた~(T_T)

人間は考える葦である byパスカル

と、書いていました。

残念(-"-)

みずたま #- | URL
2012/07/06 17:15 | edit

な~んて、昔習った言葉がよぎった巻でした~☆

どんなに困難で、くじけそうでも~。
kanも歌ってる。

逆境に立ちながらも困難に立ち向かう姿、立派です。
ドラマなんだけど考え深い場面です。

あ~、モチロンソンジュンのじぇらし~もみどころですが(^-^)

みずたま #- | URL
2012/07/06 14:18 | edit

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://amaru0112.blog.fc2.com/tb.php/102-942a6ac2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

2017-08
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。