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第九話 5 疑い 

4人だけになった明倫堂の中庭に、また虫の音が戻ってきた。

「───訊きたいことがある」

沈黙を破ったのは、ソンジュンだった。彼は草を踏んで、ユニの前に立った。

「君が、明倫堂にいたのを見た者はいるか?」

ユニがかぶりを振ると、更に彼は尋ねた。

「号牌はどうした」
「まさか、ぼくを疑ってるのか?」

ユニの問いにも、彼女を見下ろすソンジュンの目は何の変化もない。その審問官のような冷淡さは先程のインスの比ではなかった。

「なぜ家に使いを送らなかった。潔白なら、それで簡単に解決できたはずだ。違うか?」
「お前、何の真似だ!」

ジェシンが横からソンジュンの肩に掴みかかった。

「確認しているだけです」
「んなことしなくたって、わかんだろ!こいつは嵌められたんだよ!」

ソンジュンはジェシンの手首を掴み、払いのけた。その仕草には、一見落ち着き払っている彼の、内に孕む激しい怒りが現れていた。だが彼は相変わらず露ほどもそれを感じさせない声で、言った。

「信じるだけでは、何も変わりません。キム・ユンシクは盗品を売り払い、号牌を落とした泥棒のままです」

ジェシンが、小馬鹿にしたように口の端を上げる。

「またかよ。つまりこれは王が行う試験だから、不確かな人間を信じて不可を取りたくないと。そういうことか」
「無論です」

愚問だとでも言いたげに、ソンジュンは答えた。

「てめぇ……骨の髄まで老論だな!」

ソンジュンに向かい、ジェシンが拳を振り上げる。その手を、ヨンハがすんでのところで掴んだ。

「離せ!」
「やだね。まぁ喧嘩の見物は何より楽しいけどさ。テムルの味方は私たちだけなんだし、仲良くやろうよ」

殺気立ったジェシンとは裏腹に、いつもと変わらぬ軽い調子でヨンハは言い、にっこりと笑った。

「結構です」

思わず、ユニはそう言っていた。本当に自分の口から出たのかと疑うほど、固い声だった。

「ぼくは盗んでいません。だから、自分で解決します」
「自分で、何をどうする気だ?」

ソンジュンの容赦無い物言いに、ユニは黙って唇を噛んだ。何か言ったら、涙が零れそうだったのだ。
ユニはそのとき、自分が拗ねた子供のように意固地になっているのを自覚していた。
濡れ衣を着せられたことではなく、ソンジュンに信じてもらえないことが、どうしようもなく腹立たしく、悲しかった。

「嵌められたというなら、言葉や暴力よりも物証でそれを証明してください」

ソンジュンの言葉は、ジェシンに向けたものだった。それを最後に、彼はくるりと背を向け、尊経閣の方へと去って行った。

慰めや、励ましが欲しかったわけではない。だけど、こんなのって酷すぎる───。
暗がりに消えていくソンジュンの背中を見つめながら、ユニは はっとした。

───馬鹿だ、私。

ソンジュンとは住む世界が違うのだと、友人であることも辞めようと心に決めたはずが、やっぱり頼っている。
自分を信じて、助けて欲しいという思いがこんなかたちで突き返されたからといって、彼を恨むなんて、筋違いも甚だしい。
どこまで、未練がましいんだろう。
ユニは両手をぎゅっと握り締め、ぐらつく心と身体を支えた。

「おいコロ、何処へ行く?」

ヨンハの声に顔を上げると、ジェシンもこちらに背を向けて中庭を出ていくところだった。だがその行く先は、ソンジュンとは別の方向だった。肩越しに横顔だけを見せて、彼は不貞腐れたように言った。

「作るんだよ、物証ってやつをな」


*   *   *


「キム・ユンシクのやつ、退学目前の心境はどうでしょうね」

西斎の庭先で、ビョンチュンが にたにたしながらインスの顔を覗き込み、その表情を伺う。薄く笑い返したインスは、次の瞬間、頬を歪めた。

「掌議?」

手で肩を押さえたインスの足元に、石が転がったのを見るなり、ビョンチュンは目を剥いた。
畏れ多くも成均館の掌議に向かって石礫を投げるなど、一体何処のバチあたりだ?

とそこへ、指の関節をこれ見よがしに鳴らしながらゆっくりとこちらへ歩いてくる人影があった。
ムン・ジェシンである。
ビョンチュンはたちまち、小さくなってカン・ムの後ろに回り込んだ。

「忘れたか?俺が、口より先に手が出る奴だってこと」

ジェシンが、インスから一瞬たりとも目を逸らさずに言う。
だが相手は掌議、ハ・インスだ。そんな脅しに簡単に動じるはずもなかった。
彼はその双眸にふてぶてしささえ漂わせ、ジェシンを見返した。

「それで?言いたいことは何だ?」
「最初から計算ずくだったんだろ。あのときテムルに気前よく薬を渡したのも、全てお前が仕組んだ罠だ」

クッ、と喉を鳴らして、インスは笑った。

「たいした想像力だな、コロ。まったく……これだから貧乏人への施しは嫌なんだ。善意でやったことがいつも裏切られる。だがまぁ、仕方がない。恩を仇で返すのは卑しさ故だ。たとえ成均館の儒生服を着ても、身についた卑しさは治るものではないからな」

ジェシンの顔色が変わった。お前もせいぜい用心しろ、と縁側〈マル〉に上がろうとしたインスの襟首を掴み、握り締めた拳を振り上げる。

「私を殴って反省室行きか。それも悪くないな。お前が反省室から出る頃には、キム・ユンシクは退学した後だ」

ぴたりと、ジェシンは動きを止めた。振りかざした拳が行き場を失い、微かに震える。

「……必ず真相を暴いてやる。首を洗って待ってろ。退学するのは、お前らだ」

唾を吐きかけるようにそう言うと、ジェシンはインスを突き飛ばす勢いでその襟元から手を離した。
背を向けて立ち去るジェシンを忌々しげに睨みつけながら、インスが乱れた襟を直す。その耳元に、ビョンチュンがひそひそと囁いた。

「どうかご安心を、掌議。今回は私がきっちりと手を打ちました。誰も、キム・ユンシクを犯人だと思い込んで疑いません」

ふん、と鼻で笑って、インスは言った。

「その口、滑らせないように気をつけろ」


*   *   *


ユニは、『経国大典』の写本を手に取り、胸に抱えた。だが彼女が尊経閣に来た目的は、それとは別にあった。
一つ向こうの書架の前で、立ったまま開いた本を熱心に読んでいるソンジュンが見える。
他には、誰もいない。ソンジュンが本の頁をめくる微かな音だけが、しんとした室内に響いていた。

ユニは一つ深呼吸すると、狭い書架の間をすり抜け、ソンジュンの横に立った。

「ぼくに同情してるなら、そんな必要ないから」

ソンジュンが本から目を上げて、ユニを見た。

「どういう意味だ」
「皆がぼくを疑ってるから、哀れに思って助けようとしてるなら、いらないってこと。不可をもらうのが心配なら、今からでも……」
「いつ僕がそんなことを言った」

ソンジュンの声に、今度ははっきりと怒気が混じるのがわかった。だがユニも、怯むわけにはいかなかった。

「さっき、ぼくを問いただしたじゃないか。疑ってるからなんだろ?ぼくが、犯人じゃないかって」

ユニがそう言うと、彼は手にしていた本を、音をたてて閉じた。

「本当にそう思ってるのか?僕の助けがいらないという理由はそれか。君にとって僕は、成績に執着する老論の息子でしかないわけだ」

ユニは俯き、押し黙った。ひりひりするような空気が、彼女の肌を刺す。
彼が、本気で怒っていることを感じた。

「はじめから君を疑ってなどいない。不可を取るつもりもない。僕にいくつか訊かれたくらいで傷ついていたら、これから漢城府や陛下の前で、一人でどうやって対処する気だ?」

顔を上げたユニはそこに、自分を見つめるソンジュンの深い眼差しを見た。

「よく聞くんだ、キム・ユンシク。漢城府に行っても、味方は誰もいない。潔白を証明したいなら、覚悟を決めろ。君自身が心を強く持たなければ、濡れ衣を晴らすことなど、到底出来はしない」

それだけ言うと、ソンジュンは踵を返した。遠ざかる足音を聞きながら、ユニは、どう頑張っても彼にはかなわぬ自分を感じていた。
イ・ソンジュンという人は、いつもユニより一歩も二歩も先を歩き、そこから更に広い視野で物事を見ている。だからつい、頼ってしまう。知らず知らずのうちに、甘えてしまう。

駄目なのに。距離を置こうと、決めたのに。

ユニは痛みに疼く胸を持て余し、いつまでもそこに立ち尽くしていた。





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2012/06/28 Thu. 13:12 [edit]

category: 第九話

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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コメント

Re: あらちゃんさま

しぶとく生きてマスよ!(笑)

アンソニーと言えばバラ。バラといえばスウィートキャンディ(爆)
彼の落馬シーンは今だにキョーレツに記憶に残ってます。ほとんどトラウマ。
漫画であれほど衝撃を受けたことは後にも先にもありませんわ~。ま、そういう年頃だったからっていうのも大いにあるでしょうけども。

あまる #- | URL
2013/02/03 01:19 | edit

私はテリー派でした

キャンディーキャンディーをご存じの方がまだ生き残っていたとは!
私は当時テリュース・G・グランチェスターが大好きでした。友達がアンソニー大好きで、よくバラの中に微笑むアンソニーの絵を描いておりました。なつかし~わ~
テリーの流れをくむとしたら本来はコロ派に落ちてもよかったはず。こんなにどっぷりソンジュンに惹かれるのは、私が完全にユニ=自分化してるせいでしょうか?
今夜は7話や8話のあたりを徘徊させていただきましたが、泣けて仕方ありませんでした。ちょっと、あまる様、うますぎ!ユニがソンジュンを意識しだして、境遇の差を自覚して、友としても同等につきあうことはできないと自分に言い聞かせるあたり、ウガ~~~

あらちゃん #- | URL
2013/02/02 01:01 | edit

Re: インス★プンスカプンプン(-_-メ)

縦ロールのインスなんて怖くて想像できましぇん……(^^ゞ

ところでキャンディといえばワタクシは大変わかりやすくアンソニー派でしたが(笑)
貴公子に弱いのは昔からか……

あまる #- | URL
2012/07/01 00:59 | edit

インス★プンスカプンプン(-_-メ)

まさにキャンディーキャンディーの世界✿

インスがニールに見えるぞよ。

あっ、ちがった。

イライザだったわ~(;一_一)

更新サンクスですダ✿

みずたま #- | URL
2012/06/29 13:58 | edit

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